ゾンビになった妹を救うため、終末世界で明日に向かってゴールをめざす

戸影絵麻

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第4章 魔獣地帯

action 4 猿群

 ポールを地面に突き立て、あずみが棒高跳びの要領で跳躍し、

「キター! あずみのパンチラ出血大サービス!」

 そう一平が万歳した、その瞬間である。

 ふいに車体が揺れた。

 キイキイというかまびすしい声が、突然周囲で湧き起こる。

「うひゃ」

 一平がのけぞった。

 赤ら顔の猿たちがボンネットによじ登り、フロントガラスに顔を押しつけ、歯をむき出している。

 新手のニホンザルの群れだった。

 おそらく近くの木々を伝わって近づいてきていたのだろう。

 猿は、あずみと対峙しているやつらだけではなかったのだ。

「しょうがないわね。あんたたちでなんとかなさい」

 うんざりしたように、助手席の光が言った。

「あたしの武器は、接近戦には向いてないのよね」

「待ってました!」

 喜ぶ一平。

 おもちゃを与えられた幼児のように上機嫌になっている。

「おいら、サンルーフ使うから、アキラは窓から射撃しろ」

 一匹の猿が、手に持った石でフロントガラスを殴りつけている。

 猿は道具を使うというが、その現場をこの目で見るのは初めてだった。

 ゾンビ化して凶暴になっても、石で殴ることは覚えているらしい。

「早くしないとガラスがやばい」

 光がせき立ててきた。

「さ、ふたりとも急いで」

「アイアイサー!」

 サンルーフを開け、一平がレールガン片手に屋根の上によじ登っていく。

 やれやれ。

 僕は仕方なく、スイッチを押してドアを10センチほど下ろし、M19の銀色に輝く銃身を突き出した。

 ガウウッ!

 とたんに下から一匹の猿が飛び出してきて、ガブリと銃口に噛みついた。

 白目を剥き出し、口から泡を吹いている。

 典型的なゾンビ顏のニホンザルだった。

 飛んで火に入る夏の虫とはこのことだ。

 僕はためらうことなくトリガーを引いた。

 すさまじい銃声とともに、ゾンビ猿の顏の上半分が吹き飛んだ。

 どたり。

 猿の身体が地面に落っこちた。

 ふと気づくと、喧騒が止み、あたりが静かになっていた。

 門の向こうで、あずみを10匹ほどの猿の群れが取り囲んでいる。

 後のものはみんなやられてしまったらしく、あずみの足元は絶命した猿たちでいっぱいだ。

 問題は、残った10匹が、そろってこっちを見ていることだった。

 歩兵に当たるニホンザルはほぼ全滅し、残党はチンパンジーやオラウータンなどの強敵ばかりである。

 マグナムの銃声が、どうやらゾンビ猿たちの注意を一斉にひきつけてしまったらしい。

 やがて、ドコドコと太鼓をたたくようなリズミカルな音が聞こえ始めた。

 嫌な予感がした。

 この音…まさか。

 予感は当たった。
 
 顔を上げると、その張本人と目が合った。

 ゴリラである。

 それまで少し離れたところで戦況を見守っていた、他の猿より抜きんでて巨大な体長2メートルほどもあるオスゴリラが、だしぬけにドラミングを始めたのだ。

「厄介なのに目をつけられちゃったねえ」

 他人事みたいに光が言った。

「あれが本気でぶつかってきたら、ひょっとしてあたしたち、車ごとひっくり返されちゃうかも」

「どうしよう…?」

 弱気の塊と化して、僕はたずねた。

 あんなキングコングみたいなやつ、こっちから願い下げである。

 第一、この距離から弾を当てる自信なんて、これっぽっちもない。

 しかし、光はあくまでクールだった。

「降りて戦ったら?」

 サングラスを光らせると、あっさりそう言った。

「アキラ君も、たまには妹にいいとこ見せなきゃ、でしょ?」







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