ゾンビになった妹を救うため、終末世界で明日に向かってゴールをめざす

戸影絵麻

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第4章 魔獣地帯

action 8 失策

 アニメや映画のようなフィクションの世界なら、たいていそういう時って、当たるものである。

 だが、現実は厳しかった。

 威勢のいい銃声こそ轟いたものの、銃弾は手榴弾にではなく、ワニのステーキみたいに分厚い舌を引き裂いただけだった。

 そしてもっと最悪だったのは、その衝撃でワニの頭部が跳ね上がり、手榴弾がその喉の奥にコロッと転がり落ちてしまったことである。

 気まずい沈黙があたりを支配した。

 マンガなら、

 シーン…。

 という文字が流れるところだったろう。

「おい」

 一平が言った。

「手榴弾、飲ませてどうすんだよ?」

「わ、悪い」

 僕は頭を掻いた。

「あたると思ったんだけど」

「ほんとにおまえって、役に立たねえよな」

 いかにも腹に据えかねるといったまなざしで、僕をじっと見つめている。

 きつい台詞だったが、反論のしようがなかった。

 直前にあずみに励ましの言葉をもらったにもかかわらず、この始末なのだ。

 これが戦国時代なら、マジで切腹ものの失態に違いなかった。

「ま、済んだことは仕方ないよ」

 光が言って、僕の肩を優しく叩いた。

「下がってて。ここはあたしとあずみちゃんで、なんとかするから」

 ヨーヨーのボディを左手で握り、紐の端のフィンガーホールを右手の人さし指に嵌め、糸をピンと水平に伸ばした状態で、光が僕の前に進み出た。

 カラス色のコートが風にはためき、サングラスの縁が初夏の陽光にきらめいた。

「あずみちゃん、もう手を離していいから」

 ワニの上顎に両手をかけ、起重機のように持ち上げているあずみに向かって、光が言った。

「うん」

 あずみがうなずき、両手を離す。

 代わりに背中に背負ったスピニングポールを抜いて、右手で握った。

 頭部が自由になったワニが、ドン! と跳ねた。

 首の後ろに乗っていたあずみがよろめき、落ちる直前にジャンプした。

 ワニは短い四肢をばたつかせ、巨大な頭部を左右に振りながら高速でこっちに迫ってくる。

 速い。

 顎がはずれているので、大口はだらしなく半開きになったままだ。

 光がすっと身を沈めた。

 流れるようなサイドスローから、ヨーヨーのボディが飛んだ。

 脚が短いので、ワニの本体と地面の間には10センチほどのすき間しかない。

 そこにメタリックにエッジを光らせて、ヨーヨーのボディが飛びこんだ。

 不可視のストリングが絡んだのだろう。

 右の前足が切れ、突進の勢いで吹っ飛んだ。

 ワニの身体が傾いた。

 ゴゴゴゴゴ。

 地響きを立てながら、そのまま前のめりに突っ込んでくる。

 砂埃を上げて停止した。

 そこにブルマを全露出させて、あずみがつぶてのように落ちてきた。

 頭上に大きくポールを振りかぶっている。

 ワニの頭に着地するなり、

「とりゃああ!」

 全体重を乗せ、力任せにポールを振り下ろす。

 どす黒い血潮が噴水のようにしぶいた。

 後頭部を貫かれ、ワニの巨体ががくんと跳ね上がる。

 しばらく痙攣を繰り返したかと思うと、自重に耐え切れず、どさっと地面に伸びてしまった。

 白濁した眼を開けたまま、死んでいる。

「つええ…」

 一平が唸った。

 僕も同感だった。

 僕らのパーティの主役は、女ふたり。

 それはもう、誰が見ても明らかだった。

 男の僕らは、人数合わせにしかならないのだ。

「次行くよ。もう一匹のワニさんが、水牛を消化しないうちにね」

 コートの袂にヨーヨーを収納して、光が言った。

「車はもう使えそうにないから、ここからは歩きだよ」

 スカートの裾を気にしながら、あずみが歩いてくる。

 ハイタッチする気分にもなれず、ぼんやり佇んでいると、僕の前に立ってあずみが微笑んだ。

「どんまい、お兄ちゃん。また次頑張ればいいよ」

 




 

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