ゾンビになった妹を救うため、終末世界で明日に向かってゴールをめざす

戸影絵麻

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第5章 約束の地へ

action 11 異形

「お、おまえ…あの時の」

 敵を威嚇する子犬のように、一平が唸る。

 小男は席を立つと、観客席の間を縫って、ゆっくりと僕らのほうに下りてきた。

 狛犬に似た悪相の、貧相な中年男である。

 極道のトップだけあって眼光は鋭いが、拳銃や日本刀のような武器を携帯している様子はない。

 そう。

 僕らの前に現れたのは、ドーム前イオンを占拠していた極道組織、黄道会組長の堂神仁なのだった。

 以前会った時に比べて口調は幾分丁寧になっているが、特徴的なあのご面相を忘れられるはずがない。


「まあ、マルデックなら、当然ここまでたどり着けるだろうとは思っていたよ。しかし、この先に進めるかどうかとなると、それは疑問ではあるがな」

 趣味の悪い銀ラメのスーツのポケットに両手を突っ込んで、堂神が言った。

 まるで僕ら3人など目に入らぬかのように、男はあずみだけを見ている。

 マルデック?

 思い出した。

 この男、前回もあずみに向かってそんなことを言ったのだ。

 -おまえ、マルデックの者だなー

 と。

「マルデックが何か知らないけど、リバースはどこにあるんですか? 私はそれがほしいだけなんです」

 勢い込んで、あずみがたずねた。

「リバースか」

 堂神が、クックと含み笑いを漏らした。

「ここに来る者は、皆同じようなことを口にする。しかし、あれの管理は私の管轄外なんでね。欲しければ、私を倒してこの扉の奥に進むことだ。そうすれば、そこにあらせられる上帝、オーバーロードに接見できる」

「上帝?」

「オーバーロード?」

 僕は光と顔を見合わせた。

 オーバーロードって、SF用語で、神のこと…?

  目を凝らして見ると、確かに体育館の奥には両開きの扉があるようだ。

 あの奥に、神がいるとでもいうのだろうか?

 なんだか話がどんどん荒唐無稽になっていく。

 この男、狂っているのかもしれない。

 ふとそんな気がした。

 セカイが崩壊したショックで、妄想に取りつかれるようになってしまったとか?

 しかし、バリバリの現実主義者であるはずのヤクザの親分が、果たしてそんな他愛のない妄想に取りつかれるだろうか?

 だが、あずみは別の部分にひっかかったようだった。

「倒すってどういうことです? まるであなたが私たちとここで戦うみたいに聞こえますけど?」

「その通りだよ。私はそのつもりで言ったのだから」

 小男が酷薄そうに口元を歪めた。

「さて、お手並み拝見と行こうか。わかっているとは思うが、私は左京たちとはレベルが違う。舐めてかかると痛い目に遭うぞ。いや、それどころか、ここが君たちの墓場になる」

「あなたもリサイクルゾンビなんですね? その…私と同じように」

「リサイクルか…。まあ、そうだな。だが、発現したものがかなり違うようだ。マルデックの力、とくと私に見せるがいい!」

 それが人間として小男の発した、最後の言葉だった。

 フロアの中央まで跳び退ると、突如として堂神は変身し始めた。

「ぐは」

 数秒後。

 そこに立ち現れたものをひと目見て、一平が心底嫌そうに顔をしかめた。

「なんでこんなのばっかり出てくるんだよ!」


 
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