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第5章 約束の地へ
action 12 死闘
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そのような可及速やかなる変身というものが、物理的に可能かどうかは疑問である。
しかし目の前でそれを実演されると、僕としてはもう、ただ腰を抜かす他なかったのだが…。
問題は、堂神仁の変身後の姿だった。
「あいつ、悪魔じゃなかったのかよ…」
一平の嘆きは当然だった。
一応背中と思しきところに、申し訳程度の翼らしきものはある。
だが、その本体はというと…。
「ムカデかな。いや、足の長さからして、ゲジゲジかも」
吹き抜けの天井に届かんばかりに伸びあがったその細長い体を見上げて、光がつぶやいた。
そう…。
僕らの前に姿を現したのは、全長20メートルを超えると思われる、巨大な多足類だったのだ。
赤紫色の光沢のある本体は10以上の節に分かれ、そこから髭のように長い脚が四方に伸び出している。
頭のてっぺんと尾部に1対のとりわけ長い触角が生えていて、風もないのにゆらゆら蠢いていた。
原形を留めているのは顔の部分だけで、それは本体頂上の小さな頭部にレリーフか何かのようにはめ込まれている。
つまりこれは、言ってみれば人間の顔を持つ高さ20メートルの、巨大ゲジゲジということになるのだった。
一平がレールガンを、光がヨーヨーを構えた。
僕は足元にスポーツバッグを置くと、ホルスターからM19を抜き出した。
あずみはすでに軽いフットワークを始めている。
「みんな、分かれて攻撃だよ。見ての通り、あいつの表皮は頑丈なキチン質にガードされている。まともに当てても貫通は不可能だろうね。狙うとしたら、節と節の間の連結部分、あるいは顔。難しいけど、頑張っていくよ!」
「おう!」
二手に分かれて光と一平が駈け出した。
2顏の観客席から攻撃するつもりなのだろう、ふたりして別々の階段を駆け上がっていく。
僕は”体育館”の入り口に立っていた。
すぐ後ろは通路へのエアロックだから、いざという時退避するのにちょうどいい。
ここから動かずに攻撃することにして、銃を握った両腕を伸ばし、怪物の頭部にターゲットを固定した。
「まだ出るな。まず俺たちが攻撃してやつの出方を確かめる。だからあずみはそれまで待機しろ」
あずみを火線に晒すわけにはいかないので、僕はそう念を押した。
「うん」
あずみがうなずいて、唇を尖らせ、ほんの一瞬、僕の右頬に押しつけてきた。
チュッと可愛い音がして、ようやくキスだということがわかった。
「お兄ちゃん、頑張って」
甘い声が耳元で囁いた。
「でも、無理はしないでね」
これで元気を出さなかったら、もはや果報者失格だ。
僕は湧き上がるアドレナリンとドーパミンにパワーを借りて、撃った。
背後に回ったあずみが僕の肩を抱き、射撃の反動を受け止めてくれる。
あずみの胸の天然エアバックは高性能で、肩がまるで痛まない。
調子に乗って、僕は6発すべてを撃ち尽くした。
これまでの戦いで、完璧ではないにしろ、ある程度的に当てる自信はついていた。
だから、弾は全弾命中したはずだった。
が、如何せん、少し距離があり過ぎたようだ。
僕が放った6発のマグナム弾は、堂神仁の顔までは届かず、すべて怪物の表皮に跳ね返されてしまっていた。
光のいう通りだった。
マグナムが効かないなんて、あいつ、むちゃくちゃ硬いのだ。
そうなると、当然、一平の独楽は無力である。
左翼の観客席から身を乗り出して一平がレールガンを撃っているのだが、結果は僕の銃とほぼ同じ。
鋼鉄の独楽はことごとく怪物の甲殻に跳ね返され、鈍い音を立てて床に落ちていく。
頼みの綱は光のナノカーボン・ワイヤーだ。
右翼席から華麗なフォームで光がヨーヨーを放つ。
ヨーヨーのボディが放物線を描いて宙を飛び、かすかにきらめく糸が怪物の本体に巻きついた。
が。
切れなかった。
怪物が体をくねらせた。
光がバランスを崩して、糸の端を離す。
ナノカーボン・ワイヤーは有機物には有効だが、金属の類いには無効だという。
つまりはあいつは、鋼鉄並みに硬い甲殻で全身を覆っているというわけだ。
光の言うように節の結合部を狙えば話は別なのかもしれないが、やってみてわかった。
狭くて当たらないのである。
かといって、唯一人間の痕跡を残した顔面は20メートル上空にある。
高すぎて銃弾も独楽もワイヤーも届かないのだ。
「出番かな」
あずみが言って、前に進み出る。
白いセーラー服に、紺のミニひだスカート。
赤いロンググローブとロングブーツで手足をガードし、ごつい登山靴を履いている。
「出撃前に」
あずみが振り向き、僕のほうに首を伸ばしてきた。
「お出かけのキスを」
また唇を尖らせている。
ナイアガラの滝からでも飛び降りる思いで、おずおずと求めに応じると、
「ありがと」
瞳を潤ませ、にこっと笑った。
そして、死闘が始まった。
しかし目の前でそれを実演されると、僕としてはもう、ただ腰を抜かす他なかったのだが…。
問題は、堂神仁の変身後の姿だった。
「あいつ、悪魔じゃなかったのかよ…」
一平の嘆きは当然だった。
一応背中と思しきところに、申し訳程度の翼らしきものはある。
だが、その本体はというと…。
「ムカデかな。いや、足の長さからして、ゲジゲジかも」
吹き抜けの天井に届かんばかりに伸びあがったその細長い体を見上げて、光がつぶやいた。
そう…。
僕らの前に姿を現したのは、全長20メートルを超えると思われる、巨大な多足類だったのだ。
赤紫色の光沢のある本体は10以上の節に分かれ、そこから髭のように長い脚が四方に伸び出している。
頭のてっぺんと尾部に1対のとりわけ長い触角が生えていて、風もないのにゆらゆら蠢いていた。
原形を留めているのは顔の部分だけで、それは本体頂上の小さな頭部にレリーフか何かのようにはめ込まれている。
つまりこれは、言ってみれば人間の顔を持つ高さ20メートルの、巨大ゲジゲジということになるのだった。
一平がレールガンを、光がヨーヨーを構えた。
僕は足元にスポーツバッグを置くと、ホルスターからM19を抜き出した。
あずみはすでに軽いフットワークを始めている。
「みんな、分かれて攻撃だよ。見ての通り、あいつの表皮は頑丈なキチン質にガードされている。まともに当てても貫通は不可能だろうね。狙うとしたら、節と節の間の連結部分、あるいは顔。難しいけど、頑張っていくよ!」
「おう!」
二手に分かれて光と一平が駈け出した。
2顏の観客席から攻撃するつもりなのだろう、ふたりして別々の階段を駆け上がっていく。
僕は”体育館”の入り口に立っていた。
すぐ後ろは通路へのエアロックだから、いざという時退避するのにちょうどいい。
ここから動かずに攻撃することにして、銃を握った両腕を伸ばし、怪物の頭部にターゲットを固定した。
「まだ出るな。まず俺たちが攻撃してやつの出方を確かめる。だからあずみはそれまで待機しろ」
あずみを火線に晒すわけにはいかないので、僕はそう念を押した。
「うん」
あずみがうなずいて、唇を尖らせ、ほんの一瞬、僕の右頬に押しつけてきた。
チュッと可愛い音がして、ようやくキスだということがわかった。
「お兄ちゃん、頑張って」
甘い声が耳元で囁いた。
「でも、無理はしないでね」
これで元気を出さなかったら、もはや果報者失格だ。
僕は湧き上がるアドレナリンとドーパミンにパワーを借りて、撃った。
背後に回ったあずみが僕の肩を抱き、射撃の反動を受け止めてくれる。
あずみの胸の天然エアバックは高性能で、肩がまるで痛まない。
調子に乗って、僕は6発すべてを撃ち尽くした。
これまでの戦いで、完璧ではないにしろ、ある程度的に当てる自信はついていた。
だから、弾は全弾命中したはずだった。
が、如何せん、少し距離があり過ぎたようだ。
僕が放った6発のマグナム弾は、堂神仁の顔までは届かず、すべて怪物の表皮に跳ね返されてしまっていた。
光のいう通りだった。
マグナムが効かないなんて、あいつ、むちゃくちゃ硬いのだ。
そうなると、当然、一平の独楽は無力である。
左翼の観客席から身を乗り出して一平がレールガンを撃っているのだが、結果は僕の銃とほぼ同じ。
鋼鉄の独楽はことごとく怪物の甲殻に跳ね返され、鈍い音を立てて床に落ちていく。
頼みの綱は光のナノカーボン・ワイヤーだ。
右翼席から華麗なフォームで光がヨーヨーを放つ。
ヨーヨーのボディが放物線を描いて宙を飛び、かすかにきらめく糸が怪物の本体に巻きついた。
が。
切れなかった。
怪物が体をくねらせた。
光がバランスを崩して、糸の端を離す。
ナノカーボン・ワイヤーは有機物には有効だが、金属の類いには無効だという。
つまりはあいつは、鋼鉄並みに硬い甲殻で全身を覆っているというわけだ。
光の言うように節の結合部を狙えば話は別なのかもしれないが、やってみてわかった。
狭くて当たらないのである。
かといって、唯一人間の痕跡を残した顔面は20メートル上空にある。
高すぎて銃弾も独楽もワイヤーも届かないのだ。
「出番かな」
あずみが言って、前に進み出る。
白いセーラー服に、紺のミニひだスカート。
赤いロンググローブとロングブーツで手足をガードし、ごつい登山靴を履いている。
「出撃前に」
あずみが振り向き、僕のほうに首を伸ばしてきた。
「お出かけのキスを」
また唇を尖らせている。
ナイアガラの滝からでも飛び降りる思いで、おずおずと求めに応じると、
「ありがと」
瞳を潤ませ、にこっと笑った。
そして、死闘が始まった。
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