制服の胸のここには

戸影絵麻

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#5 屈辱的な罠

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 罠…。
 やっぱり、罠だった。
 噛み締めた唇から血がにじむ。
 あるはずなかったんだ。
 そんなこと…。
 僕の内心を言い当てるかのように、甲高い声が言う。
「我らが学級委員、氷室基子様がおめーみていな底辺に告るとか、本気で信じてたわけじゃあるめーな?」
 高尾の横にはバディのようにその名の通り赤い髪の赤城が、ふたりの後ろには十人近い男どもが控えている。
 高尾と赤城は地方のヤンキーの典型で、それぞれ家が地主なだけに羽振りがいい。
 僕の住む御影市は中部地方の辺境に位置していて、高等学校といえばこの曙高校しかない。
 だから基子のような才女と高尾たちのようなヤンキーとの人種のサラダボウル状態が生じるのだ。
「え、えと、ぼ、僕に、な、なんの、用?」
 顔にひきつったお追従笑いを貼り付けて僕は訊く。
 金銭の要求ならまだましなほうだが、あいにくふたりのほうがお金持ちなのでそういう可能性はあまりない。
「ただのストレス解消だよ。セブンティーンともなると、いろいろ溜まっちまうの、てめーもわかるだろ?」
 赤城が言うなり、ボス核の高尾が「やれ」というように目顔で手下たちを促した。
「や、やめて」
 たちまち取り押さえられる僕。
 制服とネクタイをはぎ取られ、カッターシャツを脱がされた。
 わらわらと伸びてきた手がズボンのベルトを外し、乱暴にファスナーを引き下げる。
「何すんだ! や、やめろ…」
 がむしゃらに抵抗しても、無駄だった。
 次から次に伸びてくる手は見る間に僕から下着をはぎ取り、裸に剥いた。
 そのまま引きずり起され、羽交い絞めにされて高尾たちの前に晒される。
「吊るせ」
 にたりと笑って高尾が言う。
「ちょ、ちょっと…」
 前を隠そうにも、両腕を後ろ手にねじられ、なすすべもない。
 股間が異様にうそ寒く、僕は全員の視線がそこに注がれるのを感じて耳朶まで赤くした。
「こいつ、パイパンじゃねえか」
 仲間たちの声を代弁するように、高尾が面白そうに言う。
「まさか自分で剃ってるとか。変態と違うか?」
 赤城の突っ込みにどっと手下たちが噴き出した。
 僕は顔を背けるしかない。
 図星だったからだ。
 自分を慰める時、鏡を使う。
 肝心の部分がよく見えるよう、定期的に剃毛しているのはこの僕なのだ。
 気がつくと、僕はバスケットボールのゴールポストの下まで運ばれていた。
 吊るせ、という高尾の台詞の意味と、ここへ入った時覚えた違和感の正体に気づいたのは、その時だ。
 ロープである。
 まるで死刑囚を待つようにー。
 ゴールポストからは、拘束具のついたロープが、何本も垂れ下がっていたのだった…。
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