制服の胸のここには

戸影絵麻

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#15 現れたもの

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 チューリップ型の金魚鉢みたいに口を開き、天井を向いた校長の頭部。
 その口腔内から這い出てきたそいつに向かって、氷室基子がたずねた。
「あなたは?」
 あなた…。
 そのもの言いに、僕は驚いた。
 校長の顔面の上にちょこんと座った全身緑色のその生き物は、アマガエルにそっくりだった。
 頭の横に飛び出た大きな目。
 耳まで裂けた口。
 その耳はといえば、耳朶はなく、スピーカーみたいな鼓膜が露出しているだけ。
 鼻は二つの小さな黒い点で、手足は貧弱、けれどその先には水かきと吸盤を備えた長い指が生えている。
 アマガエルに対して、「あなた」と呼びかける基子の精神は、僕には謎というしかない。
 もっとも、校長の口から這い出てきたしゃべるアマガエルというのも、大きな謎なのだが…。
「私の名は君らの発声器官では発音できまい。まあ、見ての通りだから、仮にカエルくんとでも呼んだらどうかな」
「カエルくん…」
 基子がその名を反芻した瞬間だった。
 窓の外で咆哮が轟いた。
 つられて外を見た僕は絶句した。
 な、なんだ、あれ?
 工場地帯を破壊しながら、馬鹿デカい戦車みたいなものがのし歩いている。
 四つん這いになった身体は、イグアナみたいな爬虫類のそれだ。
 異様なのは頭部で、首から先がドリルになっているのである。
「なんですか? あの怪物は?」
 いささかも動じることなく、基子が訊いた。
「さっきから街を壊してるの、あれだったんですね」
「困ったものだ」
 気絶した校長の顔の上に胡坐をかき、”カエルくん”が深いため息を漏らした。
 膝の上に頬杖をついたその姿は、まるっきり人間のおっさんだ。
「あれは、四凶のうちの一匹、トウテツ。早く何とかしないと、じきに人類は滅びるだろうな」
 悲しそうにつぶやくカエルくん。
 シキョウだのトウテツだの、よくわからない。
 けど、それと僕らにどんな関係が?
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