制服の胸のここには

戸影絵麻

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#16 与えられた使命

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「四凶、トウテツ…、何のことかわかりませんけど、それ、私たちとどんな関係が?」
 僕の心の声を代弁するかのように、氷室基子が言った。
 外では怪物がどんどん近づいてきているというのに、相変わらず冷静な口調である。
「説明すると長くなるんだが…」
 のけぞった校長の顔の上で胡坐をかいたカエルくんが、難しい表情をして言った。
 カエルが”難しい表情”なんてできるのか、という批判が来そうだが、僕にはそう見えたのだから仕方がない。
「マルドックを知っているかね?」
「なんですか?」
「元はメソポタミア神話やバビロニア神話に登場する神の名前だが、実はもうひとつ意味がある」
 ゴオオオオオオオツ!
 外で怪物が吠えた。
 思った以上に近づいているようで、僕は身構えた。
「なんか話が長くなりそうですけど、もう、そんな暇、ないんじゃあ・・・」
 これがテレビドラマや映画なら、主人公たちが大事な会話を終えるまで敵は待っていてくれるものである。
 しかし、現実はさすがにそうはいかないようだった。
 ドリル頭を振り回しながら、怪物は工業地帯を突破して、商業地域へと入ろうとしている。
 Jあの調子でRの線路を越えられたらこの学校まであと少しだ。
 空には自衛隊のヘリコプターらしきものが飛び回り出したが、攻撃の許可が出ていないのか戦闘機の姿はない。
「そうだな。君のいう通りだ。とにかく、私と一緒に来てくれないか」
 校長の顔からデスクの上に飛び降り、カエルくんが言った。
「どこへ、ですか?」
「秘密基地だよ。摺鉢山の地下にある」
「秘密基地?」
 基子の目つきが鋭くなった。
「こんな時によくそんなしょうもない冗談が言えますね」
 摺鉢山とは、この学校の裏にある小さな里山の名前である。
 怪物が出てきた息吹山とはちょうど街の反対側にある。
「ワンチャンそれが本当だとしても、その秘密基地と僕らにどんな関係が?」
 面白くなって身を乗り出して訊いたとたん、
「ワンチャン? 意味不明な言葉を使わないでよ。何がワンチャンなの? どこにチャンスがあるの? それともどこかに犬、つまりワンちゃんがいるとでも?」
 目くじらを立て、僕を睨む基子。
 思わず僕は首をすくめた。
 うちのクラスの学級委員は言葉遣いにうるさいのだ。
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