制服の胸のここには

戸影絵麻

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#17 秘密基地へ

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「ここで長々と説明するより、一緒に来てもらったほうが早いと思うな。とにかく、この地球規模の危機を救えるのは、君たちしかいないってことです」
 そもそも”ワンチャン”とはどういう意味の言葉なのか。
 ひょっとして?
 うまくいけば?
 そんな意味合いで使っているような気がするけど、違うのだろうか。
 だいたい、その語源は何なのだろう?
 よくある流行語みたいに、またどっかの芸人、あるいはアスリートの発した戯言なのか?
 なんでみんな気軽にワンチャンを使えるのだろう。
 基子の言うように年寄りが聞いたら”ワンちゃん”と勘違いしかねない。
 いやいや、いくらなんでもそれはないか…。
 などと悩み始めた僕をしり目に、カエルくんは話を進めていく。
「地球の危機を救う? 私と、この・・・金田君が?」
 基子があからさまな不審の目で僕を見る。
 「…」の部分には、明らかに”クズ”とか、”変態”などの誹謗中傷語が省略されていたようだ。
「そうです。その通りです。そのことは、マルドックのかけらがこの星に落ちて以来、遺伝子的に決まっていたのです」
「マルドックのかけら? 遺伝子的?」
 あいまいさを厭う学級委員らしいねばりで、基子が反芻する。
 事態がはっきりするまでてこでも動かぬ気らしいが、僕はそろそろヤバいと感じ始めていた。
 地面の振動が烈しくなっている。
 窓がびりびり震え、間断なく響く雷鳴に似た咆哮。
 そこにすさまじい地響きが重なり、あたりはすでに地獄の様相を示し始めているのだ。
 ドリル頭の怪物が、予想をはるかに上回るスピードで接近しつつある、その何よりの証拠だった。
「どっちにしても、ここにいては危ないよ。彼のいう通り、ひとまず、行ってみることにしない? その秘密基地とやらに」
 しびれを切らして口をはさむと、僕を見る基子の目が大きく見開かれた。
 道端の地蔵が突然口をきいたのを目撃した村人みたいな表情が、その整った顔に浮かんでいる。
 が。
 その瞳に理解の色が萌し始めたかと思うと、
「そうね。とりあえず今は、そうするのが賢明ね」
 言下に却下されるかと思いきや、基子は意外にあっさりとうなずいた。
「ありがとう。これでなんとかなりそうです」
 カエルくんが水かきのあるヤツデの葉みたいな手で、ペタンこの胸をなでおろした。
「でも、学校から摺鉢山までは1キロはあるよね。その間にあの化け物に踏みつぶされないだろうか」
 勢いづいて僕が言うと、
「大丈夫です」
 わが意を得たりとばかりに、カエルくんがうなずいた。
「こんなこともあろうかと思い、この建物から摺鉢山までは、秘密の地下通路が設けてあるのです」


 
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