制服の胸のここには

戸影絵麻

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#18 謎の遺跡 

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「ここからエレベーターで地下通路まで直通なんでね。ささ、こちらへ」
 カエルくんの言葉が終わらないうちに、デスクの後ろの壁がスライドし、扉が現れた。
 呆れたものだ、と氷室基子は思った。
 市民の税金で、学校に秘密の通路をつくるだなんて。
「どうする?」
 すがるような目を向けてくる金田猛。
 相変わらずの負け犬顔に、基子は肌が冷たくなるような不快感を覚えずにはいられない。
「行くしかないでしょう。このままここにいても、校舎踏みつぶされるだけだから」
「さすが学級委員。話が早い」
 カエルくんがデスクの表面を水かきで撫でると、エレベーターの扉が音もなく開いた。
 カエルくん、基子、猛の順で、狭い箱の中に入った。 
 猛の身体から漂う悪臭に耐えながらの降下は、なかなかの苦行だった。
 地響きのせいでエレベーターも揺れ、そのたびに猛の身体の一部が触れてくるのも気色悪かった。
 箱が止まったのは、かなり降下してからのことである。
「到着」
 カエルくんが言った。
 開いた扉の向こうには、無味乾燥な灰色の通路がずっと先まで伸びている。
 校舎は4階までしかないから、この降下時間からして、通路は地下も相当深い所に掘られているようだ。
「この道が、摺鉢山まで続いてるっていうの?」
「そう。1キロほどあるけど、急いで」
 ぴょんぴょん先に立って跳ねていくカエルくん。
「この先に、何があるんですか?」
 内股でヨタヨタ歩きながら、猛が訊く。
「あなたは、僕らに何をさせようというんですか?」
「もうすぐわかる」
 カエルくんは前進に余念がない。
 そのうちに通路の壁が剥き出しの岩盤に変わり、気温も下がってきた。
 どうやらこのあたりからが、摺鉢山の地底ということらしい。
「ここだ」
 通路は開けた場所に続いていた。
 山の中に空いた巨大な空洞、とでも言えばいいのだろうか。
 4階建ての校舎がすっぽりひとつ入りそうなくらい大きな大伽藍。
 それが、通路の果てに広がっていたのだ。
「マジか」
 猛が茫然とつぶやいた。
 さすがに基子も同感だった。
「こんなの、あり得ない…」
 我知らず独りごちると、伽藍の天井を見上げて、カエルくんが言った。
「ここがマルドックの第一遺跡です。息吹山の地底にある、第二遺跡と対になっている」
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