制服の胸のここには

戸影絵麻

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#21 断固たる拒絶 

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 氷室基子のこめかみには、青い筋が浮き上がっている。
 皮膚が薄いだけにその青筋はひどく目立って見え、彼女の怒りの激しさを物語っているようだった。
 マルドックのDNAを受け継ぐ戦士?
 私とこのきもい男が?
 それまで金田猛のことなど、死にかけた蚊か蠅くらいにしか思っていなかった基子だが、今は違った。
 何の因果か、いきなり基子自身と深い関係があると指摘されてしまったのである。
「そこまでクソミソに言わなくても…」
 頬を張り飛ばされたわけでもないのに、右頬を手で押さえて恨めしげに基子を見る猛。
 そのいじけた顔を見たとたん、体育館での惨状がありありと瞼の裏によみがえった。
 青臭く生臭い匂いに包まれー。
 全裸のまま、自ら放った体液にまみれて、恍惚とした表情で惚けていた猛。
 性被害に遭ったことは間違いないのに、こいつときたら、なぜか幸せそうだった。
 あってはならないことだ、と基子は思う。
 普通、性被害に遭遇した者は、心に深い傷を負い、それがトラウマになって長い年月悩み苦しむものである。
 なのに、こいつときたら、まるで次を期待するかのように、うっとりとした表情で…。
 そんなことでは、今後同様の事件が校内で起きても、加害者たちを糾弾することができないではないか。
 基子自身、決して高潔な人生を送っているわけではない。
 それどころか、優等生の顔の裏でパパ活にいそしむ頂女子見習いですらあるほどだ。
 だが、それは基子と客のふぁみろうのビジネスライクな関係であり、何も社会に迷惑をかけているわけではない。
 しかも、ふぁみろうは今のところ、基子とデートをして軽くキスするあたりまでで満足してくれている。
 基子が猛の裸体に付着した体液の正体にすぐに気付かなかったのはそのせいだ。
 パパ活とは名ばかりで、基子の場合、まだふぁみろうと深みにはまっているわけではないのである。
「とりあえず、どれを使うか決めない?」
 にらみ合うふたりの間の地面にちょこんと座り、基子と猛の顔を心配そうに交互に眺めてカエルくんが言った。
「今回現れたトウテツの属性からして、僕自身は朱雀がいいと思うんだけど…。朱雀は飛行タイプの機械獣だから、トウテツのドリル攻撃を簡単にかわすことができるでしょ?」
 校長のキャラから、子供のキャラに変わったような口ぶりだ。
「は! あんた馬鹿なの?」
 基子の声が1オクターブ跳ね上がった。
「そんなことどうでもいいけど、敵の攻撃をかわしてばかりじゃ、いつまでたっても勝てないじゃない」
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