11 / 400
#9 反応する肉体①
しおりを挟む
正一の拒絶は徹底していた。
かなり経ってからベッドに潜り込んでくると、下着姿で震えている琴子に背を向け、すぐに眠ってしまったのだ。
耳障りな夫のいびきを間近に聞きながら、琴子はまんじりともせず夜を明かした。
ショックで気が遠くなりそうだった。
セクシーな下着に身を包んで夫を誘惑し、見るも無残に撥ねつけられた自分が哀れでならなかった。
離婚の危機が現実味を帯びてきたようで、涙がとめどもなく溢れ出て頬を濡らした。
出張の前日、あれほど激しく琴子を求めてきた正一はどこへいってしまったのだろう。
あれから、わずか2ヶ月しか経っていないのに。
この2ヶ月の間に、何があったのだろうか。
和夫の事故の詳細を、正一は知らない。
もちろん、琴子が真実を話していないからだ。
和夫は、琴子が台所を離れた隙に、何かの拍子にフライパンの油を顔に浴び、大やけどした。
そういうことにしてあるのだ。
だから、和夫の一件が、正一の態度に影響しているとは思えない。
確かにそのことが正一の心に要らぬプレッシャーをかけているのは間違いないが、琴子を拒絶する原因がそこにあるとはとても思えないのだ。
とすれば、やはりあの女の存在が正一を変えたということになるのだろうか。
琴子はPCの動画を最後まで見なかったことを後悔した。
こうなったら、なんとしてでも、あの女の正体を突き止めなければならない。
夫が会社に出かけたら、もう一度確認してみよう…。
渦巻く想念に疲れ果て、ようやく寝入ることができたのは、空が明るみかけた頃のことだった。
次に目覚めた時には、すでにベッドの中に正一の姿はなく、琴子は寝すぎた自分に蒼ざめた。
台所にはトーストを焼いた匂いだけがただよっており、やはり正一はいなかった。
食器棚の上の置時計は午前8時を示している。
いつもなら、今頃朝食を摂る時間だが、朝早いと言っていたのは本当だったらしい。
仕方なく、スマホのラインで詫びを入れた。
軽い朝食を摂り、下着姿のまま、正一の部屋に入る。
PCの位置が微妙に変わっている気がして、嫌な予感が胸を責め苛んだ。
PCを立ち上げてみると、予感は的中した。
あの動画が、フォルダごとなくなっている。
琴子はきのう、動画を再生している途中でPCをシャットダウンしてしまったことを思い出して、舌打ちした。
あれでは正一がPCを起動したとたん、動画が流れてしまう。
正一は、琴子に動画を見られたことに気づき、ゆうべ、すべてを削除してしまったに違いない。
激情に駆られたからといって、あまりにうかつすぎた。
これで、正一の不倫相手に関する手掛かりがなくなってしまった。
琴子に知られたことを察知したからには、正一はありとあらゆる証拠を隠滅してしまうだろう。
スマホのラインのチャット履歴も、何もかも…。
手がかりがあるとすれば、ただひとつ。
和夫だ。
和夫はあの動画の存在を知っていた。
ということは、中身を見ている可能性は高い。
もしかしたら、相手の女の正体を知っているかもしれないのだ…。
そんなことに思いを馳せている時だった。
手に持ったままだった琴子のスマホが鳴った。
画面を見ると、また和夫からだった。
忘れるなよ。あの下着。
来る時は、下着の上に、じかにスプリングコートを着てくること。
ほかに服は要らない。
ラインメッセージは、ただそれだけだった。
「何考えてるの? あの子…」
琴子はあられもない己の下着姿を見回した。
今身に着けているのが、まさに和夫が指定してきた下着のセットである。
乳房の大半が露出したブラジャー。
前も後ろもTバックのような、きわどいショーツ。
この上にコートだけ羽織って、病院に来い。
和夫はそう命じてきたのだ。
妖しい疼きが身内でさざめいたのは、そう再認識した瞬間だった。
私ったら、何を…。
一瞬浮かびかけた異様なイメージに身震いし、琴子は激しく首を打ち振った。
とにかく、言われた通りにするしかない。
そうして、和夫の機嫌を取り結んだら、さりげなく訊いてみよう。
あの動画の中の女の正体に、心当たりがないかどうか…。
かなり経ってからベッドに潜り込んでくると、下着姿で震えている琴子に背を向け、すぐに眠ってしまったのだ。
耳障りな夫のいびきを間近に聞きながら、琴子はまんじりともせず夜を明かした。
ショックで気が遠くなりそうだった。
セクシーな下着に身を包んで夫を誘惑し、見るも無残に撥ねつけられた自分が哀れでならなかった。
離婚の危機が現実味を帯びてきたようで、涙がとめどもなく溢れ出て頬を濡らした。
出張の前日、あれほど激しく琴子を求めてきた正一はどこへいってしまったのだろう。
あれから、わずか2ヶ月しか経っていないのに。
この2ヶ月の間に、何があったのだろうか。
和夫の事故の詳細を、正一は知らない。
もちろん、琴子が真実を話していないからだ。
和夫は、琴子が台所を離れた隙に、何かの拍子にフライパンの油を顔に浴び、大やけどした。
そういうことにしてあるのだ。
だから、和夫の一件が、正一の態度に影響しているとは思えない。
確かにそのことが正一の心に要らぬプレッシャーをかけているのは間違いないが、琴子を拒絶する原因がそこにあるとはとても思えないのだ。
とすれば、やはりあの女の存在が正一を変えたということになるのだろうか。
琴子はPCの動画を最後まで見なかったことを後悔した。
こうなったら、なんとしてでも、あの女の正体を突き止めなければならない。
夫が会社に出かけたら、もう一度確認してみよう…。
渦巻く想念に疲れ果て、ようやく寝入ることができたのは、空が明るみかけた頃のことだった。
次に目覚めた時には、すでにベッドの中に正一の姿はなく、琴子は寝すぎた自分に蒼ざめた。
台所にはトーストを焼いた匂いだけがただよっており、やはり正一はいなかった。
食器棚の上の置時計は午前8時を示している。
いつもなら、今頃朝食を摂る時間だが、朝早いと言っていたのは本当だったらしい。
仕方なく、スマホのラインで詫びを入れた。
軽い朝食を摂り、下着姿のまま、正一の部屋に入る。
PCの位置が微妙に変わっている気がして、嫌な予感が胸を責め苛んだ。
PCを立ち上げてみると、予感は的中した。
あの動画が、フォルダごとなくなっている。
琴子はきのう、動画を再生している途中でPCをシャットダウンしてしまったことを思い出して、舌打ちした。
あれでは正一がPCを起動したとたん、動画が流れてしまう。
正一は、琴子に動画を見られたことに気づき、ゆうべ、すべてを削除してしまったに違いない。
激情に駆られたからといって、あまりにうかつすぎた。
これで、正一の不倫相手に関する手掛かりがなくなってしまった。
琴子に知られたことを察知したからには、正一はありとあらゆる証拠を隠滅してしまうだろう。
スマホのラインのチャット履歴も、何もかも…。
手がかりがあるとすれば、ただひとつ。
和夫だ。
和夫はあの動画の存在を知っていた。
ということは、中身を見ている可能性は高い。
もしかしたら、相手の女の正体を知っているかもしれないのだ…。
そんなことに思いを馳せている時だった。
手に持ったままだった琴子のスマホが鳴った。
画面を見ると、また和夫からだった。
忘れるなよ。あの下着。
来る時は、下着の上に、じかにスプリングコートを着てくること。
ほかに服は要らない。
ラインメッセージは、ただそれだけだった。
「何考えてるの? あの子…」
琴子はあられもない己の下着姿を見回した。
今身に着けているのが、まさに和夫が指定してきた下着のセットである。
乳房の大半が露出したブラジャー。
前も後ろもTバックのような、きわどいショーツ。
この上にコートだけ羽織って、病院に来い。
和夫はそう命じてきたのだ。
妖しい疼きが身内でさざめいたのは、そう再認識した瞬間だった。
私ったら、何を…。
一瞬浮かびかけた異様なイメージに身震いし、琴子は激しく首を打ち振った。
とにかく、言われた通りにするしかない。
そうして、和夫の機嫌を取り結んだら、さりげなく訊いてみよう。
あの動画の中の女の正体に、心当たりがないかどうか…。
11
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる