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#5 協力

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 街灯の光に浮かび上がったのは、ダウンジャケットを着た中肉中背の若者だった。
「あ、あなたは?」
 2、3歩退いて芙由子はたずねた。
 急に声をかけられたせいで、心臓がバクバク言っている。
「あ、失礼しました。僕、このアパートの205号室に住んでる、相原って言います。相原巧。N大の2回生です」
 軽く頭を下げると、意外に礼儀正しい口調で、若者が言った。
 芙由子は少し安心した。
 N大といえば、この地方ではトップクラスの国立大学である。
 そうそう、素行の悪い者が集まっているとは思えない。
「205号室っていうと、この部屋の真上ですね」
 芙由子は若者の視線につられて上を見た。
「あなたは、児童相談所の方ですか?」
 相原巧と名乗った青年は、探るような眼で芙由子を見つめている。
「い、いえ、私は、ただ通りかかっただけで…。朝比奈芙由子と言います。この近所に住む、OLです」
 100円ショップのパートがOLに入るかどうかは疑問だったが、とりあえずそう言っておくことにした。
「そうですか」
 巧の視線が少女のいるベランダのほうを向く。
「ひどいでしょ? あの子がベランダに出されてるのを見かけるのは、これで2度目です」
「こんなに寒いのに…。可愛そうに」
「しつけのつもりなのかな。でも、よく自分たちだけ、温かい部屋でテレビなんか見ていられるものだ」
 窓に反射する青白い光を見て、巧が吐き捨てるようにつぶやいた。
「ほかに兆候はあるんですか…? その、何か、虐待を匂わせるような」
「両親の怒鳴り声や子どもの悲鳴なら、ほぼ毎日ですよ。あの子には下に弟もいるようだけど、聞こえてくるのはほとんどが女の子の声だ」
「彼女が、奥さんの連れ子ということでしょうか?」
「その可能性はありますね。新しい旦那が、なつかない連れ子に業を煮やし…なんて、いかにもありそうな話です」
「母親は…なぜかばってあげないのでしょうか? いやしくも自分が産んだ子なら、身を挺してでも」
「彼女が、例えば離婚した前の夫を恨んでいて、あの子がその夫に生き写しだとしたら?」
「それでも、血を分けた自分の子どもでしょう?」
「さあ、その先は僕にもわからない。僕には子どもはいないし、男だし、えらそうなこと言っても、所詮は若造の机上の空論にすぎませんから」
 自嘲気味に苦笑して、巧が長広舌を締めくくった。
「私…」
 芙由子は、アパートの入口のほうに目をやった。
「あの子の両親と、話してきます。せめて、中へ入れてあげてくださいって、お願いしてみます」
「ですよね」
 巧の口元に柔和な笑みが浮かんだ。
「警察に通報してもいいけれど、これが虐待の場合、かえって親を追い詰めることにもなりかねない」
「はい…私も、なんだか、そんな気がして」
 正直言って、こわい。
 でも、と芙由子は思う。
 見極めなければならないのだ。
 この家庭の、悪意のレベルを。
「一緒に行きましょうか?」
 白い息を吐いて、巧が言った。
「実は僕も同じこと考えてて…でも、正直、ひとりじゃ行きにくいなって、思ってたところだったんです」
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