汚れちまった悲しみに、きょうも血潮が降り注ぐ

戸影絵麻

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#34 質問

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 芙由子の脳裏に、監禁されたあの部屋で見たノートの文字が浮かんだ。
 覚えたてのひらがなと漢字を使って、比奈が一生懸命書いたであろう、あの標語のようなもの。

 いち いたいときはいたいといえ。
 に  いたいときは、なけ。
 さん きずを、なおすな
 よん まい日、ひらがなとかんじのれんしゅうをしろ
 ご  まいあさ、四じにおきて、くるしくなるまでたいそうをしろ
 ろく ごはんは一日、いっかいだけ
 なな かってにそとにでるな
 はち パパとママにさからうな
 く  まい日、おふろとといれのそうじをしろ
 とお へんじのときいがいは、くちをきくな

 苦い思いが込み上げてくる。
 おそらく比奈は、奴隷のような生活を強いられていたに違いない。
 ともすれば漏れそうになる嗚咽に耐えていると、ひどく優しい口調で巧が言った。
「とにかく、一度比奈ちゃんに会いに行ってみませんか? 施設はこの市内にあります。公共交通機関で行けない距離じゃない」
「そうですね」
 ようやく芙由子は微笑むことができた。
「今週なら、私はいつでも。相原さんの都合のいい日を教えてください」
 職場には来週から復帰すると言ってある。
 自由に身体を動かせるとしたら、今だ。
「じゃ、日曜日にでも、どうですか。迎えに来ますよ」
「お願いします」
「ああ、ずいぶん長居をしてしまったようです。では、僕はこれで」
 立ち上がった巧を玄関まで送った。
「あの」
 ふと思いついて、芙由子はたずねた。
「岩瀬正治を殺したの、誰だと思いますか?」
 靴を履こうとしていた巧の動きが、止まった。
 振り向いたその顔には、なんだか呆けたような表情が浮かんでいる。
 虚を突かれた、とでもいうのか…。
「さあ…」
 巧が首を横に振った。
「ちょうどあの時、妹が来てたんですよ。だから、事件のことは、救急車のサイレンを聞くまで、まるで気づかなかったんです」

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