散らない桜

戸影絵麻

文字の大きさ
上 下
11 / 31

#10 奇妙な依頼⑥

しおりを挟む
「どうしたんですか? 何をあわててるんです?」

「これを見ろ」

 編集長が名簿を私の鼻先に突きつけた。

「同じ名前が、三つある」

「あ、ほんとだ」

 編集長が赤鉛筆でアンダーラインを引いた名前は、山田一郎。

 それが、ミッドウェーと、ガダルカナルと、ニューギニアの、三つの欄にすべて入っているのだ。

「この人、特攻隊で、三度出撃してるってこと、ですよね?」

 それも、桜花、回天、伏龍と、それぞれすべて特攻の方法も違う。

「そんなことがあると思うか?」

 編集長が怒ったような顔で私を見た。

「特攻隊ってのは、普通、一度出撃したら、確実に死ぬ。それを三度も繰り返すだなんて、いったい全体、どういうことなんだ?」
しおりを挟む

処理中です...