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第4部 暴虐のカオス

#6 ペイン④

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「急に呼び出すもんだから、びっくりしたじゃないか」
 廊下を急ぎ足で歩きながら、ボブカットの小柄な少年が抗議した。
 今時珍しい黒縁をかけた、小学生のようにあどけない顔立ちをした男子生徒である。
 制服にエプロンといった、珍妙な姿をしている。
 ヒュプノス、栗栖重人だった。
「それに、何だよ、その格好」
 傍らを歩く由羅の水着姿を見て、眉をひそめる。
「見りゃわかるだろ? スク水だよ。水着で廊下歩いちゃいけないって校則、あったか?」
 由羅は涼しい顔でどんどん足を速めていく。
「はん? そんな格好で歩き回るなんて、信じられないよ。いくら夏だからって、ここハワイじゃないんだしさ。それに、由羅の水着って、なんか普通じゃないでしょ?」
 尻の肉が半ばはみだしたハイレグ水着の後ろ姿を眺めながら、重人がぼやく。
 この格好で突然由羅が家庭科室に入ってきたものだから、クラス中騒然となった。
「おい、重人、ちょっと来い」
 クラス全員が好奇の眼で見守る中、
 由羅は目玉焼きをつくる列に並んでいた重人の襟首をつかむと、強引に廊下に引きずり出したのだった。
「つべこべいわずに、おまえはヒュプノスとしての役目を果たせばいいんだよ。杏里が大変なんだから」
「え? また?」
 ヒュプノスはタナトスとパトスのいわばメンテナンス担当である。
 特に心にダメージを受けやすいタナトスにとっては、欠かせない存在だ。
 家庭科室は中学部棟の4階にあるため、2階のはずれに位置する保健室とはかなり離れている。
「ちょっと待ってよ」
 重人は足の速い由羅に遅れがちになっていた。
「遅えな」
 由羅が立ち止まった。
「んなこといったって」
 たいした距離を歩いたわけでもないのに、重人はもう息を切らしている。
「まさか、おんぶしろ、だなんていわねえだろうな」
「馬鹿にしないでよ」
 ふくれる重人。
「冬美も大変だな。おまえみたいなおこちゃまの世話しなきゃなんないなんて」
 重人は由羅たち3人の"トレーナー"、水谷冬美と同居しているのだ。
 ちなみに杏里はもうひとりの"トレーナー"、小田切勇次と一緒に暮らしており、由羅だけがマンションにひとり住まいである。
「フン、うらやましいくせに」
 重人がいうと、由羅の眼がすうっと細くなった。
「それ以上いうな。痛いめに遭いたくなかったらな」

 杏里は床に、全裸のまま、犬のようによつんばいになっていた。
 胸と尻が発達した、脂の乗り切った体型である。
 それでいて腰はほどよく締まっており、苦しそうに目を閉じたあどけない表情と相まって、ひどくエロチックな雰囲気を醸し出していた。
 口の中いっぱいに、金髪ピアスのペニスが押し込まれている。
 丸く突き出た尻を、ニキビ面が両手で鷲掴みにしていた。
 2つの豊かな肉を割ると、菊の花びらのような肛門が顕わになった。
 その下に、襞に覆われた割れ目がのぞいている。
 無毛なだけに、ひどくいやらしい眺めだった。
「こいつ、濡れてやがる」
 杏里の性器を後ろから指でなぞって、ニキビ面がいった。
「こんなに悦んでるんだから、これ、強姦じゃねえよな」
 杏里は屈辱で赤くなった。
 性器が濡れるのは、タナトスの場合、感じているからとは限らない。
 膣や子宮を守るための、いわば防御作用なのだ。
 早く終わらせるために、ペニスを吸う力を強くする。
 口の中に唾液をたっぷり溜め、前後運動を激しくした。
「く、くそ、出ちまう・・・」
 金髪ピアスの少年がうめいた。
 杏里の後頭部に両手をかけ、自分でも腰を振りながら、股間にぐいぐい押しつけた。
「どうせなら、同時にいこうぜ」
 ニキビ面が、バックから杏里の膣にペニスを滑り込ませながら、いった。
 前かがみになり、下に垂れた乳房を後ろからつかんできた。
 跡がつきそうなほど強い力で揉みしだく。
 杏里は顔を前後に動かし、尻を左右に振った。
 ふたりともいかせてしまえば、こっちのものだ。
 死の衝動は生の衝動"エロス"に転化し、すべては終わる。
 が、その前に、保健室のドアが開く音がした。

「う」
 ドアを開けたとたん、由羅が喉の奥で小さく唸った。
 床に手足をついた裸の杏里を、前後から下半身をむき出しにした若者ふたりが責め立てている。
 高等部の不良連中だ。
 授業をさぼって校内をぶらついているところを、何度か見かけたことがある。
「だめだよ」
 由羅の全身から殺気が迸るのを感じ取って、重人が腕を引いた。
「彼らはただの人間だ。キミの出る膜じゃない」
 答えず、由羅はずかずかと中に入っていく。
「やめてよ。冬美に報告するよ」
 追いすがる重人の手を邪険に振りほどくと、
「てめえら、何してんだ?」
 男たちに近づくなり、由羅はいった。
「なんだ、こいつ?」
 恍惚となって目を閉じていたニキビ面が、水着姿の由羅に気づいて目を見開いた。
「何って、見りゃわかるだろ?」
 杏里の頭を股間に押しつけながら、金髪ピアスがせせら笑った。
「何なら仲間に入れてやろうか? おまえ、ずいぶんエロい格好、してるじゃねえか」
 由羅は答えず、カーテンの陰の隣のベッドを見た。
 保険医、鈴木翠が胎児のように丸くなり、すやすやと寝息を立てている。
「おまえら、いい根性してんな。先生の目の前で強姦ごっことはね。現行犯で退学になっても知らないぜ」
「そんなババア、関係ねーよ。第一、ずっと寝てて当分は起きないはずだって、零もいってたしな」
 ニキビ面の台詞に、由羅が反応した。
「黒野零か。あいつ、学校に来てるのか」
「さっき渡り廊下んとこで会ったんだよ。で、こいつのこと、教えてくれたんだ。ただでやれる娼婦が学校にいるってな」
 見られていたのだ、と由羅は思った。
 杏里が校医の翠に襲われるさまを、零はどこからか見ていたにちがいない。
 残虐行為淫楽症のあの外道のことだ。
 見ながらおそらく、オナニーに耽ってでもいたのだろう。
「おまえも来いよ。遠慮はいらないぜ」
 ニキビ面が由羅のほうに手を伸ばしてきた。
 それをかわすと、由羅は軽く垂直に飛び上がった。
 ハイレグ水着から伸びた筋肉質の右脚が弧を描き、ニキビ面の顔面を正確に捉えた。
 着地する寸前に腰を回転させ、左足を振り切った。
 金髪ピアスが同じく顔面に蹴りを喰らい、ベッドの上にひっくり返る。
 気絶して動けなくなったふたりを尻目に、杏里を助け起こす。
「由羅・・・」
 杏里が見つめてきた。
 裸の体が小刻みに震えている。
「どうして・・・?」
 なじるような口調で、いった。
「私の"仕事"には、絶対に関わらない、っていってたくせに」
「零が絡んでるなら話は別さ」
 由羅は杏里の震える肩をそっと抱き寄せた。
「それとも、迷惑だったか?」
「ううん」
 杏里がかぶりを振り、心なしか頬を朱に染めた。
「ちょっと・・・うれしかったよ」

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