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第4部 暴虐のカオス

#9 サバト③

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 学校の来客用駐車場に、洋画に出てくるような大きな外車が停まっていた。
 ふたりが近づくと、後部のドアが音もなく開いた。
「最初からそのつもりだったのね」
 立ち止まって、杏里はいった。
 自分でも声がきつくなっているのがわかる。
「私たちきょうはふたりとも早退するって、学校にはうちの者から連絡させておいたから、心配しなくて大丈夫」
 零がいって、先に後部座席に乗り込んだ。
 躊躇している場合ではなかった。
 由羅が危ないのだ、
 杏里は続いてシートに坐った。
 中は驚くほど広く、運転席との間にしきりがあった。
 こんな車に乗るのは初めてだった。
「あなたの目的は何なの?」
 車が動き出すと、杏里はたずねた。
 いつかのことを思い出す。
 この子、私がトラックに押しつぶされかけているとき、苦しむ私を見ながら、オナニーしていた。
 だから、対象がこの私であることは、なんとなくわかる。
 でもなぜ、そんなにまでして苦しむ私の姿が見たいのだろう?
「私はね、感じたいだけ」
 零がねばつくような視線を杏里の顔に当て、いった。
「あなたが苦しみ、血まみれになるのを見て、心ゆくまで官能に浸りたいの。そういう性(さが)だから」
「それであなたは救われるの?」
 杏里は訊いた。
 タナトスの力で、外来種をも解放できるのだろうか。
 もしそうなら、パトスである由羅も、無用な血を流さなくて済むだろう・・・。
「さあ、どうかしら。私の"業"は、人間と違って深いから」
 零が微笑んだ。
 どこか爬虫類めいた微笑だった。

 海の側に、その建物はあった。
 翠の蔦に壁一面を覆われた、古い病院である。
「パーティーにはまだ間があるから、まず体を清めて」
 車を降りるなり、零がいった。
「ライフラインはすべて復旧済みだから、シャワーもお風呂もOKよ。あ、トイレも済ませておいてね。観客の前できのうみたいな醜態を晒すのは、さすがのあなたも嫌でしょう?」
 杏里は屈辱で頬が熱くなるのを感じた。
 見られたのだ。
 きのう、狂った校医の鈴木翠に目玉をえぐられて、堪え切れず糞尿を垂れ流してしまったところを。
「私は何をされてもいい。でも、ひとつだけ約束して」
 先に行こうとした零の服の袖をつかんで、杏里はいった。
「今すぐ由羅を解放して。でないと、私、ここを動かない」
「そうね」
 零が気のなさそうな口調で答えた。
「嘘をいうつもりはないわ。だからそんなに意固地にならないで。あの子にも、あなたの晴れ姿、見せてあげたいしね」
 正面玄関を入ると、そこは広々としたロビーだった。
 が、古びた壁は染みだらけで、まるで幽霊屋敷のような雰囲気である。
 並んだソファもあちこちが破れ、中身が内臓のようにはみ出しているものばかりだ。
 正面にある古色蒼然とした大きなテレビはブラウン管が割れ、歪んだ杏里と零の姿を映し出している。

 蔦は建物の中まで進入してきていていた。
 その蔦の這う長い通廊を奥に進むと、広い空間に出た。
 かつては、患者や見舞い客用のレストランだったのだろう。
 入口にショーケースがまだ残っていた。
「由羅はここよ」
 零がいって、長袖の右手を伸ばし、中を指し示した。
 杏里は息を呑んだ。
 右手の壁際に、パイプ椅子が2列に並べてある。
 それが観客席だとすると、左手がステージだった。
 少し高くなった床の上に、奇怪なものがずらりと並んでいる、
 天井にはワイヤが張り巡らされ、フックやロープがぶら下がっていた。
 杏里は気味悪そうにそれらの"装置"を眺めた。
 中世ヨーロッパの城にある、等身大の甲冑のようなもの。
 電気椅子を思わせる、革張りの大きな椅子。
 床から突き立ったピラミッド状の四角錐。
 人間が入れそうなくらい巨大な牛の置物。
 そしてまだその先があるのか、突き当たりの壁に埋め込まれたドア。
 由羅は奥の壁際にいた。
 動画で見た通り、全裸で三角形の木の台の上に腰かけていた。
 後ろ手に縛られ、髪の毛を天井から伸びたロープに結わえつけられている。
 死んだように目を閉じていた。
「ゆら!」
 側によってみて、杏里はその残酷さに思わず小さく悲鳴をあげた。
 由羅が坐っているのは、先が鋭角に尖った台だった、
 その鋭い先端が、彼女の股間に食い込み、大事なところを傷つけているのだ。
「どうぞ」
 零が由羅の戒めを解いた。
 髪の毛をロープからはずすと、軽々と由羅の体を抱え上げた。
 杏里は目を見張った。
 すごい力だ、と思った。
 骨密度が常人の倍以上ある由羅の体重は、90キロを超えている。
 それを零は楽々と持ち上げてみせたのだ。
 華奢な体格からは想像つかないパワーだった。
「ゆら!」
 もう一度叫び、杏里は由羅を抱き取った。
 由羅の体は冷え切ってしまっていた。
 太腿を血の筋が伝っている。
「あっちにいってて!」
 零に向かって、鋭くいった。
「ふたりだけにして」
「はいはい」
 零がいった。
「かまわないわよ。どうせもう、ここからは出られないから」
 にっと笑うと、大股で立ち去っていった。
 零の姿が廊下に消えるのを見届けると、杏里は由羅を床に横たえ、服を脱ぎ始めた。
 ブラウスも、ブラジャーも取った。
 スカートを落とし、パンティーも脱ぎ捨てる。
「ゆら、今、治してあげるから」
 ゆっくりと腰をかがめた。
 床が氷のように冷たい。
 由羅の脚を開き、股の間に目をやった。
 膣がざっくりと切れて、血にまみれている。
 杏里は顔をそこに近づけた。
 唇を触れる。
 舌先を出し、血を拭い取った。
「・・・ううん・・・」
 由羅がうめいた。
 杏里は顔を上げると、体を入れ替え、由羅の脚の間に己の下半身を入れた。
 自分の性器が濡れ始めているのを確かめると、由良の股間にそれを押し当てた。
 腰を入れ、密着度を高めていく。
 由羅の右足を抱え、引いた。
 性器同士が触れ合う、粘つくような音がした。
 「あん」
 杏里は喘いだ。
 痺れるような快感が走る。
 空いている左手を伸ばし、由羅の乳を揉む。
 乳首が勃起するまで、揉みしだく。
 己の性器から、熱いものが溢れ出すのがわかった。
 タナトスのエロスのエネルギーが、傷ついたパトスを癒すために、今噴き出し始めたのだった。
 


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