16 / 35
16.決断
しおりを挟む「明日の後夜祭の時間、僕にくれませんか」
この言葉を聞いた瞬間、私はほんの少し、期待してしまった。
告白の返事を、してくれるんじゃないかって。
「後夜祭? 少し片付け当たってるんだけど…」
素直になれず、少し話を逸らした。
「僕も手伝う、ってことだよ」
…なんだ、そういう事か…
すっかり期待した私は、心に重りが乗ったように重くなった。
「…あぁ!そういうこと? 朝井くんもいるんだ、手伝ってくれるなら嬉しい」
無理して笑っていないように取り繕って、私は言った。
小さい頃から愛想笑いが得意だった。
どんな些細な事でも落ち込んだことは顔には決して出さなかった。
多分今日も彼を騙せたはずだ。
でも彼と文化祭の最後を過ごせるんだと思うと嬉しかった。
早く明日にならないかな、と思った私は現金だろうか。
2日目はシフトに入っていなかったので、仲のいい友達と回った。
「ねーねー美波ってさ」
「ん?」
「新垣のこと好きなの?」
話してもいない友達にバレた。
「えー…っとぉ…なんで?」
とりあえず誤魔化す。
「何となく。でもさ、正直釣り合ってなくない?」
「え?」
釣り合って、ない?
「新垣と美波、タイプ違うじゃん。美波はほら、あのサッカー部の人とか!似合いそう!」
彼女はサッカー部とやらを指差してきゃっきゃっと騒いでいる。
「新垣もいい奴だし、面白いけど、美波じゃないんじゃない?」
トドメのひとことだった。
私じゃない。
彼の隣にいるべき人間は、私じゃない。
私なんかが、彼の隣にいちゃいけない。
今思えば、友達の言葉を全面に信用する必要はなかった。
でもあの時の私はその言葉に囚われた。
後夜祭まであと20分。
周り終わって片付けに行こうとした所だった。
「永田さん」
見知らぬ声に名前を呼ばれた。
振り返ると、さっき友達が騒いでいたサッカー部連中の中にいた1人がいた。
「何か用ですか?」
私は不信そうな声を出した。
「あの、少し時間くれませんか」
3階の空き教室に移動した。
後夜祭には間に合わない。 新垣くんにメールを打つ。
ふたりで窓際で横並びになって後夜祭を見る。
今頃は、こんなはずじゃなかった。
新垣くんと一緒にいるはずだった。
なかなか話し出さない彼に一言言おうとしていた所だった。
彼が会話の糸口を見つけた。
「好きです」
「…え?」
「ずっと前から、1年の時から、ずっと好きです。俺と付き合って貰えませんか?」
まさかの告白。 予想外だった。
「悪いけど…」
『新垣もいい奴だし、面白いけど、美波じゃないんじゃない?』
友達の言葉が過ぎる。
……そうだ。
私は新垣くんと釣り合わない。
どうせ釣り合わないなら、いっそ嫌われた方がいいんじゃないか。
約束を守らず今日の待ち合わせには行かない。
話しかけるのもやめる。
そして、
目の前の彼と付き合う。
それなら私もこの恋を忘れて、彼も私の事を忘れられる?
「…私は好きな人がいる。 でも諦めなくちゃいけなくなった」
「…俺を利用してもいいよ」
そう笑った彼の笑顔は優しくて暖かくて、この人なら委ねてもいいのではないかと思った。
「永田さん、俺と付き合って貰えませんか」
「…うん、わかった」
気がついたら、そう返事していた。
心に誓った通り、私が新垣くんに話しかけることは、
文化祭が終わってからほとんどなくなっていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる