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16.決断

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「明日の後夜祭の時間、僕にくれませんか」




この言葉を聞いた瞬間、私はほんの少し、期待してしまった。


告白の返事を、してくれるんじゃないかって。




「後夜祭? 少し片付け当たってるんだけど…」




素直になれず、少し話を逸らした。




「僕も手伝う、ってことだよ」



…なんだ、そういう事か…


すっかり期待した私は、心に重りが乗ったように重くなった。




「…あぁ!そういうこと? 朝井くんもいるんだ、手伝ってくれるなら嬉しい」




無理して笑っていないように取り繕って、私は言った。







小さい頃から愛想笑いが得意だった。


どんな些細な事でも落ち込んだことは顔には決して出さなかった。






多分今日も彼を騙せたはずだ。







でも彼と文化祭の最後を過ごせるんだと思うと嬉しかった。



早く明日にならないかな、と思った私は現金だろうか。















2日目はシフトに入っていなかったので、仲のいい友達と回った。



「ねーねー美波ってさ」


「ん?」


「新垣のこと好きなの?」


話してもいない友達にバレた。


「えー…っとぉ…なんで?」


とりあえず誤魔化す。


「何となく。でもさ、正直釣り合ってなくない?」



「え?」



釣り合って、ない?



「新垣と美波、タイプ違うじゃん。美波はほら、あのサッカー部の人とか!似合いそう!」



彼女はサッカー部とやらを指差してきゃっきゃっと騒いでいる。



「新垣もいい奴だし、面白いけど、美波じゃないんじゃない?」



トドメのひとことだった。




私じゃない。


彼の隣にいるべき人間は、私じゃない。



私なんかが、彼の隣にいちゃいけない。







今思えば、友達の言葉を全面に信用する必要はなかった。



でもあの時の私はその言葉に囚われた。
































後夜祭まであと20分。


周り終わって片付けに行こうとした所だった。




「永田さん」


見知らぬ声に名前を呼ばれた。


振り返ると、さっき友達が騒いでいたサッカー部連中の中にいた1人がいた。


「何か用ですか?」


私は不信そうな声を出した。



「あの、少し時間くれませんか」












3階の空き教室に移動した。




後夜祭には間に合わない。 新垣くんにメールを打つ。






ふたりで窓際で横並びになって後夜祭を見る。







今頃は、こんなはずじゃなかった。




新垣くんと一緒にいるはずだった。





なかなか話し出さない彼に一言言おうとしていた所だった。



彼が会話の糸口を見つけた。




「好きです」



「…え?」


「ずっと前から、1年の時から、ずっと好きです。俺と付き合って貰えませんか?」




まさかの告白。 予想外だった。








「悪いけど…」


『新垣もいい奴だし、面白いけど、美波じゃないんじゃない?』


友達の言葉がぎる。




……そうだ。



私は新垣くんと釣り合わない。



どうせ釣り合わないなら、いっそ嫌われた方がいいんじゃないか。




約束を守らず今日の待ち合わせには行かない。



話しかけるのもやめる。




そして、



目の前の彼と付き合う。





それなら私もこの恋を忘れて、彼も私の事を忘れられる?




「…私は好きな人がいる。 でも諦めなくちゃいけなくなった」



「…俺を利用してもいいよ」



そう笑った彼の笑顔は優しくて暖かくて、この人なら委ねてもいいのではないかと思った。





「永田さん、俺と付き合って貰えませんか」



「…うん、わかった」









気がついたら、そう返事していた。












心に誓った通り、私が新垣くんに話しかけることは、








文化祭が終わってからほとんどなくなっていた。







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