創世の先生~抗世の物語~

真白な雪

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二時限目 家庭教師暇になる

天才

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 魔法の稽古を再開して三ヶ月、ステラは魔力効率こそ悪いものの自分で自由に構築出来る程度には順調に体得していた。


「もう水魔法も風魔法も完璧じゃのぉ」

「最近ようやく魔法の組み立て方も解ってきたんですよ! ほら!」


 そう言いながら手の平から小さな打ち上げ花火を作って見せたステラは自身の成長と魔法開発の成功にわかりやすくはしゃいでいた。


「もう、そんな時なんだな……」

「え?」


 ソテルの穏やかな表情にみつめられステラは少し照れくさそうに笑っている。


「いや、そろそろ空を飛ぶ魔法を教えても良いかもしれと思ってのぉ」

「ホントですか! ところで空を飛ぶ魔法って名前はないのですか?」

「うーむ、そういえば魔法にいちいち名前など付けておらんかったな……」

「えー、折角開発したのに名前も無いなんて勿体ないですよ」

「まぁのぉ。しかし名前なんてよほど複雑なものでない限り必要無いと思うんじゃが……ワシだって殲滅用魔法には名前をつけるがそれ以外はなぁ……」

「でもそれじゃあ先生が戦闘用の魔法ばっかり愛着を込めてるみたいでなんか嫌ですよ。それに言ってしまえば先生の子供みたいなものですよね?」


 子供のようなもの、と表現されると大袈裟な気もするが頑なに名前をつけない理由も無い。早くこの話題を切り上げるためにも名前をつけてしまおう。


「うぅむ……なら、ステラが星空まで飛べるようにと祈りを込めてをこめて《エリアステラ》と名付けよう」

「エリアステラ……えへへ、なんだかその、照れますね」


 実際恥ずかしいのだろう。自分の名前を魔法に使われた少女は紅潮しながらにへらとはにかんだ。そんなステラの気を引き締めるために早速魔法の練習を再開した。


「では、今から見せるものを真似してもらっても良いかな?」


 そう言うとソテルは地面に手を当て、念じ始めた。すると地面がみるみるうちに隆起し、やがて学校の時計塔ほどの高さになるとそのまま固まった。

 ステラは見よう見まねで構造を想像し目を閉じた。

 考え事の答えが出た所で地面に手を当て、ソテルに倣い山を作り上げる。

 ぐんぐんと上へ上へと登っていく感覚はある。地面が揺れ、風が強くなり、身体を転ばせそうにもなるがぐっと堪えて山を大きくし続ける。やがて山はソテルが作り上げた山と同じ高さまで隆起させる事が出来たのだろうと判断させるに足る材料が耳元に届いた。ソテルの声が聞こえたのだ。


「うん! 上手に出来たね!」


 目を閉じていたアリステラはゆっくり目を開けると、町のずっと先まで続く景色に言葉を失った。そしてもう一つの山の上には老人ではなくソテルが居た。


「わぁ……先生! すごい、すごいです! 人があんなに小さく……うわぁ、私あの学校に通ってるんだぁ」


 ステラは一人で感動しているとソテルは一つ咳をして話を始めた。


「この魔法のイメージをしたと思うんだけど、風と力の魔法でも同じ事が出来る。それがエリアステラの原理だ。難点と言えば今は物質の上に立っているけど風や力は物質では無い。だからそこのイメージがし辛いかも知れないけど頑張って」

「はい! わかりました!」


 ステラは俺にビシッと敬礼をして見せる。彼女への魔法指導に多少の名残惜しさを感じながらソテルは今後の練習について告げた。


「残りの構成の補強はしばらくの課題として魔法の授業はこれで終わりかな」

「はいっ……えっ? そんな! 先生、私まだ全然魔法を学んでいません! 時の魔法も光や闇の魔法、力魔法も習っていませんし……それにまだ一年も学んでな――」

「うん、でもこの世界で魔法を開発してきた人間だから解るけど、このテクネアルスにはステラが想像しているほど魔法使いなんていない。魔法王国のフックスですら単一属性に特化させて一生を終えるくらいなんだ。ステラはもう十分凄いよ。」


 うろたえるステラを落ち着けようと、魔法というものの実情を優しく語る。


「無数にあるかのように見える魔法だけど、実際には基本の発展系ばかりでまだ未開拓状態なんだ。だからこれからはステラがさっき作った花火みたいに楽しい魔法や便利で人の役に立つ魔法を作ってもらいたいんだ」


 これは俺が叶えることの出来なかった願いも籠もっている。その言葉の重みをまだ理解は出来ないだろうが、ステラは静かに耳を向けていた。


「これは魔法の先生としての最後の言葉、魔法は傷付けるためにある訳では無い。僕は少なくともそう思っている。だからステラも魔法を人の為に使ってあげてほしい。約束、できるかな?」

「……はい」

「それと、さっき一年しか学んでないって言ったけど、本当だったら魔法を使う感覚を掴んで自分のものにするのに六年くらいは掛かるんだよ? そこから魔法開発を学んで、修了するんだけど……つまりさっきの花火の魔法でステラは魔法開発も完了してしまったから卒業って訳さ」

「そう、だったんですね」

「んー、卒業記念にさっきの魔法ステラが名前を付けてみたらどうかな? ステラの言葉を借りるならあの魔法は君の子供のようなものだろう?」

「名前、ですか?」

「そう、名前。きっとステラはこれからもあの魔法を使う機会があると思う。だから親しみやすくてイメージしやすい名前をつけてあげたら良いんじゃ無いかな?」


 恐らくこれからも戦争は続いていく。しかしその中で彼女が誰かに勇気や希望を授ける時、きっと先程の魔法は役に立つことだろう。


「……あっ」

「ん? 何か思いついた?」

「あぁいえ! 別に何でも無いです!」


 手をパタパタと振って誤魔化している。恐らく名前を言うのが恥ずかしいのだろう。俺だって自分のセンスに自信があるわけでも無いし自分の作品的なものを人に見せることも紹介することも恥ずかしく思う事はある。しかしここで恥ずかしがってしまっては魔法自身が可哀想だ。と言うのは建前で恥ずかしがるステラが可愛らしくてつい悪戯をしたくなってしまっただけなのだが……


「本当に? で、名前は何にしたの?」

「内緒です! 絶対内緒です!」

「えぇー……でもそれじゃあステラのネーミングセンスとかも解らないし、いざという時の魔法の取り回しの良さを知るためにもこれは先生命令です。教えなさい」

「うぅ~……うぅううー!」


 わかりやすく悶絶しそうなうなり声を上げている。一体どんな名前をつけたのか逆に気になってしまう。よほど恥ずかしい名前なのだろうか。

 しばらくうーうー唸った後観念したように溜め息をついた。

「わかりましたよぉ……うぅ~……笑わないでくださいね?」

「笑わない笑わない」

「…ぃ…ぇら」


 か細くぼそっと呟いた声。当然正しく聞き取ることなど出来ない。


「いえら?」

「ミニステラです! 小さい星のミニステラ! 私の事じゃ無いですからね!」

 なるほど。エリアステラに続きステラと付く名前にしたため恥ずかしがっていたのか。確かに自意識過剰な様な気もしてくるネーミングだが彼女の事だから本当に自分の名前とは関係無しに手のひらサイズの小さな星、ミニステラと名付けたのだろう。

 イメージしやすく長すぎないその名前はセンスが良いと言える。ただ、一人で悶絶するくらいに恥ずかしがってしまう様な名前というのは少しだけ問題があるだろう。


「良いんじゃ無いかな? 魔法はそのイメージで生み出される。魔法の名前がそのイメージをしやすい形になっていれば発動もしやすい。それにこんなご時世だ、ファイアやフレアみたいな単純な炎よりもいざというときに武器になるようにもしかしたら小隕石にすらなるかも知れない星の意味を選ぶのは良いことだよ」

「え? ……そんなっ! 武器にだなんて――」

「でも事実そういうときはきっと来る。俺自身、戦いのためじゃなくみんなの笑顔のために作った魔法が軍によって殺戮兵器として使われた。いざという時には仕方ないことなんだ。世界は生きていてなんぼのものだよ」

「でもそれじゃあ……先生の言っていた言葉と矛盾してます」

「ん、まぁね。でも人間って色んな人がいるからね……基本的には人の役に立つように、人を喜ばせるために使ってもらいたい。でもステラが今後山賊や海賊、盗賊みたいな略奪者と会う事もあるかも知れない。そんな時は自分を守るために相手を傷付けることを厭わないでほしい。その一瞬の迷いでステラが命を落とすかも知れないと思うと俺も気が気じゃ無いからね……」


 ステラは伏し目がちに俯くと答えを出せずに口を一文字に結んでいた。しかし心配する俺の表情を察してか決心をつけるとようやく真っ直ぐ俺を見据えてくれた。

「……わかりました。でも先生の教えに倣ってこれからもみんなの笑顔のために魔法を学んでいこうと思います!」

「うん、それでいいと思うよ。 それではアリステラ=ヴァン・アスールライト。本日を以てソテル=ユージーン・アリアの弟子として魔の理を学び修め終えたものとし、汝に祝福を授ける。今後も発展のため魔の道を究めることを怠らぬように」


 右手に魔力をグッと溜め込むと非情に大きな魔力の塊を形成する。次第に塊は小さくまとめ上げられ一粒の涙のような青く輝く結晶を生み出した。


「これは?」

「……ふぅ。フックスではこうやって師匠が弟子に御守りをあげるんだって。それにあやかって作ってみたんだけどどうかな?」


 夜明け前の空、雪国の夜の湖、そして彼女の瞳の様な美しい青に染められた石をステラは大切そうに受け取り胸元に抱きしめた。


「ありがとうございます。大切にします」


 感激してか一粒の涙を流すステラに元師匠は微笑みかけた。


「あ。後でその石貸してもらっても良いかな? フックスでは加工済みの物を渡すけど、その石のままじゃ消失しちゃうから自然物に加工しなきゃいけないし……どうせだからペンダントにして渡すよ」

「本当ですか! じゃあおねがいします!」


 針の如き山の上に二人は立つ。師弟としての終わりを迎え二人は笑い合った。


「まぁ、終わったのは魔法だけで今度は剣術と拳闘術の稽古を始めるからそれなりに覚悟しておきなよ?」

「はい! お手柔らかにお願いします!」


 彼女のことだ、きっと武術においてもすぐに体得してくれるだろう。なんといってもあのアリシアの娘だ。すぐにソテルを追い抜かし、果てはソテルが一切敵わなくなる程の才覚者かもしれない。そうなったらとうとう本格的に卒業だなと、複雑な気持ちで弟子を見ていた。

 当の弟子は青い宝石を通して雲や空の美しさ、町や遠く広がる大地を見て世界の美しさを再確認しているのであった。
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