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3. 願望と引き換えに
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「赤ん坊の名前は、俺と同じマコと名付けた。俺は男になる為に改名する必要があったから、名前をその子に託したんだ。天使のような我が子に尽くそうと思ったが、その決意もすぐに打ち砕かれた」
「何かあったのか?」
「新生児室から誘拐されたんだ」
「誘拐?犯人に心当たりは?」
「ちょうどあんたや俺のような細身なスタイルで、怪しげな中年男を見たと聞かされた。俺は直感で……変装でもした相手の男なんじゃないかと思ったよ」
「娘の父親ってことか?捜索願は?」
「もちろん出したよ。養子斡旋業者や孤児院にも必死で聞き回った。だが、娘も男も見つからなかった。そうこうしてるうちに1年半の入院が決まった。手術を5度受けて、ホルモン治療が始まり声はかなり低くなった。毎日泣きながら、男の口調を練習したよ。ある日初めて全身を鏡で見た。帝王切開と胸を切除した傷痕、男性器もあった。その時俺はやっと、男として生きる決心をした」
「……苦労したんだな」
「鏡を見る度に、全てを奪ったあの男を思い出して苦しくなるんだ。看護師たちは、俺をハンサムだと持て囃した。女が求めることは手に取るようによく分かる、元々女だからな」
「随分とモテただろうな。今のあんたは、もうすっかり男だよ。言われなきゃ絶対に分からない」
「あぁその通りだ。それが今朝、証明されたばかりなんだよ」
「……というと?」
「夢精したんだ」
「初めての精通か。そりゃめでたいな、男なら1度は通る道だ」
俺は、不運が重なる"彼女"の人生を長々と聞いて『この世に降りかかる悲劇の背景には全て根拠がある』のだと、誰かが言っていたのを思い出した。
『純真無垢な穢れのない人間などいない』とも。
「俺は男として夢に再挑戦するためにスペースパラドックス社に行った。3度目の正直だ。多くの手術の影響で、基礎訓練に不適格だと判断された」
「それは……残念だったな。あんたの悔しさが痛いほど伝わってくるよ」
「俺は今でも恨んでる。俺の人生を壊したあの男が憎い」
「もし会ったらどうしたい?」
「もちろん殺してやりたいよ。あんたの目の奥にも、俺と同じ強い憎しみを感じる」
「……そうだな」
「俺は名前を変えて、故郷も捨てた。給料は安かったがホテルマンをしてた。その傍ら、小説を再び書くようになった。ある時、公募に出した小説がヒットしたんだ。これが"産み落とした卵"の誕生だ。皮肉だよな、憎い男の影響で始めた小説が今の俺の生活を支えてるんだ」
「壮絶なノンフィクションだな」
「信じてくれてありがとう。吐き出せて良かったよ。初めて人に話したんだ」
俺はこの男に同情したのだろう。
ある事を条件に、この男に賭けてみようと思った。
傲慢ながら、不幸続きのこの男の人生にチャンスを与えてやろうと考えたのだ。
「法をすり抜け、罰されることなく復讐できるとしたら……殺すのか?」
「もちろん、迷う理由がない」
「……いいだろう。その男の元へ案内してやる」
「何言ってるんだ、もう散々探し回ったよ」
「元の名前はマコなんだろ?……今の名前はまだ聞いてなかったな。真だ、違うか?」
「……あんた何者だ?」
「男を引き渡してやる。刑罰もないと保証しよう」
「……どこにいる?」
「その前に、条件がある。スペースパラドックスでの最初の訓練では成績が良かったと言ったな。その才能を生かすチャンスを与える」
「どういう意味だ?」
「男を引き渡す代わりに、俺の仕事を引き継いでくれ」
「居酒屋の大将を?」
「まさか。まぁ、詳細はスペースパラドックスの人間が話すだろう」
「……あんた、まさかタイムパトローラーなのか?全て説明してくれ」
「まぁ待て。そのうち分かるさ」
「怪しいな、初対面の俺にタイムパトローラーを引き継がせるだと?ありえない」
「あんたこそ、初対面の俺に過酷な半生を語ったろ」
「あんたの素性を俺は知らない。例えば、今流行りの通り魔でもおかしくない」
「それはあんたも同じだ」
「……だとしたらどうする?」
「ははっ、いいからついてこい。望みを叶えてやる」
俺は暖簾を中に入れ、店の鍵を閉めた。
真と裏口の扉から地下へおりた。
「何かあったのか?」
「新生児室から誘拐されたんだ」
「誘拐?犯人に心当たりは?」
「ちょうどあんたや俺のような細身なスタイルで、怪しげな中年男を見たと聞かされた。俺は直感で……変装でもした相手の男なんじゃないかと思ったよ」
「娘の父親ってことか?捜索願は?」
「もちろん出したよ。養子斡旋業者や孤児院にも必死で聞き回った。だが、娘も男も見つからなかった。そうこうしてるうちに1年半の入院が決まった。手術を5度受けて、ホルモン治療が始まり声はかなり低くなった。毎日泣きながら、男の口調を練習したよ。ある日初めて全身を鏡で見た。帝王切開と胸を切除した傷痕、男性器もあった。その時俺はやっと、男として生きる決心をした」
「……苦労したんだな」
「鏡を見る度に、全てを奪ったあの男を思い出して苦しくなるんだ。看護師たちは、俺をハンサムだと持て囃した。女が求めることは手に取るようによく分かる、元々女だからな」
「随分とモテただろうな。今のあんたは、もうすっかり男だよ。言われなきゃ絶対に分からない」
「あぁその通りだ。それが今朝、証明されたばかりなんだよ」
「……というと?」
「夢精したんだ」
「初めての精通か。そりゃめでたいな、男なら1度は通る道だ」
俺は、不運が重なる"彼女"の人生を長々と聞いて『この世に降りかかる悲劇の背景には全て根拠がある』のだと、誰かが言っていたのを思い出した。
『純真無垢な穢れのない人間などいない』とも。
「俺は男として夢に再挑戦するためにスペースパラドックス社に行った。3度目の正直だ。多くの手術の影響で、基礎訓練に不適格だと判断された」
「それは……残念だったな。あんたの悔しさが痛いほど伝わってくるよ」
「俺は今でも恨んでる。俺の人生を壊したあの男が憎い」
「もし会ったらどうしたい?」
「もちろん殺してやりたいよ。あんたの目の奥にも、俺と同じ強い憎しみを感じる」
「……そうだな」
「俺は名前を変えて、故郷も捨てた。給料は安かったがホテルマンをしてた。その傍ら、小説を再び書くようになった。ある時、公募に出した小説がヒットしたんだ。これが"産み落とした卵"の誕生だ。皮肉だよな、憎い男の影響で始めた小説が今の俺の生活を支えてるんだ」
「壮絶なノンフィクションだな」
「信じてくれてありがとう。吐き出せて良かったよ。初めて人に話したんだ」
俺はこの男に同情したのだろう。
ある事を条件に、この男に賭けてみようと思った。
傲慢ながら、不幸続きのこの男の人生にチャンスを与えてやろうと考えたのだ。
「法をすり抜け、罰されることなく復讐できるとしたら……殺すのか?」
「もちろん、迷う理由がない」
「……いいだろう。その男の元へ案内してやる」
「何言ってるんだ、もう散々探し回ったよ」
「元の名前はマコなんだろ?……今の名前はまだ聞いてなかったな。真だ、違うか?」
「……あんた何者だ?」
「男を引き渡してやる。刑罰もないと保証しよう」
「……どこにいる?」
「その前に、条件がある。スペースパラドックスでの最初の訓練では成績が良かったと言ったな。その才能を生かすチャンスを与える」
「どういう意味だ?」
「男を引き渡す代わりに、俺の仕事を引き継いでくれ」
「居酒屋の大将を?」
「まさか。まぁ、詳細はスペースパラドックスの人間が話すだろう」
「……あんた、まさかタイムパトローラーなのか?全て説明してくれ」
「まぁ待て。そのうち分かるさ」
「怪しいな、初対面の俺にタイムパトローラーを引き継がせるだと?ありえない」
「あんたこそ、初対面の俺に過酷な半生を語ったろ」
「あんたの素性を俺は知らない。例えば、今流行りの通り魔でもおかしくない」
「それはあんたも同じだ」
「……だとしたらどうする?」
「ははっ、いいからついてこい。望みを叶えてやる」
俺は暖簾を中に入れ、店の鍵を閉めた。
真と裏口の扉から地下へおりた。
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