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2. 潰えた夢
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テレビからは連続通り魔事件に関するニュースが流れている。
今年に入って既に32人の死者を出しているが、犯人はまだ捕まっていない。
近頃では、爆発テロの予告まで出ているようだった。
『我々警察が24時間体制で街を巡回、監視し、爆弾処理班と連携して犯人を追っています』
警察が会見を開き、必死に市民に訴えかけている。
「怠慢だな、これだけ死者が出てるのにまだ捕まえられないなんて。いっその事、無能な警察ごと爆破してやればいい」
「物騒なこと言うな。そういやさっきの話の続き、聞かせてくれよ」
「……分かったよ。恐らく信じないと思うがな」
観念した様子で彼は煙草に火を付けた。
「まず、俺がまだ少女だった頃--」
一瞬、聞き間違えかと思い話を止めた。
「今、なんて?」
「な?信じないだろ?」
「いや、悪い。続けてくれ」
「今から25年前、2586年だ。俺は産まれてすぐに捨てられ孤児院に入れられた。名前はマコと名付けられた。俺は至って健康体で病院の世話になったことはなかった……まだこの頃は。俺は喧嘩っ早くていつも周りと距離を置いていた。そんな俺にも夢があったんだ。パラドックススペース社、知ってるか?」
「あぁ、時空を行き来する」
「そう、タイムスリップだ」
パラドックススペース社……
タイムパトローラーと呼ばれる時空警察のことだ。
この時代では時空を操作して未来の犯罪を未然に防ぐ時空警察というものが存在する。
しかしまだ試験運転中で正式に確立されたものではなかった。
現に、例の連続通り魔事件の犯人も未だに逮捕されることなく、犯行は次から次へと増えていっている。
「それと同時に、家族ってもんにも憧れた。両親に捨てられた俺は、いつか自分に子供ができたらパパとママが揃った家庭で育てたいと思った。その日が来るまで、とにかく喧嘩に明け暮れたよ」
「ほう、乱暴な子供時代か」
「タフだっただけだ。小柄だったがとにかく強かった、男が相手でも負けたことはなかったんだ。勉強も出来た。特に物理学は群を抜いていた。ただ問題児扱いされた俺は養子にも選ばれる事はなかった。18になって孤児院を出る頃、ある男が尋ねてきた。『物理学や天文学に長けていて、身体能力の高い女性を探している』と」
「まさにあんたの事だな」
「そう。その男はパラドックススペース社の人間で訓練生としての案内状を渡しに来たんだ。時空に長く滞在する者には知性や精神の安定性が重要視されていたが、テスト会場にいた志願者たちは俺からするとみんな貧弱な凡人だった。面接があって、時空間に適応できるか耐久性テストに参加させられた。さっきも言ったが俺はとにかくタフだった。周りがバタバタと倒れていく中、俺のテスト結果は満点に近かった。他にもありとあらゆるテストが何ヶ月も続いた。周りは苦戦していたが、俺は頭も良かった。ある時、合格はすぐ目の前って時に他の訓練生と殴り合いになった。俺は精神の安定性が疑われ、追い出された」
「優秀生が勿体ないことを」
「あぁ、今思えば馬鹿な喧嘩だったよ。生きていく為には金がいるが、俺は夢を諦めてなかった。タイムパトローラーの再受験を目指して日雇いのアルバイトで何とか凌いでいたとき、ある男と出会った。たまたま肩がぶつかって『デートの待ち合わせ?』と聞いたら『人を待っている』と言っていた。その男は小説家だと名乗った。彼はとてもハンサムで紳士的だった。俺の中で初めて恋愛感情が芽生えたんだ」
「小説を書き出したのはその男の影響か?」
「あぁ」
テレビから速報が流れた。
ついに爆破テロが起きたらしい。
1箇所だけではない。
数ある工場が次々に狙われて爆破された。
被害者は推定500人にものぼる大惨事となった。
爆破された街周辺の住民には避難勧告が出されていた。
時計の針は20時を指していた。
ふいに質問された。
「誰かを本気で愛したことは?」
「唐突だな。俺は人生で1人だけだ」
「なら俺の気持ちも分かると思うよ。その男を本気で愛してしまったんだ。まさか自分がそんな風になるなんて思ってもみなかった。まさに"女"として"男"を意識した瞬間だった。俺は彼にこれまで守ってきた純潔を捧げた。ある日彼は俺に『少し待っててくれ』と言って、それきり姿を見せなくなった」
「何か事情があったのかもしれない」
「いや、あれで良かったんだ。俺は自分に言い聞かせ続けたよ。両親には捨てられ、養子にも貰われず、唯一愛した男にも捨てられた。失望には慣れてる。彼を掻き消すように、タイムパトローラーの再受験に意識を集中させた。何ヶ月かした頃、パラドックススペース社の人間が会いに来たんだ。再受験のスカウトだった。希望の光が見えた瞬間だった。……だが、その希望の光はすぐに消えた」
「何があった?」
「スボンのボタンが閉まらなくなったんだ」
「……?つまり?」
「妊娠してた。俺を捨てた男に、未来まで潰されたんだ。身体に負荷がかかる仕事だ、身重の身体では試験は通らない。これでタイムパトローラーの夢は絶たれた。ある晩、異様な激痛に襲われた。そのまま手術室に運ばれたが、その後のことは記憶にない。目を覚ますと医者から説明を受けた。帝王切開だったが赤ん坊は元気な女の子だと聞かされた」
「じゃああんたは本物のシングルマザーってわけか」
「我が子には両親のいる家庭をと望んでいたが、それも叶わない。父親は死んだことにしようと考えた。……でも医者は俺の器官構造の話を始めたんだ」
「器官構造?何か身体に問題が?」
「あぁ、手術中に極めて特異なものを発見し、赤ん坊を出した後、何時間もかけて俺を"再構築"したと」
「再構築?どういう意味だ?」
「医者は『2つの性器を発見した』と俺に言ったんだ。男性器と女性器、どちらも未成熟でありながら妊娠は可能だったと言われた」
「半陰陽ってやつか」
「あぁ、それもかなり特殊なケースだったらしい。分娩時に合併症を起こして、卵巣と子宮を切除したと告げられた。先端医療の力で男性器に尿路と生殖機能を成形したともな。今後、男になる手術が何度も必要だと言われた。俺は選択の余地もなく、女ではなくなったんだ」
非常に信じ難い話ではあるが、本人はとても神妙な面持ちで話している。
この表情を見る限り、ジョークを言っているとも思えなかった。
彼の書く小説が、女の思考であると感じた理由はここにあったのだと納得した。
今年に入って既に32人の死者を出しているが、犯人はまだ捕まっていない。
近頃では、爆発テロの予告まで出ているようだった。
『我々警察が24時間体制で街を巡回、監視し、爆弾処理班と連携して犯人を追っています』
警察が会見を開き、必死に市民に訴えかけている。
「怠慢だな、これだけ死者が出てるのにまだ捕まえられないなんて。いっその事、無能な警察ごと爆破してやればいい」
「物騒なこと言うな。そういやさっきの話の続き、聞かせてくれよ」
「……分かったよ。恐らく信じないと思うがな」
観念した様子で彼は煙草に火を付けた。
「まず、俺がまだ少女だった頃--」
一瞬、聞き間違えかと思い話を止めた。
「今、なんて?」
「な?信じないだろ?」
「いや、悪い。続けてくれ」
「今から25年前、2586年だ。俺は産まれてすぐに捨てられ孤児院に入れられた。名前はマコと名付けられた。俺は至って健康体で病院の世話になったことはなかった……まだこの頃は。俺は喧嘩っ早くていつも周りと距離を置いていた。そんな俺にも夢があったんだ。パラドックススペース社、知ってるか?」
「あぁ、時空を行き来する」
「そう、タイムスリップだ」
パラドックススペース社……
タイムパトローラーと呼ばれる時空警察のことだ。
この時代では時空を操作して未来の犯罪を未然に防ぐ時空警察というものが存在する。
しかしまだ試験運転中で正式に確立されたものではなかった。
現に、例の連続通り魔事件の犯人も未だに逮捕されることなく、犯行は次から次へと増えていっている。
「それと同時に、家族ってもんにも憧れた。両親に捨てられた俺は、いつか自分に子供ができたらパパとママが揃った家庭で育てたいと思った。その日が来るまで、とにかく喧嘩に明け暮れたよ」
「ほう、乱暴な子供時代か」
「タフだっただけだ。小柄だったがとにかく強かった、男が相手でも負けたことはなかったんだ。勉強も出来た。特に物理学は群を抜いていた。ただ問題児扱いされた俺は養子にも選ばれる事はなかった。18になって孤児院を出る頃、ある男が尋ねてきた。『物理学や天文学に長けていて、身体能力の高い女性を探している』と」
「まさにあんたの事だな」
「そう。その男はパラドックススペース社の人間で訓練生としての案内状を渡しに来たんだ。時空に長く滞在する者には知性や精神の安定性が重要視されていたが、テスト会場にいた志願者たちは俺からするとみんな貧弱な凡人だった。面接があって、時空間に適応できるか耐久性テストに参加させられた。さっきも言ったが俺はとにかくタフだった。周りがバタバタと倒れていく中、俺のテスト結果は満点に近かった。他にもありとあらゆるテストが何ヶ月も続いた。周りは苦戦していたが、俺は頭も良かった。ある時、合格はすぐ目の前って時に他の訓練生と殴り合いになった。俺は精神の安定性が疑われ、追い出された」
「優秀生が勿体ないことを」
「あぁ、今思えば馬鹿な喧嘩だったよ。生きていく為には金がいるが、俺は夢を諦めてなかった。タイムパトローラーの再受験を目指して日雇いのアルバイトで何とか凌いでいたとき、ある男と出会った。たまたま肩がぶつかって『デートの待ち合わせ?』と聞いたら『人を待っている』と言っていた。その男は小説家だと名乗った。彼はとてもハンサムで紳士的だった。俺の中で初めて恋愛感情が芽生えたんだ」
「小説を書き出したのはその男の影響か?」
「あぁ」
テレビから速報が流れた。
ついに爆破テロが起きたらしい。
1箇所だけではない。
数ある工場が次々に狙われて爆破された。
被害者は推定500人にものぼる大惨事となった。
爆破された街周辺の住民には避難勧告が出されていた。
時計の針は20時を指していた。
ふいに質問された。
「誰かを本気で愛したことは?」
「唐突だな。俺は人生で1人だけだ」
「なら俺の気持ちも分かると思うよ。その男を本気で愛してしまったんだ。まさか自分がそんな風になるなんて思ってもみなかった。まさに"女"として"男"を意識した瞬間だった。俺は彼にこれまで守ってきた純潔を捧げた。ある日彼は俺に『少し待っててくれ』と言って、それきり姿を見せなくなった」
「何か事情があったのかもしれない」
「いや、あれで良かったんだ。俺は自分に言い聞かせ続けたよ。両親には捨てられ、養子にも貰われず、唯一愛した男にも捨てられた。失望には慣れてる。彼を掻き消すように、タイムパトローラーの再受験に意識を集中させた。何ヶ月かした頃、パラドックススペース社の人間が会いに来たんだ。再受験のスカウトだった。希望の光が見えた瞬間だった。……だが、その希望の光はすぐに消えた」
「何があった?」
「スボンのボタンが閉まらなくなったんだ」
「……?つまり?」
「妊娠してた。俺を捨てた男に、未来まで潰されたんだ。身体に負荷がかかる仕事だ、身重の身体では試験は通らない。これでタイムパトローラーの夢は絶たれた。ある晩、異様な激痛に襲われた。そのまま手術室に運ばれたが、その後のことは記憶にない。目を覚ますと医者から説明を受けた。帝王切開だったが赤ん坊は元気な女の子だと聞かされた」
「じゃああんたは本物のシングルマザーってわけか」
「我が子には両親のいる家庭をと望んでいたが、それも叶わない。父親は死んだことにしようと考えた。……でも医者は俺の器官構造の話を始めたんだ」
「器官構造?何か身体に問題が?」
「あぁ、手術中に極めて特異なものを発見し、赤ん坊を出した後、何時間もかけて俺を"再構築"したと」
「再構築?どういう意味だ?」
「医者は『2つの性器を発見した』と俺に言ったんだ。男性器と女性器、どちらも未成熟でありながら妊娠は可能だったと言われた」
「半陰陽ってやつか」
「あぁ、それもかなり特殊なケースだったらしい。分娩時に合併症を起こして、卵巣と子宮を切除したと告げられた。先端医療の力で男性器に尿路と生殖機能を成形したともな。今後、男になる手術が何度も必要だと言われた。俺は選択の余地もなく、女ではなくなったんだ」
非常に信じ難い話ではあるが、本人はとても神妙な面持ちで話している。
この表情を見る限り、ジョークを言っているとも思えなかった。
彼の書く小説が、女の思考であると感じた理由はここにあったのだと納得した。
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