モーレツ熊

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ジェラストは廻の心力が無意識に、発揮されていると確信した。

心力は浄化、もしくは救済。

しかも、声に乗せて使っている。

普通なら触れたり、何かを媒体にして1人ずつしか使えない心力を、居たもの全員に触れもせず、広範囲に使っていた。

有り得ない程強力なのか、メグライア様か、だと、ジェラストは考えた。

ただ、小越と諏訪が惑わされたままだったのが不思議だった。
メグライア様は、神祖オライアの愛し子。
なぜ?あの2人は?

そこで気になったのは、混ざり合う淫靡な男の臭い。
あの2人は混じり合っていた。
中から、木村に支配されていたから、と考えが辿り着いた。
そして、その支配も均等ではなく、より深く混じり合っているのは、小越なのだろう事が、あの時の発言で予想がついた。

声に無意識に乗せた心力で、ロウナー達の支配まで解いてみせたのだから、もし、廻が意識して使ったら彼らも解放されるのだろうか?

ジェラストは廻の心力を見てみたかった。

だからこそ、あの場で木村に心力を使わせてみたのだ。
一度は解放された自分達がまた、支配されるのかも興味があった。
もし、これをロウナーに告げたら烈火の如く怒るだろうと、苦笑いをしながら思考していた。
勝算の高い賭けをしてみただけだ、と嘯いたらロウナーはどうするだろうか。
いつのまにか、苦笑いがニヤニヤとした笑いに変わっていた。

思っていた通りの結果ではあったが、まさか、木村が廻を叩くとは思わなかった。
そこが、ジェラストの誤算だった。
しかも、全く意味不明な理由で。


「ちょっと、隊長、顔がさっきから気持ち悪いですよ。
 ニヤニヤしないでくださいよ」

ロウナーが側に寄ってきて、注意をした。

「おう、あの2人は拘束したか?」

「はい、指示通りに」

今いる5人は、もう惑わされることはないだろう、それは先ほどの事で確認済みだが、王宮へ行くのは危険だと判断した。

廻の心力で解放された者以外がどうなるかわからないからだった。

「廻様、王宮へお越し下さい。
 王にお会いして、まずはお話をしていただけませんか?」

無意識に声に乗せているなら、まずは主要人物と話をしておけば、自分の時の様に惑わされるとしても、抵抗できると考えたからだった。

「わかりました。」

見上げてくる廻の顔を知ってるのはじぶんだけだが、このままでは厄介かもしれない。
身支度をさせたい。

では、あの3人はどうするべきか。

王宮にも、人が多い王都も危険すぎる。
なら、魔物達を討伐する時に使う、森の中の宿泊地でしばらくは軟禁させてもらうしかないと、結論づけた。

討伐のための宿泊地だが、それなりに流通はあるので、廻の身支度をするくらいはできるだろう。

一度王宮から離れることにはなるが、先に3人を隔離する目的と、本当はそのままで良いと思ってはいるが、王への謁見のための身支度を廻にさせるために、森へと飛ぶ事にした。







「廻様、ドラゴンに乗るときは、俺がしっかり抱きあげますから、安心してくださいね。」

「隊長、本当、その顔やめてくださいよ」
ロウナーがまたしても、ジェラストのニヤケ顔を指摘した。

「ドラゴン、乗った事ないです。
 かっこいいですね。
 貴方のお名前は?」

廻は、ドラゴンに乗ると言うとこまでしか聞かないうちに、ジェラストのドラゴンへ駆け寄っていた。

普通にドラゴンに話しかけてるあたりが、廻らしかった。

すると、廻の頭に直接響く声がした。

『メグライア様、ご無事で何よりです。
 この時を待ち望んでいました。
 この身は、ドラゴンに成り果てましたが、あの時の光の心力が黒い心力を打ち消してくれたのです。
 必ずアージェント様の場所へ戻るとの約束を信じていました。』

「この声!夢の中で聞いていたよ!
 君はだあれ?
 それに、僕はメグライアじゃないよ。」

『いいえ、間違いなくメグライア様です。
 あの時、異世界へ送り届けると肉体を捨てて跳んだのですから、姿が変わっていても仕方ありません。
 でも、魂は消えないのですよ。
 異世界とでは、理が違うのですから。
 私は名もなき、ドラゴン。
 貴方様に助けられ、幾星霜を経てこの地を見守り続けた者です。』

廻の前に頭を突き出し、鼻先でその首筋、頬をすり合わせた。

ドラゴンの声は、廻以外の者には聞こえていない様だった。

「ジェラスト様、この子、名前はないって言ってますが、そうなんですか?
 乗るとき困りますよね?」

はぁ?!と驚きを隠せない顔をして、騎士団全員が廻を見た。

心話がなんで、できるの?
この子、おかしいよ・・・

各々が表情で語るのは、同じだった。

そして、最後には、
そりゃ、異世界だもんな、だった。

基本、ドラゴンとの意思疎通は、専用の笛で合図をする事で成り立っていた。
心話が出来る者も中にはいるが、会話にはならなかった。
ドラゴン笛は、それぞれの個体によって、相性が違うから同じ物はない。
また、人と笛の相性もあるので、ドラゴンに騎乗して戦闘や護衛をする事が出来るのは、かなりのエリートで、その隊長ともなれば、本来なら喋ることも叶わない、文字通り雲の上の人だった。

「廻様、本来ドラゴンとは会話が成り立ちません。
 名前をつけても意味がないとは言いませんが、笛を使うので呼ぶ事ができないのですよ。」

甘い微笑みを湛えながら、ジェラストはドラゴンの説明をした。

「なら、僕がいる間は名前を呼んでもいいですか?」

「構いませんよ。」

「ね、どんな名前がいい?」

ドラゴンの鼻先を撫でながら、廻が訪ねた。

『メグライア様のお心のままに』

「だーかーらー!
 メグライアじゃないの!
 僕は廻、めぐるだよ!
 ホラ、廻って呼んで、ね?」

『め、ぐ、る、様』

ドラゴンも照れるのである。

「うん、うん!
 大好きだよ、かっこいいねー
 ナーガ」

鼻先に抱きつきながら、ナーガと呼んだ。

「ナーガはね、ナーガラージャってドラゴンの神様の名前なんだよ。」

『ありがとうございます。』

穏やかなドラゴンの声だった。










-.-.-...-...-.-.-.-.-...-...-...-.-.-.-.-..-..-..-.
エロ場はなんて遠い。

この話こそ!だったのに。

もう少しお付き合いください
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