モーレツ熊

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廻の笑い声が、感じていた違和感を吹き飛ばした。

しゃがみこんでる廻のわきに手を入れて、小さい子供を立たせるように、ジェラストが抱き上げた。

「ん?」

「廻様、ありがとうございます。
 おかげで、気持ち悪かったものが吹き飛びました。」

「どうしてです?」

「だって、臭かったんですよ。
 色んな男の匂いが混ざって、沁みついていて。」

うぇー、というように顔をしかめて吐く真似をするジェラストが、意外に可愛く思えて廻もつられて笑った。

「すごい嗅覚ですね」

騎士団の他5人はこのセリフに、『え?!そこ?!』という突っ込みを頭の中でしたのは言うまでもない。


本当に感心した、という表情で廻が褒めると、嬉しそうにジェラストは目一杯笑った。

 『イケメンの全力の笑顔って、威力半端ないって』

廻は小越や木村とは違った意味で耳まで赤くなっていた。
心が温かくなるように、ジェラストの笑顔を見るだけで、むずがゆくなるような、恥ずかしいような落ち着かい気持ちになった。

「ところで、リングネームってなんです?」

まじめな顔で、ジェラストが聞いてくると、廻もまじめに答えた。

「格闘技、ってこちの世界であるのかな?
 闘うんだけど、戦争とか喧嘩じゃなくて、殴り合ったりしたのを点数で評価して勝ち負けを決めるんだよね。
 殺したりはしない。
 その代わり、点数で決めるの。
 それを専門にしてる人が、それ用の名前を付けたりするんだけど、それって普段は使わないし、奇抜な呼び名だったりするんだよ」

説明って難しい、と思いながらジェラストを見上げると、楽しくてたまらないといった表情で廻を見つめていた。
さっき以上の羞恥心が沸き上がって、これ以上赤くなれるのかっていうぐらい、真っ赤になってしまっていた。


それを凄い鬼のような形相で小越が見ていた。
諏訪は、他の団員たちと二人のやり取りをほのぼのと見守っていた。

よくあるRPGの「命大事に」みたいな状態だった。



木村だけが、怒りを露わにしていた表情を、いつもの可愛いと言われる笑顔に変えて口を開いた。

「あの、ジェラスト様?
 僕もワガママを言いすぎました。
 ごめんなさい。
 王宮へ行ったら、きっとお役に立ちます。
 ロウナー様に乗せていただきますね。」ニコッ

笑顔に音がありそうなほど、顔に貼りつかせて木村がしょんぼりしたようにロウナーに向かった。
木村の思惑は『そんなことないよ』とか引き留める言葉待ちで、あえてゆっくりそして俯いて歩いた。

「あー、聡様。」

ジェラストがその背中に声をかけた。

『ふふん、やっぱり上宮より、僕だよね』

瞳を潤ませて俯きがちに振り返る。

「はい、ジェラスト様」

「申し訳ありませんが、ロウナーが見たという、創造の心力を俺にも見せてもらえませんか?
 今、ここで」

「え?
 あっ!はい!」

木村はここで創造の力を見せれば、絶対に自分がメグライアだと認められると。
そしてジェラストの愛情も自分のものになると。

頬を少し昂揚させて木村が手を前にゆっくり出すと、手に持っていたスマホの動画を見せた。

「ほぉ、すごい心力だな。
 それはなんだ?」

「え、と何度でも同じ時間をこの中の者だけですが繰り返せるんです。」

周りはそれを見て、こんな創造の力は見たことない、と。
それは、小越も諏訪も同じ反応だった。

日本なら、大抵の若者は持っているスマホ。
小越だって、諏訪だって持っているだろうに。
廻は特に必要性がなかったので、持っていないが、例外と言っていいだろう。

『みんな、何言ってるんだろう・・・小越君も諏訪君も何かイタズラしてるのかな?』

この世界の人たちが凄いと思ってしまうのは仕方ないとして、小越と諏訪までが凄いというのはおかしかった。
まるで見てる物が違うかのように。

「もしかして、小越君も諏訪君もこの動画を見るのが初めてなんですか?」

廻が声に出した途端、まるで風船がパチンと割れたように凄いと称賛していた者たちが我に返った。

「何だよ、聡。
 これスマホ動画じゃないか!
 いくら異世界だからって、それはまずいんじゃないか?」

諏訪が諏訪らしく、声も高々に言ってしまった。

木村はスマホを急いでポケットに入れながら小さく舌打ちした。




最初に、ロウナー達にスマホ動画を見せた時はただ、違う文明を見せるつもりだった。
実際、見せている時に『漫画みたいなチートとかで、ちやほやされないかなー』とは思っていた。
そうすると、小越も諏訪もまるで初めて見る魔法のように、凄いと言い始めた。
『あれ?もしかして僕ってやっぱり凄いスキルがあるんじゃない?』と思い始めたところで、ロウナーがメグライアの話をして、この力が証拠だと教えてくれた。

この世界で、神の愛し子として迎え入れられるとは考えてもいなかったが、ロウナーにしても他の騎士団員にしても、みなイケメンで自分はこんなに可愛いのだからメグライアという箔をつけたら、絶対に愛されると確信していた。
そのためには、小越も諏訪も協力してもらって、この世界での高い地位に就くようにしなければ、と。
この時までは、単に見えるものが都合よく変えられるのだと、思っていた。

二人に協力してもらう話をしていたら、ずいぶんと乗り気でメグライア扱いをするようになっていた。
このまま、王宮へ乗り込んで自分が神の愛し子ではなくても、凄いと言われたこの力で思うように生きたいと考えていた。




木村は廻を睨みつけると、その左頬を平手打ちした。

「何で酷いことばっかりするの!!
 隆之だって、君のことなんか眼中にないのにしつこくしたり!
 気持ち悪いよ、僕が羨ましいからって、ひどいことしないでよ!」

ボロボロと涙を流しながら、いかにも廻に非があるように詰られた。

廻を叩いた木村を背にかばうように小越が廻の肩を突き飛ばした。

バランスを崩しながら叩かれた頬を押さえると、ジンと痛みが広がり木村の爪で傷がついていた。




「確かに凄い心力だが、それ、創造の力ではないな。」

「そう、ですね。
 おかしいな・・・。」

ジェラストが否定し、ロウナーが同意した。
ロウナーは、最初に見たときにに、どうして創造の力だと思い込んだのかわからなかった。
ジェラスト達騎士団は、単にスマホが珍しかっただけで、創造の心力だと思っていたわけではなかった。
最初に見たと思っていた、創造の心力がこれから起きるんだと思い待っていただけだった。

では、なぜ、小越と諏訪は?ジェラストが思うに、あの臭い臭いはあいつらの臭い。
多分・・・と思考を巡らせた。

 

「それよりも、廻様に手をあげた方が大問題だな。
 二人を拘束しろ!」

素早くロウナーに指示を出すと、廻の頬に触れた。

「薄くですが、血が出ています。
 護り切れずに・・・すまない」

ジェラストの方が殴られたかのように、ひどく辛そうな顔をした。

「イケメンって、どんな顔してもイケメンなんだ」

「はっ?
 え?
 また、そこ?!」

今回はさすがにロウナーが突っ込んだ。

そして、廻は思ったことが口から出ていたことに気づいて固まった。

ジェラストは、イケメンと言われたのが嬉しくて、苦々しい顔がゆるんだ。

ロウナー以下団員は、笑うしかなかった。

諏訪は、どっちに行けばいいかわからず、ウロウロ、おろおろしていた。






-.-.-..-.-.-.-.-.-.-.-..-...-..-.-.-.-.-.-.-.


長い道のりになりそうです。
所々、文字がおかしかったりするので、指摘していただけると、ありがたいです。

次話より、エロ場あるかも!(`・ω・´)


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