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第一章 黒い髪のメイド
メイドの日常(6')
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「バカ猫。ほら、おきなさいよ、なに寝てるのよ」
「あなた寝る必要なんてないでしょ、ちゃんと起きて二十四時間ナーシャを護衛してなさい」
気持ちよくナーシャの横で寝ていたのに、黒の魔女にキンキンとした声でたたき起こされた。
僕は猫じゃなくてパンサーデビルっていう豹の魔物で、ナーシャからクロって名前も付けてもらっているのに、この魔女はいまだバカ猫呼ばわりだ……。
最近、わかってきたんだ。
ナーシャと黒の魔女は同一人物なんだけど、違う。
ナーシャは温厚で、いつも笑顔で、一緒にいるだけで穏やかな気持ちになれる、そんな素敵な人なんだけど、黒の魔女は、わがままで、嫌な笑顔で、一緒にいると不穏の予感しかしてこない、そんな人だ。
ナーシャは僕を愛してくれて、あまやかしてくれて、心配してくれて本当に幸せな毎日をすごしてる。
そんなナーシャが寝ているとき、ほんとにたまにだけど黒い魔女はナーシャの身体をつかって現れるんだ。
出てくるときは小さな杖と黒いローブを身にまとっているんだけど、その強大なマナと全身をまとう黒いオーラに、僕は全身の毛が逆立つような、ぞっとした恐怖心を感じるんだ……、最近はだいぶんなれたけれどね。
彼女は夜の空に飛行魔術をつかってどこかに飛んでいく。
飛行魔術なんてマナ消費量がとんでもなく多いから、魔物でも竜種くらいしか扱えない。
あんな小さな身体にどうやってマナをたくわえているんだろう?
そして、日の出前には帰ってきて、その杖を使った魔術で一瞬にして着替え、また寝始めるんだ。
朝、目が覚めると元のナーシャなんだ。彼女は何かあったのかなって感じで、そんなに気にした様子もなく、いつもどおりメイドとしての日常をおくってる。
これはきっとこの黒の魔女が悪い魔術をつかって、ナーシャにとりついているんだ。
なんて不憫なナーシャなんだろう。僕がもう少し強ければ、こんな魔女、けちょんけちょんに倒して彼女を自由にしてあげられるのに……。
「バカ猫……、変なことかんがえてなかった、いま」
「かんがえていないです。僕はあなた様の忠実なるしもべです。偉大な魔女様……」
「あなたと私は主従の印で結ばれてるんだから、へんなこと考えても無駄よ」
「あとぜったい私以外としゃべっちゃだめ、ナーシャにもね。もししゃべったら竜の巣に叩き込んでやるから」
はい、ぜったいしゃべりません。それに、こんな人間の多いところで、もし魔物がしゃべったりしたら絶対に討伐されちゃう。
会話のできる魔物は魔族として、すごく人間達に警戒されているんだ。
魔族達は種族同士で結託して、マナの濃度が高い領土を奪おうと、昔から何度も人族を襲っている。
マナの量やその筋力などで人族より有利なこともあって、一度争いになると、かなりの被害が出ているみたいだ。
でも領土を奪ったところで魔族は結局マナに操られる魔物。ある程度の規模まで集落が拡大してしまうと、マナの意思によってスタンピートがおこされ、結局全滅してしまう。
そんな歴史を繰り返している。
「でもなんであんなにナーシャはもてるの? 私、声をかけられたこともないんだけど……」
そりゃそうでしょ、出会っていきなり僕を焼いたよね……。
そんな危険でまがまがしい黒いオーラーをまとっている魔女に、声かける人なんているの?
「……まあいいわ、ちょっといまから害虫駆除にいくから、つきあいなさい」
彼女は不敵なほほえみで、僕を見つめている。
僕は不穏の予感しかないその言葉に、力が抜けるような倦怠感を感じながら、窓から飛び出す魔女の後を追い、エルクの夜の街に駆け出していった。
「あなた寝る必要なんてないでしょ、ちゃんと起きて二十四時間ナーシャを護衛してなさい」
気持ちよくナーシャの横で寝ていたのに、黒の魔女にキンキンとした声でたたき起こされた。
僕は猫じゃなくてパンサーデビルっていう豹の魔物で、ナーシャからクロって名前も付けてもらっているのに、この魔女はいまだバカ猫呼ばわりだ……。
最近、わかってきたんだ。
ナーシャと黒の魔女は同一人物なんだけど、違う。
ナーシャは温厚で、いつも笑顔で、一緒にいるだけで穏やかな気持ちになれる、そんな素敵な人なんだけど、黒の魔女は、わがままで、嫌な笑顔で、一緒にいると不穏の予感しかしてこない、そんな人だ。
ナーシャは僕を愛してくれて、あまやかしてくれて、心配してくれて本当に幸せな毎日をすごしてる。
そんなナーシャが寝ているとき、ほんとにたまにだけど黒い魔女はナーシャの身体をつかって現れるんだ。
出てくるときは小さな杖と黒いローブを身にまとっているんだけど、その強大なマナと全身をまとう黒いオーラに、僕は全身の毛が逆立つような、ぞっとした恐怖心を感じるんだ……、最近はだいぶんなれたけれどね。
彼女は夜の空に飛行魔術をつかってどこかに飛んでいく。
飛行魔術なんてマナ消費量がとんでもなく多いから、魔物でも竜種くらいしか扱えない。
あんな小さな身体にどうやってマナをたくわえているんだろう?
そして、日の出前には帰ってきて、その杖を使った魔術で一瞬にして着替え、また寝始めるんだ。
朝、目が覚めると元のナーシャなんだ。彼女は何かあったのかなって感じで、そんなに気にした様子もなく、いつもどおりメイドとしての日常をおくってる。
これはきっとこの黒の魔女が悪い魔術をつかって、ナーシャにとりついているんだ。
なんて不憫なナーシャなんだろう。僕がもう少し強ければ、こんな魔女、けちょんけちょんに倒して彼女を自由にしてあげられるのに……。
「バカ猫……、変なことかんがえてなかった、いま」
「かんがえていないです。僕はあなた様の忠実なるしもべです。偉大な魔女様……」
「あなたと私は主従の印で結ばれてるんだから、へんなこと考えても無駄よ」
「あとぜったい私以外としゃべっちゃだめ、ナーシャにもね。もししゃべったら竜の巣に叩き込んでやるから」
はい、ぜったいしゃべりません。それに、こんな人間の多いところで、もし魔物がしゃべったりしたら絶対に討伐されちゃう。
会話のできる魔物は魔族として、すごく人間達に警戒されているんだ。
魔族達は種族同士で結託して、マナの濃度が高い領土を奪おうと、昔から何度も人族を襲っている。
マナの量やその筋力などで人族より有利なこともあって、一度争いになると、かなりの被害が出ているみたいだ。
でも領土を奪ったところで魔族は結局マナに操られる魔物。ある程度の規模まで集落が拡大してしまうと、マナの意思によってスタンピートがおこされ、結局全滅してしまう。
そんな歴史を繰り返している。
「でもなんであんなにナーシャはもてるの? 私、声をかけられたこともないんだけど……」
そりゃそうでしょ、出会っていきなり僕を焼いたよね……。
そんな危険でまがまがしい黒いオーラーをまとっている魔女に、声かける人なんているの?
「……まあいいわ、ちょっといまから害虫駆除にいくから、つきあいなさい」
彼女は不敵なほほえみで、僕を見つめている。
僕は不穏の予感しかないその言葉に、力が抜けるような倦怠感を感じながら、窓から飛び出す魔女の後を追い、エルクの夜の街に駆け出していった。
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