たかがゲームの福音書

カレサワ

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第1章 南方でダンジョン巡り

第3話「野良PT2目的地」

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 彼やその他の人達との野良PTは色々な経験になった。それまでソロか、彼との2人PTしか知らなかった私には、初めての大人数PTプレイは、いろいろな意味で複雑に感じられた。それは、ある意味私と彼の大きな転機となる、あの2人との出会いもこの時であったから。

「こんにちわ」
募集チャンネルに入ったら、まずは挨拶。これが重要だ。情報サイトにそう書いてあった。
「こんちゃーす」
彼の挨拶はどうも軽い気がしたが、今はそれどころではない。
「いらっしゃい!」
「こんー」
「こんにちは^_^」
「おは~」
「こんにちは」
次々と流れる挨拶。良かった、いきなり追い出されるなんてことは無かった。
「2人なんですが、まだ空いてますか?」
なんだか居酒屋に来たみたいなノリだが、まあそんなもんだろう。
「もちろんまだ空いてますよ(^∇^)」
良かった本当に良かった。
「はじめまして。このチャンネル主のNagiKirimaと言います。ナギと呼んでくださいm(_ _)m
早速ですがお二人のスキル構成を教えて貰っていいですかo(^-^)o」
 来たか。スキル構成によっては断られるなんて事は本当にあるんだろうか。
「私は弓罠包帯回避と工兵です。」
「おいは槍盾投擲薬調合騎乗取ってます。」
不安だ……
「おぉ「工兵」スキル持ちですか、お待ちしてました(*^_^*)
お二人は第2PTへの参加をお願いしますm(_ _)m」
ガチ構成でないと効率が下がるとか言って追い出されるなんて嘘だったんだ。ちょっと安心。にしても「工兵」スキルがこんなにも歓迎されるとは、上げててよかったー。

 どうやら今回はボス退治という事から、満を持して2PT体制で行動するとのことらしい。
「それではPTごとに移動して、まずはガリラヤ湖前で集合しましょう(≧∇≦)」
りょうかーい、とその前にまずは同じPTメンバーに挨拶をしなくては。
「マグと言います!今日はよろしくお願いします。」
「ゴッドフリーです。女キャラばかりのPTでとても嬉しいです!」
彼は相変わらずのアホだな。
「火水土の魔法持ってるんで何か欲しいbuffあったら言うんよ」
みずぽんさんは魔法職なのか。辻buff以外の支援を受けるのは初めてだから楽しみだ。
「ガリラヤ洞窟くらい1PTでいけるだろうに、なんでこんな集めるんだか」
そうなのか。Fairis……ファリスさんはベテランなのかな。
「スキル80代以上だから、この募集主は心配してるんよ」
みずぽんさんはファリスさんと元からお友達なんだろうか。
「ティルミットです。水風土召喚魔法持ちです。よろしく」
ティルミットさんも魔法職なのか。魔法職2人のPTとは心強い。

 とにもかくにも、今回はこの5人でPTを組むことになった。
「ガリラヤ洞窟のボスはもちろん、野良PTも初めてなので、色々と教えてください」
ガリラヤ湖周辺は、あまり行ったこと無いので不安だ。
「私もボスまではあまり行ったことはありませんが、2PTもいれば恐らく問題は無いかと思います」
そうなのか。ちょっと安心。にしてもティルミットさんは真面目キャラのようだ。
「召喚魔法持ちが今回いるから、死んでも蘇生可能なんで好きなだけ死ねるんよ」
と、みずぽんさん。確かにデスペナの心配が無いってのはやっぱりPTの大きな利点だと思う。
「お手柔らかにお願いします」
とティルミットさん。もちろんティルミットさんに迷惑はあまり掛けられないので、死なない様に気をつけなくては。

 酒場に寄って芸能系buffも受けたので、いざ出発となるが、このゲーム、拠点間のファストトラベルというシステムが存在しない。なので基本どこに行くにも歩くしかない。騎乗スキルがあれば、馬に乗って徒歩よりも早く移動できるが、馬系Mobを捕まえるには調教スキルが更に必要になってスキル制限を圧迫するし、馬を買うにも並以上の能力を持った個体となると、なかなかのお値段がしてしまう。なので初めのうちは、狩場までの移動は大抵徒歩しかない。首都イスカリオテから、その北東にある目的地ガリラヤ湖までそれなりの距離があるが、街道には基本Mobは出ないし、道沿いに歩くオート移動を設定すれば自動移動できる。しかも幸いな事に、今回は移動系buffが揃う風魔法持ちのティルミットさんがいるから、そんなに時間かからずに到着できるだろう。
「おいも早く、馬車買って楽チン移動したーい」
彼はいつもそんな事を言っているが、もちろん私は応援している。彼が馬車でも買えば私の移動も楽になるからだ。

 いつもなら移動中は別ウィンドウで開いている情報サイトなどを見ているのだか、せっかくの野良PTだと思い、PTメンバーと色々と話してみた。それによると、ボスは所持枠増加クエストのキーアイテムだけではなく、合成術の術書や、一般Mobは中々落とさない宝石類もよく落とすらしい。特に合成術の術書は特殊制限1人1つのみ所持可が付いてるため、中々市場には出回らないそうだ。それにしても宝石類もドロップするのか……宝石系の装飾品も欲しいとも思ってたんだよなぁ。

 そんな話をしていたら、ついにガリラヤ湖に到着した。山に囲まれた西部地域において、淡水魚限定ではあるが魚が釣れる数少ない場所であると同時に、マーマン……つまり半魚人が生息するガリラヤ湖は、広大な湖と、奥に入口がある洞窟とで構成された地域だ。
「皆さん、マーマン砦がアクティブのため、ティベリア村が廃村になってます(>人<;)」
「ここは砦攻略後、村の銀行だけでも復興させてからガリラヤ洞窟に行きましょうᕦ(ò_óˇ)ᕤ」
専用チャンネルにネギ……ではなくナギさんの指示が流れた。砦……廃村……存在は情報サイトで知ってはいるが、詳しいことはあまりよく知らない。
「いやそんな寄り道する必要ないでしょ。さっさと洞窟行ってボス倒せばいいじゃん」
ファリスさんはそう言うが、システムがよく分からない私はとりあえず黙っていよう。
「廃村の復興は他のプレイヤーの為にもなるんで(^^;」
なるほど。復興した村は他の人達も使えるのか。
「なら、最初に砦攻略すること言っておいてくれなきゃ。そもそもそれって私達に何かメリットがあるの?」
一瞬ヒッとなった。このままでは折角の初PTが空中分解してしまうのではないか。そしてピタッと流れが止まるチャンネル。
「おいは廃村復興はした事ないんでやってみたいなー、なんて」
彼の発言がきっかけになったのか、砦攻略賛成意見が出始めた。
「2PTいるので、砦もそう時間かからずに落とせると思います」
ティルミットさんも賛成のようだ。
「確かに村復興させた方が物資補給が楽だな」
「復興は生産スキルも上げられるし」
「ボス複数回倒すには、近場に拠点あった方がいいと思うデシ」
第1PTの方々も賛成のようだ。
「ではマーマン砦を攻略するんで、早速皆さんで向かいましょうo(^▽^)o」
なんとか無事方針は決まったようだ。 
 その後、PTチャットでみずぽんさんがファリスさんをフォローしてたが、ファリスさんは時間は有限とか、どうせ誰もここの拠点なんか使わないみたいな感じで未練タラタラであった。それを見ても、私には気の利いた言葉を掛けることはできなかった。

 砦を攻略し、廃村を復興させ、ガリラヤ洞窟の最深部にいるボスを倒すことが、なんだか途方もなく長い道のりの様に感じてきた。
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