たかがゲームの福音書

カレサワ

文字の大きさ
16 / 35
第2章 北方で大規模対人戦

第16話「ノリと勢い2逆侵攻」

しおりを挟む
 大規模戦で勝利するのに必要なものは何だろうか?みんなから信頼される指揮官、入念な事前準備、臨機応変な判断……考え出したらキリが無い。でも時にはノリと勢いがその全てに勝る事があるなんて、今でも信じられないわね。

 中央山脈の山道には敗残兵や本隊に合流しようと後から来た出遅れ組みが集まり、ざっと見ても数十人の集団になっていた。

 しかし数だけは一見いるがその実、内情は混乱しきっている。赤の国の攻略目標が分からず、指揮官をはじめ全員が次に行くべき所、すべき事が分からないからだ。
『現在中央山脈に黒待機中』
『赤の国本隊が未だ国境森近くにいて危ないので後退して下さい』
『いや赤の本隊はどうせ前線近くの砦に来るんだからC1F1F2F3どれかの守備に回って』
『それ全部O-JINさんの旅団所有砦じゃないですか』
『は?だから?守れる可能性のあるところを固めた方が良いに決まってんじゃん』
『中央山脈寄りのC2F1F2に行った方が移動時間のロスも少ないのでは…』
『C1F3とC2F1の中間辺りに赤1偵察と思われます』
『何でもいいから早く次の指示出して指揮官でしょ』
こんな感じで勢力チャンネルは、指揮官の指示とは別の指示を出すプレイヤー(O-JIN)、指揮官をせっつくプレイヤー(PolaBear)、そして刻々と敵が迫って来てることを感じさせる報告で混迷を極めていた。果たしてただ後退指示を出すだけの指揮官の指示に従うべきか?正直勘に触る発言のO-J……オジンに従うべきか?敵がそこまで迫ってきてる中、何故私達はこんな選択肢を突き付けられなければならないのだろうか。

 もちろんどちらが正解かなんて分からない以上、私達はただ立ち往生して貴重なCTを消費するだけだった。
「あー、もう我慢できない!」
このまま突っ立ってるだけでCTの終わりを迎えるなんて、間違いなく最悪の結末だ。
「おいももう我慢出来ない!」
お気楽な彼も、この状況には流石に我慢出来ないようだ。
「ゴッティどうする?とりあえずPT未加入のプレイヤーが結構いるから誘う?」
この先、後退するにしても砦の守備に回るにしてもPT枠は埋めておいた方が戦えるはずだ。
「お願い。おいはもう我慢できないから弁当温めてくる!」
ガクゥッ!我慢できないってそっちかよ!
「この豚!今そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」
ここだって今はまだ赤の国に見つかって無いが、安全地帯では無いんだぞ。
「ピギィィ!お休み前の楽しみをしてくる!すぐ戻ってくるから!」
なんて豚だ……私の冒険はこれで終わりのようだ。

 彼……いや、あの豚を待つ間、仕方ないので私はPT未加入者を勧誘することにした。結果、加入したのは、近接職っぽい「Fety」さんに、魔法職っぽい「ノワール」さんと「めじろ」さんだ。
「はじめまして、マグです。遠隔職やってます」
「Fetyです。資材加工持ちの半端近接ですがよろしくお願いします」
「ノワールです。みんなよろしくw」
「はじめまして^ ^めじろです」
女キャラばかりだと豚がまたブヒブヒうるさいが、ノワールさんという男キャラもいるのでバランスも良いだろう。魔法職2人に近接職2人遠隔職1人は戦闘面でもバランスが良いし。
「ごめん、もう1人いるんだけど今ちょっと離席してて……」
まあ、その「もう1人」は戻ってき次第、私が角煮にするけど。
「了解です^ ^それにしても、この先どうなるんだろう^ ^;」
それはめじろさんだけでなく、多分みんな知りたいと思う。と言うか私も知りたい。
「それにしても、オジンさんてすごいオレオレ系だよねw」
確かに。もしかしなくても、この人いない方が指揮も上手くいったのでは?PolaBearさんって方は随分肩を持ってたけど。
「オジンは北方最大手旅団<1stSSF>の旅団長で、自分は指揮とかは絶対しないけど文句だけは言いますから。ポーラ率いる<コーラ団>とも仲良いですし」
Fetyさんの言う<1stSSF>……どこかで聞いた旅団名だな。うっ……頭が……
「旅団と言えば、今私達の旅団<聖霊騎士団>もメンバー募集してるんだけど、どうかな?」

 丁度その時ようやく彼が帰って来た。それも、想像の斜め上の状態で。
「ゲフゥ、マグりんお待たせ!何かシチュエーションにチェンジはあったかな!かなかな!」
なんだこの豚。屠殺されると分かって気が狂ったか。
「特に状況に変化は無いけど、もしかして何かしてきた?」
弁当温めに行っただけで、このテンションの変わりようは何。
「ちょっと安酒飲んできただけよ!ほんの一杯……いや五杯くらいかな?わかんにゃい!」
マジかこの豚……離席してたのはほんの10分かそこらだぞ……

 突然のノリに、呆気に取られるPTメンバーを置いて、もはや彼は暴走状態だった。
「何?みんなまだどうするか決まってないの?こういうのはさ、勢いよ勢い!」
もうやだこの酔っ払っい。置いて逃げようかな。などと思ってる内はまだましな方だった。次の彼の行動を見るまでは。
『作戦会議はもういいだろ!敵の攻略目標が分からない?ならわからしてやろうぜ!』
勢力チャンネルに響き渡る彼のメッセージ。血の気が引いていくのを感じる。
『赤の連中はそこまで来てるんだろ!だったらこっちから奴らの背後に突っ込んでかき回してやるんだよ!』
何言ってやがるこの豚……赤の国本隊が黒の国砦まで来るのは確実な中、逆に攻め込むなんてそんな……前もこんな事あった気がするが、今回のは単なる酔っ払いの妄言だ。
『神な自由を見せてやるぜぇぇえー!』
もはや支離滅裂……呆気に取られたのか、静止する勢力チャンネル。と思っていたら、なんと彼は1人で飛び出して行ってしまったのだ。それも一度も振り返らずに、全速力で。
「あんた何考えてんのよー!」
慌てて追いかけたが、全く止まる気配が無い。
「マグさん待って~」
PTメンバーも後ろから追いかけて来てくれたが、早く彼を連れ戻さないとこりゃ後で怒られるぞ。

 ようやく彼に追いついたのは、彼が赤C4F2……山道の出口に最も近い砦の柵に対して、狂ったように攻撃を加えている時だった。
「ゴッティ!守備隊が戻ってくるよ!」
防御施設に攻撃を加えると、砦が攻撃されている旨のシステムメッセージが流れるので、彼の凶行はもうバレてるはずだ。
「だったら全部ファックしてやる!」
これはヤバイな。会話が成り立たない。
「マグさん危ない!」
Fetyさんの発言を見て、辺りを見回すと赤の国プレイヤーが何人か砦内から出てくるのが見えた。どうやらこの砦の守備隊が慌てて戻ってきたようだ。
「ああもう!砦にワープできるのは砦所有旅団メンバーだけだ!やってやる!」
とは言ってみたが、それでも敵は10人ほど。こりゃ死んだな。

 そう思った時だった。後から味方が駆け付けてきたのは。
『山道待機組C4F2を攻撃中』
『攻城職前へ!遠隔職は援護を!』
『敵本隊が戻って来るまで時間がある!いけるぞ!』
みんな来たの!?へべれけ豚の戯言に付き合って死ぬのなんて、私だけで充分なんだぞ。

 砦外に出てきた守備隊を蹴散らした私達は、柵を突破し、堀を埋め、城壁に取り掛かった。
『ガッデム!C4F2本当に行ったんですか……死に戻り組は黒C2F1まで全速前進!敵本隊にもう一度ぶつかって時間を稼ぐぞ!』
これは……Tokiさんだ。
『……みんなトッキーの指示通りに。軍団長としての指示です』
『はぁ?こんな時に敵の砦攻めてるバカ達に人取られて数減ってるし、ここは砦の守備に……』
『戦闘時の指示は師団長以上でお願いします』
マジか。今まで発言してなかったが、Tokiさんがこんなにイケイケな人だったとは。

 そして遂に城壁を突破。砦内部に突入したが、守備隊は既に全滅していたため、中はもぬけの殻。先を競うように旗を攻撃した結果、C4F2、赤の国第4都市付き第2砦の占領に成功してしまったのだった。しかも最もダメージを与え、専有権を獲得したのはFetyさんだ。結局、赤本隊は黒本隊に退路を塞がれ戻れないまま、この日のCTは終了。

 1人の酔っ払いの突然の思い付きにより、大逆転勝利に終わった今回のCT。私には未だに何が起こったのか、信じられないでいた。
「ゴッティ、今回のって本当に思い付き?それとも作戦?」
こない返事。ピクリとも動かない彼のキャラ。

 この豚、酔ったまま寝落ちしやがったな……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。 大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。 そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。 しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。 戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。 「面白いじゃん?」 アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

処理中です...