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カレサワ

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報告書35「魂、失っては生きられないものについて」

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 身体が熱い。背中を斬られた激痛と衝撃を、少しでも和らげようと身体は本能的に息を荒々しく吐き出す。顔からも冷や汗が吹き出すよう流れる。もう立っていることも出来ず、地面に付いてしまっている膝。

「何が満足度だ、何が充実度だ!」

 憎しみ、恨み、怒りに満ちた叫びを上げると同時に、倒れ込む俺を何度も蹴りつける。

「ぐほっ……!殺すならさっさと殺したらどうなんだ……!」

「あぁもちろん今度こそきっちり殺すさ。だがその前に……」

 そう言うとヒシカリは俺を一際思いきり蹴り上げた。十数メートルも吹き飛ばされた俺の体は地面に叩きつけられ、転がり、壁にぶつかった所でようやく止まった。

「ぐっ……!くそったれが……!」

 機動鎧甲の応急措置機能により、なんとか立ち上がれる位まで回復したが、ダメージがもう脚にまで来てる状況は相変わらずだった。

「仕事への満足度だとか充実度などと抜かす軟弱な"サラリーマン"のお前と、この地獄を生き抜いてきた"戦士"の俺。その差を最後に教えてやる」

 そう言うと、先程までずっとダラリとした構えばかりだったヒシカリが、体をやや横向けに左手の小刀を前に出し、右手は上に伸ばし、大刀の切っ先をこちらに向ける構えを取った。奴の構えの変化はまるで、今までのはほんのお遊び、これからが本気とでも言うかのようだった。

「どこまでもふざけた野郎だぜ……!」

 荒く乱れる息を無理矢理飲み込み、強引に整える。あいつがそのつもりなら、こちらもとっておきで行くしかない。刀の柄頭を義手の左手で持ち後ろに下げ、峰の刃先部分を右手の親指と人差し指で掴み、体の重心を下げる。果たして"捨心"の奇襲すら難なく防いだあいつに、万全とは言えないこの身体で繰り出す鬼雨が通用するのだろうか……いやっ、やるしかない。俺は2度は死ねないんだ……!

 お互いの構えの間を静寂が支配する。ほんの数秒しか無かったであろうその時間が、この空間ではひどく長く感じられた。俺はゆっくりと息を吐き……一気に駆け出した。奴と同時だった。真っ直ぐと奴の目を見据え、俺は渾身の雄叫びを上げた。

「……鬼雨!!!」

 右手の掴みを離し、放たれた矢のように真っ直ぐと飛び出す突きはロケット噴射で更に猛加速、奴の顔目掛けて吸い込まれていく……いくはずだった。

「!!」

 同時に繰り出された奴の左手小刀の突きに弾かれ、完全に狙いを逸れる俺の刀。

「終わりだ死に損ない!」

 間髪入れずに繰り出される、奴の右手大刀による上方からの突きは真っ直ぐ俺の胸を捉えている。これは……死……

「こんのぉぉぉ!」

 咄嗟に叫ぶ。もう考えなんて無い。その叫びに反応した義手は、向きを変えて再びロケットを噴射。体幹の崩れなんて関係無く横払いに移行し、奴の大刀と衝突した。

「こいつ……!」

 なんとか攻撃を弾き飛ばし、そのまま足を踏ん張り両手に持ち直した刀をすかさず斬り下ろすがそこはヒシカリ、考える事は同じか大刀との鍔迫り合いとなってしまった。

「俺の陣風を防ぐとは、なかなか面白い仕掛けじゃ無いか……!」

「お陰でお前に左手を落とされたが、不足は無いぜっ!」

「なら今度は魂を落としてやる!」

 そう言うや否や、奴は鍔迫り合いで俺の刀と押し合う自らの大刀の背に、左手に持った小刀の柄頭を思い切り叩きつけた。金属同士がぶつかり合う鈍い音の後、既に限界まで来ていた俺の刀……ヒトマルは更なる加重を掛けられた事で折れ、先端が宙に舞った。それは俺の魂が落ちた瞬間であった……

 すかさず後ろに飛んで距離を取り、そして改めて自らの刀を……刀だったものを見る。そこには、刀身の背に沿って走るプラズマ発生器もろとも叩き折られた、かつてのヒトマル、10式制刀乙型の姿があった。それを見た瞬間、全身の力が抜け落ちるのを感じる。どんなに機動鎧甲を斬られても、この身を傷つけられようとも、勝機はある。だが、刀を折られた今、勝機は完全に無くなったのだから……

「勝負はついた……殺せ……」

「ようやく分かったか。弱い奴、無能な奴には満足度だの何だのとほざく資格は無いんだよ!」

 頭上に振り上げられるヒシカリの二刀。思わず強く目を瞑る。が、その後に来るはずの死はいつまで経っても俺を迎えに来なかった。恐る恐る目を開けると、そこには頭上に振り上げられた刀と、まるで時が止まったかのようにピクリともしないヒシカリの姿があった。何があったんだ?俺を囲んでいた他のBH社社員もみんな金縛りにでもあったように動こうにも動けない状態のようだ。

「先輩っ!無事ですか!?」

 声の方に振り向くと、そこにはササヤさんが。

「こっちよ!全く、遅いから探しに来てみれば地図一つ見れないんだから!」

 それにブラスターピストルを構えるチトセも。

「あっ……?」

「なに呆けてるのよ!早く!」

 そう言うと駆け出し、俺の腕を掴むと引っ張っていくチトセ。突然の事で何がなんだか理解が追いつかないが、引き摺られるように俺は、チトセとササヤさんと共にとにかく全力で走った。

 ーーーー

「新型の機動鎧甲を外部信号だけでここまで動きを制限するとは……あいつが例の"聖霊使い"か……」

「班長!」

「エクスカベーターを起動させろ。ここで失敗したらロックフォール班の二の舞だ」

「班長、奴らを追いませんと!」

「"聖霊使い"が相手だ、返り討ちにあいかねん」

「しかし……!」

「あの馬鹿のスキャナーは壊してある。記録が無ければ簡単に揉み消せる。今は任務達成を優先させろ」

「了解しました……」

 ーーーー
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