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カレサワ

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報告書55「同じ光景、同じ目線について」

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 自らの理想と現実のギャップにいたたまれなくなりフラフラと事務所を出た俺は、気が付けば雑然と物が置かれた屋上へと足が進み、そこで抜け殻のように柵にもたれかかりながらボーっとただ外を眺めていた。目に入るのはいつもと同じ光景、廃墟と化した建物群とその先にある駅ダンジョンを囲む高い高い塀だけだ。

「はぁ~あ……」

 なんで俺じゃなくてササヤさんが選ばれるんだ?って、そんなのササヤさんはヒーラーの必需品であるはずのロッドも無しに自力でコードの作成と送信ができて、おまけにスペキュレイターやリソーサーの発する信号が知覚でき、さらにその信号の加工までをも瞬時にこなす、ことリソーサー分野に関してはウィザードやデータトラベラーなんてくくりでも足りない能力保持者、まさに変異人種なんだから当然だろって話だ。そんな事は分かってる。ササヤさんに実戦を一から教えた俺が一番分かってる。だからこそ……なんだかなぁ……後から来たのに追い抜かれて随分と差をつけられてしまったな……

 柵に顔を伏せながらそんな考えを頭の中でグルグルと巡らせていると、背後から扉が蹴破られたかのごとく開いた音がした。どうやら誰かが……なんて考える必要もない。こんな扉の開け方するのは1人だけだ。

「ちょっと、何こんなところでサボってるのよ!あんたも事務所の片付け手伝いなさいよ!」

「……」

「……なによ、元気無いわね。もうお腹空いた?」

 俺の事を何だと思ってやがる。

「ほっといてくれ。それよりササヤさんは?」

「イクノと2人で買い出しに行ったけど……ははぁ~ん、さてはあんた、自分じゃなくてササヤさんが選抜メンバーに選ばれたのが面白く無いんだ」

 うぐっ。いつになく鋭くこちらの内心を抉ってきやがる。だが事実であったとしてもそう易々と認められるほど俺は人間ができてなかった。

「……さぁな」

「ふぅ~ん……ならいいけど」

 そう言うとチサトは俺の隣に来て、同じように柵に手を掛けて外の景色を眺め出した。なんだなんだ、もう長い間同じ職場で働いているとはいえ、ここまで近い距離になるのは初めてだ。

「……」

「……」

 2人して押し黙って廃墟郡とその向こうの壁を、ただなんとなく眺める。

「私ね」

 と、その沈黙を破ったのはチトセだった。

「昔はこの近くの住宅街に家があって、小さい頃はそこに住んでたのよ」

「この近くって、確かリソーサーが出現する前はこの辺りは高級住宅地だったんじゃなかったか?」

「そっ、つまりはイイとこのお嬢様だったってわけ。あの日、リソーサーが駅から這い出して来るまではね」

「あの日……」

「リソーサーのせいで私の住んでた地区もすっかり危険地区になっちゃって、強制立ち退きからパパの事業も傾いての一転して貧乏暮らし。あの時は本当に坂道を転がり落ちるようだったわね。信じられる?それまでは小学校に通うのも車で送り迎えされてたのよ」

 リソーサーの出現という世界の劇的な変化の中で、繁栄を享受した者もいればもちろん没落した者も大勢いたのは当然知ってはいたが、まさかチトセが後者とは今の今まで知らなかった。シャチョーなんかやってるんでてっきり前者かと。

「それから心労でパパとママも死んじゃって、あの頃は生きるのに必死だったわね。それこそ何でもやったわ。女子コーセーのアルバイトで隔壁の建設工事現場で働いたのなんて私くらいじゃないかしら」

「……何というか、道理で男勝りな度胸があるわけだな」

「それ、褒め言葉として受け取っておくわ。そんでその後は三食付いてスペキュレイターの免許も貰える士官学校に入って自衛軍に入隊、途中除隊してこのMM社を立ち上げて今に至るってわけ。ありふれた不幸話でしょ」

「いや……何というか知らなかったな、チトセにそんな過去があるなんて。スペキュレイターになったのは、やっぱり金が稼げるから?」

「まっ、それは無いって言ったら嘘になるけど、私ね、見返したかったの。エキチカに住む人々を切り捨てたこの国を、無理やり土地を収用した国防省を、そしてお金がなくなった途端、パパとママを見放したこの社会を……だからこの時代に、何でもできて何にでもなれるスペキュレイター……山師になったってわけ」

「何でもできて何にでもなれる……か」

「まっ、それもイクノとササヤさんと、そしてあんたがいてこそなんだけどね。特にあんたの後輩育成については結果も出てるわけなんだし?」

「……」

「ただ強いってだけの匹夫の脳筋ならその場その場の戦闘が楽になるだけなんだけど、優秀な人材を育成するのは組織全体が将来に渡って結果を出すのに必要なんだけどなぁ。まっ、ご本人さんはその立ち位置にはご不満なようだけど」

 なんだか悪い笑みと言うか、まるで子供がイタズラでもするかのような顔でこちらを見てくるチトセ。ふんっ、まさかチトセに諭されるとはな。

「不満なんかあるわけないだろ。言っただろ、BH社やアシオやヒシカリとは真反対の方法で優秀な人材を育成する、これも俺の復讐の一つなんだからな」

「そっ、ならいつもの顔が戻ったところで事務所の片付けと行くわよ。なんせ今日は派手に騒散らかすんだから!」

「へいへい」

 屋上から出て階段を降りる時には、俺の心はさっきまでの曇り空なんて嘘のようにすっかりと晴れ渡っていた。全く、このシャチョーには頭が上がらないぜ。



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