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報告書56「挨拶、強張った心を解す方法について」
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それから事務所に戻った俺達はササヤさんの選抜チーム入りを盛大に祝い、大いに騒いだ。社屋があるのがエキチカで周囲には人気が少ないのをいい事に、チトセの言葉を借りるなら騒ぎ散らかした。
その挙句、俺達はチトセの提案で屋上にある雑然とした荷物置き場……もとい模擬演習場でペイント弾によるチーム戦ガンシューティングを力尽きるまでプレイし、そのまま事務所で寝落ちしてしまう始末だった。記憶が曖昧だが、起きた時俺が一番カラフルになっていたので相当負けたようだ。やっぱ飛び道具はダメだな。
それから幾日か経ったが俺は正直未だにダルイ。任務ならともかく遊び疲れがなかなか取れないとはまさか俺ももう歳か?それともあれからほぼ毎晩チトセに部屋に押し掛けられ酒の相手をさせられたからだろうか?
「ぐぅ~……ダルい……」
お陰で事務所の自分の机でグダグダするだけの存在となってしまった俺とは対照的に、優雅にコーヒーとホットサンドの朝食を食べつつ携帯端末で新聞記事を読むチトセ。あいつの体力は化け物級か?
「ちょっとあんた大丈夫なの?吐くならトイレで吐いてよね」
「誰のせいでこんな事になったと思ってやがる……そう言えばササヤさんは?今日は休みか?」
「あんた全然話聞いてないのね。今日も自衛軍の合同軍事演習に招集されたって朝早くからそっち行ってるわよ。さっき連絡があって午後には顔出すとは言ってたけど」
「そう言えばそんな事言ってたな……」
選抜メンバーに選ばれてから忙しくなると言ってた気もするが、ここ最近ずっと頭が回ってないのでよく思い出せない。資源の回収任務もあるってのに、なんとか目覚まさないと。
それから何とか捗らない書類仕事をこなし、ようやく休み時間には昼飯にうどんを作って食えるくらいまでには回復した。とは言え、出前でカツ丼を取ったチトセほどでは無いが。あいつの胃袋は化け物級か?
うどんの上に鎮座したお揚げをどのタイミングで食べるか悩んでいると、事務所の扉向こうから階段を静かに登る音が聞こえてきた。イクノさんはそこで端末を眺めながら唐揚げ定食を食べてるから消去法で……
「よお、おかえりササヤさん」
「ただ今戻りました」
予想通りのササヤさんであったが、なんだか今一つ浮かない顔だ。自衛軍との合同演習の帰りだし、疲れているのだろうか。
「おかえりなさい!お昼まだなら何か作るわよ!そこのイワミが」
「ぶっ、俺がかよ!いや作るけどさ!」
「あ、大丈夫です。市ヶ谷でいただいて来ましたので」
「毎日毎日大変じゃのう。直帰でも良かったのにわざわざ戻って来たのは、何か足りない物でもあったのかの?言ってくれればすぐに用意するぞ」
「ありがとうございます。装備は今のところはイクノさんの整備のお陰でバッチリです」
「てことは俺たちの顔を見に来たって事かな?なら折角だ、今日も仕事はこれまでにして遊びに行こうぜ」
「いい考えね!でもあんたはその仕事片付けてから来ること」
「ぬぐぐ……」
あわよくばこの書類地獄から逃げだそうと思ったが、そうはお天道様が許してくれないか。
「あっ、あの……今日戻って来たのは、大事なコトが決まったのでその事をお伝えしようと思いまして……」
「大事なコト?」
急に改まるササヤさん。そのやや強張り涙目な顔からも、その大事なコトの重大性が感じられる。
「えぇ……あまり詳しくは言えないんですけど、近いうちに、大規模な作戦があって……それに私も参加する事になったんです。なので当分戻って来れなくなると思います……」
「作戦に参加って……それって危険な作戦なの?」
「隊長が、特例で公式発表前に近しい人々への挨拶を認めるって言うくらいなんで多分……」
リソーサー相手に作戦が漏れて対策されるなんて事は無いだろうが、それでもあのお堅い国防省と自衛軍がそんな事を認めるとは……よっぽどの事をするつもりらしい。
「そうなの……おいで、ササヤさん」
そう言うと手を広げるチトセ、そしてそこへ飛び込むササヤさん。
「私……私……心配でッ。上手くやれるのか、大事な所でみんなの足を引っ張って、この会社の名前を汚さないか」
そう涙を流しながら止めどなく流れてくる心情を吐露するササヤさん。天才的な技術を持つと認められても、いや認められたこそなのかその受けるプレッシャーは相当なようだ。
「そんな事気にしてたのかササヤさんは。どうせこの会社の看板なんてとっくに泥塗れなんだ。そんな事よりも必ずここへ生きて帰って来る、それだけを考えればいいんだよ」
「そうじゃそうじゃ。武器も機動鎧甲もスキャナーも幾らでも作り直せるが人間だけはそうもいかん。装備なんかよりもまずは自分の身体を大事にするんじゃぞ」
俺とイクノさんの言葉が届いたのか、少しは落ち着いたようだが、それでも涙が止まらない様子だ。
「2人の言う通りよ。大丈夫、あなたならやれるわ。なんて言っても我が社創業以来1番の優秀社員なんだから。だから必ず生きて帰って来ること。そして……」
ササヤさんの顔を真っ直ぐと見つめるチトセ。
「そして……また一緒にいっぱい稼ぎましょ♪」
「ブフッ!」
あまりにもチトセらしい励ましなもんで思わず吹き出してしまった。つられてイクノさんも声を出して笑い出す始末。チトセ本人はというとしてやったりなドヤ顔かましてるし、なんなんだよもう笑い過ぎて腹痛いじゃないか。
「……はい!必ずここへ帰ってきます!」
まっ、肝心なササヤさんを笑顔にできたんだ、ここはまたしてもチトセに一本取られたと言うべきか。
その挙句、俺達はチトセの提案で屋上にある雑然とした荷物置き場……もとい模擬演習場でペイント弾によるチーム戦ガンシューティングを力尽きるまでプレイし、そのまま事務所で寝落ちしてしまう始末だった。記憶が曖昧だが、起きた時俺が一番カラフルになっていたので相当負けたようだ。やっぱ飛び道具はダメだな。
それから幾日か経ったが俺は正直未だにダルイ。任務ならともかく遊び疲れがなかなか取れないとはまさか俺ももう歳か?それともあれからほぼ毎晩チトセに部屋に押し掛けられ酒の相手をさせられたからだろうか?
「ぐぅ~……ダルい……」
お陰で事務所の自分の机でグダグダするだけの存在となってしまった俺とは対照的に、優雅にコーヒーとホットサンドの朝食を食べつつ携帯端末で新聞記事を読むチトセ。あいつの体力は化け物級か?
「ちょっとあんた大丈夫なの?吐くならトイレで吐いてよね」
「誰のせいでこんな事になったと思ってやがる……そう言えばササヤさんは?今日は休みか?」
「あんた全然話聞いてないのね。今日も自衛軍の合同軍事演習に招集されたって朝早くからそっち行ってるわよ。さっき連絡があって午後には顔出すとは言ってたけど」
「そう言えばそんな事言ってたな……」
選抜メンバーに選ばれてから忙しくなると言ってた気もするが、ここ最近ずっと頭が回ってないのでよく思い出せない。資源の回収任務もあるってのに、なんとか目覚まさないと。
それから何とか捗らない書類仕事をこなし、ようやく休み時間には昼飯にうどんを作って食えるくらいまでには回復した。とは言え、出前でカツ丼を取ったチトセほどでは無いが。あいつの胃袋は化け物級か?
うどんの上に鎮座したお揚げをどのタイミングで食べるか悩んでいると、事務所の扉向こうから階段を静かに登る音が聞こえてきた。イクノさんはそこで端末を眺めながら唐揚げ定食を食べてるから消去法で……
「よお、おかえりササヤさん」
「ただ今戻りました」
予想通りのササヤさんであったが、なんだか今一つ浮かない顔だ。自衛軍との合同演習の帰りだし、疲れているのだろうか。
「おかえりなさい!お昼まだなら何か作るわよ!そこのイワミが」
「ぶっ、俺がかよ!いや作るけどさ!」
「あ、大丈夫です。市ヶ谷でいただいて来ましたので」
「毎日毎日大変じゃのう。直帰でも良かったのにわざわざ戻って来たのは、何か足りない物でもあったのかの?言ってくれればすぐに用意するぞ」
「ありがとうございます。装備は今のところはイクノさんの整備のお陰でバッチリです」
「てことは俺たちの顔を見に来たって事かな?なら折角だ、今日も仕事はこれまでにして遊びに行こうぜ」
「いい考えね!でもあんたはその仕事片付けてから来ること」
「ぬぐぐ……」
あわよくばこの書類地獄から逃げだそうと思ったが、そうはお天道様が許してくれないか。
「あっ、あの……今日戻って来たのは、大事なコトが決まったのでその事をお伝えしようと思いまして……」
「大事なコト?」
急に改まるササヤさん。そのやや強張り涙目な顔からも、その大事なコトの重大性が感じられる。
「えぇ……あまり詳しくは言えないんですけど、近いうちに、大規模な作戦があって……それに私も参加する事になったんです。なので当分戻って来れなくなると思います……」
「作戦に参加って……それって危険な作戦なの?」
「隊長が、特例で公式発表前に近しい人々への挨拶を認めるって言うくらいなんで多分……」
リソーサー相手に作戦が漏れて対策されるなんて事は無いだろうが、それでもあのお堅い国防省と自衛軍がそんな事を認めるとは……よっぽどの事をするつもりらしい。
「そうなの……おいで、ササヤさん」
そう言うと手を広げるチトセ、そしてそこへ飛び込むササヤさん。
「私……私……心配でッ。上手くやれるのか、大事な所でみんなの足を引っ張って、この会社の名前を汚さないか」
そう涙を流しながら止めどなく流れてくる心情を吐露するササヤさん。天才的な技術を持つと認められても、いや認められたこそなのかその受けるプレッシャーは相当なようだ。
「そんな事気にしてたのかササヤさんは。どうせこの会社の看板なんてとっくに泥塗れなんだ。そんな事よりも必ずここへ生きて帰って来る、それだけを考えればいいんだよ」
「そうじゃそうじゃ。武器も機動鎧甲もスキャナーも幾らでも作り直せるが人間だけはそうもいかん。装備なんかよりもまずは自分の身体を大事にするんじゃぞ」
俺とイクノさんの言葉が届いたのか、少しは落ち着いたようだが、それでも涙が止まらない様子だ。
「2人の言う通りよ。大丈夫、あなたならやれるわ。なんて言っても我が社創業以来1番の優秀社員なんだから。だから必ず生きて帰って来ること。そして……」
ササヤさんの顔を真っ直ぐと見つめるチトセ。
「そして……また一緒にいっぱい稼ぎましょ♪」
「ブフッ!」
あまりにもチトセらしい励ましなもんで思わず吹き出してしまった。つられてイクノさんも声を出して笑い出す始末。チトセ本人はというとしてやったりなドヤ顔かましてるし、なんなんだよもう笑い過ぎて腹痛いじゃないか。
「……はい!必ずここへ帰ってきます!」
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