風魔法を誤解していませんか? 〜混ぜるな危険!見向きもされない風魔法は、無限の可能性を秘めていました〜

大沢ピヨ氏

文字の大きさ
28 / 70

第28話 ネコのさばきは突然にくる

しおりを挟む
 一先ず、これだけのパラメーターを一つ一つ確認していくのはキリがないため、値の下四桁が「.0000」となっているものをピックアップすることにした。

 この「.0000」という値は、そのパラメーターがこれまでの活動によって一度も上昇していないことを示しており、今後も本人の努力では上昇が見込めない可能性が高い。

 そんな項目をいくつか抜き出してみたところ、

・魔法防御力
・魔法貫通力
・魔法維持力
・魔法拡大力
・魔法付与力
・魔法詠唱力
・魔法詠唱短縮力
・種族進化力
・種族変化力
・魔素吸収力

といったものが見つかった。



 その他にも、下四桁が「.0000」のものを探している最中、ふと目に留まった項目があった。



『母乳生成力』だ。



 現在の値は8.0564。

 これは、まだ母乳を生成できる段階にないことを示しているのだろうか。

 試しに上向きの三角ボタンを押してみると、問題なく1ポイント上昇させられることを確認。慌てて下向きの三角ボタンを押し、元の数値へ戻した。



 ……ふむ。



 このまま10ポイントすべてを注ぎ込めば……。


 そんなことを考えていたら、背後から長良さんの低い声が聞こえてきた。

「伊吹くんの30日後が楽しみになりましたね」

「ひっ!!!」

 いつの間にか背後に立っていた長良さんと目が合う。

 冷や汗が止まらない。

「あ、いや、その。ちゃんと探してたんだ。で、ちょっとだけ、その、ボタンが効くかどうか試しただけで……」

「そうでしたか。ちゃんと効きましたか?」

「あ、うん、問題なかったよ……」

「私も、30日後に確認したいと思います」

 そう言って、長良さんは黒板の右端へと戻っていった。


◻︎◻︎◻︎


「……他になにか有益そうな項目はありましたか?」

「ええと、さっき見つかったのは『装備干渉抵抗力』と『異界言語能力』かな」

「まあ! 異なる世界の言語が覚えられるのですか?」

 長良さんは目を輝かせ、身を乗り出した。


「はじめは俺もそう思ったんだけど、そもそも異界言語のサンプルがないよね?」

「確かにそうですね。そのうち書物などが見つかるのでしょうか?」

「それが手に入ってからポイントを割り振るのもアリかなって」

「ですが、いまから30日以内に見つかった場合、悔しくありませんか?」

「そうなんだよね……。あと『1ポイント振った』として、どの程度の言語が理解できるのかも分からないのがさ……」

「そうですよね……」



 例えば、身体的なパラメーターの場合、大体のものが50前後であることが多い。

 おそらくは人間の平均値が50くらいなのだろう。

 ただ、魔法関連のパラメーターは軒並み「10」だ。

 これまでの活動で10.3くらいまで上昇している項目もあったが、魔法の基準値的なものがないので、それが高いのか低いのかさえよく分かっていない。


「あと気になるものは詠唱ですか?」

「詠唱することで、魔法の効果が高まったりするのかな? でもその詠唱方法自体が分からないよね」

「伊吹くんなら魔法詠唱にお詳しいのでは?」

 まだ厨二だと思われているのだろうか……。


「そうだなあ……。『焔雷、業火の刃、我が敵を断ち斬る──天照の裁き!』みたいな?」

「やはりお詳しいのですね!」

 長良さんは大層喜んでいる。


「実はその手のやつ、風魔法が使えるようになったとき、一通り試したんだよね……」

「ぜひ立ち会いたかったです」

 そんなの絶対人に見られたくないぞ……。


「それで、魔法の威力などは?」

「何を唱えても、そよ風しか出なかったよ……」

 二度とあんな虚しい思いはしたくない。


「となると、正しい詠唱方法や、その短縮方法があるようですね」

「そんなのどうやって見つければいいんだろう」

 試しにポイントを振ってみれば、唱えるべきワードを閃いたりするんだろうか。


「あとはその『装備干渉抵抗力』と言うのは?」

「それも、ゲーム知識からの想像でしかないんだけど、金属製品なんかを身につけていると、魔法の威力が減衰するんじゃないかなって」

「金属というと、いまは……ブラのワイヤーくらいですか?」

 そう言って、長良さんはブラジャーの下部を持ち上げるようにして指で触れた。

「ちょっ! そういうのは……」

「あら、ごめんなさい。つい……」


「………………」


「………………」


「ええっと、そうそう。金属を身に帯びてると、魔法と干渉して威力が弱くなる。そこでそのパラメーターが育っていると、干渉を無視して魔法が使えるような、そんな感じの項目なのかなって」

「でしたら金属鎧なんかを手に入れた後で、検証する必要がありますね」

「だね。だからいまは不要かな」

「となると……」

 こう改めて見ても、即戦力となってくれそうなパラメーターは少ない。

 魔法を使ってくる魔物が現れたら『魔法防御力』は必要だろうし、障壁のようなものを展開してくる魔物が現れたら『魔法貫通力』の出番だろう。


「魔法付与はやり方が分からないし」

「魔法拡大は使い所が分からない……」


 そして残された項目といえば……。


「種族進化力!」「猫従力《ねこじゅー》!」


「いやいやいやいや」「いえいえいえいえ」

「もう猫に全投入しましょう? 人間でなくなるのは、流石に躊躇ちゅうちょしますし」

 長良さんはいまだに『猫従力』にご執心のようだ。



 結局その後も、絶対的な自信を持って『これだ』と思える割り振り方は決まらず、

・魔法維持力+2
・魔法拡大力+2
・魔素吸収力+2
・異界言語能力+2

と、割り振られ、残りの2ポイントは


・猫従力+2


へと注ぎ込まれた。




◻︎◻︎◻︎



 二人の視線の先には、まるで緑茶のような水の壁があり、日がだいぶ昇ってきたのか、水面方向から光が注がれていた。

 つい先ほど、水の壁越しに魔法を放ち、何度か爆発を起こしてみたが、緑茶の中に魔物の気配は感じられなかった。どうやら小魚の一匹すら棲んでいない様子だ。

 ただ、長良さんの火球を空気玉で包むことで、水中でもガス玉に着火できることが分かり、爆発魔法の応用力は上がった。今回は水底の泥を巻き上げただけに終わったが、それだけでも収穫といえる。



「で、あと1時間くらい待つ?」

「一度くらいはこの先がどこへ繋がっているのか、確認しておきたいですよね。……この中を進むのは、少し嫌ですが」

「すぐそこに水面があるようには見えるけど……」


 改めて目の前の水壁を見つめる。まるで絵の具を混ぜたかのような緑色に、ダンジョン特有の不気味さを感じた。


 この水に触れたあとは、念のため健診に行こう。変な病気にでも罹りそうだ。


「では私の腰、というか股間全体を空気玉で包んでもらえますか?」

「えっ!? な、なんで?」

 突然『股間』というセンシティブなワードが飛び出し、思わず声が裏返る。


「ここの水は身体に悪そうなので、それが体内に入らないよう、顔周りと腰の周りを防水しておきたいんです」

「あ、ああ、そういうことね」

 なるほど、彼女が言わんとしていることは理解した……。


「伊吹くんは怪我をしていませんよね? 傷口があるようでしたら、その部分も空気玉で覆ってくださいね」

「んー、大丈夫。やってみよう」


 今回は空気玉を同時に7つも展開する必要はあるが、更新が必要な箇所は顔周りだけなので、何とか操作しきれるだろう。

 二人の顔、腰回り、そして槍の先に空気玉を作り出し、勇気を振り絞って水の中へと侵入した。



◻︎◻︎◻︎



「っぷはー!」


 思っていた以上に水面は近く、空気玉を一度も更新する事なく地上へと辿り着けた。

 やはり、事前に予想していた通り、ここは地下一階にある小さな沼に繋がっていたことが判明する。

 地下二階の綺麗な泉よりアクセスはしやすいが、水が濁りすぎているので、このルートは今後使わないと思われる。何かあった際の退避ルートとして利用するくらいだろう。


 すぐ隣では、水から上がった長良さんが、手の匂いを嗅いで顔をしかめていた。

「地下二階の泉へ急ぎましょう。早く身体を清めたいですし、そろそろ他の冒険者たちも現れそうです」


 時間は朝7時を回ったころだろうか。


 まだ冒険者たちが現れる時間帯ではないが、長良さんの下着姿を他の人に見せたくない気持ちも多分にあり、地下二階の泉へ向かう足は、普段よりも早かった。



◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

天城の夢幻ダンジョン攻略と無限の神空間で超絶レベリング ~ガチャスキルに目覚めた俺は無職だけどダンジョンを攻略してトップの探索士を目指す~

仮実谷 望
ファンタジー
無職になってしまった摩廻天重郎はある日ガチャを引くスキルを得る。ガチャで得た鍛錬の神鍵で無限の神空間にたどり着く。そこで色々な異世界の住人との出会いもある。神空間で色んなユニットを配置できるようになり自分自身だけレベリングが可能になりどんどんレベルが上がっていく。可愛いヒロイン多数登場予定です。ガチャから出てくるユニットも可愛くて強いキャラが出てくる中、300年の時を生きる謎の少女が暗躍していた。ダンジョンが一般に知られるようになり動き出す政府の動向を観察しつつ我先へとダンジョンに入りたいと願う一般人たちを跳ね除けて天重郎はトップの探索士を目指して生きていく。次々と美少女の探索士が天重郎のところに集まってくる。天重郎は最強の探索士を目指していく。他の雑草のような奴らを跳ね除けて天重郎は最強への道を歩み続ける。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

Sランクパーティーを追放された鑑定士の俺、実は『神の眼』を持ってました〜最神神獣と最強になったので、今さら戻ってこいと言われてももう遅い〜

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティーで地味な【鑑定】スキルを使い、仲間を支えてきたカイン。しかしある日、リーダーの勇者から「お前はもういらない」と理不尽に追放されてしまう。 絶望の淵で流れ着いた辺境の街。そこで偶然発見した古代ダンジョンが、彼の運命を変える。絶体絶命の危機に陥ったその時、彼のスキルは万物を見通す【神の眼】へと覚醒。さらに、ダンジョンの奥で伝説のもふもふ神獣「フェン」と出会い、最強の相棒を得る。 一方、カインを失った元パーティーは鑑定ミスを連発し、崩壊の一途を辿っていた。「今さら戻ってこい」と懇願されても、もう遅い。 無能と蔑まれた鑑定士の、痛快な成り上がり冒険譚が今、始まる!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

処理中です...