風魔法を誤解していませんか? 〜混ぜるな危険!見向きもされない風魔法は、無限の可能性を秘めていました〜

大沢ピヨ氏

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第43話 漁夫の利

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「これは……。二面作戦でしょうか?」

「あの丸っこいのは何?」

「ありゃあゴーレム族っすね」

「なんか少し想像と違ったよ……」


 ダンジョンツアー参加者を引き連れて、地下三階へとやってきた。

 今回彼らには、ただの見物客としてついて来てもらうのではなく、荷物を運ぶためのアルバイトとして同行してもらっている。

 計4台の台車を持ち込めば、大量の戦利品を持ち帰れるため、彼らに対して夏休みを楽しむためのお小遣いを渡すことができると、考えてのことだ。


 もとはそんな目論見だったのだが、我々の眼下では、コボルド族とゴーレム族が、オークの住む集落へと攻め入ろうと、壮絶な戦闘を繰り広げており、とてもじゃないがファッション略奪を楽しめるような雰囲気ではなかった。


 『オーク』とは、2メートルを超す巨大な体躯を持った豚面の魔物であり、二足歩行の犬型モンスター『コボルド』や、岩から手足を生やした『ゴーレム』よりも遥かに強い。

 一対一で戦ったのなら、オークの圧勝だろうが、この抗争ではコボルドとゴーレムが手を組んでいるようなので、戦いの趨勢すうせいは容易には読めなかった。


 ここ地下三階の地図は冒険者ギルドで買うことができ、それには地下四階へと続く階段までのルートや、階層内に存在する魔物集落の位置が書かれている。

 しかし、その集落にどのような魔物が巣食っているのかまでは書かれていない。時折、他の種族に制圧され、版図が書き換わることがあるせいだ。

 今日は引き連れている人数も多いので、他の冒険者が寄り付かなさそうな集落を選んで足を運んでみたのだが、その結果が目の前で繰り広げられている魔物同士の戦争だった。


「なぁ伊吹……。冒険者たちってあんなに大量のモンスターと戦ってるのか?」

 顔を青くした浅井がそう尋ねてくる。

「あんなのは流石に誰も相手にしないよ……。んー、ここはやめて他の集落にするか」


 各種族30以上の兵員を揃えており、攻め手側のコボルド・ゴーレム軍は、オークの集落を囲う木壁を破壊せんと、手に持った武器や体当たりでガンガンと攻撃を加えている。

 対するオーク軍は、集落の左右どちらからも攻められていることに混乱をきたしているようで、これといって有効な対応を取れずにいるようだった。


「あの抗争で、最終的に勝利した勢力を倒せば、全ての戦利品を総取りにできるのではないでしょうか?」

「ちょっ! ミス・ブラックフレアさん本気ですか!? 最後に一種族が残ったとしても、相当な数だと思いますよ?」

「それはその、魔物の抗争にコッソリと介入して、数を調節していけばいいのでは?」

 いま我々が陣取っている場所は、オークの集落を見下ろすことのできる高さ5メートルほどの崖の上だ。先ほど、背後に広がる森を抜けて、ここまでやってきた。


「こっそり介入といっても、現時点じゃどの勢力が勝つのか分からなくない?」

「いまオークたちは完全に浮き足立っていますので、防衛側の利点を全く活かせていません。攻撃側が壁を破壊し、集落へなだれ込んだら一気に制圧されるのでは、と考えています」

「でもオークの方が種族としては強いんでしょ?」

「あそこを見てください。既にゴーレム軍が叩いている壁は傾き始めているので、もう間もなく集落への侵入が果たせるでしょう」

 ミス・ブラックフレアさんが指差す先には、ゴーレムの体当たりによって、集落の内側へ倒れようとしている木壁が見えた。


「そしてオークが手に持っている武器の殆どは『槍』です。いくらオークたちが膂力りょりょくで勝ろうとも、ゴーレムの岩の体に槍を刺すのは容易ではないはず」

 まあ、あのゴーレムを倒すなら、ハンマーやメイスなどの打撃武器の方が有効そうではある。


「そしてゴーレムとの戦闘が始まった後に、背後からコボルドが突入。背中を向けているオークを攻撃することで、甚大な被害を与えることでしょう」

「んー、そう言われれば、そんな感じで進んでいくようにも思えるなあ。……もしそうだとして、どう介入すれば上手いこと共倒れさせられるの?」

「コボルド軍の最後尾を見てください。戦闘には参加せず、指示を飛ばしているだけの個体が見えますよね?」

「なるほど。タイミングよくあの指揮官を倒してしまおうって訳か」

 彼我ひがとの間には大きめの岩はあるし、点々と樹木も生えているので、身を隠しながら近づくことは容易に思える。


「私たちが下へ降りたら、反対側の様子は見えなくなります。ですので、ゴーレム軍が壁を突破したタイミングで、鞭を鳴らして合図を送ってください」

「了解しました」

 クイーン・オブ・ファントムさんがしっかりと返事をした。


 フレアさんの言葉に続いて、自分からも何点かの指示を伝える。

「もし予想外の動きが起きたら即座に中止して撤退。クイーンさんも、上から見ていて変なことが起きたと思ったなら、鞭を連続して2回鳴らしてくれ。それを聞いた時にもすぐ撤退する」

「「了解です」」

中村ミッテルさんたちも、鞭が2回鳴らされたら即座に森の中へ。見学者のみんなをしっかりと誘導してあげてね」

「分かりました!」


◻︎◻︎◻︎


 傾斜の緩い箇所を降りながら、ミス・ブラックフレアさんに声を掛ける。

「なんか普段より大胆な行動じゃない? 何かあった?」

「……ふふ、そうですね。……実は少しだけカッコいいところを見せつけたかったのです」

「へー! なんか珍しいね。なが……フレアさんがそんな事を考えるだなんて」

 彼女はいつも他人の目は気にせず、己の価値観を重視しているものだと思っていた。


「私のことではありませんよ? 伊吹くんはカッコいいんだよと、彼らに見せつけたかったのです」

「え!? 俺を? でも上から見たら、フレアさんが魔法で倒してるようにしか見えないんじゃない?」

「例えそれでも、勇気を持って魔物の近くへと進み寄り、多くの戦利品を勝ち取ることで、伊吹くんへの評価は上がることでしょう」

「そうかなあ……?」

 クラスメイトから見た自分は、特に目立ちもせず、空気のような存在だろうけど、たったこれだけのことで評価が上がるようには思えない。

 そもそも評価を上げたいと考えてはいないのだが……。


「私が自慢したいんです。伊吹くんのことを」

「お、おう……」

 今は岩に捕まりながら、後ろ向きに崖を降りているので、長良さんの表情はここから見えない。

 彼女はいま、どんな表情を浮かべているのだろうか……。


◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎
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