風魔法を誤解していませんか? 〜混ぜるな危険!見向きもされない風魔法は、無限の可能性を秘めていました〜

大沢ピヨ氏

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第5話 チーズハンバーグ

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 ダンジョンから地上へ戻ると、すでに空は深い藍色に染まり、街灯がぽつりぽつりと灯っていた。

 二人は、ファミレスの窓際の席に腰を下ろしている。イノシシの魔石が5000円で売れたおかげで、いつもよりちょっと贅沢な夕食だ。



「本当に、ありがとう……あのままだったら、大怪我どころか、それ以上のことになっていたかもしれない」

 長良さんの目が真っ直ぐにこちらを捉える。そこには、感謝と少しの不安が混ざっていた。


「いや、偶然通り掛かれてホントよかったよ」


 少し照れたように目を逸らしながら答えた。


「……ねぇ、ひとつ聞いてもいい?」


 ふと、長良さんの声に少しだけ緊張が混じる。

 先ほどの爆発のことだろう。内心で身構えた。


「そう。あの紙のトランクス、あれって……陰茎いんけい擦過傷さっかしょうとか、できないのかしら?」


「んっ!?」


 思わず飲んでいた水を吹き出しそうになる。


「私の場合は、外陰部があまり露出していないからあまり擦れないんだけど……」

「ちょちょちょ、ちょっと待って! そういう話はここでは……!」


 慌てて周囲を見渡す。ファミレスには家族連れや学生のグループがいる。


「……それに関してはまた別の機会に答えるから、ここではちょっと……」


 長良さんは残念そうな表情を浮かべたあと、小さく咳払いをし、背筋を伸ばした。


「改めて聞くけど、あの爆発は貴方の魔法?」


「いや、違うよ。僕もあれには驚いたくらいで」


「じゃあ、なんであんな現象が起きたの?」


「ここに来るまでずっと考えてたんだけど……風魔法で発生させた空気に、もしかしたら可燃性のガスが混じってたのかもしれない」

 彼女は顎に手をあて、天井を見つめた。


「なるほど……興味深いわね。どういうガスか、計器で調べられたらいいんだけど、ダンジョン内には持ち込めないから……」

「それに地上では、魔法は使えないし」

「例外もあるのよ。上級者ならごく微弱な魔法を地上で使えることもあるらしいし。例えば水魔法の達人が、指先からほんの少しだけ水分を作り出したって話もあるわ」


(お風呂上がりに風魔法で一気に乾かせたら最高だな……)


「ただ、その水量、さながら尿失禁みたいで──」

「待って! それは言わないで!」

 ユーヤは慌てて手を振る。長良さんは首をかしげて「何かまずかったかしら?」と、いたずらっぽく微笑む。


 そのタイミングで注文した料理が運ばれてきた。


 一旦食事に集中し、落ち着いた頃に長良さんに尋ねた。


「そういえば……君は、あの長良病院の娘さんだよね? どうしてダンジョンなんかに?」

「……実はね」


 アカネはフォークを置き、急に真剣な顔になる。

「近頃、ダンジョンから採れる『ポーション』が注目されてるの。治療の難しい病気や、大怪我からの回復に効果があるって話で、医療の未来がポーションに左右されそうなのよ」

「それで?」

「このままだと、うちの病院も取り残されちゃう。そのことを伝えても父はあまり乗り気じゃなくてね……。だから、ポーションの研究のために自分で潜ることにしたの。家族にはもちろん内緒でね」


 彼女の瞳には強い覚悟が宿っていた。


「浅い階層で見つかるポーションは色も薄くて、効き目も弱いの。濃い緑のポーションは、もっと深いところにあるんだって。だから本当は深層に行きたいけど……」

「地下一階のモンスターがギリギリだよね」

「ええ……お察しください」


 長良さんは肩をすくめ、小さく微笑んだ。


「貴方はどうしてダンジョンに?」

 長良さんからの問いに、少し考えてからゆっくりと話し出した。

 家族のことや生活のこと、ほんの少しだけ。



「……そうだったの。ごめんなさいね」


「大丈夫だよ。気にしないで。こうしてファミレスで夕飯食べられてるし、今日はいい日だったよ」

 こちらが笑うと、彼女も自然と笑みを返す。

「じゃあ、明日もう一度、一緒にダンジョンへ行かない? さっきの魔法の反応をもっと詳しく調べたいの」

「うん、僕としても助かるよ。地下一階だけじゃもう稼ぎも限界でさ。なんとか先に進みたいと思っていたんだ」


 二人は自然と手を差し出し、固く握手を交わした。

 ファミレスを出て別れ際。


「そうだ、連絡先交換しようか」

「ええ、もちろん」

 スマホを取り出し、QRコードを読み取り合う。


 そして長良さんのアイコンを見た瞬間、思わず固まった。

「これ……なに?」

「私の胸部の写真よ。先日撮ったばかりのレントゲン」


「丸見えじゃないか…………ははっ」


 乾いた笑いを漏らした。



◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎
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