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第四章 不思議な世界

第百四十五話 僕たちの向かう先

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  鍔迫り合いは終わりにしようと考えて、僕は伯爵を弾き飛ばした。

  僕と伯爵の間には、戦闘力にかなりの差があるためか、伯爵は僕が軽く弾いても、五メートルは先に転がった。


……


  さあ、僕の心は決まったが、何とか伯爵には――――


「何がしたいの?」
と僕は純粋に質問をしてみた。


「……」


  何も言わない何とか伯爵。


……


「私は…………何をしていたんだろう…………何て!!」


  いきなり油断はしていなかったが、何とか伯爵は隙をついたかのように僕に再度斬りかかってきた。

  だがその斬撃は僕には届かなかった。


……
……


  何とか伯爵の最後の攻撃を防いだ後は、何とか伯爵が土下座のような体勢になった。


「……お前らはなんなんだ! …………俺たちの邪魔をして……。私はサポイタンヒュージュン病を治して……」


  何か憎たらしい人を見る目で睨まれた。


「……我が伯爵家が……私が言ったことは絶対だ! ――何故私に従わない!」


……


「――へっ! ――何故あなたに従わないといけないのですか? 全く僕たちにあなたに従う根拠がないんだけど……(あ、貴族相手の言葉だったら、ないんですが、か?)」


「ああん――私たち貴族、権威がある我々に!!」


  ――権威!?


「権威って何? いきなり襲っても許されるのは、権威がある人は何でもやってもいいってこと? ――僕には良くわからないけど」


「…………権威……権威……すまん……だが、私が伯爵ではなくても…………妖精の羽をくれ! ……ここまでして許される事ではないかもしれぬが……子供たちが…………どうか、金はやる! ……妖精の羽がなくなった言い訳も、私らに襲われて奪われたとでも言ってくれ! ……だから……諦めきれぬ……」


  おっと、急に何とか伯爵の態度が変わったぞ……言っている事は正直な気持ちなようだが。


「……私が今までやって来た罪は償う……既に爵位などなく、殆どの財も無くした……だが、家に残った息子が……まだ幼いんだ……」


  ――こんな話をされて僕たちと何とか伯爵と三十人の部下と浜辺で話し合いになった。

  ――何故こうなった……と言いたいが、こうなってしまったらな……


  で、何とか伯爵の息子はクロウが作った薬を持たせる事になった。浜辺でだが初めての治療薬を作り、何とか伯爵に渡した。

  すると周りにいた僕たちを襲ってきた人たちも皆綺麗に頭を下げた。
  この人たちも何とか伯爵の子の事は大切にしていたようだった。


  ――だけど、自分の大切な人のために他の人を害するのは駄目だろう……、そう考えたら、結局は僕たちも他の人から見たら同じことをしているかもしれないと考えて……ちょっと落ち込んだ。


……
……


  こうしてオークションから、いや、魔力放出病から始まった騒ぎが一旦収まり、いよいよ旅立とうと考えた。

  何とか伯爵との戦いから数日後、僕たちはラーバンストから呼び出された。


……


  僕たちは今冒険者ギルドにいる。目の前にはラーバンストがおり、一緒に飲み物を飲んでいる。


「悪かったなラウール。お陰で俺たちの国の問題も片付いた。だが――非常に言いにくいのだが、一人の護衛を頼まれてくれないか?」


「護衛? 僕たちはジルアキランに行こうと思ってるんだけど、一人の? 誰のって言うか何で?」


「……急で悪いのだが、ジルアキラン教国の首都に行く、アルグリアン王国貴族の子がいるのだよ。その子の護衛をどうにか頼みたいのだ」


「はあ、何故急に?」


「ラウールたちがジルアキランに行くと知った後に、俺の知り合いがどうしても黒猫に依頼したいと言ったんだ。そいつはいい奴でな、俺も個人的にはお願いを聞いてやりたいとが思える奴なんだ。――そいつは最近まで病に侵されていたが、ようやく元気になったんだ」


  ん?


「何だその顔は? もしかして何か感ずいたか?」


「……あの伯爵の子?」


「正解だ! 正しくは継承順位が限りなく下の、十四歳の子だ。この子はこの国まで来ていて、クロウが作った薬で体は治った。だから病気になる前の予定通り、一度はジルアキラン教国に行かなければならないのだ」


「――行けないのだって、理由は?」


「……あまり口外はしないでくれよ……」とラーバンストは言い、理由を話し始めた。


  複雑だが、この子は何とか伯爵が愛人に産ませた子だった。伯爵がこの国に旅に来ると会っていた女の人との間に産まれた。
  この子は産まれてから伯爵と母には可愛がられていた。だが母親はジルアキラン教の敬虔な教徒で、子が十歳になると伯爵にどうにか育成を願い、母親自身はジルアキラン教国に行ったそうだ。
  この母親のジルアキラン教国での役目はわからないが、どうしても行かなければ行けなかったらしい。

  だから伯爵の家に入ったこの子は、とても辛い境遇に――と言うこともなく、一家全員、家臣にも可愛がられた(見かけによらずそこは良い伯爵だったそいだ)。
  でも母親の事が忘れられずこの国まで移動したら、魔力放出病になってしまった。

  ま~それは僕たちのお陰で治ったが、ここでは母の事が何もわからず、どうしてもジルアキラン教国に行き、母と話がしたいそうだ。

  この子は父があんなことをしてしまい、だがその相手が自分を助けてくれた。だがまだ母を思い、知り合いでもあるラーバンストに相談したそうだ。


  で、結局は護衛と言いながらも、僕たちについでに母を探す手伝いをしてほしいそうだ。

  ――どの国にいるかだけよりヒントがない、大変な人探しを……



  さて、どうしたものか?
 

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