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第一部

その30 ギルドシステム

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 この人、絶対昨日俺たちをつけてた人だ。
 魔力の気配が昨日の尾行者とそっくり。というかまんまだ。
 向こうも当然気付いているだろう。というか追ってた側だしな。
 だが、あれは冒険者ギルドの真っ当な仕事。
 別に警戒する必要はないが、やっぱりぎこちなくはなってしまうな。

「ごめんねカミナ。どうしても二人をカミナに紹介したくてっ」

 やべぇ、ちょっと舌先を出してお茶目に振る舞うエメラ最高だ。人妻の魔力恐るべし。

「ううん、気にしないで。それで、エメラはこの方たちとどういう関係なの?」

 何故かカミナのエメラに対する視線が強いが、やはり怒っているのだろうか?

「そうね、詳しくは言えないけど、凄くお世話になった方々よ。二人共このシェンドの町で冒険者を始めたから、カミナに紹介したくてね」
「へぇ~、そうなんだー! じゃあもしよかったら今度一緒に依頼を受けない?」

 何となく猫被ってるのはわかるが、まだ依頼は続いているのだろうか?
 可能性は高いよな? だってエメラから「いつもソロだからパーティを組んでやって欲しい」とか言われてここに来たんだから。

「え、ええ。時間が合えば是非」
「是非にです!」

 これだけの積極性があれば、かなりの美人だし仲間が出来ないのもおかしい。
 女冒険者のカミナか。
 赤髪の童顔美人。瑞々しい唇がとてもえろす。スレンダーな身体にフィットした動きやすそうな服装。
 ……ん? 足下に魔力が集中している。なるほど、このブーツはマジックアイテムか。
 ランクDになれば隣町にあるダンジョンに潜れるという話だが、そういったところで見つけられるのだろう。

「そ、それじゃあエメラさんたちの再会を邪魔しちゃ悪いし、行こうか、リィたん?」
「うむ」

 リィたんはしれっとしているが、カミナのリィたんへの視線がマジ強い。殺意なんじゃないかってくらい半端ない。
 かといって俺への視線は別の意味で強いし……何だろう、これ?

「なんだ、気付かなかったのか? カミナという女、ミックに対して求愛行動をしていたぞ」
「は?」
「女の私やエメラに対しての威嚇行動、そして男のミックに対しての熱視線。どう見てもあれは求愛行動だ。人間の感情は複雑だと聞いていたが、カミナという女に関しては非常にわかりやす――――」
「ちょちょちょ! え、マジっすか!?」
「……その口元、どうにかならんのか?」

 おっと、いけねぇ。涎がいつのまにか。
 口元を拭い、ニヤケ面を戻すと、リィたんは続きを話してくれた。

「それに、気付かぬか? ミックへの視線」
「へ?」

 冒険者ギルドに向かう中、俺はリィたんに言われ、さりげなく周囲を見渡してみると――――、

「めっちゃ見られてますね」
「大半の男の視線は私に向き、女の視線はミックに向いている」
「やべぇ」
「半々……いや、一部ミックの事を男も見ているな」
「うぇっ!? な、何で!?」
「これは嫉妬と忿怒の感情が見える」
「あ、はい。そうですよね」
「ナタリーも言ってたぞ?」
「なんて?」
「『大人になったミックちょぉ~カッコイイ!』とかなんとか」

 あ、はい。
 ふむ、大体わかってきたな。自分の中で、中々カッコイイと思ってたのだが、この世界の基準では、かなり容姿端麗なのだろう。それは勿論リィたんもだけどな。
 これは、目立つ理由が一つ増えてしまったようだな。
 となると、カミナの調査依頼は終了しているという事かもしれない。

「で、リィたん。今日はどの依頼にするんだい?」

 冒険者ギルドに付いた俺は、ランクFのボードの前に立って「むぅ」と唸っているリィたんに聞く。

「ミックに言われて気付いたのだが、やはりランクアップとやらをした方が、報酬はよくなるようだ。ほら見ろ、隣のランクEのボードは報酬がいい」

 凄いスピードで人間の文化を吸収していくな。流石水龍リバイアタンってところか。

「ならば、一気にランクアップすれば、もっともっと稼げるのではないか?」
「そうだね。でも、ランクアップするには色々条件があるから――」
「――では、その条件とやらをまず聞こうではないか」

 貪欲さも凄い。
 リィたんの後を追い、俺は受付嬢のネムの前にやってきた。

「ネムさん、ちょっとよろしいですか?」
「はい、ミケラルド様。なんでしょう?」
「ランクアップの条件について伺いたいのですが、冒険者がそれを知る事は出来ますか?」
「申し訳ございませんが、それについてはお答え出来ません。ただ、実績と信頼の積み重ねによって上がるとしか、お答え出来ません」
「ありがとうございます」

 やっぱり無理だったか。

「なんと曖昧な!」

 とか、ぷんすこ怒るリィたんも中々可愛い。

「では、一度に受けられる依頼の数をお伺いしたいです」
「ランクFの冒険者でしたら二件まで可能となります」
「一人二件という事でよろしいですか?」
「え、えぇそれはそうですけど……?」

 俺とリィたんは、ネムの返答に見合って笑った。
 それを見たネムの顔が、少しだけヒクついていたのは、きっと気のせいなのだろう。
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