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第一部
その47 新たな依頼
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「まさかこうなるとは……」
「よく似合ってるじゃねえか」
この仕立て屋、吸血公爵家に雇われてるんじゃないかってくらい、三歳児用の俺の洋服と一緒じゃないか。
白いシャツ、黒いスーツ。赤い蝶ネクタイとカマーバンド。これが吸血鬼の正装なんじゃないかな。これをナタリーに見せたら笑われそうだな。
必要なのが明日ともなれば、完全なオーダーメイドではなく、ありあわせで合うものを探すしかなかったが、身体にフィットして非常に動きやすい。
これで金貨十枚ならば安いだろう。
因みに、身体は水魔法と風魔法の応用で洗浄しているため、いつでも清潔である。複合魔法の【クリーンウォッシュ】だ。 たまに風呂にも入りたくなるが、それはまだ先の話だろう。
因みに、複合魔法は鑑定ステータスに表示される事がない。理由はわからないが、ステータス以外の強さが、この世界にあるという事だろう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日、俺は午後三時にサマリア侯爵家へやって来た。
門前では昨日の執事が出迎え、屋敷の中ではレティシアの兄が迎えてくれた。
「昨日は当家の者が失礼した。私はサマリア侯爵家の長男、ラファエロと申します」
「ミケラルドです。昨日は挨拶も出来ず申し訳ありませんでした」
「お気になされるな。父がお待ちだ。こちらへ」
若いのに大したものだな。まだ十五、六ってところだろう。
しかし、しっかりと次期侯爵を目指している意志と風格がある。
こりゃサマリア家も安泰かもな。
大きな応接間に通されると、中ではレティシアとリンダ、そしてランドルフが待っていた。
「来たな。ミケラルド殿」
「閣下、ご招待頂きありがとうございます」
「そうかしこまらんでくれ。ランドルフで結構だ」
「はい、ランドルフ様」
着席を促され、俺が対面のソファーに座ると、何故かレティシアが俺の隣に座ってきた。あれ、結構かしこまった場だと思ってたんだが、違うのだろうか?
レティシアは、少しだけモジモジしながら、どこで覚えたかわからないが、ぐっとくるような上目遣いをしてきた。
「こ、この度は、ありがとうございましたっ」
そういう事か。これはきっと両親の指導の賜物だろう。
レティシアを助けた時、確かにお礼は言われたが、あれは呪縛状態だったしな。
己の意志ではっきり口にする事が大事なのだ。ランドルフがいる前というのも重要だろう。侯爵の前で礼を述べれば、それは家の総意となる。
これもレティシアを立派な女性に育てるための教育なのだろう。
「どういたしまして。レティシアお嬢様」
そう言うと、レティシアは子供らしくにぱぁと笑い、その笑顔を両親の下へ届けた。
うんうん、オジサンもその成長に嬉しいぞ。
「さて、ミケラルド殿。早速だが、君に頼みがあるのだ」
おっと、どうやら気に入ったというのは、俺の実力も含めてって事みたいだな。
「伺いましょう」
「実はこの一件、完全には解決していないと私は見ている」
「同感です。盗賊の親玉であるチャックの変死は、私も気になるところでした」
「よい目を持っているな。そこで、ミケラルド殿には、この真相の解明をお願いしたいと思っている。勿論、相応の礼を出そう」
悪くない話だ。侯爵家との繋がりも出来るし、この依頼なら報酬も期待できそうだ。
「でしたら、私から一点お願いがあります」
「聞こう」
「出来ればこの依頼を指名依頼というカタチで、冒険者ギルド経由からご依頼頂く事は出来ないでしょうか?」
「理由は?」
「出来れば早いところランクを上げたいというのが実情でして……」
「ふむ、現在のランクはCだったかな?」
俺が頷くと、ランドルフは少しだけ顎を揉んでから答えた。
「……これを機に冒険者ギルドとの結束を強くするのも悪くないか。仲介手数料が引かれてしまうがいいかね?」
「勿論構いません」
「わかった。ゼフ、いるか?」
「お呼びでしょうか、ご主人様」
先程の執事が扉から顔を出す。
扉の外で待っていたのか。という事は、この老人執事ゼフは、ランドルフから相当信頼されているという事だろう。
「ギルドに使いを出せ。冒険者ランクCのミケラルド殿に指名依頼をと」
「かしこまりました」
深々と頭を下げたゼフは、すぐにその場を離れ、廊下を歩いて行った。
「数十分程でギルドから依頼を受ける事が出来るだろう。それで、どう調べるつもりかね? 真相解明をと言ったが、現状八方手詰まりではないのかね?」
「いえ、気がかりはいくつかありますので、そちらから当たってみます」
「ほぉ、ならばミケラルド殿の実力――とくと見せさてもらおう」
サマリア侯爵家を出た俺は、冒険者ギルドで依頼を受けた。
その後、数日間囚人生活を耐えた自分へのご褒美に、少々お高めの食事を堪能しながら、今後の行動について考えていた。
盗賊の親玉チャックは、シェンドの町で死んだ。
俺が捕えてから一日と経たずに死んだんだ。身ぐるみ剥いだはずなのに、ナイフを持っていたという事は、殺された可能性が非常に高い。
つまり、チャックを捕えたという情報を一日以内で収集出来る人間が怪しい。
明らかに不自然な死に方。だが、犯人がそうせざるを得なかったとしたら、それは納得出来る。
チャックはあの晩死ななければならなかった。
何故か。
翌日、俺と一緒に、このリーガルへ護送される事になったから。
それを知っていたやつはごく少数に限られる。
マックスと他三人の兵士、レティシア……そして昨日、ランドルフに騎士の任を解かれた――シュバイツだ。
「よく似合ってるじゃねえか」
この仕立て屋、吸血公爵家に雇われてるんじゃないかってくらい、三歳児用の俺の洋服と一緒じゃないか。
白いシャツ、黒いスーツ。赤い蝶ネクタイとカマーバンド。これが吸血鬼の正装なんじゃないかな。これをナタリーに見せたら笑われそうだな。
必要なのが明日ともなれば、完全なオーダーメイドではなく、ありあわせで合うものを探すしかなかったが、身体にフィットして非常に動きやすい。
これで金貨十枚ならば安いだろう。
因みに、身体は水魔法と風魔法の応用で洗浄しているため、いつでも清潔である。複合魔法の【クリーンウォッシュ】だ。 たまに風呂にも入りたくなるが、それはまだ先の話だろう。
因みに、複合魔法は鑑定ステータスに表示される事がない。理由はわからないが、ステータス以外の強さが、この世界にあるという事だろう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日、俺は午後三時にサマリア侯爵家へやって来た。
門前では昨日の執事が出迎え、屋敷の中ではレティシアの兄が迎えてくれた。
「昨日は当家の者が失礼した。私はサマリア侯爵家の長男、ラファエロと申します」
「ミケラルドです。昨日は挨拶も出来ず申し訳ありませんでした」
「お気になされるな。父がお待ちだ。こちらへ」
若いのに大したものだな。まだ十五、六ってところだろう。
しかし、しっかりと次期侯爵を目指している意志と風格がある。
こりゃサマリア家も安泰かもな。
大きな応接間に通されると、中ではレティシアとリンダ、そしてランドルフが待っていた。
「来たな。ミケラルド殿」
「閣下、ご招待頂きありがとうございます」
「そうかしこまらんでくれ。ランドルフで結構だ」
「はい、ランドルフ様」
着席を促され、俺が対面のソファーに座ると、何故かレティシアが俺の隣に座ってきた。あれ、結構かしこまった場だと思ってたんだが、違うのだろうか?
レティシアは、少しだけモジモジしながら、どこで覚えたかわからないが、ぐっとくるような上目遣いをしてきた。
「こ、この度は、ありがとうございましたっ」
そういう事か。これはきっと両親の指導の賜物だろう。
レティシアを助けた時、確かにお礼は言われたが、あれは呪縛状態だったしな。
己の意志ではっきり口にする事が大事なのだ。ランドルフがいる前というのも重要だろう。侯爵の前で礼を述べれば、それは家の総意となる。
これもレティシアを立派な女性に育てるための教育なのだろう。
「どういたしまして。レティシアお嬢様」
そう言うと、レティシアは子供らしくにぱぁと笑い、その笑顔を両親の下へ届けた。
うんうん、オジサンもその成長に嬉しいぞ。
「さて、ミケラルド殿。早速だが、君に頼みがあるのだ」
おっと、どうやら気に入ったというのは、俺の実力も含めてって事みたいだな。
「伺いましょう」
「実はこの一件、完全には解決していないと私は見ている」
「同感です。盗賊の親玉であるチャックの変死は、私も気になるところでした」
「よい目を持っているな。そこで、ミケラルド殿には、この真相の解明をお願いしたいと思っている。勿論、相応の礼を出そう」
悪くない話だ。侯爵家との繋がりも出来るし、この依頼なら報酬も期待できそうだ。
「でしたら、私から一点お願いがあります」
「聞こう」
「出来ればこの依頼を指名依頼というカタチで、冒険者ギルド経由からご依頼頂く事は出来ないでしょうか?」
「理由は?」
「出来れば早いところランクを上げたいというのが実情でして……」
「ふむ、現在のランクはCだったかな?」
俺が頷くと、ランドルフは少しだけ顎を揉んでから答えた。
「……これを機に冒険者ギルドとの結束を強くするのも悪くないか。仲介手数料が引かれてしまうがいいかね?」
「勿論構いません」
「わかった。ゼフ、いるか?」
「お呼びでしょうか、ご主人様」
先程の執事が扉から顔を出す。
扉の外で待っていたのか。という事は、この老人執事ゼフは、ランドルフから相当信頼されているという事だろう。
「ギルドに使いを出せ。冒険者ランクCのミケラルド殿に指名依頼をと」
「かしこまりました」
深々と頭を下げたゼフは、すぐにその場を離れ、廊下を歩いて行った。
「数十分程でギルドから依頼を受ける事が出来るだろう。それで、どう調べるつもりかね? 真相解明をと言ったが、現状八方手詰まりではないのかね?」
「いえ、気がかりはいくつかありますので、そちらから当たってみます」
「ほぉ、ならばミケラルド殿の実力――とくと見せさてもらおう」
サマリア侯爵家を出た俺は、冒険者ギルドで依頼を受けた。
その後、数日間囚人生活を耐えた自分へのご褒美に、少々お高めの食事を堪能しながら、今後の行動について考えていた。
盗賊の親玉チャックは、シェンドの町で死んだ。
俺が捕えてから一日と経たずに死んだんだ。身ぐるみ剥いだはずなのに、ナイフを持っていたという事は、殺された可能性が非常に高い。
つまり、チャックを捕えたという情報を一日以内で収集出来る人間が怪しい。
明らかに不自然な死に方。だが、犯人がそうせざるを得なかったとしたら、それは納得出来る。
チャックはあの晩死ななければならなかった。
何故か。
翌日、俺と一緒に、このリーガルへ護送される事になったから。
それを知っていたやつはごく少数に限られる。
マックスと他三人の兵士、レティシア……そして昨日、ランドルフに騎士の任を解かれた――シュバイツだ。
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