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第一部
その287 錚々たる顔ぶれ
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「冒険者を招致するって……本気ですか?」
「既にアーダインも前向きに考えている」
冒険者ギルドのトップがそう考えるのも確かに頷ける。
正直、闇ギルドの戦力は未知数。早い段階から高ランク冒険者の戦力を向上させたいところだろう。
「勇者エメリー、剣聖レミリアを筆頭に、ランクS冒険者や、それに匹敵する冒険者を集め、可能な限り力を付けてもらうのが狙いだ」
「……トテモヨイカンガエダトオモイマス」
「何だ、その目は? 案ずるな、冒険者ミケラルドに招致がかかる訳ないだろう」
やっぱり、今回は流石に関係ないよね。
「冒険者ギルド側が用意する講師陣に加わってもらう予定だ。ん? どうした、いきなり倒れこんで?」
「やるんですか? 講師?」
「冒険者ギルドが今ミケラルド殿に多くの依頼を課しているのには理由がある」
「早いところSSになってもらうってアレですよね?」
「SSになれば生徒も納得するからというのもある」
くそ、そういうカラクリか。
この過酷スケジュールには法王クルスが絡んでいたのか。
「元首にそれを課すというのも無理があるのでは?」
「週一回数時間のみだ。おそらく今よりは楽になるだろう」
「あーそれなら……」
「であろう? 正式に入学する聖騎士候補たちも当然いる。カリキュラムは少々特殊にはなるが、合同で受けてもらう」
「え、それって私が教えていいんですか?」
「剣神イヅナは勿論、私とアイビス、それに魔皇ヒルダも教鞭を振るった事がある。冒険者が講師をやる事は聖騎士学校では当たり前の事だ」
それでいて王女クリスはあんな性格になったのか?
冒険者が教えるならもっと何とかなりそうな気がするんだけどな。
勿論、聖騎士が教えて得るものもあるだろうけど、何か裏がありそうだな。
「各国から将来有望な若者が集い争う場だ。是非ともミケラルド殿の力を貸して欲しい」
「断るつもりはないですけどね。まぁまずはクルス殿の訪問からですね。護衛には聖騎士を?」
「無論だ」
「念のため、我が国からも護衛を派遣します」
「おぉ、リィたんかね?」
「流石、ご存じですね」
「我が国の間者が、リィたんの魔力を受けただけで泣きそうな顔で帰ってきた事があったぞ」
「そんな事言っていいんですか?」
「深い部分までは潜るなと言い含めてある」
そういう問題なのかな?
いや、そういう問題なのか。
この世界ならではなのかもしれないな。携帯電話がある訳じゃないんだし、気軽に「そっちの国どう?」なんて聞けないもんな。
法王クルスはきっと間者に、ミナジリ共和国の様子をただ聞いているだけなのだろう。
なるほど、中々良い王じゃないか。法王国なんて言うから、もっと宗教的な国なのかと思ったが、そうでもないようだな。まぁ、皇后アイビスを見た時点である程度予測はついたけどな。
その後俺は、法王クルスと少しの雑談をした後、その場を後にした。
◇◆◇ ◆◇◆
「ふぅ」
ホーリーキャッスルを背に小さく息を吐く俺。
まずは依頼達成という事で冒険者ギルドに行くか。
そう思い、法王国の町並みを楽しみつつ、買い食いしつつ、っておや?
「ごめんよごめんよ!」
人ゴミを掻き分けながら泳ぐようにこちらに向かって来るボーイッシュ少女が一人。
うーむ、中々の手並み。
俺は華麗にその子をかわし、横目で見送る。
「うぇ?」
かわされると思っていなかったかのような反応だが、すぐに平静を取り戻し、真っ直ぐ走って行く。
俺はその子の後ろを追い、法王国の裏通りへと入って行く。
やがて見えてくる小さな広場。そこでは子供たちが集い、車座になりながらヒソヒソと話していた。
「はい、リック。大事にな」
「うん」
「ほら、ティナ。無駄遣いしちゃダメだからね」
「わかってるって」
「ソイシャ、誰も来てない?」
「うん、まだ大丈夫だよ。セリス」
まぁ、壁の上に立ってたら気付きませんよね。
どの国でも貧富の差はあるし、こういったコミュニティが出来てしまうのも仕方がない。俺が避けたボーイッシュ少女の名はセリス。彼女は人ゴミを掻き分けながら鮮やかな手並みで財布を抜き取っていた。
当然、俺はスられたくないのでかわした訳だ。
なるほど、ここで密会し、貧しい者たちで本日のアガリを共有している訳か。
義賊……とは言えないが、仲間を養っているだけ見込みはある。
それから皆が消え、一人になったところでセリスが呟く。
「最後のあの男、絶対お金持ってたのに……残念」
下唇を噛みながら悔しさを見せるセリス。
「ごめんな。法王国のお金はあまり持ってないから、盗まれてやる訳にはいかないんだよ」
「へん、いつか盗んで見せるさ……ん?」
顔を上げるセリスと、壁に立つ俺の目が合う。
「イヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!?」
裏路地に響くのは少女とは言え女の声。
当然、それを聞きつけた警邏隊がそこまで駆けつけて来る。
「どうしたんだ!?」
「こ、この男が……」
腰を抜かした少女と、壁に立つ俺。どう見ても悪者は俺。
「何だね君は!?」
こ、これは……!?
「コホン……何だね君はってか?」
「ぬぅ!?」
そうです、私が変なおじさんです。
「既にアーダインも前向きに考えている」
冒険者ギルドのトップがそう考えるのも確かに頷ける。
正直、闇ギルドの戦力は未知数。早い段階から高ランク冒険者の戦力を向上させたいところだろう。
「勇者エメリー、剣聖レミリアを筆頭に、ランクS冒険者や、それに匹敵する冒険者を集め、可能な限り力を付けてもらうのが狙いだ」
「……トテモヨイカンガエダトオモイマス」
「何だ、その目は? 案ずるな、冒険者ミケラルドに招致がかかる訳ないだろう」
やっぱり、今回は流石に関係ないよね。
「冒険者ギルド側が用意する講師陣に加わってもらう予定だ。ん? どうした、いきなり倒れこんで?」
「やるんですか? 講師?」
「冒険者ギルドが今ミケラルド殿に多くの依頼を課しているのには理由がある」
「早いところSSになってもらうってアレですよね?」
「SSになれば生徒も納得するからというのもある」
くそ、そういうカラクリか。
この過酷スケジュールには法王クルスが絡んでいたのか。
「元首にそれを課すというのも無理があるのでは?」
「週一回数時間のみだ。おそらく今よりは楽になるだろう」
「あーそれなら……」
「であろう? 正式に入学する聖騎士候補たちも当然いる。カリキュラムは少々特殊にはなるが、合同で受けてもらう」
「え、それって私が教えていいんですか?」
「剣神イヅナは勿論、私とアイビス、それに魔皇ヒルダも教鞭を振るった事がある。冒険者が講師をやる事は聖騎士学校では当たり前の事だ」
それでいて王女クリスはあんな性格になったのか?
冒険者が教えるならもっと何とかなりそうな気がするんだけどな。
勿論、聖騎士が教えて得るものもあるだろうけど、何か裏がありそうだな。
「各国から将来有望な若者が集い争う場だ。是非ともミケラルド殿の力を貸して欲しい」
「断るつもりはないですけどね。まぁまずはクルス殿の訪問からですね。護衛には聖騎士を?」
「無論だ」
「念のため、我が国からも護衛を派遣します」
「おぉ、リィたんかね?」
「流石、ご存じですね」
「我が国の間者が、リィたんの魔力を受けただけで泣きそうな顔で帰ってきた事があったぞ」
「そんな事言っていいんですか?」
「深い部分までは潜るなと言い含めてある」
そういう問題なのかな?
いや、そういう問題なのか。
この世界ならではなのかもしれないな。携帯電話がある訳じゃないんだし、気軽に「そっちの国どう?」なんて聞けないもんな。
法王クルスはきっと間者に、ミナジリ共和国の様子をただ聞いているだけなのだろう。
なるほど、中々良い王じゃないか。法王国なんて言うから、もっと宗教的な国なのかと思ったが、そうでもないようだな。まぁ、皇后アイビスを見た時点である程度予測はついたけどな。
その後俺は、法王クルスと少しの雑談をした後、その場を後にした。
◇◆◇ ◆◇◆
「ふぅ」
ホーリーキャッスルを背に小さく息を吐く俺。
まずは依頼達成という事で冒険者ギルドに行くか。
そう思い、法王国の町並みを楽しみつつ、買い食いしつつ、っておや?
「ごめんよごめんよ!」
人ゴミを掻き分けながら泳ぐようにこちらに向かって来るボーイッシュ少女が一人。
うーむ、中々の手並み。
俺は華麗にその子をかわし、横目で見送る。
「うぇ?」
かわされると思っていなかったかのような反応だが、すぐに平静を取り戻し、真っ直ぐ走って行く。
俺はその子の後ろを追い、法王国の裏通りへと入って行く。
やがて見えてくる小さな広場。そこでは子供たちが集い、車座になりながらヒソヒソと話していた。
「はい、リック。大事にな」
「うん」
「ほら、ティナ。無駄遣いしちゃダメだからね」
「わかってるって」
「ソイシャ、誰も来てない?」
「うん、まだ大丈夫だよ。セリス」
まぁ、壁の上に立ってたら気付きませんよね。
どの国でも貧富の差はあるし、こういったコミュニティが出来てしまうのも仕方がない。俺が避けたボーイッシュ少女の名はセリス。彼女は人ゴミを掻き分けながら鮮やかな手並みで財布を抜き取っていた。
当然、俺はスられたくないのでかわした訳だ。
なるほど、ここで密会し、貧しい者たちで本日のアガリを共有している訳か。
義賊……とは言えないが、仲間を養っているだけ見込みはある。
それから皆が消え、一人になったところでセリスが呟く。
「最後のあの男、絶対お金持ってたのに……残念」
下唇を噛みながら悔しさを見せるセリス。
「ごめんな。法王国のお金はあまり持ってないから、盗まれてやる訳にはいかないんだよ」
「へん、いつか盗んで見せるさ……ん?」
顔を上げるセリスと、壁に立つ俺の目が合う。
「イヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!?」
裏路地に響くのは少女とは言え女の声。
当然、それを聞きつけた警邏隊がそこまで駆けつけて来る。
「どうしたんだ!?」
「こ、この男が……」
腰を抜かした少女と、壁に立つ俺。どう見ても悪者は俺。
「何だね君は!?」
こ、これは……!?
「コホン……何だね君はってか?」
「ぬぅ!?」
そうです、私が変なおじさんです。
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