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23:三個目!!
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ヤニクは下腹部の違和感で目覚めた。ちょっと慣れてきた感じがする感覚である。下腹部がぽかぽかする。卵ができたのだろう。
ヤニクは大きな欠伸をしてから起き上がり、すーっと静かな寝息を立てているヴィーターの肩を掴んで、ゆさゆさと優しく揺さぶった。ヴィーターが目を開けて、眠そうな半眼でヤニクを見た。
「……できたか」
「できた!! 三個目!!」
「朝食が終わったら医務室に行くぞ」
「おう」
ヴィーターが起き上がり、小さく欠伸をしてから、ヤニクの腰を抱いて、ヤニクの唇に触れるだけのキスをした。
「無事に八の月までに三個目の卵ができたな」
「うん。ありがとう。ヴィーター。すっげぇ嬉しい」
「礼を言うことじゃない。伴侶を手放さずに済んで、私も嬉しい」
「次は女の子がいいな」
「そうだな。男ばかりだと賑やかになり過ぎるかもしれない。お前に似ているから」
「俺にばっか似てねぇよ。特にヴィルはアンタに似てるだろ」
「歩き始める頃には、どっちに似ているかハッキリするだろうな」
「2人ともたまに笑うから、そこは俺似なのかな?」
「お前に似た方がいい。笑った顔が可愛い」
「どーも? 俺だって可愛くはねぇよ」
「可愛いぞ」
「可愛くない」
「可愛い」
「可愛くない」
ヤニクの笑顔を『可愛い』と主張して頑として譲らないヴィータ―と言い合いっこをしていると、盥を持ったデリークが寝室に入ってきて、呆れた顔をした。
「仲がよろしくて大変結構ですが、早く身体を清めて服を着てくだされ」
「あ、デリーク。三個目の卵ができた」
「おぉ! それはおめでとうございます。朝食後は医務室に行かれますか?」
「あぁ。念の為、医者にも確認してもらう。ヤニク。食べたいものを考えておけ。用意できるものは用意させる」
「食べたいもの……アンタと食べる時はアンタと同じものがいい。それ以外だと、卵入りの雑穀粥とか? あ、干し肉が残ってるなら干し肉食いてぇ。デリークが買ってきてくれたやつ。あと、キリリの実」
「厨房の料理人達は、滅多に作りませんが、菓子の類も作れますよ。キリリの実を使った焼き菓子など如何でしょう」
「食いたいっ!」
「厨房の者に伝えておきましょう。他に食べたいものがございましたら、いつでもお申し付けください」
「うん。あ、ヴィーター」
「なんだ」
「デリークってさ、アンタの剣の師匠でもあるんだろ? 次の子供の名前をデリークにつけてもらうのはどうだ?」
「いいな。デリーク。頼んだ」
「なんと光栄な……本当によろしいのでしょうか」
「あぁ。お前からすれば、孫のようなものだろう。しっかり名前を考えておいてくれ」
「かしこまりました。このデリーク。生まれてくるお子様にふさわしいお名前を考えさせていただきます」
「考えすぎて睡眠不足になるなよ。デリーク。日中は俺の見張りしてもらうし」
「はい。……実は、命名辞典は持っておりますので、ヤニク様がお休みになられている時に考えさせていただきます」
「命名辞典なんてあるんだ」
「はい。ヤニク様にとご用意したものがございます」
「魔物の繁殖期が終わったら、産めなくなるまで頑張るつもりだから、寝れなくて暇な時に読ませてくれよ」
「勿論、よろしゅうございます」
「ヤニク。何個卵を産めるか、記録に挑戦してみるか?」
「いいぜー。ちなみに、今のところ最高で何個なんだ?」
「確か、三十二個」
「うん。三十超えは無理だわ」
「諦めるのが早い。せめて二十は目指す」
「二十もきつそうだけど、まぁ頑張る。主にヴィーターが」
ヤニクは、喋りながら盥のお湯で身体を拭くと、寝間着を着た。普段の格好に着替えたヴィーターと一緒に、ヴィーターの私室で手早く朝食を食べ、早速医務室に向かう。
医務室の医者から、卵を孕んでいると確認してもらうと、ヤニクはヴィーターと手を繋いで、ヴィーターの寝室に戻った。じわじわ眠い。それに腹も減ってきた。卵を孕んでいる間は、基本的に食っちゃ寝生活だ。5日くらいなら、筋肉には然程影響はないが、卵に魔力を注ぐ10日間も含めたら、やはりどうしても身体が鈍る。
ヴィーターから、三個目ができたら性行為は暫くしないと言われているので、魔獣の繁殖期が終わるまでは、我慢である。キスくらいはしてもいいだろうから、隙あらばキスをする気満々である。
ヴィーターと触れ合うのに、すっかり慣れきっており、ヴィーターと一緒にいる時に触れ合わないと、なんか違和感がある。ヤニクは、ヴィーターにキスをしてもらってから、仕事に行くヴィーターをベッドの上から見送った。
ヤニクがおやつに干し肉を齧っていると、汗だくのヴィーターが寝室に入ってきた。
「おふかれー」
「こら。咥えたまま喋るんじゃない」
「ん。……ん。お疲れ」
「あぁ。体調に変化は?」
「いつもと一緒。やたら眠くて、やたら腹が減る。あ、一緒に干し肉食おうぜ。これ美味い」
「では、一つだけもらおう」
「そういや、今日は鍛錬日だったな」
「あぁ。全体的に練度が上がってきている。来年の春までには、もっとよくなっているだろう」
「俺も生まれたら頑張ろ」
「そうしろ。……ところで、デリーク」
「はい」
「そのテーブルの上の紙の山はなんだ」
「お子様のお名前の候補です。どれも捨てがたい素晴らしい名前ばかりで、非常に悩ましゅうございます」
「なぁ、デリーク。寝る前より増えてねぇ?」
「増えましたな。お2人のお子様にふさわしいお名前の候補が多過ぎて、どのようにして決めようかと考えているところでございます」
「……あまり根を詰めすぎるな。今日卵ができたばかりだ。生まれるまでに時間はまだある」
「御意。ヤニク様のお世話をしつつ、楽しく考えさせていただきます」
「そうしろ」
デリークが三割増しくらい怖い笑みを浮かべた。デリークは大変ご機嫌なようである。ヤニクは、なんとなくほっこりしながら、干し肉を齧りつつ、ぽかぽかする下腹部をやんわりと撫でた。ヤニクの腹にいる命は、望まれて生まれてくる。そのことが、思っていた以上に嬉しい。きっと沢山愛されてくれるだろう。
ヤニクは、ベッドに腰かけて干し肉を齧っているヴィーターを見た。ヤニクが産んだ卵から生まれてくる子供達を愛する筆頭は、間違いなくヴィーターだ。なんだか嬉しくなって、ヤニクはへらっと笑った。
ヤニクの唇に触れるだけのキスをしてから、ヴィーターが鍛錬に戻っていった。ちょっと休憩しに来ただけらしい。干し肉を食べ終えたヤニクが、ベッドに横になり、大きな欠伸をすると、デリークに話しかけられた。
「ヴィーター様はよき伴侶を得られました。幸せなことです」
「俺って、よき伴侶?」
「はい。寄り添い合い、共に戦うことができ、子宝にも恵まれております。騎士にとっては、この上なく幸せなことでしょう」
「そういや、デリークは結婚はしてないのか?」
「一度だけ恋人ができたことがございますが、そこまでの縁ではございませんでした。そもそも、人に好かれる風貌ではございません故」
「ふぅん。デリークにもいい人が見つかればいいのに。デリークは優しいから、デリークの顔にビビらない相手なら、すぐに好きになってくれそう」
「私が、優しい……ですか?」
「うん。俺を扱き倒してくれてるのも、俺が生き延びられるようにしてくれてるだけだろ。子供達も可愛がってくれてるし、めちゃくちゃ優しいだろ」
「……そんなことは初めて言われましたな。『いつも顰め面だし、笑うと怖いから笑うな』とは、よく言われていたのですが」
「ふぅん。じゃあ、まだ巡り合っていないだけかもな。相性がいい奴に」
「ふふっ。仮にいたとしても、私はもうお爺ちゃんですよ。今更、恋をしたり、結婚なんてできませぬ」
「いいじゃねぇか。別に。何歳になっても恋はしたっていいだろ。いい人ができたら紹介してくれよ。ヴィーターと一緒に派手に祝うから」
「ふふっ。派手なのはちょっと……地味に祝っていただけますと嬉しいですな」
「じゃあ、地味にちょーお祝いする」
ヤニクは、デリークと顔を見合わせて笑った。楽しみがいっぱいだ。卵はまだまだ産む気だし、剣の師匠であるデリークにも幸せになってほしい。魔獣の繁殖期を乗り切れば、明るい未来が待っている。
ヤニクは、昼食の時間まで、うとうとと微睡みながら、愛されるために生まれてくる卵がいる下腹部をずっと優しく撫でていた。
ヤニクは大きな欠伸をしてから起き上がり、すーっと静かな寝息を立てているヴィーターの肩を掴んで、ゆさゆさと優しく揺さぶった。ヴィーターが目を開けて、眠そうな半眼でヤニクを見た。
「……できたか」
「できた!! 三個目!!」
「朝食が終わったら医務室に行くぞ」
「おう」
ヴィーターが起き上がり、小さく欠伸をしてから、ヤニクの腰を抱いて、ヤニクの唇に触れるだけのキスをした。
「無事に八の月までに三個目の卵ができたな」
「うん。ありがとう。ヴィーター。すっげぇ嬉しい」
「礼を言うことじゃない。伴侶を手放さずに済んで、私も嬉しい」
「次は女の子がいいな」
「そうだな。男ばかりだと賑やかになり過ぎるかもしれない。お前に似ているから」
「俺にばっか似てねぇよ。特にヴィルはアンタに似てるだろ」
「歩き始める頃には、どっちに似ているかハッキリするだろうな」
「2人ともたまに笑うから、そこは俺似なのかな?」
「お前に似た方がいい。笑った顔が可愛い」
「どーも? 俺だって可愛くはねぇよ」
「可愛いぞ」
「可愛くない」
「可愛い」
「可愛くない」
ヤニクの笑顔を『可愛い』と主張して頑として譲らないヴィータ―と言い合いっこをしていると、盥を持ったデリークが寝室に入ってきて、呆れた顔をした。
「仲がよろしくて大変結構ですが、早く身体を清めて服を着てくだされ」
「あ、デリーク。三個目の卵ができた」
「おぉ! それはおめでとうございます。朝食後は医務室に行かれますか?」
「あぁ。念の為、医者にも確認してもらう。ヤニク。食べたいものを考えておけ。用意できるものは用意させる」
「食べたいもの……アンタと食べる時はアンタと同じものがいい。それ以外だと、卵入りの雑穀粥とか? あ、干し肉が残ってるなら干し肉食いてぇ。デリークが買ってきてくれたやつ。あと、キリリの実」
「厨房の料理人達は、滅多に作りませんが、菓子の類も作れますよ。キリリの実を使った焼き菓子など如何でしょう」
「食いたいっ!」
「厨房の者に伝えておきましょう。他に食べたいものがございましたら、いつでもお申し付けください」
「うん。あ、ヴィーター」
「なんだ」
「デリークってさ、アンタの剣の師匠でもあるんだろ? 次の子供の名前をデリークにつけてもらうのはどうだ?」
「いいな。デリーク。頼んだ」
「なんと光栄な……本当によろしいのでしょうか」
「あぁ。お前からすれば、孫のようなものだろう。しっかり名前を考えておいてくれ」
「かしこまりました。このデリーク。生まれてくるお子様にふさわしいお名前を考えさせていただきます」
「考えすぎて睡眠不足になるなよ。デリーク。日中は俺の見張りしてもらうし」
「はい。……実は、命名辞典は持っておりますので、ヤニク様がお休みになられている時に考えさせていただきます」
「命名辞典なんてあるんだ」
「はい。ヤニク様にとご用意したものがございます」
「魔物の繁殖期が終わったら、産めなくなるまで頑張るつもりだから、寝れなくて暇な時に読ませてくれよ」
「勿論、よろしゅうございます」
「ヤニク。何個卵を産めるか、記録に挑戦してみるか?」
「いいぜー。ちなみに、今のところ最高で何個なんだ?」
「確か、三十二個」
「うん。三十超えは無理だわ」
「諦めるのが早い。せめて二十は目指す」
「二十もきつそうだけど、まぁ頑張る。主にヴィーターが」
ヤニクは、喋りながら盥のお湯で身体を拭くと、寝間着を着た。普段の格好に着替えたヴィーターと一緒に、ヴィーターの私室で手早く朝食を食べ、早速医務室に向かう。
医務室の医者から、卵を孕んでいると確認してもらうと、ヤニクはヴィーターと手を繋いで、ヴィーターの寝室に戻った。じわじわ眠い。それに腹も減ってきた。卵を孕んでいる間は、基本的に食っちゃ寝生活だ。5日くらいなら、筋肉には然程影響はないが、卵に魔力を注ぐ10日間も含めたら、やはりどうしても身体が鈍る。
ヴィーターから、三個目ができたら性行為は暫くしないと言われているので、魔獣の繁殖期が終わるまでは、我慢である。キスくらいはしてもいいだろうから、隙あらばキスをする気満々である。
ヴィーターと触れ合うのに、すっかり慣れきっており、ヴィーターと一緒にいる時に触れ合わないと、なんか違和感がある。ヤニクは、ヴィーターにキスをしてもらってから、仕事に行くヴィーターをベッドの上から見送った。
ヤニクがおやつに干し肉を齧っていると、汗だくのヴィーターが寝室に入ってきた。
「おふかれー」
「こら。咥えたまま喋るんじゃない」
「ん。……ん。お疲れ」
「あぁ。体調に変化は?」
「いつもと一緒。やたら眠くて、やたら腹が減る。あ、一緒に干し肉食おうぜ。これ美味い」
「では、一つだけもらおう」
「そういや、今日は鍛錬日だったな」
「あぁ。全体的に練度が上がってきている。来年の春までには、もっとよくなっているだろう」
「俺も生まれたら頑張ろ」
「そうしろ。……ところで、デリーク」
「はい」
「そのテーブルの上の紙の山はなんだ」
「お子様のお名前の候補です。どれも捨てがたい素晴らしい名前ばかりで、非常に悩ましゅうございます」
「なぁ、デリーク。寝る前より増えてねぇ?」
「増えましたな。お2人のお子様にふさわしいお名前の候補が多過ぎて、どのようにして決めようかと考えているところでございます」
「……あまり根を詰めすぎるな。今日卵ができたばかりだ。生まれるまでに時間はまだある」
「御意。ヤニク様のお世話をしつつ、楽しく考えさせていただきます」
「そうしろ」
デリークが三割増しくらい怖い笑みを浮かべた。デリークは大変ご機嫌なようである。ヤニクは、なんとなくほっこりしながら、干し肉を齧りつつ、ぽかぽかする下腹部をやんわりと撫でた。ヤニクの腹にいる命は、望まれて生まれてくる。そのことが、思っていた以上に嬉しい。きっと沢山愛されてくれるだろう。
ヤニクは、ベッドに腰かけて干し肉を齧っているヴィーターを見た。ヤニクが産んだ卵から生まれてくる子供達を愛する筆頭は、間違いなくヴィーターだ。なんだか嬉しくなって、ヤニクはへらっと笑った。
ヤニクの唇に触れるだけのキスをしてから、ヴィーターが鍛錬に戻っていった。ちょっと休憩しに来ただけらしい。干し肉を食べ終えたヤニクが、ベッドに横になり、大きな欠伸をすると、デリークに話しかけられた。
「ヴィーター様はよき伴侶を得られました。幸せなことです」
「俺って、よき伴侶?」
「はい。寄り添い合い、共に戦うことができ、子宝にも恵まれております。騎士にとっては、この上なく幸せなことでしょう」
「そういや、デリークは結婚はしてないのか?」
「一度だけ恋人ができたことがございますが、そこまでの縁ではございませんでした。そもそも、人に好かれる風貌ではございません故」
「ふぅん。デリークにもいい人が見つかればいいのに。デリークは優しいから、デリークの顔にビビらない相手なら、すぐに好きになってくれそう」
「私が、優しい……ですか?」
「うん。俺を扱き倒してくれてるのも、俺が生き延びられるようにしてくれてるだけだろ。子供達も可愛がってくれてるし、めちゃくちゃ優しいだろ」
「……そんなことは初めて言われましたな。『いつも顰め面だし、笑うと怖いから笑うな』とは、よく言われていたのですが」
「ふぅん。じゃあ、まだ巡り合っていないだけかもな。相性がいい奴に」
「ふふっ。仮にいたとしても、私はもうお爺ちゃんですよ。今更、恋をしたり、結婚なんてできませぬ」
「いいじゃねぇか。別に。何歳になっても恋はしたっていいだろ。いい人ができたら紹介してくれよ。ヴィーターと一緒に派手に祝うから」
「ふふっ。派手なのはちょっと……地味に祝っていただけますと嬉しいですな」
「じゃあ、地味にちょーお祝いする」
ヤニクは、デリークと顔を見合わせて笑った。楽しみがいっぱいだ。卵はまだまだ産む気だし、剣の師匠であるデリークにも幸せになってほしい。魔獣の繁殖期を乗り切れば、明るい未来が待っている。
ヤニクは、昼食の時間まで、うとうとと微睡みながら、愛されるために生まれてくる卵がいる下腹部をずっと優しく撫でていた。
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