おっさん寮母爆誕!〜鬼の騎士団長からお茶目で可愛い寮母になります!〜

丸井まー(旧:まー)

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21:料理教室

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 新年を迎えて少し経った。幸いにも新年を迎えた日には出撃がなく、いつもより少し豪華な夕食を食べられた。翌日の夕方には魔物が出没して、レオ達は出撃していた。

 休日の朝。ルーカスが目覚めると、レオに抱きしめられていた。最近では完全に慣れつつあり、レオという名の湯たんぽが出撃していない時はなんだか落ち着かなくなっている。出撃中は仮眠しかとらないので、別に構わないのだが。

 温かいレオにくっついてうとうと微睡んでいると、珍しくレオが先に覚醒した。
 むぎゅっと抱きしめられて、額にキスをされる。不快ではないが、調子に乗ってるレオのほっぺたを摘んで、思いっきり引っ張った。


「いひゃいいひゃい」

「調子に乗るなよ。この野郎」

「おはようございます。ルーカス様。今日は料理教室に行きませんか?」

「おはよう。料理教室?」

「はい。街の学校で定期的にやってるらしくて、申込みしておきました。ルーカス様の手料理が食べたいですし、ルーカス様に俺の手料理を食べてもらいたいです」

「料理はしたことがない」

「初心者向けの料理教室らしいので大丈夫ですよ。多分。俺もしたことがないです。二人で楽しく料理を体験してみましょうよ」

「……まぁ、それも一興か。構わん。行くぞ」

「ありがとうございます。朝飯はシチューのパイ包み焼きが美味い喫茶店に行きませんか? 冬の朝メニューらしいです」

「朝から手の込んだものを出しているな。行く」

「はい。では、起きますか」

「あぁ」


 レオが起き上がったので、ルーカスも起き上がり、ベッドから下りて洗面台の冷たい水で顔を洗った。髭を剃り、腰まである長い黒髪を手早く一本の三つ編みにする。
 騎士になったばかりの頃は髪を短く切っていたが、定期的に散髪に行くのが面倒くさいのと、相手は床屋とはいえ、背後で刃物を使わせるのに抵抗があり、怒られなかったのをいいことに髪を伸ばし始めた。今は伸び過ぎたら自分で適当に切っている。

 着替えてからレオと一緒に部屋を出て、ルーカスは放送室へと向かった。ルーカスは休みでも、他の者達は殆どが仕事だ。
 ルーカスは今日も騎士達を優しく起こしてやると、部屋に戻り、財布を肩掛け鞄に入れた。洒落た服を着たレオが来て、黒い布の塊を手渡してきた。広げて見てみれば、胸元にひよこの刺繍がしてあるエプロンである。


「俺と模様違いのお揃いですよ。俺のは猫です」

「おっさん達がお揃いのエプロンって痛くないか?」

「細かいことは気にしない方向で! 楽しければそれでいいんですよ」

「あっそ。腹減った。出るか」

「はい」


 レオと一緒に外に出れば、今日は晴れていた。雪が降るか、どんより曇っている日が多いので、少し珍しい。
 朝の鍛錬前の騎士達が雪かきしているのを横目に寮を出て、お目当ての喫茶店へと向かう。
 あちらこちらで雪かきをしている人々の姿が見える。この街は比較的降雪量が多い方だ。
 晴れていてもかなり冷えるせいか、義足の付け根あたりが鈍く痛む。レオに気づかれると面倒なので、ルーカスは表情には出さずに、積もった雪を踏みしめながら歩いた。

 喫茶店で腹の内側から温まると、料理教室が行われるという街の学校へと移動した。
 会場である教室に入れば、既に来ていた者達がざわっとした。若い女が殆どだ。おっさん二人は確実に浮いている。
 レオと共に魔導コンロと水道がついている大きめのテーブルに移動して、模様違いのお揃いのエプロンを着けると、また何故かざわっとした。

 講師がやって来て、今日のメニューの作り方が書いてある紙を配った。
 今日のメニューは鶏肉と野菜のミルクシチューと温野菜サラダ、パンらしい。作り方を見れば簡単っぽく見える。
 講師の説明を聞き、手を洗ったら、早速調理開始である。

 ルーカスは玉ねぎの皮を剥いていた。茶色い皮は剥き終わって白いところが出てきたのだが、どこまで剥いたらいいのかがいまいち分からない。白い部分も剥いていたら、講師が来て『そこまでで十分ですよ』と言われた。
 人参の皮を包丁の背でゴリゴリして剥いているレオにも、同じことを言っていた。


「次は……芋の芽をとって、皮を剥く……芋の芽ってなんだ?」

「さぁ? この凹んでるところのことですかね? 包丁で突き刺して切ったらいいんですかね?」

「分からん」


 講師が来て、芋の芽について解説してくれた上で、芋の芽のとり方と皮の剥き方を実演つきで教えてくれた。
 なんとか歪な形に芋の皮が剥けると、野菜と鶏肉を一口大に切り、ミルクシチューの下拵えは完了である。

 レオにパン作りを任せている間に、シチューに入れるというソースを作る。
 計量した小麦粉をバターで炒め、少しずつ牛乳を入れていく。どろどろになったら、塩と胡椒を入れるらしいのだが、塩少々がどれくらいの量なのかが分からない。


「おい。レオ。塩少々ってどんぐらいだ?」

「さあ? 少なくとも、今ルーカス様が鷲掴んでる量ではないのは確かです。えーと、指先でちょっと摘む程度でいいみたいですよ」

「もっと具体的に書いてほしい……ちょっと摘むってどんぐらいだよ」

「少ないかな? くらいの量を入れてみて、味見して薄かったら足したらいいんじゃないですか?」

「そうする」


 ルーカスはがっつり鷲掴んでいた塩を容器に戻し、指先でちょっとだけ摘んだ塩を入れた。胡椒も同じくらい入れる。これでミルクシチューに入れるソースができた。……筈である。

 レオがパンを魔導オーブンで焼き始めたので、今度は鶏肉と野菜を炒めていく。鶏肉の色が白っぽくなったら水を入れて煮込み始める。
 鶏肉と野菜を煮込んでいる間に、温野菜サラダ用の野菜を湯がく。ここでも塩少々が出てきた。だから塩少々って具体的にどんくらいなのかと。

 サラダにかけるドレッシングは、ちゃんと分量が書いてあったので楽だった。ルーカスが計量した調味料を、レオがかき混ぜていく。とても簡単にできてしまった。

 あくとかいうものをとりつつ、鶏肉と野菜をしっかり煮込んだら、牛乳などで作ったソースを入れて、また煮込む。ふわふわと美味しそうな匂いがしている。
 温野菜サラダ用の野菜が煮えたので鍋のお湯から取り出し、皿にそれっぽく盛る。パンが焼き上がる音がしたので、パンを取り出すレオにくっつくようにして、焼き立てパンを眺めた。中々にいい焼き色で、ふわふわ湯気が立つパンがすごく美味しそうだ。


「美味そうだな」

「ですね。熱々のものを摘み食いしたいです」

「分かる」

「あっ! ルーカス様! シチューを混ぜないと!」

「あ、しまった。……ちょっと鍋の底にくっついてる感」

「火が強いんですかね?」

「さぁ? あ、ちょっと焦げてる」

「まぁ、食えないことはないでしょう」

「そうだな」


 ちょっと焦げたミルクシチューが完成した。
 他の者達も出来上がったようなので、実食の時間である。

 ミルクシチューはちょっと焦げ臭いが、食えないことはない。塩が少し薄い気がするが、肉や野菜にはしっかり火が通っている。温野菜サラダは普通に美味しかった。パンもふわふわ温かくて美味しい。


「簡単かと思っていたが、意外と難しいな。シチュー」

「ですねぇ。でもちゃんと食えますよ」

「俺は今寮の料理人達を尊敬している。こんな手間がかかるものを毎日作るとは……」

「あはは。確かにそうですね。とはいえ、料理は覚えておいて損はないと思うので、日程が合えばまた来ませんか? 老後は二人で小さな家で暮らすわけですし」

「おい? なんで二人で暮らすこと前提に話してるんだ?」

「小さめの家で庭にベンチを置いて手を繋いで日向ぼっこするのが夢なんですよね」

「その夢、木っ端微塵に粉砕していいか?」

「駄目です。俺はそれを楽しみに生きているので。一緒に料理や掃除をするのも楽しいですよ。きっと」

「……あっそ」


 ルーカスはなんとなく胸の奥がむずっとして、今のはなんだ? と内心首を傾げた。
 一応食えるがそんなに美味しくないシチューをレオが嬉しそうに食べている。またなんとなく胸の奥がむずっとする。

 特に趣味らしい趣味なんてないし、またレオに付き合うのも悪くないかもしれない。レオと料理をするのは存外楽しかった。完成品はいまひとつだったが、そのうち美味しいものが作れるようになるだろう。

 ルーカスは微妙なシチューを口に含んで、ほんの微かに口角を上げた。

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