おっさん寮母爆誕!〜鬼の騎士団長からお茶目で可愛い寮母になります!〜

丸井まー(旧:まー)

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23:素直になる方法

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 雪が溶け、すっかり春になった。寮母として働き始めてそろそろ一年になる。
 ルーカスはいつもの時間に目覚めると、ルーカスを抱きしめて穏やかな寝息を立てているレオの寝顔をじっと見た。ぐっすり熟睡しているのを確認してから、しれっとレオの唇にキスをする。なんとなく満足すると、もぞもぞとベッドから抜け出し、手早く身支度を整えてから、横を向いているレオの身体をころんと仰向けにして、鳩尾に肘を叩き込む。


「ごはっ!?」

「起きろ。朝だ」

「ルーカス様。できたらもう少し優しく起こしてくださいよ。毎朝鳩尾に肘はキツいものがあります」

「優しく起こしても起きないだろ。お前」

「え? 優しく起こしてくださってるんですか?」

「さぁな」

「えぇ……」

「とっとと起きろ。俺は騎士達を優しく起こさねばならん」

「あ、はい。『おはよう』のキスをしても?」

「嫌だ。断る。とっとと部屋に戻って身支度をしろ。朝の鍛錬が始まるぞ」

「はい。今日は諦めます」

「今後も諦めろ」

「嫌です。毎朝『おはよう』のキスをするのが目標なので」

「その目標叩き潰したい」

「勘弁してください」


 レオが何故か楽しそうに笑った。優しく起こせと言うが、キスをしても起きなかったくせに。
 枕と短剣を持ったレオと一緒に部屋を出て、ルーカスは足早に放送室へと向かった。今朝も優しく騎士達を起こしてから、厨房へと向かう。
 料理人達に朝の挨拶をすると、早速仕事に取り掛かる。寮母の一日が始まった。

 今日は幸いにも出撃がなかった。春になり、夏の修羅場が少しずつ近づいてくることもあって、騎士達の鍛錬はより厳しいものになっている。鍛錬で怪我をする者も少なくない。
 夕方の仕事を終えたら、『お悩み相談室』へと向かった。『お悩み相談室』も『お袋様』もすっかり定着している。

 ルーカスが『お悩み相談室』で相談者を待ち構えていると、おずおずとまだ十代半ばの若い騎士が入ってきた。少し前に入団してきた新人である。
 騎士が椅子に座り、手をもじもじさせながら口を開いた。


「あの……えっと……とっ! 友達が欲しいのですが、どうしたらいいでしょうか!?」

「まずは一緒に扱かれる同期の連中と話してみたらいいんじゃないか?」

「それが……その……人と喋るのが苦手で……でっ、でも! それを克服したいんです!」

「ふむ。いきなり同期の連中と話すのが難しいのなら、指導役の者と話す練習をしてみたらどうだ。もっと鍛えて欲しいと言って、追加で指導を受けていると、少しずつ会話が増えていくだろう」

「な、なるほど! もっと強くなりたいですし、一石二鳥ですね!」

「あぁ。夏の修羅場は聞いているだろう? 仲間と共に生きて帰りたければ強くなるしかない。お前自身の為にも、仲間の為にも、強くなるのはいいことだ。ついでに話す練習にもなる。仲間内でちゃんとコミュニケーションがとれないと、討伐の時に連携がとれない可能性もある。少しずつでいい。仲間となった者達と会話ができるように慣れていけ」

「はい! ありがとうございました! お袋様! ……思い切って相談室に来てよかったです」

「そうか。応援しているぞ。頑張ってみろ」

「はいっ! ありがとうございます!」


 若い騎士がまだ不慣れなのが分かる敬礼をして出ていった。初々しい感じになんともほっこりしてしまう。若いと素直で可愛いなぁと和みながら、ルーカスは次の相談者の話をしっかりと聴いた。

 今日の最後の相談者が出ていったので、ルーカスは部屋から出て自室へと向かった。
 着替えを取って共用風呂に行き、誰もいない広い浴槽でゆったりとお湯に浸かる。
 ルーカスは今日の最初の相談者を思い出して、あんな風に素直になるにはどうしたらいいのだろうかと考え始めた。

 レオはルーカスにとって特別な存在だ。それは認めよう。多分、レオのことが『好き』なのだと思う。ちょっと悔しいがそれも認めよう。
 認めたのはいい。が、それからどうしたらいいのかが分からない。素直に『好きだ』と言えばいいだけの話な気がするが、そんなに簡単に素直になれるようなら端から悩んでいない。

 素直になる方法が何かないだろうか。ルーカスは低く唸って考えてみたが、これ! という方法がまるで思いつかない。
 ルーカスは溜め息を吐きながらお湯から出て、脱衣場で身体を拭き、楽な格好に着替えてから長い髪を乾かし始めた。何気なく自分の髪を見れば、白髪がちらほらある。
 今更だが、レオは本当にこんな五十路前のおっさんがいいのだろうか。レオならば、もっと若くて美しい者をいくらでも選べるだろうに。

 髪を乾かしたルーカスは、脱衣場にある姿見で自分の顔を見た。着実に老けてきていると思う。眉間の皺は定着してしまっているし、目尻や口元にも皺がある。
 なんだかどんどん自分に自信が持てなくなっていく。
 こんなおっさんのどこがいいというのだ。
 ルーカスはまた溜め息を吐いて姿見から目を逸らし、脱衣場を出た。

 自室で短剣を暫し眺めてから、お気に入りになっているマグカップに寝酒を注いでいると、部屋のドアが静かにノックされ、枕と短剣を持ったレオが入ってきた。
 暖かくなってきたのに、レオは未だに毎晩のように押しかけ湯たんぽしに来る。それが嬉しい反面、なんだか落ち着かないし、ちょっと後ろめたい。

 レオのマグカップに酒を注いで手渡してやると、ルーカスはベッドに腰掛けた。
 ずりずりとレオが近づいてきて、ぴったりくっついてきた。思わずジト目でレオの横顔を見つめれば、レオがこちらを向いて、嬉しそうにはにかんで笑った。


「次の休みは三日後でしたよね。天気がよければ馬に乗って丘に行きませんか?」

「……行く」

「また軽めのワインを買って行きましょう。食い道楽の部下にオススメの屋台を聞いておきます」

「あぁ。……楽しみだな」

「はい。魔物が出没しないことを祈ります。もし出没しやがったら最短の時間で殲滅してきます。その後、デートということで」

「いや、魔物が出没した後は休めよ」

「デートがしたいので! 頑張ったご褒美があってもいいじゃないですか」

「ご褒美ねぇ……」

「あ」

「ん?」

「ルーカス様。もし魔物が出没してデートができなかったら、膝枕させてくださいよ。ご褒美です」

「そんなことでご褒美になるのか」

「ものすごくなりますね」

「お前、お手軽過ぎないか?」

「膝枕をするの、憧れなんですよ。あっ! デートの日は、今度は膝枕で昼寝しませんか?」

「いや、お前が寝れないだろ」

「ルーカス様の寝顔を堪能するので問題ないですね」

「やめろ。寝顔なんて間抜けなだけだろ」

「そうでもないですよ。ルーカス様は寝顔も麗しいので。あと単純に無防備にリラックスしてる顔が見たいだけです」

「あっそ。物好きめ」

「ふふっ。デートの為に頑張らなきゃなぁ」

「……無理はするなよ。そこそこいい歳なんだから」

「まだまだ現役バリバリですよ。でもお気遣いありがとうございます」


 レオが嬉しそうに笑った。ぽつぽつと今年の新人の話をしつつ寝酒を飲み終えると、マグカップを書物机の上に置き、ベッドに寝転がった。枕の下には短剣がある。なんとなく短剣に触れてから、ルーカスは寝る体勢になった。
 すぐ隣に寝転がったレオがやんわりと抱きしめてくる。レオの体温と匂いに落ち着くと同時にムラムラする。

 寝付きがいいレオの寝顔をジト目で見た。毎晩のように一緒に寝ているのだから、いい加減お互いに溜まっている。そろそろ襲ってくればいいのに。
 いっそのこと寝ているレオを襲うかと一瞬思ったが、レオが起きていないと意味がない。思いっきり抱きしめられて、貪るようなキスをして、腹の中をレオでみっちり満たして欲しい。

 ルーカスははぁっと熱い溜め息を吐き、今日もレオの体温にムラムラしながら静かに目を閉じた。
 素直になれる方法を思いつくのには、まだ時間がかかりそうだ。

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