もふもふ族長様のお嫁殿

丸井まー(旧:まー)

文字の大きさ
26 / 29

25:我が子がいる暮らし

しおりを挟む
 ナルはぺろぺろと顔を舐められる感覚で目覚めた。しぱしぱする目を開ければ、澄んだ青空みたいな色合いの瞳と目があった。


「おはよう。ナラントーヤ。今朝も早いねー。起こしてくれてありがとう」

「わふっ!」

「ん? 走りたいの? とと様起こして走りに行こうか!」

「わふっ!」


 ナルはにひっと笑って、小さな銀色の毛並みの狼を抱き上げた。
 雪が溶けて暖かくなり、息子のナラントーヤが無事に産まれてから暫く経つ。最近完全に乳離れしており、すくすくと元気に育ってくれている。

 ナルはドゥルグンを起こすと、眠そうな顔をしているドゥルグンが服を着てから、ドゥルグンの手を握り、片手でナラントーヤを抱っこして、うきうきと外に出た。

 ナラントーヤが乳離れしたし、そろそろ身体も回復しただろうということで、つい先日、やっとツェツェルから走る許可がもらえた。基礎鍛錬ができるようになったのも嬉しい。
 久しぶりに走ったら予想以上に身体が鈍っていたので、朝早くに親子三人で走るようになった。

 いきなり全速力に近い速さで走るのもよくないかと思い、ナラントーヤに合わせた速さで走っている。まだ生まれてから六十日ちょいしか経っていないのに、ナラントーヤは小さな身体で元気いっぱいに走る。獣人は成長が早いらしい。産まれてからすぐに歩いていたし、人間とはかなり違うようだ。
 とはいえ、流石に広い集落をぐるっと一周はまだ無理なので、ナラントーヤが疲れたら、ドゥルグンが抱っこしている。

 走ってスッキリしたら、水汲みをする。久しぶりだと地味にキツいが、衰えた体力筋力を取り戻したいので頑張る。
 水汲みをしている間は、ナラントーヤはちょろちょろナルの周りを歩き回っている。

 炊事場にツェツェルが来ると、ナラントーヤがダッと走ってツェツェルに抱っこされに行った。ツェツェルが笑顔で抱き上げてナラントーヤの顔を舐めると、ナラントーヤが嬉しそうに尻尾をふりふりした。


「おはようございます。かか様」

「おはよう。ナル。ナラントーヤも。二人とも今日も元気ね」

「はい! ナラントーヤは昨日より少し長く走りましたよ!」

「そう。子は元気なのが一番。ナラントーヤ。じじ様の所へ行っておいで。これから火を使うから危ない」

「わふ?」

「ふふっ。まだ分からないわね。ちょっとバトボルドに頼んでくるから、ナルはお湯を沸かして、先にナラントーヤ用の肉を湯がいていて」

「分かりました! よろしくお願いいたしますー」


 ツェツェルがご機嫌なナラントーヤを抱っこして、足早に炊事場から出ていった。
 ナラントーヤは完全に乳離れしており、今は味付けをしていない柔らかく煮た肉を解して食べさせている。大食らいなのはナルに似たようで、『そんなに食べて大丈夫……?』と少し心配になるくらい食欲旺盛だ。

 ナルがナラントーヤの肉を湯がいていると、ツェツェルが戻ってきた。
 朝餉を作りながら、ツェツェルが話しかけてきた。


「オヨーンが子を連れて遊びに来るのは今日だったわよね。……干した葡萄のお菓子でも作るかな……あっ。駄目だ。子達にはまだ食べさせられないから」

「干した葡萄のお菓子は食べてみたいですけど、私達だけで食べるのもなんだか可哀想ですしねー。もう少し大きくなって、子達が食べられるようになるまで楽しみにとっておきます!」

「ふふっ。そうして。昨日からずっとバトボルドがそわそわしている」

「あー。あね様の子とは初めて会いますもんねぇ。ガルツォグでしたよね? あね様の息子さんの名は」

「そう。ふふっ。楽しみで私もそわそわしてしまう。ナラントーヤと仲良くなったらいい」

「産まれたのも二日違いですから、一緒に遊べるといいですね」

「えぇ。あ、ナル。そこの棚の右から三つ目の小さな樽に入っている香草を少しだけ汁物に入れて」

「はい。……ふんふん。爽やかないい匂いがしますー。脂の多い肉と合いそう!」

「今朝の汁物は残ってた熊の干し肉だから。脂が多い熊や猪の肉には、それが一番合う」

「へぇー。覚えたいことがまだまだ山積みだなぁ。うん。少しずつ覚えていきます!」

「ふふっ。そうして」


 朝餉が出来上がったので、囲炉裏がある部屋に運べば、ナラントーヤは胡座をかいたバトボルドの膝の上で、ご機嫌に撫で回されていた。とても嬉しいようで、尻尾をぶんぶん振りまくっている。
 ナラントーヤは、特にバトボルドが大好きだ。たまに起きて部屋にナラントーヤがいない時は、いつもバトボルド達の部屋に突撃している。

 朝餉を食べると、ナラントーヤはバトボルドの足の上で丸くなって寝てしまった。


「とと様。ナラントーヤを部屋に寝かせてきます」

「よい。どうせ毛皮を干し終える頃にオヨーン達が来る。ドゥルグン。オヨーンに持たせるように、猪でも狩ってこい」

「分かった。とと様」

「ナルも猪が好きだから、うちの分もな。二頭だ」

「ゲレルを連れて行ってもいいか?」

「構わん。ゲレルももう十二になった。狩りの仕方をみっちり教えてやれ」

「分かった。ゲレル。頑張るぞ。昼前には猪を二頭狩って戻る」

「うん! あに様! すっごく頑張る!」


 やる気満々なドゥルグン達が出かけると、朝餉の後片付けをして、毛皮を庭に干し、手早く家の掃除をする。
 そろそろ来るかなぁと思っていたら、銀色の毛並みの小さな狼を抱っこしたオヨーンがやって来た。


「ただいまー。とと様。かか様。ナル。あら? ドゥルグンとゲレルは?」

「お前達に食わせる猪を狩りに行っている。昼頃には戻るだろう」

「あらぁ! ありがとう。ほら。ガルツォグ。じじ様とばば様とナルおじ様よ。それからナラントーヤ。あなたと同じ頃に産まれた」

「まぁまぁ、可愛いこと」

「どれ。こっちにおいで。じじ様だ」

「わー。可愛いー。あっ! 遅くなりました! あね様、無事の出産おめでとうございます!」

「ありがとう。あなたもね。本当はお祝いの品を持ってきたかったんだけど、ガルツォグの世話でいっぱいいっぱいで、何も作る余裕がなかった。落ち着いたら作って渡す」

「ありがとうございます! 私もあね様とガルツォグに何か作りたかったんですけど、やー、振り回されてますねー。毎日」

「ねー。あ、ガルツォグがナラントーヤを気に入ったみたい」

「あ、追いかけっこ始めちゃいましたね」

「ふふっ。すごく可愛い。ガルツォグも元気でよかった。オヨーン。身体はどう?」

「もうすっかり元気。あちらのかか様が、産後はたんさん食べて回復させなきゃって、滋養のあるものをいっぱい食べさせてくれてる」

「そうか。それなら一安心だ。今度はテムーレンも連れてくるといい。子が産まれて少し落ち着いたし、祝いの席でも設けよう。構わんだろ。ツェツェル」

「えぇ。ご馳走をいっぱい作る」

「はい! 栗鼠の汁物が食べたいです!」

「私は猪の炙り焼きがいい!」

「ふふっ。どっちも作る」

「魚の汁物もいいわねぇ。あっ! 木の実の焼き菓子も食べたい!」

「私もどっちも好きですー。かか様のご飯が美味しくて、毎日幸せです!」

「俺のツェツェルは集落一の料理上手だからな」

「とと様。惚気?」

「単なる事実だ」


 バトボルドは平然とした顔をしているが、ツェツェルは照れている。惚気っぽい。
 白湯を飲みながらわいわいお喋りしていると、デカい猪を担いだドゥルグンと、それより少し小さめな猪を担いだゲレルが戻ってきた。

 ぜー、はー、ぜー、はー、と荒い息を吐いて汗をだらだら流しているゲレルに冷めた白湯を渡せば、くっと一息で飲み干して、はぁーっと大きな溜め息を吐いた。


「重かった……」

「お疲れ様」

「あら! ゲレル。この猪、あなたが獲ったの?」

「うん! ちゃんと俺が獲った! ……ちょっとあに様に手伝ってもらったけど」

「上出来だ。ゲレル。今日の猪は捌かずにオヨーンの嫁ぎ先に運ぶ。鍛錬だと思って、また頑張って運べ」

「はい。とと様。あっ! それよりガルツォグはどこ!?」

「えー? さっきまで部屋の中を二人で爆走しまくってたけど……あ、部屋の隅っこで寝てますね」

「あらほんと。二人くっついてて可愛いわ」

「ナラントーヤはナルに似て既に自由人だが、ガルツォグもそうなのか?」

「ふふっ。幼子はあんなもの。食べたい時に食べて、走りたくなったら走って、寝たくなったら寝るもの」

「……そういえば、ゲレルがそんなかんじだったな」

「言われてみればそうね。目を離すとすぐにどこかに行っていた。一度なんて、医者のオジジの家まで走って行って、力尽きて寝ちゃってオジジが連れてきたことがある」

「あー。あったな、そういえばそんなことが」

「俺、自由人じゃないよ!?」

「幼子はそんなもの。オヨーンもドゥルグンも、まぁ色々やらかしてくれている」

「かか様。そこのところ、ちょっと詳しく。特にドゥルグン殿について」

「ナル。かか様から聞き出そうとするな」

「えー。だってー。ドゥルグン殿の小さい頃の話を聞いてみたいですよー」

「それより、そろそろ昼餉の支度を始めないと、ナラントーヤ達が起きたら絶対に腹が減ったと騒ぐぞ」

「それもそう。オヨーン。昼餉を食べて帰るだろう?」

「うん。久しぶりに一緒に作る」

「あね様も一緒だと嬉しいです。なんか楽しいー!」

「ふふっ。私も楽しい」


 上機嫌なツェツェルとオヨーンと一緒に炊事場に行き、お喋りをしながら、手早く昼餉を作った。
 出来上がった料理を囲炉裏がある部屋に運ぶと、部屋の隅で固まって寝ていたナラントーヤとガルツォグがバッと起き上がり、だだっと駆けてきた。

 ナラントーヤはドゥルグンとナルの間に座り、ガルツォグはバトボルドの膝の上に座った。バトボルドが嬉しそうにでれでれ笑っている。
 ナルは微笑ましいなぁと思いながら、賑やかな昼餉を楽しんだ。

しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

ネガティブなΩがスパダリαから逃げる

ミカン
BL
オメガバース

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

異世界オークションで売られた俺、落札したのは昔助けた狼でした

うんとこどっこいしょ
BL
異世界の闇オークションで商品として目覚めた青年・アキラ。 獣人族たちに値踏みされ、競りにかけられる恐怖の中、彼を千枚の金貨で落札したのは、銀灰色の髪を持つ狼の獣人・ロウだった。 怯えるアキラに、ロウは思いがけない言葉を告げる。 「やっと会えた。お前は俺の命の恩人だ」 戸惑うアキラの脳裏に蘇るのは、かつて雨の日に助けた一匹の子狼との記憶。 獣人世界を舞台に、命の恩人であるアキラと、一途に想い続けた狼獣人が紡ぐ、執着と溺愛の異世界BLロマンス。 第一章 完結 第二章 完結 第三章 完結

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

処理中です...