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13:セガールの休日
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セガールは、1人で港をぶらぶら歩いていた。
秋の豊穣祭も終わり、少しずつ冬の足音が聞こえてくるようになった。
シェリーもカールも秋の豊穣祭を満喫したようで、翌日に楽しそうに沢山話しをしてくれた。セガールにお土産を買ってきてくれた。露店で2人で選んだというペンダントで、シンプルだが上品なデザインのものだ。セガールは嬉しくて、毎日こっそり着けている。
海に来るのは随分と久しぶりだ。久しぶりに嗅ぐ潮の香りが心地よい。ほんの10年くらい前までは、頻繁に嗅いでいた匂いだ。今日の波は穏やかで、なんとも気持ちが落ち着いていく。
今日はカールは仕事で、シェリーは家庭教師のマルクから紹介してもらった産婆をしている老婦人に、女の子に必要な知識を教えてもらっている。
マルクにダメ元でこっそり相談してみたら、マルクは快く知り合いの老婦人を紹介してくれた。
マルクから教えてもらった住所の家に行けば、品のいい優しそうな老婦人が出迎えてくれた。挨拶をした後、『ここからは女性だけのお喋りの時間よ』と、セガールはやんわりと家から追い出された。
昼頃には終わるそうなので、その時間まで暇だから、久しぶりに港にまで足を運んだ。
海を眺めていると、気持ちが落ち着くが、同時に古傷が鈍く痛む。セガールは右足の膝から下がない。海賊との戦闘で、手入れもしていない錆だらけの剣で深く脛を切られ、その時は薬も足りていなかった事もあり、結局切断せざるを得なかった。陸に下りてから、走ることもできるような丈夫な義足を作ってもらい、暫くリハビリをして、漸く内勤として復職できた。妻と結婚したのは、復職して間がない頃だった。
セガールは子供の頃から、海が大好きだった。ずっと海軍の船乗りに憧れていて、成人する15歳で海軍に入隊した。それからは必死で訓練を頑張り、何度か死にそうな目に合いながらも、船に乗る日々を楽しんでいた。実を言えば、未だに船に乗ることに未練がある。カールが羨ましくなる時もある。
仕方がないことなのだが、片足を無くしてしまったことが未だに悔しい。
セガールは小さく溜め息を吐いてから、海から視線を逸した。
港にも市場がある。新鮮な魚介類が売られている。
セガールは夕食に何かいいものがないかと、物色し始めた。
シェリーの胃炎は治ったし、セガールの胃もほぼ完治している。暫くずっと穀物粥中心の生活をしていたが、もうそろそろ普通の食事に戻しても大丈夫だろう。
様々な魚や甲殻類が並ぶ中、セガールは大きな毛蟹を見かけた。記憶違いで無ければ、カールは蟹が一番の好物だった筈である。牡蠣も好きだった筈だ。シェリーは海老が好きだし、今夜は海産物祭りにしようと決めた。
セガールは、おおぶりの毛蟹を三杯と牡蠣を一山買い、大きな海老も三尾買った。保冷用の氷を一緒に袋に入れてくれたので、結構な重さになったが、カールやシェリーが喜ぶ顔を想像して、セガールは上機嫌で、ゆっくりと街へと戻り始めた。
昼食を街で食べる予定だったが、毛蟹等があるので、予定変更で、シェリーと合流したら、真っ直ぐ家に帰るつもりだ。
セガールが足早に老婦人の家を目指して歩いていると、遠目に別れた妻の姿が見えた。隣には、ひょろりと背が高い痩せた男がいる。2人は仲睦まじい様子で、買い物をしているようだった。妻は、離婚した時よりも、なんだかキレイになっていた。元々美人な女だったが、表情が、セガールと結婚していた時よりもずっと明るくて、魅力的な笑みを浮かべている。
セガールは2人から視線を逸し、早歩きで老婦人の家への道を歩いた。
自分でも不思議な程、幸せそうな元妻を見ても、なんにも思わない。
妻のことは、愛していると思っていた。大事な家族だと思っていた。妻が『真実の愛』とやらを見つけたように、セガールも本当は妻のことを愛していなかったのだろうか。
そんなことを思う程、離婚した幸せそうな妻を見ても、なんとも思わなかった。向こうがセガールに気づいたら気まずいかと思って、すぐにその場を離れたが、もしかしたら要らぬ気遣いだったのかもしれない。多分、向こうもセガールを見てもなんとも思わないだろう。
セガールは毛蟹等が入った大きな袋を片手に、老婦人の家の玄関の呼び鈴を押した。
ちょうど必要な話しが全て終わっていたようで、シェリーは老婦人とホットミルクを飲みながらお喋りをしていた。
セガールは老婦人にお礼を言って、蟹が好きかどうかを聞いてから、毛蟹を一杯、老婦人に差し出した。セガールとシェリーは一杯を分けっこするくらいで十分だ。老婦人が嬉しそうに笑って毛蟹を受け取り、お土産にと、手作りのクッキーをくれた。
玄関先で見送ってくれる老婦人が、ニコニコと優しく笑って、シェリーの頭をやんわり撫でた。
「いつでも遊びに来てちょうだい。若い子とお喋りすると元気が出るわ。次に来るときは、お勧めの本を教えてちょうだいな」
「はい。今日はありがとうございました」
「ふふっ。そう堅苦しくなくていいのよ。お勉強は今日でお終いだもの。ねぇ。シェリーちゃんさえよければ、私とお友達になってくれないかしら」
「いいよ。よろしくね。アンナおばあちゃんと、アンナちゃん、どっちがいい?」
「アンナちゃんがいいわ。その方が気持ちが若返るもの!じゃあね。シェリーちゃん。またいつでも来てちょうだい」
「うん。ありがと。アンナちゃん。またね」
「アンナ先生。今日はありがとうございました」
「いえいえ。若いお友達が増えて、すっごく嬉しいわ。次はカールさんも一緒に3人で遊びにいらしてくださいな。とっておきのミートパイをご馳走するわ」
「ありがとうございます。是非ともお伺いさせていただきます」
「えぇ。じゃあ、2人とも、気をつけて帰ってくださいな」
「はぁい。パパ。走って帰りたい」
「いいぞ。では、アンナ先生。失礼します」
「またね。アンナちゃん」
優しく微笑んで手を振ってくれた老婦人アンナに頭を下げてから、セガールはシェリーと一緒に走り始めた。街の中は小走りで、街を出たら、シェリーは全速力で走る。今はまだシェリーの全速力についていけるが、そのうちシェリーの足についていけなくなるだろう。義足では、走れる速さと時間にどうしても限界がある。
シェリーの成長が嬉しい反面、少しだけ寂しい。
丘の上の家に着くと、シェリーが楽しそうに笑った。
「風が気持ちよかった」
「寒くなかったか?」
「平気。風が強いと、自分も風になった気になるわ」
「ははっ!そいつは素敵だ。カールが帰ってきたら、また一緒に走っておいで」
「うん!お昼ご飯なに?」
「夜は海産物祭りだから、ハムでも焼くか。いい加減、雑穀粥には飽きているだろう?ハムと卵を焼いて、オープンサンドイッチにしよう」
「スープは南瓜のポタージュがいいわ」
「あぁ。いいな。作るの手伝ってくれ」
「いいわよ」
「友達が増えてよかったな」
「うん!カールが帰ってきたら報告しなくちゃ!」
「カールも喜ぶよ」
「うん!」
セガールは買ってきた毛蟹等を魔導冷蔵庫に入れると、手を洗って、エプロンを着けた。カールとお揃いのエプロンを着けたシェリーと一緒に台所へ行き、2人でとりとめのないお喋りをしながら、昼食を作る。
「毛蟹はどうするの?」
「蒸そうかな。煮てもいいが、蒸した方が美味いんだ。牡蠣はオーブンで焼いて、海老はオイル煮にしよう。蟹や牡蠣は、味付けは其々で塩を振ったらいいだろう」
「海老食べるの久しぶりだわ。バゲットある?」
「あ、忘れてた。午後から買いに行こう。牡蠣用にレモンも欲しいし」
「うん。デザートに甘いもの欲しいわ」
「甘いもの……カールと一緒に行った菓子屋の場所は覚えているか?」
「勿論」
「じゃあ、そこで何か買おうか。カールが好きな店なんだろう?」
「うん。特にジャムクッキーが好きなんだって」
「じゃあ、ジャムクッキーを買おうか」
「うん。いいわよ。私もあそこのジャムクッキー好きだもの」
喋りながら手を動かしていると、あっという間に昼食が出来上がった。
2人で食べて、後片付けも一緒にやって、小半時程居間のソファーで昼寝をすると、再び街へと出かけた。必要なものを買って、帰宅してからのんびり読書をした。夕方になり、洗濯物を取り込んでいると、カールが帰ってきた。
「ただいまでーす」
「「おかえり」」
「いやぁ、つっかれましたー。まる一日、机仕事で。もう背中バキバキですよ。訓練の方がまだマシです」
「お疲れ。今日の晩飯は豪華だぞ」
「お。マジですか」
「毛蟹!焼き牡蠣!海老のオイル煮!」
「おぉ!!すげぇ!!やった!!蟹大好き!!」
「ははっ!洗濯物を任せていいか?俺は先に仕込み始める」
「了解であります!すぐに着替えてきます!」
カールがパァッと明るい笑みを浮かべて、バタバタと走って家の中に入っていった。
シェリーが可笑しそうにクスクス笑いながら、干していたタオルを手に取って、洗濯籠の中に入れた。
「カール。すごい喜んでた」
「記憶違いじゃなくてよかったよ」
「あとタオルがちょっとだし、パパは先に仕込みに行ってよ。カールが早く食べたいだろうし」
「あぁ。じゃあ、残りは頼むよ」
「うん」
セガールは小さく笑って、シェリーの頭をやんわりと撫でてから、家の中に入り、手を洗ってエプロンを着けた。
台所に行き、蒸し器等、必要なものを取り出していく。
魚はよく食べるが、甲殻類は久しぶりに食べる。下処理の仕方を頭の中に思い浮かべて、セガールは早速下拵えに取り掛かった。
その日の夕食は一段と賑やかで、楽しいものだった。カールはシェリーに友達が増えたことを聞くと、満面の笑みを浮かべて、とても喜んだ。次の休みに一緒に遊びに行く約束もしていた。
カールは本当に蟹が好きらしく、それはもう幸せそうな顔で、あっという間に食べきってしまった。焼き牡蠣も海老のオイル煮もすぐに無くなった。
カールがこんなに喜ぶのなら、また港に買いに行こう。シェリーも連れて行ったら、珍しくて楽しいんじゃないだろうか。
セガールは、上機嫌にニコニコ笑っているカールとシェリーを眺めて、なんとなく、じわぁっと胸の奥が温かくなるのを感じた。
秋の豊穣祭も終わり、少しずつ冬の足音が聞こえてくるようになった。
シェリーもカールも秋の豊穣祭を満喫したようで、翌日に楽しそうに沢山話しをしてくれた。セガールにお土産を買ってきてくれた。露店で2人で選んだというペンダントで、シンプルだが上品なデザインのものだ。セガールは嬉しくて、毎日こっそり着けている。
海に来るのは随分と久しぶりだ。久しぶりに嗅ぐ潮の香りが心地よい。ほんの10年くらい前までは、頻繁に嗅いでいた匂いだ。今日の波は穏やかで、なんとも気持ちが落ち着いていく。
今日はカールは仕事で、シェリーは家庭教師のマルクから紹介してもらった産婆をしている老婦人に、女の子に必要な知識を教えてもらっている。
マルクにダメ元でこっそり相談してみたら、マルクは快く知り合いの老婦人を紹介してくれた。
マルクから教えてもらった住所の家に行けば、品のいい優しそうな老婦人が出迎えてくれた。挨拶をした後、『ここからは女性だけのお喋りの時間よ』と、セガールはやんわりと家から追い出された。
昼頃には終わるそうなので、その時間まで暇だから、久しぶりに港にまで足を運んだ。
海を眺めていると、気持ちが落ち着くが、同時に古傷が鈍く痛む。セガールは右足の膝から下がない。海賊との戦闘で、手入れもしていない錆だらけの剣で深く脛を切られ、その時は薬も足りていなかった事もあり、結局切断せざるを得なかった。陸に下りてから、走ることもできるような丈夫な義足を作ってもらい、暫くリハビリをして、漸く内勤として復職できた。妻と結婚したのは、復職して間がない頃だった。
セガールは子供の頃から、海が大好きだった。ずっと海軍の船乗りに憧れていて、成人する15歳で海軍に入隊した。それからは必死で訓練を頑張り、何度か死にそうな目に合いながらも、船に乗る日々を楽しんでいた。実を言えば、未だに船に乗ることに未練がある。カールが羨ましくなる時もある。
仕方がないことなのだが、片足を無くしてしまったことが未だに悔しい。
セガールは小さく溜め息を吐いてから、海から視線を逸した。
港にも市場がある。新鮮な魚介類が売られている。
セガールは夕食に何かいいものがないかと、物色し始めた。
シェリーの胃炎は治ったし、セガールの胃もほぼ完治している。暫くずっと穀物粥中心の生活をしていたが、もうそろそろ普通の食事に戻しても大丈夫だろう。
様々な魚や甲殻類が並ぶ中、セガールは大きな毛蟹を見かけた。記憶違いで無ければ、カールは蟹が一番の好物だった筈である。牡蠣も好きだった筈だ。シェリーは海老が好きだし、今夜は海産物祭りにしようと決めた。
セガールは、おおぶりの毛蟹を三杯と牡蠣を一山買い、大きな海老も三尾買った。保冷用の氷を一緒に袋に入れてくれたので、結構な重さになったが、カールやシェリーが喜ぶ顔を想像して、セガールは上機嫌で、ゆっくりと街へと戻り始めた。
昼食を街で食べる予定だったが、毛蟹等があるので、予定変更で、シェリーと合流したら、真っ直ぐ家に帰るつもりだ。
セガールが足早に老婦人の家を目指して歩いていると、遠目に別れた妻の姿が見えた。隣には、ひょろりと背が高い痩せた男がいる。2人は仲睦まじい様子で、買い物をしているようだった。妻は、離婚した時よりも、なんだかキレイになっていた。元々美人な女だったが、表情が、セガールと結婚していた時よりもずっと明るくて、魅力的な笑みを浮かべている。
セガールは2人から視線を逸し、早歩きで老婦人の家への道を歩いた。
自分でも不思議な程、幸せそうな元妻を見ても、なんにも思わない。
妻のことは、愛していると思っていた。大事な家族だと思っていた。妻が『真実の愛』とやらを見つけたように、セガールも本当は妻のことを愛していなかったのだろうか。
そんなことを思う程、離婚した幸せそうな妻を見ても、なんとも思わなかった。向こうがセガールに気づいたら気まずいかと思って、すぐにその場を離れたが、もしかしたら要らぬ気遣いだったのかもしれない。多分、向こうもセガールを見てもなんとも思わないだろう。
セガールは毛蟹等が入った大きな袋を片手に、老婦人の家の玄関の呼び鈴を押した。
ちょうど必要な話しが全て終わっていたようで、シェリーは老婦人とホットミルクを飲みながらお喋りをしていた。
セガールは老婦人にお礼を言って、蟹が好きかどうかを聞いてから、毛蟹を一杯、老婦人に差し出した。セガールとシェリーは一杯を分けっこするくらいで十分だ。老婦人が嬉しそうに笑って毛蟹を受け取り、お土産にと、手作りのクッキーをくれた。
玄関先で見送ってくれる老婦人が、ニコニコと優しく笑って、シェリーの頭をやんわり撫でた。
「いつでも遊びに来てちょうだい。若い子とお喋りすると元気が出るわ。次に来るときは、お勧めの本を教えてちょうだいな」
「はい。今日はありがとうございました」
「ふふっ。そう堅苦しくなくていいのよ。お勉強は今日でお終いだもの。ねぇ。シェリーちゃんさえよければ、私とお友達になってくれないかしら」
「いいよ。よろしくね。アンナおばあちゃんと、アンナちゃん、どっちがいい?」
「アンナちゃんがいいわ。その方が気持ちが若返るもの!じゃあね。シェリーちゃん。またいつでも来てちょうだい」
「うん。ありがと。アンナちゃん。またね」
「アンナ先生。今日はありがとうございました」
「いえいえ。若いお友達が増えて、すっごく嬉しいわ。次はカールさんも一緒に3人で遊びにいらしてくださいな。とっておきのミートパイをご馳走するわ」
「ありがとうございます。是非ともお伺いさせていただきます」
「えぇ。じゃあ、2人とも、気をつけて帰ってくださいな」
「はぁい。パパ。走って帰りたい」
「いいぞ。では、アンナ先生。失礼します」
「またね。アンナちゃん」
優しく微笑んで手を振ってくれた老婦人アンナに頭を下げてから、セガールはシェリーと一緒に走り始めた。街の中は小走りで、街を出たら、シェリーは全速力で走る。今はまだシェリーの全速力についていけるが、そのうちシェリーの足についていけなくなるだろう。義足では、走れる速さと時間にどうしても限界がある。
シェリーの成長が嬉しい反面、少しだけ寂しい。
丘の上の家に着くと、シェリーが楽しそうに笑った。
「風が気持ちよかった」
「寒くなかったか?」
「平気。風が強いと、自分も風になった気になるわ」
「ははっ!そいつは素敵だ。カールが帰ってきたら、また一緒に走っておいで」
「うん!お昼ご飯なに?」
「夜は海産物祭りだから、ハムでも焼くか。いい加減、雑穀粥には飽きているだろう?ハムと卵を焼いて、オープンサンドイッチにしよう」
「スープは南瓜のポタージュがいいわ」
「あぁ。いいな。作るの手伝ってくれ」
「いいわよ」
「友達が増えてよかったな」
「うん!カールが帰ってきたら報告しなくちゃ!」
「カールも喜ぶよ」
「うん!」
セガールは買ってきた毛蟹等を魔導冷蔵庫に入れると、手を洗って、エプロンを着けた。カールとお揃いのエプロンを着けたシェリーと一緒に台所へ行き、2人でとりとめのないお喋りをしながら、昼食を作る。
「毛蟹はどうするの?」
「蒸そうかな。煮てもいいが、蒸した方が美味いんだ。牡蠣はオーブンで焼いて、海老はオイル煮にしよう。蟹や牡蠣は、味付けは其々で塩を振ったらいいだろう」
「海老食べるの久しぶりだわ。バゲットある?」
「あ、忘れてた。午後から買いに行こう。牡蠣用にレモンも欲しいし」
「うん。デザートに甘いもの欲しいわ」
「甘いもの……カールと一緒に行った菓子屋の場所は覚えているか?」
「勿論」
「じゃあ、そこで何か買おうか。カールが好きな店なんだろう?」
「うん。特にジャムクッキーが好きなんだって」
「じゃあ、ジャムクッキーを買おうか」
「うん。いいわよ。私もあそこのジャムクッキー好きだもの」
喋りながら手を動かしていると、あっという間に昼食が出来上がった。
2人で食べて、後片付けも一緒にやって、小半時程居間のソファーで昼寝をすると、再び街へと出かけた。必要なものを買って、帰宅してからのんびり読書をした。夕方になり、洗濯物を取り込んでいると、カールが帰ってきた。
「ただいまでーす」
「「おかえり」」
「いやぁ、つっかれましたー。まる一日、机仕事で。もう背中バキバキですよ。訓練の方がまだマシです」
「お疲れ。今日の晩飯は豪華だぞ」
「お。マジですか」
「毛蟹!焼き牡蠣!海老のオイル煮!」
「おぉ!!すげぇ!!やった!!蟹大好き!!」
「ははっ!洗濯物を任せていいか?俺は先に仕込み始める」
「了解であります!すぐに着替えてきます!」
カールがパァッと明るい笑みを浮かべて、バタバタと走って家の中に入っていった。
シェリーが可笑しそうにクスクス笑いながら、干していたタオルを手に取って、洗濯籠の中に入れた。
「カール。すごい喜んでた」
「記憶違いじゃなくてよかったよ」
「あとタオルがちょっとだし、パパは先に仕込みに行ってよ。カールが早く食べたいだろうし」
「あぁ。じゃあ、残りは頼むよ」
「うん」
セガールは小さく笑って、シェリーの頭をやんわりと撫でてから、家の中に入り、手を洗ってエプロンを着けた。
台所に行き、蒸し器等、必要なものを取り出していく。
魚はよく食べるが、甲殻類は久しぶりに食べる。下処理の仕方を頭の中に思い浮かべて、セガールは早速下拵えに取り掛かった。
その日の夕食は一段と賑やかで、楽しいものだった。カールはシェリーに友達が増えたことを聞くと、満面の笑みを浮かべて、とても喜んだ。次の休みに一緒に遊びに行く約束もしていた。
カールは本当に蟹が好きらしく、それはもう幸せそうな顔で、あっという間に食べきってしまった。焼き牡蠣も海老のオイル煮もすぐに無くなった。
カールがこんなに喜ぶのなら、また港に買いに行こう。シェリーも連れて行ったら、珍しくて楽しいんじゃないだろうか。
セガールは、上機嫌にニコニコ笑っているカールとシェリーを眺めて、なんとなく、じわぁっと胸の奥が温かくなるのを感じた。
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