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3:アーリンの一日
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アーリンは日が昇る少し前に自然と目覚めた。
静かにベッドから下りて寝間着から着替え、こそーっと部屋を出て、狭い庭に向かう。
庭で日課の剣の素振りと基礎鍛錬をし終えると、着替えを取りに行ってから風呂場に向かう。ざっとシャワーで汗を流してから、髭を剃って服を着る。
鏡を見れば、癖のある濃いめの金髪と深い青色の瞳をした男が映っている。バーニー達はアーリンのことを『凛々しい男前だ』と言うが、自分ではそう思わない。母に似て美しい次兄に比べたら、自分なんか平凡そのものである。
髭を剃るために毎朝鏡を見るが、実を言えば鏡を見るのは好きじゃない。平凡で駄目な自分なんか見たくない。
アーリンは鏡から目を逸らし、食堂兼居間へと向かった。バーニーの祖母ブレンダとオードリーがテーブルに朝食を並べている。
「あら! おはよう。アーリン。今朝も早いわねー」
「おはよう。アーリン。今朝はね、ちょいと豪華だよ。残り物の鹿肉があったから鹿肉のシチューさね」
「お義母さんのシチューは絶品だから期待してな!」
「……お、おはよう」
「そろそろ男共が来るわねー。さぁて! 今日も忙しくなるわよー!」
オードリーが何故か楽しそうに笑った。
バーニー達がやって来ると、朝食の時間である。家族揃って食事をするのは朝食の時だけだ。朝から全員がっつり食べる。一日中働くからだろう。アーリンも素朴だが美味しいシチューをメインに、無言でしっかりと食べた。
朝食が終わると、アーリンはバーニーと一緒に仕入れに行く。大きな荷車を押して、街の外れにある八百屋へと向かう。バーニー曰く、その店が質のいい野菜を安くで扱っているらしい。
木箱に詰めた大量の野菜を荷車にのせたら、次は肉屋に向かう。
肉屋に着くと、バーニーが愛想よく肉屋の店主に声をかけた。
「おっはよー! おっちゃん。今日は珍しいのない?」
「おー。おはようさん。バーニー。今日は馬が入ってるぞ。足を折った馬がでたんだと」
「おっ! いいねぇ! じゃあ、馬肉多めで! あと他にオススメある?」
「豚もいいのが入った。下処理済みの内臓もあるぞ」
「もつ煮込み確定! んじゃ、豚肉と内臓もちょーだい! あと鶏肉山盛り」
「まいどぉ!」
肉屋の店主に手伝ってもらいながら荷車に大量の肉類をのせ、急いで店へと向かう。野菜と肉を厨房内に運んだら、今度は小麦粉や調味料類、酒を仕入れに行く。
馴染みの店で必要なものを仕入れると、重い荷車を押して店へと戻った。
仕入れたものを店の奥にある貯蔵室に運ぶと、仕込みの手伝いだ。
どうやらアーリンは手先は人並みに器用だったらしい。やり方を教えてもらったら、芋の皮剥きやキャベツの芯取りくらいならできるようになった。
大量の野菜を洗って、皮を剥いたりする。
アーリンができることが終わったら、今度は店内の掃除だ。丁寧に掃除をして、テーブルや椅子も拭き上げる頃には、開店時間になる。
バーロに言われて店のドアを開き、『開店中』の看板を出すと、昼食には少し早い時間だが、早速客が訪れた。
アーリンは注文を書くための紙とペンをエプロンのポケットから取り出して、おずおずと注文を取りに行った。
まだ慣れないからとついてくれているバーニーが大声で厨房のバーロに注文を伝えると、新たに入ってきた客の元へ注文を取りに行く。バーニーがついてくれているので、客から話しかけられてもなんとかなっている。
出来上がった料理や酒を運び、どんどん客が増え始めたら、厨房内に入った。洗い物が溜まってきているので、手早く食器類を洗い始める。
オードリーが注文を取ってくれるので、アーリンは配膳をしつつ、皿洗いをしつつ、客が帰った後のテーブルを拭きつつ、慌ただしく動き回った。
少し客が少なくなったタイミングで、交代でまかないを手早く食べると、また皿洗いと配膳とテーブル拭きをやる。最後の客が会計をして出ていくと、バーロに言われて『準備中』の看板を出した。
夜の仕込みまで半刻は休憩できる。皆、自宅に戻って昼寝をするので、アーリンも一緒に家に行き、自室になった部屋で昼寝をした。
起きて居間に行けば、ブレンダが香草茶を淹れてくれていた。ブレンダが焼いたというクッキーもある。どちらも素朴だが優しい味がして、なんだかほっとする。
夜の営業は、バリーとバーニーとアーリンだけだ。仕込みの手伝いで野菜を洗ったり、皮を剥いたりした後は、また店内の掃除だ。店主のバーロの方針で、店はいつでも清潔じゃないといけないそうだ。
テーブルや椅子も丁寧に拭いてから並べ、バリーに言われて『営業中』の看板を出すと、すぐに客がやって来た。
夜の営業は注文取りと配膳、会計がメインの仕事になっている。まだ慣れていないので、バーニーにかなり手伝ってもらっている。
客から注文を取り、厨房にいるバリー達に伝え、出来上がった料理や酒を運び、食べ終わった酔客から声をかけられて会計をする。
「1600デーレ」
「お兄ちゃん。1500にまけてくんない?」
「1600デーレ」
「ちぇっ。まぁいいや。うめぇ酒飲めたし。ほれ。2000」
「400デーレのおつり」
「ご馳走さん。美味かったよ」
「……ありがとう」
酔客がご機嫌に帰っていった。夜の営業は、八の鐘が鳴る頃までだ。最後の客を見送ると、アーリンはふぅと息を吐いて、看板を店内に入れた。鍵をしてから、今度は残っている皿洗いと店内の掃除、厨房の掃除である。
全部終わる頃には、十の鐘が鳴る頃に近い時間帯になる。
掃除を終えると、店の奥にある家に向かい、順番に風呂に入る。
バリーは風呂から出たら今日の売上計算までするそうだ。バーニーも手伝っている。
騎士として鍛えていたアーリンよりも、二人とも体力があるような気がする。
へろへろに疲れたアーリンは、風呂から出ると、ブレンダが作ってくれた温かい蜂蜜入りの牛乳をちびちび飲んでから、台所でマグカップを洗い、欠伸を連発しながら部屋へと向かった。
アーリンが使っている部屋は、元々はバーニーの姉の部屋だったそうだ。古ぼけているが、女の子が好きそうな花柄の壁紙で、ベッドはアーリンには少し小さい。寝られるから問題はないのだが。
布団に潜り込むと、お日様の匂いがした。ブレンダが昼間に布団を干してくれたようだ。もう70歳なのに、ブレンダも働き者である。
アーリンが『木漏れ日食堂』で働き始めて十日。今のところ、大きな失敗はしていない。バーニーがいつもすぐに助けてくれるというのが大きい気がする。
バーニーは糸目だが、それなりに整った顔立ちをしている。明るくて、誰とでも笑顔で話している。
バーニーのように明るい笑顔で喋れたら、アーリンも今とは違う生活ができていたのだろうか。
今の生活に不満はない。バーニーを筆頭に、バーニーの家族は戸惑ってしまう程皆優しい。明るくて、いつだって笑っていて、すごく賑やかだ。
アーリンには縁がなかった世界な気がする。そこに自分もいるのだが、空気のように扱われるのに慣れきっているせいで、喋りかけられても上手く受け答えができないでいる。
オードリーは『無口なのねー。そこも格好いいわ!』と言ってくれるが、ただ単にうまく喋れないだけである。格好よくなんてない。むしろ、ものすごく格好悪い。
バーニーが羨ましい。明るい喋り方、にこやかな笑み、物怖じしない性格、細かい気配りができるところ、やることが速くて正確なところ、料理上手なところ。全部、アーリンにはないものばかりだ。
この店で働いていたら、いつか、バーニーのようになれるのだろうか。そうなれたら嬉しいが、自分が明るく笑ってお喋りするところを想像することすらできない。
アーリンは小さく溜め息を吐いて、静かに目を閉じた。
静かにベッドから下りて寝間着から着替え、こそーっと部屋を出て、狭い庭に向かう。
庭で日課の剣の素振りと基礎鍛錬をし終えると、着替えを取りに行ってから風呂場に向かう。ざっとシャワーで汗を流してから、髭を剃って服を着る。
鏡を見れば、癖のある濃いめの金髪と深い青色の瞳をした男が映っている。バーニー達はアーリンのことを『凛々しい男前だ』と言うが、自分ではそう思わない。母に似て美しい次兄に比べたら、自分なんか平凡そのものである。
髭を剃るために毎朝鏡を見るが、実を言えば鏡を見るのは好きじゃない。平凡で駄目な自分なんか見たくない。
アーリンは鏡から目を逸らし、食堂兼居間へと向かった。バーニーの祖母ブレンダとオードリーがテーブルに朝食を並べている。
「あら! おはよう。アーリン。今朝も早いわねー」
「おはよう。アーリン。今朝はね、ちょいと豪華だよ。残り物の鹿肉があったから鹿肉のシチューさね」
「お義母さんのシチューは絶品だから期待してな!」
「……お、おはよう」
「そろそろ男共が来るわねー。さぁて! 今日も忙しくなるわよー!」
オードリーが何故か楽しそうに笑った。
バーニー達がやって来ると、朝食の時間である。家族揃って食事をするのは朝食の時だけだ。朝から全員がっつり食べる。一日中働くからだろう。アーリンも素朴だが美味しいシチューをメインに、無言でしっかりと食べた。
朝食が終わると、アーリンはバーニーと一緒に仕入れに行く。大きな荷車を押して、街の外れにある八百屋へと向かう。バーニー曰く、その店が質のいい野菜を安くで扱っているらしい。
木箱に詰めた大量の野菜を荷車にのせたら、次は肉屋に向かう。
肉屋に着くと、バーニーが愛想よく肉屋の店主に声をかけた。
「おっはよー! おっちゃん。今日は珍しいのない?」
「おー。おはようさん。バーニー。今日は馬が入ってるぞ。足を折った馬がでたんだと」
「おっ! いいねぇ! じゃあ、馬肉多めで! あと他にオススメある?」
「豚もいいのが入った。下処理済みの内臓もあるぞ」
「もつ煮込み確定! んじゃ、豚肉と内臓もちょーだい! あと鶏肉山盛り」
「まいどぉ!」
肉屋の店主に手伝ってもらいながら荷車に大量の肉類をのせ、急いで店へと向かう。野菜と肉を厨房内に運んだら、今度は小麦粉や調味料類、酒を仕入れに行く。
馴染みの店で必要なものを仕入れると、重い荷車を押して店へと戻った。
仕入れたものを店の奥にある貯蔵室に運ぶと、仕込みの手伝いだ。
どうやらアーリンは手先は人並みに器用だったらしい。やり方を教えてもらったら、芋の皮剥きやキャベツの芯取りくらいならできるようになった。
大量の野菜を洗って、皮を剥いたりする。
アーリンができることが終わったら、今度は店内の掃除だ。丁寧に掃除をして、テーブルや椅子も拭き上げる頃には、開店時間になる。
バーロに言われて店のドアを開き、『開店中』の看板を出すと、昼食には少し早い時間だが、早速客が訪れた。
アーリンは注文を書くための紙とペンをエプロンのポケットから取り出して、おずおずと注文を取りに行った。
まだ慣れないからとついてくれているバーニーが大声で厨房のバーロに注文を伝えると、新たに入ってきた客の元へ注文を取りに行く。バーニーがついてくれているので、客から話しかけられてもなんとかなっている。
出来上がった料理や酒を運び、どんどん客が増え始めたら、厨房内に入った。洗い物が溜まってきているので、手早く食器類を洗い始める。
オードリーが注文を取ってくれるので、アーリンは配膳をしつつ、皿洗いをしつつ、客が帰った後のテーブルを拭きつつ、慌ただしく動き回った。
少し客が少なくなったタイミングで、交代でまかないを手早く食べると、また皿洗いと配膳とテーブル拭きをやる。最後の客が会計をして出ていくと、バーロに言われて『準備中』の看板を出した。
夜の仕込みまで半刻は休憩できる。皆、自宅に戻って昼寝をするので、アーリンも一緒に家に行き、自室になった部屋で昼寝をした。
起きて居間に行けば、ブレンダが香草茶を淹れてくれていた。ブレンダが焼いたというクッキーもある。どちらも素朴だが優しい味がして、なんだかほっとする。
夜の営業は、バリーとバーニーとアーリンだけだ。仕込みの手伝いで野菜を洗ったり、皮を剥いたりした後は、また店内の掃除だ。店主のバーロの方針で、店はいつでも清潔じゃないといけないそうだ。
テーブルや椅子も丁寧に拭いてから並べ、バリーに言われて『営業中』の看板を出すと、すぐに客がやって来た。
夜の営業は注文取りと配膳、会計がメインの仕事になっている。まだ慣れていないので、バーニーにかなり手伝ってもらっている。
客から注文を取り、厨房にいるバリー達に伝え、出来上がった料理や酒を運び、食べ終わった酔客から声をかけられて会計をする。
「1600デーレ」
「お兄ちゃん。1500にまけてくんない?」
「1600デーレ」
「ちぇっ。まぁいいや。うめぇ酒飲めたし。ほれ。2000」
「400デーレのおつり」
「ご馳走さん。美味かったよ」
「……ありがとう」
酔客がご機嫌に帰っていった。夜の営業は、八の鐘が鳴る頃までだ。最後の客を見送ると、アーリンはふぅと息を吐いて、看板を店内に入れた。鍵をしてから、今度は残っている皿洗いと店内の掃除、厨房の掃除である。
全部終わる頃には、十の鐘が鳴る頃に近い時間帯になる。
掃除を終えると、店の奥にある家に向かい、順番に風呂に入る。
バリーは風呂から出たら今日の売上計算までするそうだ。バーニーも手伝っている。
騎士として鍛えていたアーリンよりも、二人とも体力があるような気がする。
へろへろに疲れたアーリンは、風呂から出ると、ブレンダが作ってくれた温かい蜂蜜入りの牛乳をちびちび飲んでから、台所でマグカップを洗い、欠伸を連発しながら部屋へと向かった。
アーリンが使っている部屋は、元々はバーニーの姉の部屋だったそうだ。古ぼけているが、女の子が好きそうな花柄の壁紙で、ベッドはアーリンには少し小さい。寝られるから問題はないのだが。
布団に潜り込むと、お日様の匂いがした。ブレンダが昼間に布団を干してくれたようだ。もう70歳なのに、ブレンダも働き者である。
アーリンが『木漏れ日食堂』で働き始めて十日。今のところ、大きな失敗はしていない。バーニーがいつもすぐに助けてくれるというのが大きい気がする。
バーニーは糸目だが、それなりに整った顔立ちをしている。明るくて、誰とでも笑顔で話している。
バーニーのように明るい笑顔で喋れたら、アーリンも今とは違う生活ができていたのだろうか。
今の生活に不満はない。バーニーを筆頭に、バーニーの家族は戸惑ってしまう程皆優しい。明るくて、いつだって笑っていて、すごく賑やかだ。
アーリンには縁がなかった世界な気がする。そこに自分もいるのだが、空気のように扱われるのに慣れきっているせいで、喋りかけられても上手く受け答えができないでいる。
オードリーは『無口なのねー。そこも格好いいわ!』と言ってくれるが、ただ単にうまく喋れないだけである。格好よくなんてない。むしろ、ものすごく格好悪い。
バーニーが羨ましい。明るい喋り方、にこやかな笑み、物怖じしない性格、細かい気配りができるところ、やることが速くて正確なところ、料理上手なところ。全部、アーリンにはないものばかりだ。
この店で働いていたら、いつか、バーニーのようになれるのだろうか。そうなれたら嬉しいが、自分が明るく笑ってお喋りするところを想像することすらできない。
アーリンは小さく溜め息を吐いて、静かに目を閉じた。
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