騎士団をクビになった落ちこぼれコミュ障騎士の再就職先は大衆食堂

丸井まー(旧:まー)

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2:『木漏れ日食堂』へようこそ!

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 バーニーに案内された店は、職業斡旋所に行く前に食事をした店だった。
 裏口から中に入り、厨房へ入ると、バーニーが50代くらいの男と20代後半の男に声をかけた。


「親父ー。兄貴ー。さっそく従業員見つけたぜ!! アーリンだ!」

「あー? でかした! いい身体してんじゃねぇか! 力仕事要員確保だな!」

「住み込みか? 俺はバリー。ここの長男兼料理人。あっちは親父のバーロ。お袋と俺の嫁さんは接客中だから後で紹介するわ。よろしく。アーリン」

「…………よろしく」

「バーニー。とりあえず皿洗いから始めてもらえー。昼の営業終わったら、夜の仕込みの前に給料とか細かい話すっからー」

「りょーかい。兄貴。アーリン。皿洗いってしたことある?」

「……ない」

「んじゃ! やり方教えるわ! あ、荷物はとりあえず隅っこに置いといてくれよ」

「あ、あぁ」


 アーリンはぽんぽんと交わされる会話に目を白黒させながら、厨房の隅っこに荷物を置き、バーニーと一緒に洗い場に立った。
 大量の皿やフォークなどがある。バーニーに洗い方を教えてもらってから、アーリンは黙々と食器類を洗い始めた。

 賑やかだった店内がすっかり静かになり、バーニーに手伝ってもらって初めての皿洗いをなんとか終えると、バーニーの父親バーロに声をかけられた。


「夜の仕込みまでちと時間があっから、その間に諸々の話をしようや。こっちで茶でも飲みながら話そうぜ」

「……あ、あぁ」


 厨房から出て、店内のテーブル席に全員が座った。
 アーリンはどうしたらいいのか分からず、挙動不審に目を泳がせ、気まずいのを誤魔化すように差し出されたお茶を飲んだ。ふわっと柔らかい爽やかな匂いがする。庶民の間で飲まれていると聞く香草茶なのだろう。初めて飲むものだが、なんだかほっとする風味だ。

 ずずっと香草茶を飲んだバーロが口を開いた。バーニーとよく似ている。主に糸目なところが。


「まずは改めて自己紹介な。俺はバーロ。今年で52だ。ここの店長兼料理人。店の奥に家があるから、住み込みならそこに住んでもらうことになる。空き部屋があるから、今日からでも問題ねぇ」

「あたしはこの人の女房のオードリーよ。永遠の18歳! 主に注文取りと配膳、会計をやってるわ」

「なぁにが18だよ。母ちゃん。今年で54だろうが。お・ば・ちゃん」

「あぁん? なんか言ったかい? 特大ズッキーニを尻にぶっ刺してやろうか」

「なんも言ってない! 旦那のケツに特大ズッキーニ突っ込もうとすんな!!」

「うふふー。あたしのこと『おばちゃん』って呼んだら、もれなく尻に特大ズッキーニぶっ刺すからそのつもりでー」

「親父。お袋。そのへんにしとけよ。長男のバリーだ。昼の営業は、親父と俺がメインで作ってる。こっちは嫁さんのベティ。今、妊娠中」

「ベティよ。よろしくね! うふっ! お義母さん! いい男が来たわね! 女の子のお客さんが増えそうだわ!」

「ね! ね! 背が高いし凛々しいし、いい客寄せにもなりそうよね! ほんと! でかした! バーニー!」

「あはー。どーもー。で、俺がバーニー。夜の営業は兄貴と俺がメインで作ってる感じ。なぁなぁ。俺的には、朝の仕入れからしてもらいてぇんだけど、夜の営業の時はどうする?」

「あー? アーリンの体力が大丈夫なら夜の営業終わりまで働いてもらいてぇところだが。アーリン。どうする?」

「…………働けるのならば働く」

「おっ。ありがてぇ。俺は腰が悪いし、母ちゃんは最近膝がわりぃんだよ。あんま長く働けなくなってきたから、ほんと助かるわ。アーリンの身の上を聞いても大丈夫か?」

「……貴族の生まれだが勘当された」

「お、おぉ。そうか。なんか大変だったな? あんま突っ込まねぇ方がよさそうだ。うん! これ以上は聞かねぇわ! バーニー。お前が見つけてきたんだから、お前が世話しろよー」

「あいよー。親父」

「あ! ねぇねぇ。ベティ。アーリンが今日から働いてくれるし、早めに実家に帰るのもいいかと思うんだけど。働き者のアンタのことだから、家にいても掃除やらなんやらして、じっとしてないでしょ」

「えー。大丈夫ですよー。お義母さん。ちょっとつわりがあるくらいだしー」

「だーめーよー。出産が命がけなのは当然として、妊娠中だって棺桶に片足突っ込んでるようなもんなのよー。アンタとお腹の子どもに何かあったらどうすんのよ。無事に生まれて落ち着くまでは、実家に帰って大人しくしてな」

「いい機会だから、お義母さんに裁縫習って、おむつや産着を量産してればいいんじゃないか? ベティ」

「うげっ。あたし、裁縫、苦手」

「知ってる。けど、なんかやることないと、お前、ちょろちょろ動き回るだろ? 大人しく裁縫してろ。夜の営業前に毎日顔見に行くからさ」

「うーー。分かったわ。いきなり今日からだと実家がバタバタするだろうから、今日のうちに知らせといて、実家がいいタイミングで実家に帰ります!」

「そうした方がいいわ! アンタの生命と赤ちゃんの生命が一番大事なんだからね! アンタが実家に帰ったら、店休日の時にご挨拶しに行くわ! アンタがお世話になるんだしね!」

「ありがとう。お義母さん。あっ! 手土産は木苺のパイがいいです! お義母さんが作る木苺のパイ大好物なの!」

「あらあら。いいわよ! 気合入れて作っていくわ!」

「やったー! ありがとう! お義母さん!」

「話はまとまったかー? んじゃ、アーリンの話に戻すぞー。この通り家族経営の店でな。んーー。頑張っても給料は月に10万デーレしか出せねぇんだけど、それで大丈夫か?」

「……構わない」

「昼と夜はまかないがあるし、朝飯も俺のお袋が作ってくれるからよ。飯の心配はしなくていいぜ」

「じいちゃんは一昨年亡くなってて、ばあちゃんはまだ元気。ばあちゃんが主に家のことやってくれてんの。ばあちゃんの飯は美味いから期待しててー」

「……あぁ」

「あ、夜の営業なんだけど、金額も書いてるメニュー表があるから、会計もお願いするわ! あたしは夜の営業は出ないのよ。あ、計算ってできる?」

「……問題ないかと……」

「あら! よかったー! えっとね、この紙に注文を書いて、んで、メニュー表見ながら支払いの金額を計算してくれたらいいから。いきなりメニュー表の金額全部覚えるのは無理だしね! 夜の営業は常連の酒飲み親父共がメインだから、ゆっくりでも大丈夫よ! 多分!」

「バーニー。お前、アーリンが慣れるまでは補佐しろよー」

「分かってるよ。親父。多分、厨房ちょこちょこ抜けるから、そのつもりでよろしく! 兄貴!」

「はいよ。まぁ、うちはメニューが少ない方だし、すぐに慣れるよ」

「昼の営業では酒はエールしか出さねぇから。夜の営業ではワインと蒸留酒も追加すっけど、どっちも銘柄は三種類だけだから、多分すぐに覚えると思うぜ。ここまでで質問はあるか?」

「……今はない」

「まぁ、分からんことがあったら、都度バーニーに聞いてくれ。今日からよろしく頼むな! アーリン! 『木漏れ日食堂』へようこそ! 歓迎するぜ!」

「……あぁ」


 バーロがニッと笑って片手を差し出してきたので、アーリンはおずおずとバーロの手を握った。ぎゅっと握られた手は分厚く、ところどころ硬かった。
 そろそろ夜の仕込みを始める時間になるということで、急遽実家に帰ることになった妊婦のベティとオードリーは、ベティの実家に説明がてら頼みに出かけていった。

 アーリンはバーニーに言われるがままに店内の掃除を始めた。貴族の子息が通う学園は全寮制だったので、掃除くらいは自分でしていたから一応できる。
 アーリンが掃除を終え、テーブルや椅子も全部拭いて並べると、次は野菜を洗う。

 アーリンは初めてのことにどきまぎしながらも、なんとか必死でバーニーの指示通りに動き続けた。


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