騎士団をクビになった落ちこぼれコミュ障騎士の再就職先は大衆食堂

丸井まー(旧:まー)

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6:お出かけ

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 店休日の朝。いつもの日課を終えて身支度を整えた後。アーリンは台所で朝食を作るブレンダとオードリーの手伝いをしていた。店休日の日は皆朝寝坊するので、いつもより朝食の時間が遅い。パンは作れるようになったので、ここ最近の店休日の日の朝はいつもパン作りをしている。

 捏ねまくって休ませたパン生地を成形して、魔導オーブンに入れて焼き始める。ブレンダが作っているベーコンと南瓜のスープがいい匂いで腹が鳴りそうになる。オードリーが作っている挽肉入りのオムレツも美味しそうだ。
 パンが焼け、ブレンダに習いながら香草茶を淹れていると、寝間着姿のバーロとバリーがやって来た。バーニーはいつも最後である。

 出来上がった朝食を居間のテーブルに運ぶと、ぼりぼり腹を掻きながらバーニーがやって来た。


「おはよー。腹減ったー」

「おはよう。ねぼすけ。ほら。座りな。朝ご飯だよ」

「うん。ばあちゃん。あ、やった。挽肉入りのオムレツでしょ? ちょー好きー。今日はいい日になるなぁ」

「はいはい。食べるよー」


 全員が座ったら、早速食べ始める。バーニーの真似をして、千切ったパンに挽肉入りのオムレツをのせて食べてみる。上品な食べ方ではないのだが、これが存外美味しい。ブレンダが作るスープはいつでも美味しいし、オードリーが作るオムレツも美味しい。パンもちゃんと上手くできている。

 黙々と朝食を食べていると、バーニーが口の中のものを飲み込んでから話しかけてきた。


「アーリン。今日は床屋と服屋に行こうか」

「……あぁ」

「ついでにステーキ食いに行こう。話題の店の味をチェックしとかないとね!」

「あ、バーニー。出かけるんならついでに髭剃り用の剃刀買ってきてくれ。そろそろ取っ手のあたりが壊れそうなんだわ」

「りょーかい。どんなのがいい? 親父」

「使いやすそうなやつ」

「うん。店員さんにオススメ聞いてから買うわ」

「よろしくー」

「ばあちゃんとお袋は買うものある?」

「そうねぇ。久しぶりに手芸屋さんの隣のお店のクッキーが食べたいねぇ」

「あら! いいわねぇ。お義母さん。あたしはその店の林檎パイがいいわ。早ければ、そろそろ出る頃だもの」

「寄ってみるよ。林檎パイがなかったらお袋もクッキーね」

「よろしくー。あたし達は、今日はベティの顔を見に行ってくるから、昼間はいないわよ」

「んー。わかった。義姉ちゃんによろしく言っといて。身体第一! って」

「わかったわ。伝えておくわね」

「俺達は晩飯まで食って帰るから、晩飯もいらないよー」

「はいよー。楽しんできなー」

「はぁい」


 アーリンが黙々と食べている間にぽんぽん交わされる会話を聞いているのがちょっと楽しい。
 アーリンはバーニーと一緒に朝食の後片付けをすると、財布をズボンのポケットに突っ込み、家を出た。

 先に床屋に案内してもらった。前髪が目にかかりそうなので、この際だからバッサリ短くしてもらうつもりだ。癖っ毛なので長いともさぁっと広がりやすいというのもある。いっそ丸刈りにしたいところだが、それをボソッと口に出したら、バーニーから『きれいな髪だからもったいない!』と言われてしまった。
 バーニー行きつけの床屋は、老爺と中年の男が二人でやっている店で、アーリンは老爺に切ってもらうことになった。

 老爺も無口なのか、無言で切ってくれるのが楽でいい。隣では、中年の男とバーニーが楽しそうに喋っている。もしかしたら、バーニーが気を利かせてくれたのかもしれない。喋らなくてもいいと思うと、なんだか気が楽だ。
 髪を切った後に頭を洗ってもらうと、随分とサッパリした。上の方は少し長めだが、両サイドと後頭部は刈り上げてくれている。なんだかちょっとお洒落っぽく見える。
 サッパリとした爽やかな感じの髪型になったバーニーが、アーリンを見て拍手をした。


「じいちゃん、さっすがー! ちょー似合ってる! 男前度が三割増し!」

「素材がいいからだよ」

「素材に加えてじいちゃんの腕がいいからだよ。また伸びたら来るねー」

「まいどあり」


 サッパリした頭で床屋を出て、次は服屋に向かう。途中に髭剃り用の剃刀を売っている雑貨屋があったので立ち寄って買い、バーニー行きつけの服屋に入った。
 庶民向けの服屋に入るのは初めてだ。今着ているものは、バリーとバーニーから貰ったものだ。どんな服を買ったらいいのか全く分からない。王都にいた頃は、服は使用人が用意してくるものだった。

 アーリンが戸惑っていると、バーニーが何着ものシャツやズボンを持ってきた。


「アーリン。試着してみてよ。どれも絶対に似合うから!」

「……あぁ」


 試着室なる所でバーニーが持ってきた服を着てみる。自分では似合っているのかいまいちよく分からないが、試着室のカーテンを開けると、バーニーが目を輝かせた。


「いいねいいね! すっごい似合ってる! 男前度が四割増し!」

「……そ、そうか」

「他のも着てみてよ。似合いそうなのを見繕ったからさ」

「……その……ありがとう」

「いえいえー! 楽しいからね!」


 バーニーが本当に楽しそうににっこぉと笑った。顔立ちは父親のバーロに似ているが、笑い方は母親のオードリーに似ている気がする。
 アーリンは、バーニーが持ってきてくれた服を全て試着して、ついでにブーツやコートも見繕ってもらい、結構な量の荷物を持って服屋を出た。

 ブレンダ達の馴染みの店だという手芸屋の隣にあった菓子屋に入ると、甘い匂いがふわふわ漂っていた。女子供しかいない空間に男二人でいるのが、なんとも気まずい。
 バーニーが気にせずに陳列しているものを眺めて、嬉しそうに笑った。


「林檎のパイがもう出てる。アーリン。昼飯前だけど、俺達も食わない? これ、ほんとに美味いんだよ」

「……あぁ」

「ばあちゃんのクッキーはこれかな。よし。会計したら中央広場で温かい香草茶買って食べよう!」

「……あぁ」


 バーニーが美味しいというものは、本当になんでも美味しい。林檎のパイもきっと美味しいのだろう。ちょっとワクワクしてきた。
 バーニーが会計をすると店を出て、中央広場へと向かって歩き始めた。

 温かい香草茶を買ってベンチに座り、紙に包まれた林檎のパイを早速食べてみる。サクサクのパイはバターのいい香りがして、シナモンが香る林檎はシャクシャクの食感が残っており、程よい甘さで素直に美味しい。爽やかな香りの香草茶ともよく合う。


「どう? 林檎のパイは」

「……美味しい」

「おっ! よかったー! 俺もこれ好きなんだよねぇ。パイはちょっと手間がかかるから、店のメニュー向きじゃないんだよなぁ」

「……中の……」

「ん?」

「……中の、林檎だけ」

「あぁ! それいいかも! 林檎をバターと砂糖とシナモンで炒めて焼き林檎にしたらデザートにちょうどいいな! 女の子にも受けそうだし! あっ! 卵のクリームを添えても美味しいかも! 夜に親父達と相談かな! アーリン! 素敵な発想ありがとう!」

「あ、い、いや……」

「ふふーっ。益々楽しくなってきた! さて。食べ終わったし、今度はステーキを食いに行きますか! ふっふっふ。話題のちょー美味しいらしいステーキソースがどんなものか楽しみだね!」

「……あぁ」


 楽しそうに笑うバーニーを見ているだけで、なんだかアーリンも楽しくなってくる。バーニーのように笑うことはできないが、アーリンは楽しくて、ワクワクして、目を細めた。

 美味しいステーキを堪能して、午後からは料理本と娯楽本を求めて古書店に行き、夕食を野菜料理が評判だという店で楽しんだ。

 家に帰り、風呂に入った後、バーニーが本当にバーロ達に林檎のデザートの話をしていた。『採用!』というバーロの一言で、林檎がある時期の店で出すデザートが決まった。
 明日から早速林檎も仕入れて、試作品を作ってみてから、数日中には店に出すようにするらしい。

 アーリンは部屋に引き上げると、楽しかった一日を思い出して、ほんの微かに口角を上げた。

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