騎士団をクビになった落ちこぼれコミュ障騎士の再就職先は大衆食堂

丸井まー(旧:まー)

文字の大きさ
10 / 25

10:ちょっとした騒動?

しおりを挟む
 アーリンが店のドアを開け、『開店中』の看板を出していると、背後から女の声がした。
 振り返れば、10代後半くらいの可愛らしい女の子がいた。
 客かと思ってドアを開けたら、女の子が顔を真っ赤にして叫んだ。


「好きですっ! 私と恋人になってください!!」


 アーリンは驚いて目を見開いた。アーリンなんかを好きになるだなんて余程変わった趣味をしているのだろう。誰かと恋人になるだなんて、アーリンにはハードルが高すぎる。
 アーリンはどうしたらいいのか分からず、挙動不審に目を泳がせながら、ボソッと断りの言葉を口にした。


「……すまない」

「好きな人がいるんですか!? 私じゃ駄目なんですか!?」

「………」


 どうしよう。かなり困った。バーニーに助けてもらいたいが、バーニーは厨房にいる。背中に嫌な汗をかき始めた。


「……す、すまない」

「わっ、私じゃ駄目な理由を教えてください!! じゃないと諦められません! アーリンさんのことが本当に好きなんです!!」

「…………すまない」


 目の前の女の子がわぁっと泣き始めた。通りかかる人達がじろじろと見てくる。ものすごく居心地が悪い。
 アーリンが困りまくっていると、中からひょいとバーニーが顔を出した。


「どしたのー? アーリン」

「……困って、いる」

「んー? お嬢さん、どうしたのかな?」

「アッ、アーリンさんに告白したのにっ! 断られてっ! その理由も教えてくれなくてっ! わ、私、アーリンさんのこと、本当に好きなのにっ!」

「あちゃー。彼女はどうなの? アーリン的には」

「……無理だ」

「ひっ、ひどいっ!!」


 知らない女の子と恋人になるだなんて、ハードルが高すぎて本当に無理だ。唯でさえ、まともに人と喋れないのに、恋人になるなんて無理にも程がある。正直に言っただけなのに、女の子の泣き声が大きくなった。
 助けを求めてバーニーを見れば、なにやら呆れたような顔をしている。


「あー。お嬢さん。お嬢さん。今日はとりあえず帰りな? 落ち着いて、それでもまだアーリンが好きなら、いきなり告白しないで、例えばデートに誘ってみるとか、段階にアプローチしていくのがいいんじゃないかな? ほら。アーリンからすれば、知らない女の子からいきなり告白されたわけだし?」

「なっ、何回もこの店に来てますぅ!」

「うん! ありがとう! でもほら、アーリンと個人的な話をしたことはないでしょ? まずは話ができるように、すこーしずつ歩み寄っていく感じがいいんじゃない?」

「ぐずっ。……分かりました。今日は帰ります。でも! 私! アーリンさんのこと諦めないですから!」


 女の子が泣きながら走り去っていった。なんだかどっと疲れて溜め息を吐くと、ぽんと優しく肩を叩かれた。


「一応聞くけど、あの子の名前知ってる?」

「……知らない」

「だと思ったー。やー。猪みたいな勢いのある女の子に好かれちゃったねぇ。よっ! モテ男!」

「……嬉しくない」

「そう? まぁ、アーリンと恋人になりたい女の子はいっぱいいるみたいだしー、相性がいい子と巡り会うこともあるかもよ?」

「………………恋人なんて無理だ」

「ん? そうなの? ……もしかして、アーリンも俺と同じ感じの人?」

「……いや」

「そっかー。まぁ、恋人なんて欲しくなった時につくればいいよね。さっ。そろそろ仕事を始めよう。ごめんねー! おじさん達! 待たせちゃって!」

「いいよいいよ。アーリンは男前だもんなぁ」

「女の子は泣かせちゃいかんぞ。アーリン」

「バーニーの今日のオススメはなんだ?」

「今日のオススメは豚肉の甘辛煮! デッカい塊肉をそのまま煮ててー、脂がとろとろで美味しいよ! 酒にもパンにも相性抜群! 一緒に根菜ゴロゴロスープもオススメ!」

「俺、それで」

「俺もー」

「俺もだ」

「はぁい。ありがとう! ほらほら! アーリン! 仕事仕事!」

「あ、あぁ」


 またバーニーに助けられた。アーリンはバーニーの存在に安心しながら、いつも通り働き始めた。
 少し客が落ち着いてきたので、ガツガツとまかないを食べていると、もぐもぐ咀嚼していたバーニーがちゃんと飲み込んでから問いかけてきた。


「アーリンは恋人いたことあるの?」

「……ない」

「失礼かもしれないこと聞くね。童貞?」

「……いや」

「そっかー。恋人欲しくない理由聞いても大丈夫?」

「…………なんか、無理」

「そっか。まぁ、俺も今は恋人欲しいって感じじゃないし、そういう時もあるよねー」

「……あぁ」


 本当は、アーリンのことを理解して、そっと隣に寄り添ってくれる誰かが欲しい。
『木漏れ日食堂』の人達は皆すごく優しくて、いつだって感謝している。でも、アーリンは彼らの家族ではない。とてもよくしてくれているが、あくまで従業員という立場だ。
 自分だけの特別な誰かがいてくれたら、きっとすごく幸せなんじゃないかと思う。
 だが、知らない女の子と恋人になるだなんてハードルが高すぎて本当に無理だし、そもそも友達すらできたことがないのに、恋人だなんて絶対に無理だ。
 仮に恋人になったとしても、何を喋ったりどんな行動をしたらいいのか分からず、相手に不快な思いをさせるだけな気がする。
 まともに喋れない、笑えない、気の利いたことの一つもできない、こんな最底辺の男が恋人だなんて、相手が気の毒過ぎる。

 アーリンはこっそり凹みながらまかないを食べきり、仕事に戻った。

 夜の営業が終わり、順番に風呂に入ると、部屋の前でバーニーに声をかけられた。


「アーリン。よかったら、明日の夜にでもこの間のバーに行って遊ばない? 気分転換!」

「……行く」

「おっ! やったね! 楽しもうね!」

「…………バーニーは……」

「ん?」

「……バーニーは、私なんかといて、その、楽しいのか……?」

「え? 普通に楽しいけど?」

「そ、そうか……」

「アーリンは楽しい? 俺すげぇお喋りでうるせぇけど」

「……その……す、すごく、楽しい」

「あ、ほんと!? やったー。んじゃ! 明日の夜楽しみにしとくね。おやすみ。アーリン。いい夢を」

「……おやすみ」


 アーリンは部屋に入ると、ベッドに上がってもぞもぞと布団の中に潜り込んだ。ブレンダが湯たんぽを入れてくれていたようで、布団の足元がじんわり温かい。

 アーリンはバーニーの言葉を頭の中に思い浮かべて、小さく足をバタバタさせた。
 アーリンは本当に喋るのが苦手だ。何をどう喋ったらいいのかが分からない。相手を不快にさせたらどうしようと不安にかられることも多い。
 うまく笑えないし、気も利かない。
 そんなアーリンでも、バーニーは一緒にいて楽しいと言ってくれた。それが嬉しくて、嬉しくて、いっそ泣いてしまいそうだ。

 アーリンは俯せになって枕を抱きしめ、本当に滲み出てきた涙を枕に吸わせた。
 バーニーはアーリンと一緒でも楽しんでくれる。夜の遊びにも誘ってくれたから、本当にアーリンが一緒でも楽しいのだろう。

 アーリンはふと思った。バーニーとずっと一緒にいられたらいいのに、と。
 そんなことは無理だと決まっている。アーリンはあくまで従業員だし、バーニーだって、アーリンに手を出さないと姉のエイミーに言っていた。

 チクンと胸の奥が微かに痛んだ。もし奇跡が起きて、バーニーと恋人になったら、バーニーがずっと側にいてくれることになる。だが、そんな日は来ない。
 アーリンが男相手に欲情できるのか分からないし、そもそもアーリンなんかよりも、バーニーにはいい相手がいくらでもいる。

 アーリンはずぅんと落ち込んで枕に顔を埋めたまま、すんと小さく鼻を啜った。
 いつでも笑いかけてくれるバーニーのことが好きなのだが、これが恋愛感情なのかは分からない。
 ただ、いつかはバーニーの隣は、バーニーが愛する誰かのものになる。そんな当たり前な事実が、何故か息苦しくなる程辛い。

 アーリンはぎゅっと目を閉じて、何も考えないように数字を数えながら、寝る体勢になった。
 胸の奥がじくじくと痛むのは、きっと気のせいだ。

しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

神具のクワで異世界開拓!〜過労死SE、呪われた荒野を極上農園に変えてエルフや獣人と美味しいスローライフ〜

黒崎隼人
ファンタジー
ブラック企業で過労死したシステムエンジニアの茅野蓮は、豊穣の女神アリアによって剣と魔法のファンタジー世界へ転生する。 彼に与えられた使命は、呪われた「嘆きの荒野」を開拓し、全ての種族が手を取り合える理想郷を築くこと。 女神から授かったチート神具「ガイアの聖クワ」を一振りすれば、枯れた大地は瞬時に極上の黒土へと変わり、前世の知識と魔法の収納空間を駆使して、あっという間に規格外の美味しい作物を育て上げていく。 絶品の「ポトフ」で飢えたエルフの少女を救ったことを皮切りに、訳ありの白狼族の女戦士、没落した元公爵令嬢、故郷を失った天狐の巫女、人間に囚われていた翼人族の少女など、行き場を失った魅力的なヒロインたちが次々と彼の農園に集まってくる。 蓮が作る「醤油」や「マヨネーズ」などの未知の調味料や絶品料理は、瞬く間に世界中の胃袋を掴み、小さな農園はいつしか巨大な経済網を持つ最強の都市国家へと発展していく! 迫り来る大商会の圧力も、大国の軍勢も、さらには魔王軍の侵攻すらも、蓮は「美味しいご飯」と「農業チート」で平和的に解決してしまう。 これは、一本のクワを握りしめた心優しい青年が、傷ついた仲間たちと共に美味しい食卓を囲みながら、世界一豊かで幸せな国家「アルカディア連邦」を創り上げるまでの、奇跡と豊穣の異世界スローライフ!

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

異世界オークションで売られた俺、落札したのは昔助けた狼でした

うんとこどっこいしょ
BL
異世界の闇オークションで商品として目覚めた青年・アキラ。 獣人族たちに値踏みされ、競りにかけられる恐怖の中、彼を千枚の金貨で落札したのは、銀灰色の髪を持つ狼の獣人・ロウだった。 怯えるアキラに、ロウは思いがけない言葉を告げる。 「やっと会えた。お前は俺の命の恩人だ」 戸惑うアキラの脳裏に蘇るのは、かつて雨の日に助けた一匹の子狼との記憶。 獣人世界を舞台に、命の恩人であるアキラと、一途に想い続けた狼獣人が紡ぐ、執着と溺愛の異世界BLロマンス。 第一章 完結 第二章 完結 第三章 完結

勇者パーティーを追放された「生きた宝箱」、無愛想な騎士団長に拾われて宝石のように愛でられる

たら昆布
BL
勇者パーティーを追放された魔法生物が騎士団長に拾われる話

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

成長を見守っていた王子様が結婚するので大人になったなとしみじみしていたら結婚相手が自分だった

みたこ
BL
年の離れた友人として接していた王子様となぜか結婚することになったおじさんの話です。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

処理中です...