騎士団をクビになった落ちこぼれコミュ障騎士の再就職先は大衆食堂

丸井まー(旧:まー)

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20:翌朝

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 アーリンが目覚めると、目の前にバーニーの穏やかな寝顔があった。腰とアナルが地味に痛い。昨夜の記憶はバッチリ残っている。
 アーリンはピシッと固まった。酔っていたせいか、自分でも驚く程大胆だった。バーニーといっぱいキスをして、いっぱい気持ちよくなって、なんだかすごく満たされた。
 が、今になって羞恥心がものすごい勢いで込み上げてくる。

 アーリンはずりずりと眠るバーニーから身体を離し、足元に丸まっていた掛け布団を取って、そのまま頭まですっぽり布団の中に潜り込んだ。真っ暗な布団の中で小さく蹲り、ぐるぐると考える。

 バーニーはアーリンのことを好きだと言った。アーリンもバーニーのことを好きだと言った。
 アーリンはバーニーのことが好きだ。それは間違いない。男同士のセックスは未知の世界だったが、実際にしてみれば、バーニーに愛されているような気がしてすごく幸せだったと思う。
 だが、バーニーはどうだろう。いっぱいキスをして、いっぱい気持ちよくしてくれた。いつもは細い糸目で瞳がいまいち見えないが、昨夜は興奮していたのか、ずっと目が見開いていて、熱を孕んだ新緑みたいな色合いの瞳がずっと見えていた。

 バーニーも本当にアーリンなんかのことが好きなのだろうか。アーリンは力仕事くらいしかできない。ちゃんと喋れないし、笑うこともできないし、可愛げなんて欠片もない。
 バーニーと恋人になってずっと一緒にいられたら、アーリンは幸せだと思う。だが、バーニーはどうだろう。
 会話が弾むことがないアーリンをつまらないと思う日がくるのではないだろうか。今は若いので身体はそれなりに魅力があるかもしれないが、そのうち歳をとれば、その魅力もなくなる。
 自分ではバーニーに釣り合わないし、仮に恋人になっても、そのうち飽きられる気がする。
 アーリンはずぅんと落ち込み、勝手に出てきた涙をシーツに吸わせて、ずずっと鼻を啜った。




ーーーーーー
 バーニーが目覚めると、すぐ横に布団の塊があった。どうやらアーリンが布団の中で蹲っているようである。微かに、ずずっと鼻を啜る音が聞こえた。
 泣く程嫌だったのか!? と慌てたバーニーは飛び起きて、おずおずとアーリンの背中に布団越しに触れた。ビクッとアーリンが震えたのが分かる。
 バーニーはおずおずとアーリンに声をかけた。



「アーリン。その……嫌だった?」

「…………」

「あー、あのさ。アーリンのこと、好きだって言ったのは本当のことで……お願いだから顔見せてくんない? ちゃんと話をしよう」

「…………いま……」

「ん?」

「…………不細工、だから、いやだ」

「え? アーリンは泣いても男前だよ? ていうか、可愛いよ?」

「……い、いやだ……」

「アーリン。お願い。顔見せて」

「…………恥ずかしい、から、いやだ……」

「アーリーーン。おーねーがーいー」


 バーニーは布団ごとアーリンの身体を抱きしめた。どうやら嫌で泣いていた訳ではないらしい。ほっとするが、アーリンが中々布団から出てきてくれない。
 バーニーは少し考えて、無理矢理布団の中に潜り込んだ。
 暗い中でアーリンの身体がビクッと微かに震えた。布団の中で小さく蹲っているアーリンの背中を宥めるように撫で、手探りで布団の端を掴んでいるアーリンの手を握ると、アーリンの手ごと勢いよく上に上げ、がばぁっと布団を剥いだ。


「わ、あ!?」

「うりゃー!」

「うむぅ!?」


 バーニーは、驚いた様子で顔を上げたアーリンの頬をむぎゅっと両手で押さえた。アーリンの唇があひるっぽくなって、ちょっと間抜けでかなり可愛い。
 ついついアーリンのあひる口にキスをすると、アーリンの目からぽろっと涙が一つ零れ落ちた。

 バーニーはこつんと額をくっつけて、アーリンの濡れた深い青色の瞳をじっと見つめた。


「アーリン。好きだよ」

「……わ……」

「わ?」

「……わ、私なんかが、バーニーに釣り合う筈がない……」

「ごめん。ちょっと頭突きしていい? 俺の好きな人を卑下するのはダメダメなのだよ」

「う……でも……」

「でも? この際だから色々全部ぶちまけちゃえー。ゆっくりでいいからさ。俺はアーリンのことがもっと知りたい。ははっ。もう開き直りますよー。だって可愛いし好きなんだもん」

「…………う、うまく、喋れない……」

「うん?」

「笑えもしない、気も利かない、何をしても駄目で……私なんかが、バーニーに好かれていい筈がない……」


 アーリンの顔が苦しそうに歪んだ。どうやらアーリンはコンプレックスの塊っぽい。自分を卑下して、自分で自分を傷つけているように見える。
 ディンダルの街に来るまで、どんな生き方をしていたのかは分からない。それでも、いっぱい傷つけられてきたのだろうということは推測はできる。そうじゃなかったら、ここまで自分のことを卑下しないだろう。

 バーニーはアーリンに言い聞かせるように、アーリンの瞳を見つめて、口を開いた。


「口数が少なくても意思疎通はできてるよね。笑えなくても、なんとなく空気で楽しんでるとか分かるよ。いつでも率先してお手伝いしてくれてる時点で、気が利かないってことはないかな。アーリンはもううちの店にいてもらわないと困る存在だよ。いつだって一生懸命に働いてくれてる。仕事は丁寧だし、忖度抜きですごく働き者ないい従業員だよ」

「…………」

「俺はアーリンと一緒に美味しいもの食ったり、ぶらぶら出かけたり、一緒に酒飲んだりするのがすごく楽しい。アーリンは俺と一緒なのは楽しくない?」

「………………すごく、楽しい」

「アーリンは俺のこと好き?」

「………………とても、好きだ」

「ふふっ。あんまり自分をイジメないでよ。アーリンはいいところがいっぱいあるじゃん。あ、なんならひたすら語りまくる?」

「……い、いい……」

「そう? いつでも語りまくれるけど」

「……恥ずかしい、から、いい……」


 気づけばアーリンが泣きやんでいた。その代わり、触れている頬が熱く、顔が真っ赤になっている。
 むにーっと優しくアーリンの頬を引っ張ってから、バーニーはアーリンの唇に触れるだけのキスをした。
 うりゃっと勢いよく抱きつけば、アーリンがしっかりと抱きとめてくれる。
 アーリンの濡れた熱い頬に頬擦りをして、バーニーはアーリンの耳元で囁いた。


「俺の恋人になってよ。結婚はできないけど、死ぬまでずーーっと! 一緒にいて」

「…………ん」


 ずずっと小さく鼻を啜る音が聞こえた。むぎゅーっと言いながらアーリンの身体を強く抱きしめると、おずおずといった感じでアーリンの手がバーニーの背中に触れた。
 それから、啜り泣くアーリンが落ち着くまで、ずっと抱きしめあっていた。

 一緒にシャワーを浴びて服を着て、延長料金を支払ってからバーを出た。
 バーニーはアーリンと手を繋ぎ、なんとなく繋いだ手を振りながら歩いた。


「腹減ったねー」

「……ん」

「ご馳走残ってるかな? なかったら俺が作るよ。何が食べたい? あ、なんでもはなしで。アーリンが食べたいものを教えてよ」

「…………シチュー。鶏肉と南瓜の」

「いいよー。南瓜好き?」

「あぁ」

「そっかー。南瓜料理を研究してみるかな? ……茹でて潰して、挽肉と一緒に混ぜて、衣をつけて揚げてみるのはどうだろ……あっ! 甘くしてタルトにしてみるのもありかも! チーズをかけて焼くのもいいな! アーリン! とりあえず思いついたのを全部連休中に試してみるから味見よろしく! 遠慮なく意見をちょうだい!」

「あ、あぁ」

「ふふー。なんかワクワクしてきたー。アーリン。これからいっぱい楽しいことを一緒にしようよ」

「あ、あぁ!」


 アーリンを見れば、頬がじんわりと赤く染まっていた。嬉しそうに目を細め、ほんの微かに口角が上がっている。なんだ。ちゃんと笑えるじゃないか。
 バーニーがそう言うと、アーリンが驚いたように目を見開き、ボソッと『バーニーが一緒だから』と呟いた。

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