騎士団をクビになった落ちこぼれコミュ障騎士の再就職先は大衆食堂

丸井まー(旧:まー)

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21:まさかの

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 家に帰り着いたのは昼時を少し過ぎた時間だった。
 花街を出るまでは繋いでいた手がちょっと寂しいが、普通の街中で男同士で手を繋いでいたら悪目立ちする。
 アーリンはバーニーと恋人になってしまったことが未だに信じられなくて、でも確かにある記憶が嬉しくて、頭がふわふわした状態で家の中に入った。

 居間に行けば、バーロ達が香草茶を飲んでいた。バーニーがニッと笑って、アーリンの手を握ってバッと腕を上げた。


「アーリンと恋人になったー!」

「……っ!?」


 まさかバーロ達にこんなに早く言うとは思っていなかったので、アーリンは動揺して挙動不審に目を泳がせた。顔が急速に熱くなっていく。
 バーニーが男しか愛せないことは家族も知っているらしいが、バーニーの相手がアーリンなんかで許されるのだろうか。じわっと息が苦しくなる。
 嫌な感じに心臓が高鳴り始めたタイミングで、バーロが口を開いた。


「おー。よかったな。ちゃんと大切にしろよー」

「やっとアンタに彼氏ができたわね! お祝いしなきゃ!」

「どれ。ケーキでも焼くかい。オードリー、木苺のジャムがまだ残っていただろう? チーズケーキでも焼こうかね」

「残ってたと思うわ! あたしも一緒に作るわ。お義母さん」

「やったー。チーズケーキだって! アーリン!」

「……あ、あぁ……」


 こんなにあっさり受け入れていいものなのだろうか。
 アーリンが戸惑っていると、椅子から立ち上がったオードリーが側に来て、バンバンとアーリンの肩を叩き、にっこぉっと嬉しそうに笑った。


「アーリンの人となりは知ってるし、アーリンなら安心だわぁ! アーリン! うちの息子を末永くよろしくね!」

「あ、あぁ」


 アーリンは心臓をバクバクさせながら、ごくっと唾を飲み、恐る恐る問いかけた。


「……その……バーニーの、恋人が、私なんかで……本当にいいのだろうか……?」

「あら。アンタって男前で働き者で優しいじゃない。休みの日にはいつも一緒に朝ご飯作ってくれたりするし、重いもの持ってくれたりするし? むしろ、アンタはバーニーでいいの?」

「…………バーニーが、いい」

「あらあらぁ! お熱いわねぇ! うちの馬鹿息子がなんかやらしたら言いなぁ。尻を引っ叩いてやるから!」

「あ、あぁ……」

「お袋ー。尻を叩くのは勘弁してよー」

「アンタがアーリンを大事にしてりゃ尻なんて叩かないわよ」

「ちょー大事にするし!」

「ならばよし! さてと。お祝いのケーキ作らなきゃ!」

「あ、ご馳走残ってる?」

「もう食べきったわよ。ご飯まだ食べてないの?」

「うん。じゃあ、アーリンのご要望にお応えしてシチュー作るわー」

「台所に行く前に風呂に入ってきなー。ほんのーり酒臭いし煙草臭いのが残ってるわよ」

「ありゃ。アーリン。一緒に入る?」


 バーニーの問いかけに、アーリンは全力で首を横に振った。うっかり勃起しちゃったらすごく困る。帰る前に一緒にシャワーを浴びたが、あれはその場のノリというか、連れ込み宿だったからできたことだ。家でバーニーと一緒に風呂に入るだなんて、家族の手前、気まずくて無理だ。


「フラれちゃったー。んじゃ、アーリン先に入ってこいよ。今日も冷えるからお湯溜めてしっかり温まってこいよー」

「あ、あぁ」


 アーリンは顔が熱いまま、二階の自室に向かい、着替えを取って階下の風呂場へ行くと、お湯を溜め始めながら服を脱ぎ始めた。
 顔がまだ熱い。バーニーのことが好きだが、バーニーの家族も好きだ。バーニーと恋人になったことを受け入れてくれて、本当に嬉しくて、いっそ泣いてしまいそうだ。
 アーリンは全身をしっかり洗い、いい感じに溜まったお湯に浸かると、ぽたぽたっと落ちた涙を誤魔化すように、バシャバシャとお湯で顔を洗った。




ーーーーーー
 アーリンが風呂に向かうと、バーロが手招きしてきたので近寄った。ブレンダとオードリーは先に台所へ行っている。


「バーニー。ちと耳を貸せ」

「えー? なによ。親父」

「デカい声じゃ話せねぇんだよ」

「ほんとになんの話?」


 バーニーが椅子に座るバーロの隣にしゃがむと、バーロが耳元で小さな声で話し始めた。


「街で一番デカい本屋は知ってるだろ? その脇のほっせぇ道を真っ直ぐに歩いた先に魔導具屋がある。そこで消音魔導具を買っておけ」

「なにそれ?」

「起動させると室内の音が外に聞こえなくなるんだよ。そこそこ値が張るけど、毎回毎回、連れ込み宿に行くよりマシだろ。ヤる時はシーツの上に大判のタオルを敷いてやれよ。洗濯は基本お袋と母ちゃんなんだから、色々気まずいだろ。お互いに」

「あーー。確かに? なんも考えてなかったわ。貴重な情報ありがと。親父」

「どっちがどっちか知らんが、アーリンに無茶させんなよ」

「分かってるよ。基本、次の日が休みの日にしかしないし」

「ならいい。アーリンを大切にしろよ。俺達にとっても、アーリンはもう大事な存在なんだからよ」

「分かってるよ。結婚はできないけどさ、一生一緒にいるつもり」

「うん。そうあれるように、お互いに努力しろよ」

「うん。ありがと。親父」

「結婚はできねぇけど、結婚式はするか? 身内だけで」

「おー! なにそれ楽しそう! でもアーリンがめちゃくちゃ恥ずかしがりそう」

「あー。それは確かに?」

「でも思いっきりお洒落したアーリンを見たいから、俺はしたーい」

「アーリンとも相談だな。うちの家族だけしか参加しねぇから、単なる豪華な食事会みてぇなもんだけど」

「それでも俺は嬉しいよ。ありがと。親父」

「まぁ、なんだ。お前だって人一倍幸せになるべきなんだよ。そのために生まれてきて、母ちゃん達と一緒に大事に育ててきたんだ。親孝行だと思って、幸せいっぱいの顔を見せてくれや」

「うん。親父。親父の息子でよかったよ。俺」

「へへっ。おっ。アーリンが出てきたな。バーニーも風呂入ってこーい。くせぇから」

「へーい。あ、アーリン。先にパンの仕込み始めておいてくれる? ついでだから晩飯の分も焼こうかな? どうする? 親父」

「母ちゃん達と相談しろー。俺は焼いてもいいと思うけどな」

「だって。ちょっと一緒に台所行こうか。お袋達に聞いてからじゃないと、作るシチューの量も変わってくるしね」

「あぁ」


 バーニーは、アーリンのしっとりと濡れた髪を肩にかけていたタオルでわしゃわしゃ拭くと、台所へ移動して、チーズケーキを作っているブレンダとオードリーに声をかけた。


「俺が風呂上がったらシチュー作るけど、夜の分まで作るー? あとパンも」

「あら。たまにはいいんじゃないかしら。お義母さん」

「そうだね。ふふっ。バーニーの腕前がどれほどのものになったか楽しみだねぇ」

「プレッシャーかけるのはやーめーてー。普通に! 普通の! 美味しいシチューを作ります!」

「はいよ。ふふっ。楽しみだねぇ。オードリー」

「ねー。お義母さん」

「んじゃ! アーリンはパン作りよろしく! ちゃちゃっと風呂に入ってくるよ。腹減りすぎてやべぇし」

「あ、あぁ」


 バーニーは台所から出ると、急いで自室に向かって着替えを取ってから、風呂場へ向かった。頭と身体を洗ってから、少し熱めのお湯で身体がしっかり温まると、いそいそと浴槽を出て、全速力で身体を拭いて服を着る。
 腹を空かせたアーリンに、少しでも早く美味しいシチューを食べさせねば。

 台所へ行けば、アーリンがパン生地を捏ねていた。ふわふわ甘い匂いもしている。
 真剣な顔でパン生地を捏ねているアーリンの横顔をじっと見て、俺の彼氏ちょー格好いいー、とうっとりしつつ、バーニーは腕まくりをして、美味しいシチューを作るべく、調理に取り掛かった。

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