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9:お買い物
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アイディーは深い赤色のワンピースを着て、少しだけ眉間に皺を寄せた。買った時はピッタリだったのに、腕や腹回りが少しだけだぼついている。日課だった筋トレと剣の鍛練をしなくなって1ヶ月以上が経っている。筋肉が落ちたのだろう。筋肉がこんなに早く落ちるものとは思っていなかった。このまま筋肉が落ち続け、アイディーはどんどん痩せていくのだろうか。
アイディーは自分の二の腕を撫でながら、小さく溜め息を吐いた。アイディーは強欲だ。ガーディナと共にヤバい娼館で身体を売らずにすんだだけで本当に運がいいのに、未だに軍人になることを諦めきれず、落ちてしまった自分の筋肉に気分が落ち込んでしまう。
アイディーはパァンと強く自分の頬を両手で叩いた。そろそろミケーネが泣き出す頃合いだ。今日も1日やることは沢山ある。家事と子守りに休みなどないのだ。
アイディーは自分に気合いを入れて、自室を出た。
アイディーが家政夫になって、1ヶ月目の朝のことであった。
ーーーーーー
ロバートはぬくぬくの布団の中で、うとうとしていた。ここ数日で朝がぐっと冷えるようになってきた。サンガレアは温暖な土地で雪など降らないが、それでも冬はそれなりに寒くなる。
もうそろそろ起床時間なのだが、ロバートは温かい布団から出る気がまるでない。布団の住人になってしまいたい。ロバートは寒いのが大嫌いだ。
ロバートがぬくぬくを堪能していると、庭の方から妙にドスのきいた低い歌声が聞こえてきた。アイディーの声である。洗濯物を干しているのだろう。アイディーが家政夫として来てから、アイディーの歌声で目を覚ますことが多いような気がする。
アイディーは働き者だ。ロバートが寝ている間に、洗濯の半分を済ませ、朝食と弁当を作り、ミケーネの面倒をみつつ、余裕があれば掃除までやってしまう。多分、要領もいいのだろう。アイディーは何でもテキパキとこなしてしまう。家政夫としては、実に有能である。
アイディーの似合わない女装も最近は見慣れてきた。寒くなってきたというのに、未だに膝丈のワンピースを着て、脛が丸出しなのはどうかと思うが。見ている方が寒い。アイディーは脛毛がもっさり生えているから寒くないのだろうか。
そういえば、アイディーがそろそろミケーネの服を買い足さなければいけないと言っていた。ついでにアイディーの服も買ったらどうだろうか。女装にかかる費用は経費扱いなので、支払いはロバートだ。今日は休日である。今日、服を買いに行くか。
ロバートは勝手にそう決めて、外から聞こえるアイディーの16歳とは思えない低い歌声を聞きながら、二度寝した。
アイディーとミケーネに起こされたロバートは、いつもより遅い朝食を食べた後、シャツの上から厚地のセーターとコートをしっかり着て、2人と一緒に家を出た。
今日は服を買いに行く。ついでに昼食を外で食べる。久々の外食である。アイディーが作る料理は素朴で美味しいが、たまにはプロが作るものが食べたい。ミケーネもアイディーがいれば多少食べてくれるようになったし、多分大丈夫だろう。似合わない女装をしている顔面犯罪者なアイディーと連れだって街を歩くのは、正直少し抵抗があるが、仕方があるまい。原因は全てロバートにあるのだから。アイディーだって、したくてしている訳ではない。
ロバート達はまずミケーネの服を買いに、子供服専門店へと向かった。
「坊っちゃん。これ、ちょーいいんじゃね?わんわんだぜ」
「わんわん!あーちゃん!わんわん!」
「だはっ!なんだこりゃ!着ぐるみじゃねぇか!ちっちゃ!」
「わんわん!わんわーーーん!!」
「お、これにするか?坊っちゃん」
「あい!」
幼児サイズの犬の着ぐるみみたいな服を手に、楽しそうにミケーネと服を選んでいるアイディーを、ロバートはぼんやりと眺めていた。ミケーネの機嫌がとてもいい。なんとも平和である。
手持ち無沙汰なロバートは、なんとなく、ミケーネと2人で笑っているアイディーの横顔をじっと見つめた。今日も安定の厳つい犯罪者面だ。可愛くない。髪が少しだけ伸びた気がする。可愛くない。ひっくい笑い声も可愛くない。総合すると、アイディーはまるで可愛くない。
我ながらどうかと思うのだが、もう少しアイディーの見た目がロバート好みの美少年だったらなぁ、とつい思ってしまう。そうしたら喜んでセックスをするし、一生懸命奉仕して、アイディーを気持ちよくさせ、快感の虜にさせるのに。
アイディーに淡白だと言ってしまった手前、オナニーもできない。風呂場やトイレでするなんて嫌だし、部屋でやったら必ず物的証拠が出てしまう。所謂シコティッシュというものが。ロバートの部屋のゴミ箱の中身を回収して捨てるのもアイディーだ。絶対にバレる。バレたが最後、また視覚の暴力なセクシー女物パンツ1枚の姿でアイディーに部屋に来られる。それは避けたい。
とはいえ、精力旺盛絶倫なロバートはいい加減かなり溜まっている。こっそり花街に行くのも無理だ。花街に行ったことがアイディーにバレたら、真面目なアイディーのことだから、やはり夜中にロバートの部屋へやって来るだろう。詰んでいる。
オナニーがしたい。セックスがしたい。溜まりすぎてムラムラして、なんかもう金たまが爆発しちゃいそうである。
ロバートはきゃっきゃっと楽しそうにしている2人を眺めながら、小さく溜め息を吐いた。
ミケーネの服の会計を済ませ、昼食を近くの家族向けの飲食店で楽しんだ後、ロバートは家へと帰ろうとするアイディーを止めた。
「服を買いに行くぞ」
「あ?旦那様のか?そんぐれぇ1人で行ってくれよ。坊っちゃんの昼寝もあっしよぉ」
「いや、お前の」
「あ?」
「お前の服を買う。見ている方が寒いんだよ」
「却下だ。花街にしか売ってねぇもん。坊っちゃんを花街なんぞに連れていけるか」
「それを却下だ。お前1人で服を買いに行く暇なんてないだろう。俺1人でミケーネの相手ができると思うな」
「情けねぇことを言いきるんじゃねぇよ」
「うるさい。事実だろう」
「そうだけどよぉ」
「歩いていたら、ミケーネは多分寝る。多分。さっさと目的の店に行って、さっさと帰るぞ」
「いや、でもよ……子供に見せられんもんも結構あったしよぉ」
「まだ見ても何かは分からん」
「……そうかもしれねぇけど」
「とっとと行くぞ。歌っておけ。満腹だから、多分寝る筈だ」
「……うーっす」
アイディーが露骨に嫌そうな顔で頷き、既にうとうとし始めているミケーネを抱っこしたまま、小さな声で歌い始めた。ロバートはすっかり聞き慣れたアイディーの歌を聞きながら、久しぶりの花街へと足を向けた。
ロバートは寝ているミケーネを抱っこしているアイディーの案内で、花街にある服屋へと来ていた。店内は様々な服で溢れている。アイディーが着ているような割と普通な女物の服から、娼夫が着るような華やかなドレス、明らかにエロ仕様な服など、沢山の女物の服があり、密かに女装美少年好きなロバートとしては、実に楽しい空間である。一緒にいるのが厳つい顔面犯罪者じゃなかったら、もっと楽しいのだが、こればかりは仕方があるまい。
ロバートは淡いピンク色の可愛らしいデザインのミニスカメイド服を手に取り、手触りを確かめながら、ハルファに着せたら可愛いだろうなぁと、1人ニヤニヤした。しかし、そのハルファとは、とっくに離婚していたと次の瞬間気がつき、ロバートの気分はずぅんと沈んだ。結局、ハルファには女装をさせなかった。可愛いハルファから変態認定されるのが嫌で、女装好き(見て触る方)を隠していた。 今は堂々と女装少年が見られる環境であるが、アイディーは美少年とはかけ離れている。視覚の暴力には慣れてきたが、そろそろもう少し目に優しく楽しいものが見たい。馴染みの娼館で美少年を買いたいところだが、無理な話なので、せめてもの慰めにと、ロバートは妄想に使ったら楽しそうな服はないだろうかと、フラフラと店内を見て回った。
ーーーーー
アイディーは眠るミケーネを抱っこしたまま、頭を悩ませていた。アイディーはお洒落とは縁がない。そもそも女装なんて似合わないのだから、お洒落しようと思う気すらない。しかしである。どのようなものが暖かく、動きやすいかということすら、見ているだけでは分からない。
女装した男が好きらしい変態に意見を聞こうかとも一瞬思ったが、その変態は短い丈のスカートを触りながらニヤニヤしていた。素直に気持ちが悪い。ガチで変態である。本当に気持ちが悪い。あんな気持ちが悪い情けない馬鹿なオッサンと結婚して子供までつくった男の顔が見てみたいくらい、気持ちが悪い。人の趣味は各々なのだろうが、それにしたって趣味が悪すぎるだろう。それくらい今のニヤニヤしているロバートは気持ちが悪い。キモいではない。気持ちが悪いである。
アイディーは変態にドン引きしながら、少しでも機能的な服を求めて、近くにいた店員に声をかけた。
親切な店員のお陰で、なんとか服が選べた。厚地のタイツやレギンスとかいうものの存在を教えてくれた店員には本当に感謝である。正直、じわじわ朝晩の寒さが辛くなってきていたので、本当にありがたい。女物デザインのコートも選んでもらったし、この際だからと寝間着も手に取った。新しい追加のパンツも靴下も選んだ。財布はロバートだから、値段を気にせず買い物籠に突っ込んだ。口紅も一応1本、籠に入れた。この冬流行りの新色らしい。今アイディーがつけているものと、どこが違うのか全然分からないが、店員から勧められたので買うことにした。他にも化粧品を色々と勧められたが、全て使い方を覚えるのは面倒だし、朝の身支度に時間をかけられないので断った。口紅をしておけば、とりあえず化粧をしていることになるだろう。多分。スカートだって穿いているので、完璧な女装である。誰がどう見たって女装である。服務規定は守れているので、何の問題もない。
必要なものを選び終えたので、財布に支払いをしてもらおうと財布を探したら、財布はベビードールとかいうフリフリふわふわすけすけの服が置いてあるコーナーで、ニヤニヤしながら、服を眺めていた。置いて帰りたいくらい、素直に気持ちが悪い。顔のつくりはいいのに、本当に気持ちが悪いオッサンである。他人のフリがしたいくらい気持ちが悪い。
アイディーは変態にドン引きしながら、嫌々声をかけた。
「旦那様」
「なんだ。俺は今忙しい」
「……気持ち悪ぃ」
「なんか言ったか?」
「何でもねぇよ。選び終わったから会計してくれ」
「ん?もう終わったのか。分かった」
ロバートが涎を垂らしそうな程だらしなく弛めていた顔を、普段の顔に戻して、ごそごそコートの内ポケットから財布を取り出した。
すっと財布を差し出されるが、アイディーの両手は眠るミケーネと大量の服でいっぱいの買い物籠で塞がっている。
「いや、持てねぇし」
「ん?あ、そうか。じゃあ、会計カウンターに行くぞ」
「おう」
すたすたと歩き出したロバートの背を追いながら、本当にこの色々とダメなオッサンと結婚した物好きの顔が見てみたいな、と思うアイディーであった。
アイディーは自分の二の腕を撫でながら、小さく溜め息を吐いた。アイディーは強欲だ。ガーディナと共にヤバい娼館で身体を売らずにすんだだけで本当に運がいいのに、未だに軍人になることを諦めきれず、落ちてしまった自分の筋肉に気分が落ち込んでしまう。
アイディーはパァンと強く自分の頬を両手で叩いた。そろそろミケーネが泣き出す頃合いだ。今日も1日やることは沢山ある。家事と子守りに休みなどないのだ。
アイディーは自分に気合いを入れて、自室を出た。
アイディーが家政夫になって、1ヶ月目の朝のことであった。
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ロバートはぬくぬくの布団の中で、うとうとしていた。ここ数日で朝がぐっと冷えるようになってきた。サンガレアは温暖な土地で雪など降らないが、それでも冬はそれなりに寒くなる。
もうそろそろ起床時間なのだが、ロバートは温かい布団から出る気がまるでない。布団の住人になってしまいたい。ロバートは寒いのが大嫌いだ。
ロバートがぬくぬくを堪能していると、庭の方から妙にドスのきいた低い歌声が聞こえてきた。アイディーの声である。洗濯物を干しているのだろう。アイディーが家政夫として来てから、アイディーの歌声で目を覚ますことが多いような気がする。
アイディーは働き者だ。ロバートが寝ている間に、洗濯の半分を済ませ、朝食と弁当を作り、ミケーネの面倒をみつつ、余裕があれば掃除までやってしまう。多分、要領もいいのだろう。アイディーは何でもテキパキとこなしてしまう。家政夫としては、実に有能である。
アイディーの似合わない女装も最近は見慣れてきた。寒くなってきたというのに、未だに膝丈のワンピースを着て、脛が丸出しなのはどうかと思うが。見ている方が寒い。アイディーは脛毛がもっさり生えているから寒くないのだろうか。
そういえば、アイディーがそろそろミケーネの服を買い足さなければいけないと言っていた。ついでにアイディーの服も買ったらどうだろうか。女装にかかる費用は経費扱いなので、支払いはロバートだ。今日は休日である。今日、服を買いに行くか。
ロバートは勝手にそう決めて、外から聞こえるアイディーの16歳とは思えない低い歌声を聞きながら、二度寝した。
アイディーとミケーネに起こされたロバートは、いつもより遅い朝食を食べた後、シャツの上から厚地のセーターとコートをしっかり着て、2人と一緒に家を出た。
今日は服を買いに行く。ついでに昼食を外で食べる。久々の外食である。アイディーが作る料理は素朴で美味しいが、たまにはプロが作るものが食べたい。ミケーネもアイディーがいれば多少食べてくれるようになったし、多分大丈夫だろう。似合わない女装をしている顔面犯罪者なアイディーと連れだって街を歩くのは、正直少し抵抗があるが、仕方があるまい。原因は全てロバートにあるのだから。アイディーだって、したくてしている訳ではない。
ロバート達はまずミケーネの服を買いに、子供服専門店へと向かった。
「坊っちゃん。これ、ちょーいいんじゃね?わんわんだぜ」
「わんわん!あーちゃん!わんわん!」
「だはっ!なんだこりゃ!着ぐるみじゃねぇか!ちっちゃ!」
「わんわん!わんわーーーん!!」
「お、これにするか?坊っちゃん」
「あい!」
幼児サイズの犬の着ぐるみみたいな服を手に、楽しそうにミケーネと服を選んでいるアイディーを、ロバートはぼんやりと眺めていた。ミケーネの機嫌がとてもいい。なんとも平和である。
手持ち無沙汰なロバートは、なんとなく、ミケーネと2人で笑っているアイディーの横顔をじっと見つめた。今日も安定の厳つい犯罪者面だ。可愛くない。髪が少しだけ伸びた気がする。可愛くない。ひっくい笑い声も可愛くない。総合すると、アイディーはまるで可愛くない。
我ながらどうかと思うのだが、もう少しアイディーの見た目がロバート好みの美少年だったらなぁ、とつい思ってしまう。そうしたら喜んでセックスをするし、一生懸命奉仕して、アイディーを気持ちよくさせ、快感の虜にさせるのに。
アイディーに淡白だと言ってしまった手前、オナニーもできない。風呂場やトイレでするなんて嫌だし、部屋でやったら必ず物的証拠が出てしまう。所謂シコティッシュというものが。ロバートの部屋のゴミ箱の中身を回収して捨てるのもアイディーだ。絶対にバレる。バレたが最後、また視覚の暴力なセクシー女物パンツ1枚の姿でアイディーに部屋に来られる。それは避けたい。
とはいえ、精力旺盛絶倫なロバートはいい加減かなり溜まっている。こっそり花街に行くのも無理だ。花街に行ったことがアイディーにバレたら、真面目なアイディーのことだから、やはり夜中にロバートの部屋へやって来るだろう。詰んでいる。
オナニーがしたい。セックスがしたい。溜まりすぎてムラムラして、なんかもう金たまが爆発しちゃいそうである。
ロバートはきゃっきゃっと楽しそうにしている2人を眺めながら、小さく溜め息を吐いた。
ミケーネの服の会計を済ませ、昼食を近くの家族向けの飲食店で楽しんだ後、ロバートは家へと帰ろうとするアイディーを止めた。
「服を買いに行くぞ」
「あ?旦那様のか?そんぐれぇ1人で行ってくれよ。坊っちゃんの昼寝もあっしよぉ」
「いや、お前の」
「あ?」
「お前の服を買う。見ている方が寒いんだよ」
「却下だ。花街にしか売ってねぇもん。坊っちゃんを花街なんぞに連れていけるか」
「それを却下だ。お前1人で服を買いに行く暇なんてないだろう。俺1人でミケーネの相手ができると思うな」
「情けねぇことを言いきるんじゃねぇよ」
「うるさい。事実だろう」
「そうだけどよぉ」
「歩いていたら、ミケーネは多分寝る。多分。さっさと目的の店に行って、さっさと帰るぞ」
「いや、でもよ……子供に見せられんもんも結構あったしよぉ」
「まだ見ても何かは分からん」
「……そうかもしれねぇけど」
「とっとと行くぞ。歌っておけ。満腹だから、多分寝る筈だ」
「……うーっす」
アイディーが露骨に嫌そうな顔で頷き、既にうとうとし始めているミケーネを抱っこしたまま、小さな声で歌い始めた。ロバートはすっかり聞き慣れたアイディーの歌を聞きながら、久しぶりの花街へと足を向けた。
ロバートは寝ているミケーネを抱っこしているアイディーの案内で、花街にある服屋へと来ていた。店内は様々な服で溢れている。アイディーが着ているような割と普通な女物の服から、娼夫が着るような華やかなドレス、明らかにエロ仕様な服など、沢山の女物の服があり、密かに女装美少年好きなロバートとしては、実に楽しい空間である。一緒にいるのが厳つい顔面犯罪者じゃなかったら、もっと楽しいのだが、こればかりは仕方があるまい。
ロバートは淡いピンク色の可愛らしいデザインのミニスカメイド服を手に取り、手触りを確かめながら、ハルファに着せたら可愛いだろうなぁと、1人ニヤニヤした。しかし、そのハルファとは、とっくに離婚していたと次の瞬間気がつき、ロバートの気分はずぅんと沈んだ。結局、ハルファには女装をさせなかった。可愛いハルファから変態認定されるのが嫌で、女装好き(見て触る方)を隠していた。 今は堂々と女装少年が見られる環境であるが、アイディーは美少年とはかけ離れている。視覚の暴力には慣れてきたが、そろそろもう少し目に優しく楽しいものが見たい。馴染みの娼館で美少年を買いたいところだが、無理な話なので、せめてもの慰めにと、ロバートは妄想に使ったら楽しそうな服はないだろうかと、フラフラと店内を見て回った。
ーーーーー
アイディーは眠るミケーネを抱っこしたまま、頭を悩ませていた。アイディーはお洒落とは縁がない。そもそも女装なんて似合わないのだから、お洒落しようと思う気すらない。しかしである。どのようなものが暖かく、動きやすいかということすら、見ているだけでは分からない。
女装した男が好きらしい変態に意見を聞こうかとも一瞬思ったが、その変態は短い丈のスカートを触りながらニヤニヤしていた。素直に気持ちが悪い。ガチで変態である。本当に気持ちが悪い。あんな気持ちが悪い情けない馬鹿なオッサンと結婚して子供までつくった男の顔が見てみたいくらい、気持ちが悪い。人の趣味は各々なのだろうが、それにしたって趣味が悪すぎるだろう。それくらい今のニヤニヤしているロバートは気持ちが悪い。キモいではない。気持ちが悪いである。
アイディーは変態にドン引きしながら、少しでも機能的な服を求めて、近くにいた店員に声をかけた。
親切な店員のお陰で、なんとか服が選べた。厚地のタイツやレギンスとかいうものの存在を教えてくれた店員には本当に感謝である。正直、じわじわ朝晩の寒さが辛くなってきていたので、本当にありがたい。女物デザインのコートも選んでもらったし、この際だからと寝間着も手に取った。新しい追加のパンツも靴下も選んだ。財布はロバートだから、値段を気にせず買い物籠に突っ込んだ。口紅も一応1本、籠に入れた。この冬流行りの新色らしい。今アイディーがつけているものと、どこが違うのか全然分からないが、店員から勧められたので買うことにした。他にも化粧品を色々と勧められたが、全て使い方を覚えるのは面倒だし、朝の身支度に時間をかけられないので断った。口紅をしておけば、とりあえず化粧をしていることになるだろう。多分。スカートだって穿いているので、完璧な女装である。誰がどう見たって女装である。服務規定は守れているので、何の問題もない。
必要なものを選び終えたので、財布に支払いをしてもらおうと財布を探したら、財布はベビードールとかいうフリフリふわふわすけすけの服が置いてあるコーナーで、ニヤニヤしながら、服を眺めていた。置いて帰りたいくらい、素直に気持ちが悪い。顔のつくりはいいのに、本当に気持ちが悪いオッサンである。他人のフリがしたいくらい気持ちが悪い。
アイディーは変態にドン引きしながら、嫌々声をかけた。
「旦那様」
「なんだ。俺は今忙しい」
「……気持ち悪ぃ」
「なんか言ったか?」
「何でもねぇよ。選び終わったから会計してくれ」
「ん?もう終わったのか。分かった」
ロバートが涎を垂らしそうな程だらしなく弛めていた顔を、普段の顔に戻して、ごそごそコートの内ポケットから財布を取り出した。
すっと財布を差し出されるが、アイディーの両手は眠るミケーネと大量の服でいっぱいの買い物籠で塞がっている。
「いや、持てねぇし」
「ん?あ、そうか。じゃあ、会計カウンターに行くぞ」
「おう」
すたすたと歩き出したロバートの背を追いながら、本当にこの色々とダメなオッサンと結婚した物好きの顔が見てみたいな、と思うアイディーであった。
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