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1:『押しかけ女房』来たる
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土の宗主国サンガレア領。
そこには異世界から召喚される土の神子を戴く聖地神殿があり、隣接して土の神子の後宮、サンガレア領主家が住まう領館がある。そこは小高い丘になっており、丘の下には大きな街が形成されている。中央の街と呼ばれるそこは一大観光地であり、神から遣わされた尊い土の神子がいると言われている聖地神殿を詣でる為に、常に多くの人が集まり、賑わっている。
神子はこの世に4人存在している。風の神子、水の神子、土の神子、火の神子は、各々の宗主国に属して神と人とを繋ぐ役割を担っている。宗主国の王族達は各神からの恩恵が色濃く、常人よりもはるかに長い500年の時を生きる。また、神子はそれよりも長くおよそ1000年の寿命がある。王族や神子に仕える者達は通称・長生き手続きと呼ばれるものをすることができる。手続きをして、神殿にて神からの祝福を受けた時から肉体が老いることなく、手続きを放棄するまでそのままの姿で生き続けることができる。手続きを放棄すると、その時点から再び老化が始まる。サンガレアは土の神子を戴く特別領なので、サンガレアの公的機関に勤める者達もこの長生き手続きをすることができる。
この世は男女比が6:4で男が多く、平等ではない。その為、当然溢れる男が出てくるので、各宗主国では複婚や同性婚が認められている。王都とサンガレアには男同士でも子供をつくることができる施設があり、特にサンガレアは同性愛に非常に寛容な土地柄なので、男同士の恋人達や夫婦が多く、街の道端でキスをしたり、男同士で手を繋いで歩く姿をよく見かける程である。
そんなサンガレアの中央の街の賑やかな大通りから少し離れた場所に、小さな喫茶店がある。
季節は春である。冬の寒さが和らぎ、暖かな過ごしやすい日が続いている。カーテンの隙間から射し込む柔らかな春の陽射しでフレディは目覚めた。フレディは今年で23歳。1人で小さな喫茶店を経営している。喫茶店の2階が自宅であり、フレディは定休日である今日は昼近くの時間までゆっくりと惰眠を貪っていた。知人から『熊っぽい』と言われる豊かな密かに自慢の髭を撫でつつ、大きな欠伸をしてベッドからのそりと下りる。フレディはかなり大柄で、世間一般の基準では完全にデブに分類される。フレディは子供の頃から太っていて、思春期の頃は痩せようと必死になったものだが、どんなに頑張っても生まれて1度も痩せたことがないので、もう諦めている。身体が毛深いのももう諦めた。毛深いのは父親譲りだからどうしようもない。毛深く太ましい体つきや口回りや顎などを覆う髭も相まって、喫茶店の常連客は『熊さんマスター』とフレディを呼ぶ。フレディはそんな感じの見た目である。父親は母親とフレディが5歳の時に離婚して、以来喫茶店を1人で切り盛りしながらフレディを育ててくれた。フレディが中学校を卒業してからは、父親とフレディの2人で喫茶店を経営していたが、父親が『なんだか恋の予感がする』とある日突然言い出し、フレディ1人に喫茶店を任せて旅に出た。もう1年も前のことだ。それからはフレディ1人で喫茶店をなんとか頑張って経営している。先月に父親から、中央の街から1番近くの大きな街バーバラで『無事に押しかけ女房になれた』と手紙がきた。『無事に押しかけ女房になれた』ってなんだ。微妙に意味が分からないが、父親はなんとか新たな恋を成就させることができたらしい。今まで男手1つで恋も遊びもせずに苦労してフレディを育ててくれたのだ。フレディは父親にとても感謝しているし、父親の恋を応援する気である。手紙には近いうちに旦那と1度顔を見せに行くとも書かれていた。『押しかけ女房』『旦那』とくれば、完全に父親の相手は男である。サンガレアには男同士の恋人達や夫婦も多いので、特に偏見などないが、女専門のフレディからすると、どうしても同性同士で恋に落ちるというのが不思議である。
フレディは顔を洗って、こっそり自慢の髭を櫛と鋏を使って整え、朝食兼昼食でも食べるかと台所へ向かった。
サンドイッチ用のベーコンを炒めていると、玄関の呼び鈴が鳴る音がした。火を止めて玄関へと向かう。友人は少ないし、その少ない友人も今日は世間一般的には平日なので皆仕事の筈である。基本的に少ない友人以外フレディの家を訪ねる者などいない。新聞や郵便は1階に郵便受けがあるので、そこにいつも入っている。誰だろうかと不思議に思いながら、フレディは玄関のドアを開けた。
そこには眩しい程鮮やかな赤毛のとんでもない美形な男前が立っていた。赤毛だから火の民だ。
人は皆生まれながらに魔力を有している。魔力には属性があって、風の魔力を持つ者は風の民、水の魔力を持つ者は水の民、土の魔力を持つ者は土の民、火の魔力を持つ者は火の民と呼ばれる。各々髪や瞳の色に特徴が出るので一目で分かる。風の民は金髪緑眼、水の民は青髪青眼、土の民は茶髪茶眼、火の民は赤毛赤眼である。フレディは土の民だ。
目の前に立つ男は赤毛の火の民の中でも、フレディが見たことがないくらい鮮やかな色合いの髪をしている。凛々しい眉も涼やかな目元も、通った鼻筋も少し薄めの唇も顔の輪郭も、全てが計算しつくされているのかと思える程、絶妙なバランスで整っていて美しい。決して女性的や中性的ではない、男性的な魅力を詰め込んだような顔立ちだ。背も高く、背が高い方であるフレディよりも少し目線が高い。ド素人のフレディから見ても高級だと分かるスーツを着ている身体は、服の上からでも鍛えられているのがよく分かる。バランスよく筋肉がついていて、姿勢がいいのも相まって、素晴らしくスタイルがいい。
こんな超美形は初めて見る。一体誰だろうか。
「こんにちは。フレディ・ヒューストンさんですよね」
「あ、はい」
腰に響くようなバリトンのすっごいいい声である。耳が孕むという表現がそのまんま当てはまりそうな程の美声だ。美形は声までいいのか。羨ましい。
「初めまして。俺はシュルツ・フリークネスと申します」
「はぁ……初めまして?」
「貴方の押しかけ女房をしに参りました!」
素敵な笑顔で言い切ったシュルツを見なかったことにして、フレディは無言で玄関のドアを閉めた。
ーーーーーーー
玄関のドアを押さえながら、フレディはとても混乱していた。あれだろうか。春によく出没するという変な人の類いだろうか。じゃなかったら、あんなとんでもない美形が意味が分からないことを言ってくるわけがない気がする。そもそもフレディはモテない。男にも女にも。モテなくて恋人なんて夢のまた夢なフレディの頭に可能性としてパッと思いついたのは、1・春先に出没する変な人、2・なんかの罰ゲーム、3・悪戯。どれも普通に嫌だ。来客は気のせいだったことにして、いっそベッドに戻って二度寝してしまいたいが、玄関の呼び鈴をめちゃくちゃ連打されている。リンリンと鳴る筈の呼び鈴が、連打し過ぎてリリリリリリリリリリッと喧しい。
フレディは無視しようかとも思ったが、連打されまくっている呼び鈴が煩いし、なんだか怖い。フレディは再びおそるおそる玄関のドアを開けた。
「あ、どうも」
「はぁ……なんのご用で……?」
「貴方の押しかけ女房をしに来たんです。あ、こちら履歴書です」
「あ、はぁ、どうも」
何故か履歴書を渡された。喫茶店の店員の求人はしていない。喫茶店で働きたいことを『押しかけ女房』などと表現しているのだろうか。
フレディは意味が分からなくて、色々と麻痺してきた頭のまま、とりあえず履歴書に目を落とした。
「シュルツさん。肉体年齢25歳。あ、バーバラの生まれなんですか。今、僕の父もバーバラに住んでるんです。えーと、趣味は剣と読書で、前職が……サンガレア領軍分隊長……分隊長?」
「はいっ!もう辞めてますけど!」
「え?なんで?」
「貴方の奥さんになろうと思ったのでっ!」
「は?僕は男です」
「そうですね。お髭がとても素敵です!」
「貴方も男ですよね」
「女になったことはありませんね」
「僕は女の子が好きなんです」
「知ってます」
「というわけで、ごめんなさい」
フレディは再び玄関のドアを閉めようとした。が、今度はガッとシュルツにドアを掴まれて、力ずくでドアを閉めようとしても阻まれる。
「ちょっ、放せ。通報するぞっ」
「いやいやいや。もうちょい話を聞いてください」
「悪戯ですか?罰ゲームですか?変な人なんですか?」
「どれも違います。ただ貴方の奥さんになりたいだけですっ!」
「いやいやいや。あり得ないあり得ない。男とか僕無理だし。そもそも初対面でしょ!?」
「こないだ街で貴方を見かけて一目惚れしたんですっ!キャッ!言っちゃったっ!」
「キモい怖いなんなの本当」
「俺は長年領軍で働いてましたから、それなりに貯金もあるので子供も余裕で3人くらいつくれますよ。あと貴方に一目惚れしてから『突然の結婚でも大丈夫!短期集中花嫁修業教室』に通ったので、炊事洗濯掃除、家計のやりくりから裁縫その他諸々全てできるようになってきましたしっ!」
「え、やだ怖いなにこれ」
「旦那様は恋人なし伴侶なし子供なし花街通い歴なしの清らかな身体の持ち主でしょう?俺も一緒です。初めてを捧げあいましょう!キャー!言っちゃった!」
「やだなに本当怖い。え?調べたの?調べたの?」
「分隊長やってたんで軽く調べさせてもらいました」
「職権濫用じゃねーか」
「えへー。だって好きな人のことは何でも知りたいしー」
「きめぇ。え?嘘?なにこれ現実?夢か?夢なのか?」
「素敵な現実ですよっ!旦那様っ!」
「旦那様言うな変な人」
「シュルツって呼んでください。あ、なんなら『シュルたん』でもいいですよっ!」
「やだキモい。とりあえず帰れ」
「嫌ですー!押しかけ女房に来たんだもん」
「いい歳して『だもん』とか言うなきめぇ」
「喫茶店でも働きますよ、俺!接客はしたことないですけど、俺頑張ります!」
「頑張らなくてもいいから帰れ。2度と現れるな」
「ざーんねん!家は引き払ってきたので帰る場所なんてありませーん!」
「うっそだろ!?」
「本当でーす!だって俺貴方の押しかけ女房になるんだもん」
「勝手に決めるなっ!帰れっ!」
「嫌ですぅ!」
「か・え・れ!通報すんぞこの野郎!」
「通報されてもコネがあるんで問題なし!」
「やだぁ!なにこの人やだぁ!」
「ふふふっ!今日からここは2人の愛の巣ですよっ!」
「キモいキモいキモいキモいキモい」
「ふふふっ!末永ーくお願いしますね!旦那様」
「いーーーーやーーーーだーーーーー!」
玄関のドアを挟んでの攻防はフレディが根負けしてぐったりするまで続いた。
そこには異世界から召喚される土の神子を戴く聖地神殿があり、隣接して土の神子の後宮、サンガレア領主家が住まう領館がある。そこは小高い丘になっており、丘の下には大きな街が形成されている。中央の街と呼ばれるそこは一大観光地であり、神から遣わされた尊い土の神子がいると言われている聖地神殿を詣でる為に、常に多くの人が集まり、賑わっている。
神子はこの世に4人存在している。風の神子、水の神子、土の神子、火の神子は、各々の宗主国に属して神と人とを繋ぐ役割を担っている。宗主国の王族達は各神からの恩恵が色濃く、常人よりもはるかに長い500年の時を生きる。また、神子はそれよりも長くおよそ1000年の寿命がある。王族や神子に仕える者達は通称・長生き手続きと呼ばれるものをすることができる。手続きをして、神殿にて神からの祝福を受けた時から肉体が老いることなく、手続きを放棄するまでそのままの姿で生き続けることができる。手続きを放棄すると、その時点から再び老化が始まる。サンガレアは土の神子を戴く特別領なので、サンガレアの公的機関に勤める者達もこの長生き手続きをすることができる。
この世は男女比が6:4で男が多く、平等ではない。その為、当然溢れる男が出てくるので、各宗主国では複婚や同性婚が認められている。王都とサンガレアには男同士でも子供をつくることができる施設があり、特にサンガレアは同性愛に非常に寛容な土地柄なので、男同士の恋人達や夫婦が多く、街の道端でキスをしたり、男同士で手を繋いで歩く姿をよく見かける程である。
そんなサンガレアの中央の街の賑やかな大通りから少し離れた場所に、小さな喫茶店がある。
季節は春である。冬の寒さが和らぎ、暖かな過ごしやすい日が続いている。カーテンの隙間から射し込む柔らかな春の陽射しでフレディは目覚めた。フレディは今年で23歳。1人で小さな喫茶店を経営している。喫茶店の2階が自宅であり、フレディは定休日である今日は昼近くの時間までゆっくりと惰眠を貪っていた。知人から『熊っぽい』と言われる豊かな密かに自慢の髭を撫でつつ、大きな欠伸をしてベッドからのそりと下りる。フレディはかなり大柄で、世間一般の基準では完全にデブに分類される。フレディは子供の頃から太っていて、思春期の頃は痩せようと必死になったものだが、どんなに頑張っても生まれて1度も痩せたことがないので、もう諦めている。身体が毛深いのももう諦めた。毛深いのは父親譲りだからどうしようもない。毛深く太ましい体つきや口回りや顎などを覆う髭も相まって、喫茶店の常連客は『熊さんマスター』とフレディを呼ぶ。フレディはそんな感じの見た目である。父親は母親とフレディが5歳の時に離婚して、以来喫茶店を1人で切り盛りしながらフレディを育ててくれた。フレディが中学校を卒業してからは、父親とフレディの2人で喫茶店を経営していたが、父親が『なんだか恋の予感がする』とある日突然言い出し、フレディ1人に喫茶店を任せて旅に出た。もう1年も前のことだ。それからはフレディ1人で喫茶店をなんとか頑張って経営している。先月に父親から、中央の街から1番近くの大きな街バーバラで『無事に押しかけ女房になれた』と手紙がきた。『無事に押しかけ女房になれた』ってなんだ。微妙に意味が分からないが、父親はなんとか新たな恋を成就させることができたらしい。今まで男手1つで恋も遊びもせずに苦労してフレディを育ててくれたのだ。フレディは父親にとても感謝しているし、父親の恋を応援する気である。手紙には近いうちに旦那と1度顔を見せに行くとも書かれていた。『押しかけ女房』『旦那』とくれば、完全に父親の相手は男である。サンガレアには男同士の恋人達や夫婦も多いので、特に偏見などないが、女専門のフレディからすると、どうしても同性同士で恋に落ちるというのが不思議である。
フレディは顔を洗って、こっそり自慢の髭を櫛と鋏を使って整え、朝食兼昼食でも食べるかと台所へ向かった。
サンドイッチ用のベーコンを炒めていると、玄関の呼び鈴が鳴る音がした。火を止めて玄関へと向かう。友人は少ないし、その少ない友人も今日は世間一般的には平日なので皆仕事の筈である。基本的に少ない友人以外フレディの家を訪ねる者などいない。新聞や郵便は1階に郵便受けがあるので、そこにいつも入っている。誰だろうかと不思議に思いながら、フレディは玄関のドアを開けた。
そこには眩しい程鮮やかな赤毛のとんでもない美形な男前が立っていた。赤毛だから火の民だ。
人は皆生まれながらに魔力を有している。魔力には属性があって、風の魔力を持つ者は風の民、水の魔力を持つ者は水の民、土の魔力を持つ者は土の民、火の魔力を持つ者は火の民と呼ばれる。各々髪や瞳の色に特徴が出るので一目で分かる。風の民は金髪緑眼、水の民は青髪青眼、土の民は茶髪茶眼、火の民は赤毛赤眼である。フレディは土の民だ。
目の前に立つ男は赤毛の火の民の中でも、フレディが見たことがないくらい鮮やかな色合いの髪をしている。凛々しい眉も涼やかな目元も、通った鼻筋も少し薄めの唇も顔の輪郭も、全てが計算しつくされているのかと思える程、絶妙なバランスで整っていて美しい。決して女性的や中性的ではない、男性的な魅力を詰め込んだような顔立ちだ。背も高く、背が高い方であるフレディよりも少し目線が高い。ド素人のフレディから見ても高級だと分かるスーツを着ている身体は、服の上からでも鍛えられているのがよく分かる。バランスよく筋肉がついていて、姿勢がいいのも相まって、素晴らしくスタイルがいい。
こんな超美形は初めて見る。一体誰だろうか。
「こんにちは。フレディ・ヒューストンさんですよね」
「あ、はい」
腰に響くようなバリトンのすっごいいい声である。耳が孕むという表現がそのまんま当てはまりそうな程の美声だ。美形は声までいいのか。羨ましい。
「初めまして。俺はシュルツ・フリークネスと申します」
「はぁ……初めまして?」
「貴方の押しかけ女房をしに参りました!」
素敵な笑顔で言い切ったシュルツを見なかったことにして、フレディは無言で玄関のドアを閉めた。
ーーーーーーー
玄関のドアを押さえながら、フレディはとても混乱していた。あれだろうか。春によく出没するという変な人の類いだろうか。じゃなかったら、あんなとんでもない美形が意味が分からないことを言ってくるわけがない気がする。そもそもフレディはモテない。男にも女にも。モテなくて恋人なんて夢のまた夢なフレディの頭に可能性としてパッと思いついたのは、1・春先に出没する変な人、2・なんかの罰ゲーム、3・悪戯。どれも普通に嫌だ。来客は気のせいだったことにして、いっそベッドに戻って二度寝してしまいたいが、玄関の呼び鈴をめちゃくちゃ連打されている。リンリンと鳴る筈の呼び鈴が、連打し過ぎてリリリリリリリリリリッと喧しい。
フレディは無視しようかとも思ったが、連打されまくっている呼び鈴が煩いし、なんだか怖い。フレディは再びおそるおそる玄関のドアを開けた。
「あ、どうも」
「はぁ……なんのご用で……?」
「貴方の押しかけ女房をしに来たんです。あ、こちら履歴書です」
「あ、はぁ、どうも」
何故か履歴書を渡された。喫茶店の店員の求人はしていない。喫茶店で働きたいことを『押しかけ女房』などと表現しているのだろうか。
フレディは意味が分からなくて、色々と麻痺してきた頭のまま、とりあえず履歴書に目を落とした。
「シュルツさん。肉体年齢25歳。あ、バーバラの生まれなんですか。今、僕の父もバーバラに住んでるんです。えーと、趣味は剣と読書で、前職が……サンガレア領軍分隊長……分隊長?」
「はいっ!もう辞めてますけど!」
「え?なんで?」
「貴方の奥さんになろうと思ったのでっ!」
「は?僕は男です」
「そうですね。お髭がとても素敵です!」
「貴方も男ですよね」
「女になったことはありませんね」
「僕は女の子が好きなんです」
「知ってます」
「というわけで、ごめんなさい」
フレディは再び玄関のドアを閉めようとした。が、今度はガッとシュルツにドアを掴まれて、力ずくでドアを閉めようとしても阻まれる。
「ちょっ、放せ。通報するぞっ」
「いやいやいや。もうちょい話を聞いてください」
「悪戯ですか?罰ゲームですか?変な人なんですか?」
「どれも違います。ただ貴方の奥さんになりたいだけですっ!」
「いやいやいや。あり得ないあり得ない。男とか僕無理だし。そもそも初対面でしょ!?」
「こないだ街で貴方を見かけて一目惚れしたんですっ!キャッ!言っちゃったっ!」
「キモい怖いなんなの本当」
「俺は長年領軍で働いてましたから、それなりに貯金もあるので子供も余裕で3人くらいつくれますよ。あと貴方に一目惚れしてから『突然の結婚でも大丈夫!短期集中花嫁修業教室』に通ったので、炊事洗濯掃除、家計のやりくりから裁縫その他諸々全てできるようになってきましたしっ!」
「え、やだ怖いなにこれ」
「旦那様は恋人なし伴侶なし子供なし花街通い歴なしの清らかな身体の持ち主でしょう?俺も一緒です。初めてを捧げあいましょう!キャー!言っちゃった!」
「やだなに本当怖い。え?調べたの?調べたの?」
「分隊長やってたんで軽く調べさせてもらいました」
「職権濫用じゃねーか」
「えへー。だって好きな人のことは何でも知りたいしー」
「きめぇ。え?嘘?なにこれ現実?夢か?夢なのか?」
「素敵な現実ですよっ!旦那様っ!」
「旦那様言うな変な人」
「シュルツって呼んでください。あ、なんなら『シュルたん』でもいいですよっ!」
「やだキモい。とりあえず帰れ」
「嫌ですー!押しかけ女房に来たんだもん」
「いい歳して『だもん』とか言うなきめぇ」
「喫茶店でも働きますよ、俺!接客はしたことないですけど、俺頑張ります!」
「頑張らなくてもいいから帰れ。2度と現れるな」
「ざーんねん!家は引き払ってきたので帰る場所なんてありませーん!」
「うっそだろ!?」
「本当でーす!だって俺貴方の押しかけ女房になるんだもん」
「勝手に決めるなっ!帰れっ!」
「嫌ですぅ!」
「か・え・れ!通報すんぞこの野郎!」
「通報されてもコネがあるんで問題なし!」
「やだぁ!なにこの人やだぁ!」
「ふふふっ!今日からここは2人の愛の巣ですよっ!」
「キモいキモいキモいキモいキモい」
「ふふふっ!末永ーくお願いしますね!旦那様」
「いーーーーやーーーーだーーーーー!」
玄関のドアを挟んでの攻防はフレディが根負けしてぐったりするまで続いた。
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