部下に秘密を知られたから口止めとしてセフレになったのに思ってたのとなんか違う!

丸井まー(旧:まー)

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13:出張先にて

 ダミアンは出張で王都から一番近い大きな街に来ていた。
 仕事が早めに終わったので、同行している部下兼同期のシーロと一緒に夕食を食べがてら観光に出かけることになった。

 この街の近くで砂糖を生産しているので、砂糖を使った菓子や甘めの料理が多い。また硝子工房が多くあり、硝子細工も有名な街だ。
 ダミアンはシーロと一緒に、観光案内所で聞いた街で一番大きな土産物屋へと入った。


「あ、これ母さんが好きそう。あっ。こっちはアルノー魔術師長が好きそうだな。買うか」

「ダミアンってさー、アルノー魔術師長のこと、めちゃくちゃ好きだよな」

「んー? 普通だよ。頼れる上司で優れた研究者だからね。尊敬してるかなぁ」

「それは俺もだけど、ダミアンのはちょっと違う気がすんだよなぁ」

「はぁー? 本当に普通だって」

「お前、いつも然りげ無く差し入れとかしてるじゃん」

「まぁ。忙しい方だし」

「お前が気遣いの鬼なのはよく知ってるけどさー、なんかこう……アルノー魔術師長は特別な気がするんだよなぁ」

「なんでだよ」

「長年の付き合いの勘? 最近は恋人もつくってないんだろ。ガチなんじゃねぇの?」

「えー。ないない。俺は平民だし、俺なんかが手を出していい相手じゃないでしょ」

「ふぅん? よし。今夜はとことん飲んで全部吐かせる!」

「吐くものなんてないよ。あ、シーロ。あの飴可愛くないか? 娘ちゃんにいいんじゃないか?」

「どれ? おっ。ほんとだ。上の子と下の子で別々のを買いたいところだが、同じじゃないと喧嘩すんだよなぁ」

「年子の女の子同士だと喧嘩多いの?」

「割と。仲良く遊ぶ時も多いけど、同じくらい喧嘩も多い。嫁さんが喧嘩の仲裁にうんざりして、最近は放置気味だ」

「へぇ。あ、末っ子君にはあれがいいんじゃないか? 棒付きの飴。まだ5歳だろ? 誤飲しないように棒付きの方がいいんじゃないか?」

「あ、可愛いな。これ。色んな色があって楽しいし、末っ子が好きそう」

「あ、これも母さんとアルノー魔術師長に買って帰ろう。見ろよ。砂糖菓子だって。瓶も色付きで可愛いし、砂糖菓子自体も色んな形があって可愛い」

「やっぱりアルノー魔術師長にも買うんじゃねぇか。それは嫁さんに買って帰ろうかな」

「あっ。硝子ペンもある。グラスもお洒落なものが多いな……おっ。見ろよ。硝子のカップだって。ポットもある。めちゃくちゃキレイだなぁ。母さんとアルノー魔術師長に買って帰ろうかな」

「結構なお値段してますけど?」

「このポットで紅茶を淹れて、このカップで飲んだら、すごく贅沢な気分になると思う。出張なんてめったにないし、たまには散財してもいいだろ」

「お袋さんの分はともかく、アルノー魔術師長の分も買うのかよ。ダミアン。酒を買って、今夜は宿の部屋でお話し合いな。確定だから」

「なんのお話し合いだよ」

「色々」


 シーロがにまーっと楽しそうに笑った。
 シーロはダミアンが同性愛者だということを知る数少ない友人でもある。アルノーとセフレ関係にあることは絶対に言えない。色々聞かれそうで、どう回避したものんかな……と思いながら、ダミアンは他にも土産によさそうなものを見て回って、結構な量の土産物を買った。

 シーロもそこそこ買っていたので、一度宿の部屋に戻って増えた荷物を置くと、夕食を食べに出かけた。
 街で評判がいいという飲み屋に入り、特産品だという林檎の酒を飲みつつ、美味しい料理を楽しむ。


「この酒、美味いな。母さんはワインしか飲まないから、アルノー魔術師長に買って帰ろう」

「ほらでたー。アルノー魔術師長。お前さー、やっぱ好きなんじゃねぇの」

「ないない。俺の好みは年下の可愛い系だし。仮に好きだったとしても、俺なんかが釣り合うわけないだろ? あの完璧人間のアルノー魔術師長に。俺のは単なる敬愛だよ」

「えーー? いやまぁ、俺ら平民だから、貴族のアルノー魔術師長とは確かに身分が釣り合わねぇけどさぁ。でも、誰を好きになるのかは自由だろ? 恋人になれるかどうかは別として」

「それはそうだけど、あの人の恋人になりたい奴なんて山程いるだろ。選びたい放題なのに俺なんか選ばねぇよ」

「選ばれないと思ってる時点で好きな証拠だろ」

「そうでもない」

「頑固だなぁ。認めろよー。お前って誰にでも親切だけど、傍から見てて、アルノー魔術師長は別枠だからな? お前にとって唯一の家族のお袋さんと同列な時点で、お前にとっては特別なの!」

「……そうでもないよ?」

「で? 何が切欠で特別視するようになったんだ?」

「特別視してないって。……まぁ、強いて言うなら、20代の頃かな? 研究で行き詰まってる時にアドバイスもらったくらい?」

「あー。アルノー魔術師長、よく人の研究見てくれるもんなぁ。俺もアドバイスもらったことあるわ」

「あとさ、頑張ってる人って応援したくならないか?」

「まぁ確かに」

「俺がしてるのなんて、ちょっとした飴とか差し入れてるだけだし。敬愛だよ。敬愛」

「ふぅん。まぁ、今はそういうことにしておいてやろう」

「大体、仮に俺なんかと恋人になったとして、その後が大変だろ。周囲に知られたら、ごちゃごちゃ言われるのはアルノー魔術師だ。仮に好きだったとしても、恋人になんかなれないよ」

「むぅ。一理ある。いやでもさー! 俺としては、お前にも幸せになる権利があると思うわけよ。お前、他人の世話焼いてばっかじゃん。俺達も中年になりつつあるわけだし、寄り添ってくれる相手がいた方がよくないか?」

「あーー。恋をするのが面倒になったんだよなぁ。遊べればいいかなって」

「んもー! 恋を! しろ! そんで幸せになれー!」

「飲み過ぎだぞ。シーロ」

「友として言ってやる! お前は恋をして人一倍幸せになるべきだ!」

「はいはい。ありがとな。ほら。水飲めよ」

「んー」


 ダミアンは酔っているシーロに苦笑しながら、水を飲ませた。
 アルノーへの思いは、敬愛のままでいい。アルノーに恋をしたくない。実らないことが分かりきっている恋心なんて苦しいだけだ。それなら、最初から恋をしなければいい。

 すっかり酔っているシーロを連れ帰りながら、ダミアンはぼんやりとアルノーの顔を思い浮かべた。
 アルノーに恋をしたくないと思っている時点で、もしや自分はアルノーのことが好きなのだろうか。仮にそうだとしても、恋人になんかなれないし、想いを告げることさえできない。
 もう少し、もう少しだけ、アルノーとのセフレ関係を続けよう。いよいよ想いが膨らんでしまったら、セフレを解消して、また元の生活に戻ればいい。年数が経てば、いつかほろ苦い思い出に変わってくれる筈だ。
 ダミアンは小さな溜め息を吐いて、微かな胸の痛みには気づかないフリをした。

 半分寝ているシーロをベッドに寝かせると、ダミアンはベッドに上がり、ベッド横の窓のカーテンを開けた。ぼんやりと月明かりが薄暗い室内に入ってくる。

 アルノーは土産を喜んでくれるだろうか。アルノーが好きそうなものばかりを買ったつもりだ。喜んでくれたら本当に嬉しい。
 ダミアンはアルノーとキスをしたことがない。アルノーとキスをしてみたいが、アルノーからの許しが出ない。

 ダミアンは自分の薄い唇を指先で撫でながら、ぼんやりと考えた。
 キスをしない方が逆にいい気がする。キスをしてしまったら、アルノーの身体だけではなく、アルノーの心まで求めてしまいそうな気がする。
 今のセフレ関係で満足すべきだ。アルノーに恋なんかしてはいけない。アルノーに迷惑がかかってしまう。

 ダミアンはカーテンを閉めると、小さく溜め息を吐いて、布団に潜り込んだ。

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