部下に秘密を知られたから口止めとしてセフレになったのに思ってたのとなんか違う!

丸井まー(旧:まー)

文字の大きさ
13 / 30

13:出張先にて

しおりを挟む
 ダミアンは出張で王都から一番近い大きな街に来ていた。
 仕事が早めに終わったので、同行している部下兼同期のシーロと一緒に夕食を食べがてら観光に出かけることになった。

 この街の近くで砂糖を生産しているので、砂糖を使った菓子や甘めの料理が多い。また硝子工房が多くあり、硝子細工も有名な街だ。
 ダミアンはシーロと一緒に、観光案内所で聞いた街で一番大きな土産物屋へと入った。


「あ、これ母さんが好きそう。あっ。こっちはアルノー魔術師長が好きそうだな。買うか」

「ダミアンってさー、アルノー魔術師長のこと、めちゃくちゃ好きだよな」

「んー? 普通だよ。頼れる上司で優れた研究者だからね。尊敬してるかなぁ」

「それは俺もだけど、ダミアンのはちょっと違う気がすんだよなぁ」

「はぁー? 本当に普通だって」

「お前、いつも然りげ無く差し入れとかしてるじゃん」

「まぁ。忙しい方だし」

「お前が気遣いの鬼なのはよく知ってるけどさー、なんかこう……アルノー魔術師長は特別な気がするんだよなぁ」

「なんでだよ」

「長年の付き合いの勘? 最近は恋人もつくってないんだろ。ガチなんじゃねぇの?」

「えー。ないない。俺は平民だし、俺なんかが手を出していい相手じゃないでしょ」

「ふぅん? よし。今夜はとことん飲んで全部吐かせる!」

「吐くものなんてないよ。あ、シーロ。あの飴可愛くないか? 娘ちゃんにいいんじゃないか?」

「どれ? おっ。ほんとだ。上の子と下の子で別々のを買いたいところだが、同じじゃないと喧嘩すんだよなぁ」

「年子の女の子同士だと喧嘩多いの?」

「割と。仲良く遊ぶ時も多いけど、同じくらい喧嘩も多い。嫁さんが喧嘩の仲裁にうんざりして、最近は放置気味だ」

「へぇ。あ、末っ子君にはあれがいいんじゃないか? 棒付きの飴。まだ5歳だろ? 誤飲しないように棒付きの方がいいんじゃないか?」

「あ、可愛いな。これ。色んな色があって楽しいし、末っ子が好きそう」

「あ、これも母さんとアルノー魔術師長に買って帰ろう。見ろよ。砂糖菓子だって。瓶も色付きで可愛いし、砂糖菓子自体も色んな形があって可愛い」

「やっぱりアルノー魔術師長にも買うんじゃねぇか。それは嫁さんに買って帰ろうかな」

「あっ。硝子ペンもある。グラスもお洒落なものが多いな……おっ。見ろよ。硝子のカップだって。ポットもある。めちゃくちゃキレイだなぁ。母さんとアルノー魔術師長に買って帰ろうかな」

「結構なお値段してますけど?」

「このポットで紅茶を淹れて、このカップで飲んだら、すごく贅沢な気分になると思う。出張なんてめったにないし、たまには散財してもいいだろ」

「お袋さんの分はともかく、アルノー魔術師長の分も買うのかよ。ダミアン。酒を買って、今夜は宿の部屋でお話し合いな。確定だから」

「なんのお話し合いだよ」

「色々」


 シーロがにまーっと楽しそうに笑った。
 シーロはダミアンが同性愛者だということを知る数少ない友人でもある。アルノーとセフレ関係にあることは絶対に言えない。色々聞かれそうで、どう回避したものんかな……と思いながら、ダミアンは他にも土産によさそうなものを見て回って、結構な量の土産物を買った。

 シーロもそこそこ買っていたので、一度宿の部屋に戻って増えた荷物を置くと、夕食を食べに出かけた。
 街で評判がいいという飲み屋に入り、特産品だという林檎の酒を飲みつつ、美味しい料理を楽しむ。


「この酒、美味いな。母さんはワインしか飲まないから、アルノー魔術師長に買って帰ろう」

「ほらでたー。アルノー魔術師長。お前さー、やっぱ好きなんじゃねぇの」

「ないない。俺の好みは年下の可愛い系だし。仮に好きだったとしても、俺なんかが釣り合うわけないだろ? あの完璧人間のアルノー魔術師長に。俺のは単なる敬愛だよ」

「えーー? いやまぁ、俺ら平民だから、貴族のアルノー魔術師長とは確かに身分が釣り合わねぇけどさぁ。でも、誰を好きになるのかは自由だろ? 恋人になれるかどうかは別として」

「それはそうだけど、あの人の恋人になりたい奴なんて山程いるだろ。選びたい放題なのに俺なんか選ばねぇよ」

「選ばれないと思ってる時点で好きな証拠だろ」

「そうでもない」

「頑固だなぁ。認めろよー。お前って誰にでも親切だけど、傍から見てて、アルノー魔術師長は別枠だからな? お前にとって唯一の家族のお袋さんと同列な時点で、お前にとっては特別なの!」

「……そうでもないよ?」

「で? 何が切欠で特別視するようになったんだ?」

「特別視してないって。……まぁ、強いて言うなら、20代の頃かな? 研究で行き詰まってる時にアドバイスもらったくらい?」

「あー。アルノー魔術師長、よく人の研究見てくれるもんなぁ。俺もアドバイスもらったことあるわ」

「あとさ、頑張ってる人って応援したくならないか?」

「まぁ確かに」

「俺がしてるのなんて、ちょっとした飴とか差し入れてるだけだし。敬愛だよ。敬愛」

「ふぅん。まぁ、今はそういうことにしておいてやろう」

「大体、仮に俺なんかと恋人になったとして、その後が大変だろ。周囲に知られたら、ごちゃごちゃ言われるのはアルノー魔術師だ。仮に好きだったとしても、恋人になんかなれないよ」

「むぅ。一理ある。いやでもさー! 俺としては、お前にも幸せになる権利があると思うわけよ。お前、他人の世話焼いてばっかじゃん。俺達も中年になりつつあるわけだし、寄り添ってくれる相手がいた方がよくないか?」

「あーー。恋をするのが面倒になったんだよなぁ。遊べればいいかなって」

「んもー! 恋を! しろ! そんで幸せになれー!」

「飲み過ぎだぞ。シーロ」

「友として言ってやる! お前は恋をして人一倍幸せになるべきだ!」

「はいはい。ありがとな。ほら。水飲めよ」

「んー」


 ダミアンは酔っているシーロに苦笑しながら、水を飲ませた。
 アルノーへの思いは、敬愛のままでいい。アルノーに恋をしたくない。実らないことが分かりきっている恋心なんて苦しいだけだ。それなら、最初から恋をしなければいい。

 すっかり酔っているシーロを連れ帰りながら、ダミアンはぼんやりとアルノーの顔を思い浮かべた。
 アルノーに恋をしたくないと思っている時点で、もしや自分はアルノーのことが好きなのだろうか。仮にそうだとしても、恋人になんかなれないし、想いを告げることさえできない。
 もう少し、もう少しだけ、アルノーとのセフレ関係を続けよう。いよいよ想いが膨らんでしまったら、セフレを解消して、また元の生活に戻ればいい。年数が経てば、いつかほろ苦い思い出に変わってくれる筈だ。
 ダミアンは小さな溜め息を吐いて、微かな胸の痛みには気づかないフリをした。

 半分寝ているシーロをベッドに寝かせると、ダミアンはベッドに上がり、ベッド横の窓のカーテンを開けた。ぼんやりと月明かりが薄暗い室内に入ってくる。

 アルノーは土産を喜んでくれるだろうか。アルノーが好きそうなものばかりを買ったつもりだ。喜んでくれたら本当に嬉しい。
 ダミアンはアルノーとキスをしたことがない。アルノーとキスをしてみたいが、アルノーからの許しが出ない。

 ダミアンは自分の薄い唇を指先で撫でながら、ぼんやりと考えた。
 キスをしない方が逆にいい気がする。キスをしてしまったら、アルノーの身体だけではなく、アルノーの心まで求めてしまいそうな気がする。
 今のセフレ関係で満足すべきだ。アルノーに恋なんかしてはいけない。アルノーに迷惑がかかってしまう。

 ダミアンはカーテンを閉めると、小さく溜め息を吐いて、布団に潜り込んだ。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された

あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると… 「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」 気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 初めましてです。お手柔らかにお願いします。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

幼馴染みのハイスペックαから離れようとしたら、Ωに転化するほどの愛を示されたβの話。

叶崎みお
BL
平凡なβに生まれた千秋には、顔も頭も運動神経もいいハイスペックなαの幼馴染みがいる。 幼馴染みというだけでその隣にいるのがいたたまれなくなり、距離をとろうとするのだが、完璧なαとして周りから期待を集める幼馴染みαは「失敗できないから練習に付き合って」と千秋を頼ってきた。 大事な幼馴染みの願いならと了承すれば、「まずキスの練習がしたい」と言い出して──。 幼馴染みαの執着により、βから転化し後天性Ωになる話です。両片想いのハピエンです。 他サイト様にも投稿しております。

溺愛の加速が尋常じゃない!?~味方作りに全振りしたら兄たちに溺愛されました~

液体猫(299)
BL
毎日投稿だけど時間は不定期   【《血の繋がりは"絶対"ではない。》この言葉を胸にクリスがひたすら愛され、大好きな兄と暮らす】  アルバディア王国の第五皇子クリスは冤罪によって処刑されてしまう。  次に目を覚ましたとき、九年前へと戻っていた。    巻き戻す前の世界とは異なるけれど同じ場所で、クリスは生き残るために知恵を振り絞る。  かわいい末っ子が過保護な兄たちに可愛がられ、溺愛されていく。  やり直しもほどほどに。罪を着せた者への復讐はついで。そんな気持ちで新たな人生を謳歌する、コミカル&シリアスなハッピーエンド確定物語。  主人公は後に18歳へと成長します(*・ω・)*_ _)ペコリ ⚠️濡れ場のサブタイトルに*のマークがついてます。冒頭のみ重い展開あり。それ以降はコミカルでほのぼの✌ ⚠️本格的な塗れ場シーンは三章(18歳になって)からとなります。

絶対に追放されたいオレと絶対に追放したくない男の攻防

藤掛ヒメノ@Pro-ZELO
BL
世は、追放ブームである。 追放の波がついに我がパーティーにもやって来た。 きっと追放されるのはオレだろう。 ついにパーティーのリーダーであるゼルドに呼び出された。 仲が良かったわけじゃないが、悪くないパーティーだった。残念だ……。 って、アレ? なんか雲行きが怪しいんですけど……? 短編BLラブコメ。

臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話

八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。 古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。

処理中です...