薬屋さんと一緒の美味しい異世界旅

丸井まー(旧:まー)

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45:神殿とハララのコンポート

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 街に着いて4日目の朝。今日も朝から雨が降っている。
 昨日、ミネーキが今日あたりに神殿から連絡がくると言っていたが、本当にくるのだろうか。
 亮介はそわそわしながら朝食を食べ、落ち着かないので、部屋に引き上げた後は温かくて大きなミネーキの手を握って、にぎにぎしながら、他愛のないお喋りをしていた。

 昼食の時間の少し前に部屋のドアがノックされた。ミネーキが入室を促すと、白い服を着た男が2人入ってきた。優しそうな老爺とまだ10代後半くらいの青年である。
 老爺が穏やかな笑みを浮かべて、亮介達に話しかけてきた。


「薬師のミネーキ殿と『落ち人』リョー様でお間違えないですかな」

「そうだよぃ」

「私は神官をしておりますリッテと申します。神官長がお会いになりたいとのことで、お迎えに参りました。この後のご都合はよろしいでしょうか?」

「大丈夫だよぃ。ちょいと待ってておくれな。準備するからねぃ」

「はい。ありがとうございます」


 神官の物腰は思っていたよりも丁寧なものだった。リッテという神官は優しそうだ。もう1人の若い神官からも敵意みたいなものは感じない。
 亮介は、ミネーキに言われて、荷物を箱に全部入れると、箱を背負って、リッテ達と一緒に宿屋を出た。

 ざーざーと本降りの雨の中、絵本で見るような馬車が宿屋の前に停まっていた。馬の方を見れば、馬というよりもバイソンである。頭に生えている厳つい角が格好いい。
 亮介はミネーキの上着を握り、リッテに促されて、馬車に乗り込んだ。

 馬車の窓は硝子みたいな透明なものでできていて、外の景色が見えた。この世界にも硝子っぽいものはあるらしい。
 じーっと外を眺めていると、視線を感じた。亮介がそちらの方を向くと、リッテが穏やかな顔で亮介を見ていた。なんとなく居心地が悪い。
 リッテが穏やかな笑みを浮かべて口を開いた。


「リョー様のお名前は、『リョー』だけなのでしょうか」

「いえ。佐伯亮介です。佐伯が家名で、亮介が名前です」

「お国のお名前は?」

「地球の日本です」

「ニホン……確か、20年くらい前に現れた『落ち人』の方もニホンの方でした」

「えっ!? 日本人!? その人は今は?」

「貴族の方とご結婚されて、王都で暮らしていらっしゃいます」

「へ、へぇ」

「お会いしたいのでしたら、手配いたしますが」

「…………いえ、いいです」

「そうですか。あぁ。そろそろ着きますね」


 馬車が大きな白い建物がある敷地内へと入り、建物の前で停まった。屋根があるので、濡れることなく建物の中に入れた。神殿は、まるでローマの神殿のようだ。旅番組や写真で見たことがあるものに似ている。

 白い石造りの廊下を歩き、階段を上って、二階の奥の部屋へと向かった。
 リッテが部屋の前で足を止め、コンコンッと部屋のドアをノックした。これから神殿の偉い人に会う。急速に緊張と不安が高まって、亮介は微かに震えだした手をぎゅっと拳にした。
 掌に爪が食い込むほど強く拳を握りしめていると、温かい大きな手が亮介の拳をやんわりと包み込んだ。

 チラッと隣に立つミネーキを見れば、いつもの飄々としたゆるい笑みを浮かべている。なんだかほっとして、亮介の力が入っていた肩からすとんと力が抜けた。
 亮介はミネーキと共に、リッテに促されて室内に入った。

 部屋の中にいたのは、とても美しい男だった。歳は多分30代前半くらいだと思う。結っていない銀髪は腰のあたりまで長く、穏やかな新緑みたいな色の瞳をしている。顔立ちは中性的に整っていて、微かに微笑んでいると、なんとも神々しい感じがする。

 あまりにも美しすぎて思わず回れ右して逃げたくなるような男が、優しく微笑んで口を開いた。


「はじめまして。私はこの神殿の神官長をしておりますリンデと申します。まずは温かいお茶を飲みましょうか。リッテ。お願いいたします」

「はい。神官長様」

「薬師のミネーキ殿、『落ち人』リョー様。どうぞ、こちらにお座りください」

「ご丁寧にどうもぉ」

「あ、は、はい」


 リンデに促されて、ふっかふかの豪奢なソファーに座ると、すぐにリッテがなんとなく烏龍茶に近い匂いのお茶を運んできた。もしかしたら、貴族や金持ちが飲むというなんとか茶なのかもしれない。前にミネーキから聞いたはずだが、名前は忘れた。
 お茶と一緒にハララを煮たものと思わしきものが一緒に差し出された。

 ミネーキがお茶を一口飲み、フォークで杏みたいな見た目のハララを煮たものを刺して口に入れたので、亮介もおずおずと烏龍茶っぽいお茶を飲み、ハララを食べてみた。柔らかい甘さのハララが美味しくて、普段通りの雰囲気のミネーキに安心して、ちょっとだけ緊張が和らぐ。


「リョー様のお名前をお聞きしてもよろしいですか? それとご年齢をお聞かせいただきたいです」

「あ、はい。えっと、佐伯亮介です。佐伯が家名で、亮介が名前です。地球の日本という国が故郷です。28歳です」

「『落ち人』の証拠に、リョーが着ていた服を持ってきてるよぃ」

「拝見させていただいても?」

「どうぞぉ」


 ミネーキが、亮介がここに来た時に着ていた服を箱から取り出した。服を見たリンデが、優しく微笑んだ。


「確かに、こちらの服とは材質からかなり異なりますね。年齢の割に体格も小柄ですし、『落ち人』で間違いないのでしょう。神殿での保護をご希望されますか? 神殿で保護をいたしますと、読み書きやこちらの知識、魔法の会得が可能になります。また、生活の保証もされます」

「ちっと聞きてぇんだがね。その対価は?」


 チラッとミネーキを見れば、飄々と笑っているように見えて、目が笑っていなかった。リンデも優しく微笑んでいるが、よくよく見れば、目が笑っていない。この空間怖い。


「対価……ですか。……そうですね。下手に誤魔化しても、ミネーキ殿には通じないでしょう。率直に申し上げますと、『落ち人』は膨大な魔力を保持しております。ですので、攻撃魔法や治癒魔法を会得して戦に行ってもらったり、神殿での治療行為をしていただくことになりますね。また、『落ち人』と婚姻を望む貴族の方は多いのです。子供がその膨大な魔力を受け継ぐ可能性がございます故」

「だってよぉ。リョー」

「うん。神殿での保護はいらないです。ミネーキさんの弟子になって薬師になります」

「左様ですか。とはいえ、『落ち人』の存在を知った上で、何もせずに帰すというわけにもいかないのです。ですので……この世界にはないリョースケ様の世界の技術や知識を教えていただきたいですね。その対価として、ここまでリョースケ様を無事に連れてきてくださったミネーキ殿に、保護報酬をお渡ししましょう。保護報酬は基本的に20ガロットです。数日、この神殿に滞在していただき、聞き取りをさせていただけたらと思います。如何でしょうか」

「リョー。どうする?」

「……この世界にないかもしれないものについて話すのは構いません。ただ、使ったことはあるけど、仕組みが分からないものが多いです」

「構いませんよ。どんなものがあるのかさえ分かれば、こちらの技術者達がこちらの世界に合わせて開発するものもございますから」

「……それくらいでいいなら」

「ありがとうございます。では、リッテ。お二人を部屋にご案内してください。同じ部屋の方がよろしいでしょう?」

「そうだねぇ。そうしてもらえた方がいいよぃ」

「そうですね……まずは明日の午後にお話を聞かせていただきます。それまでは、ごゆるりとお過ごしください」


 リンデが優しく微笑んだ。アルカイックスマイルってこんな感じなのだろうか。微笑んでいるのに、なんかちょっと怖い。

 亮介はミネーキと一緒に退室して、リッテの案内で部屋へと向かった。

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